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15 年明けイベント


 2077年1月


 BCOに初めての年明けが訪れた。

 師走の事件から漸く平静を取り戻したプレイヤーたちは、GMの予定していた年初めのイベントを楽しんでいた。

 "楽しんでいた"と言っても、それは一部のポジティブな者たちで、むしろ他は無理に楽しんでいたのだ。

 無理やりテンションを上げる者も少なくなかった。

 BCO内の街は今のところ始まりし街とヘイビアだけであり、始まりし街は賑やかで、ヘイビアはやや賑やかといった雰囲気。

 この頃には非テスターたちも第3エリアへ一部の者が到達していて、ヘイビアの人口は少しだけ上昇していた。


 正月気分の街で今流行っているのは仮想恋愛である。

 現実は置いといて、BCO内での擬似恋愛がプレイヤー間で流行っていた。

 中にはNPCを専門に"俺嫁"として順位付けする者も現れて街中は異様な光景が広がっていた。


 一月になってからヤトは初めて街に戻った。

 というのも、12月末から年始にかけてクリスマスのイベントがBOC内の第9エリアで行われていたために、ヤトは1人コソコソとイベントモンスターを狩っていたのである。

 その間の街の変化を知らなかった彼は、ヘイビアに帰るなり、それを目の当たりにして表情に出さないものの驚いていた。

 現状ホームを持っていないヤト。

 プレイヤー個人の倉庫として貸し出されるストックルームでアイテムストレージを整頓し終えれば、街中で1人ベンチに腰掛けるぐらいしかすることが無かった。

 今までもFDVRMMO内で年始を過ごすことはあったが、コアなプレイヤーたちの溜まり場で年始イベントをこなすため、こういった光景を目にしたのは初めてと言ってもよかった。


 ふと思い出す。

 クリスマス前にしつこくメッセージを飛ばしてきたナナをブロックしていたことを。

 フレンドの項目を操作してブロックを解除すると彼女がこのヘイビアにいることが分かった。

 街の中は意外と広く、ただ1人の人間を探すのは無理なことだ。


「……つぅぅううけぇええええたぁあああ!!」


 ヤトの後方から頭を飛び越えて登場した人影。


「今!ブロック解除したよね!」


「………ふ~……さて、とー」

 フレンドの7NANA7を再度ブロックし直すヤト。と、それを阻止しようと彼の腕を握るナナ。


「またブロックする気?」


「……(読心術のスキル?)……そんな訳がないだろ」

 ヤトは再度7NANA7のブロックを解除してその格好を指摘する。


「正月限定の服…いや、防具か?」

 ナナは華やかな青基調の振袖を身に纏っている。


「見た目装備だよ。ヤトくんは振袖を着ている女の子には声をかけてくれるんだぁ~、上半身裸の女の子には"見るだけ見て"注意もしてくれないのにね~」

 棘のある言葉に、笑顔なのに鋭い視線。

 ヤトは咳払いをして話題を変えた。


「それより、ギルドに入ったんだな」


「そうよ!アスランがどうしてもって言うから……あと、メンバーにも土下座されちゃったし」

 ナナはあの一件後、アスランと幻影(ファントム)地平線(・ホライズン)のギルメンに頼まれてギルドに参加することになったのだ。


「もう大変だったよ毎日毎日、どこかの誰かさんはメッセージを無視して挙句ブロックするし」

 ヤトはその言葉を無視して話題を変える。

 その話題にはナナも顔を暗くする。


「オーダーは?何人もメンバーが抜けたらしいけど」

 あの事件以降、攻略組みが解散するほどにメンバーが抜けたオーダー。

 残ったのは始まりし街の治安を護る者たちと主要メンバーのみ。と言っても、メンバーは200人いて、さらに第二ギルドも設立している。

 メンバーの減少に勝る非テスターの加入がそうなった要因だ。


「オーダーは……なんか抜けた攻略組みが殆どウチに加入しちゃって、それ以来あんまり交流がなくて、でも一番の原因はギルマス同士が犬猿になっちゃったからかも…、っていってもアスランが一方的に嫌ってるって感じだけど」

 ナナの話ではオーダーは非テスターを育てることに力を注いでいるとのことだった。

 KJ自身は攻略組みを再編したい考えをギルド内でしているが、それに人が集まることがないことはナナも具体的には知らない様子。



「ねーヤト。あの時話そうと思ってたことなんだけどさー」

 その話題は"ジョーカー襲来"後、ナナがヤトに話そうとした話題だった。


「あの時ジョーカーの言った"あのヤト"って言葉のことなんだけど…」


「…………」


「あれって、MMAのことだよね」

 MMAとはMixed(ミックス) Martial(マーシャル) Arts(アーツ)。所謂総合格闘技のことである。

 それを用いたタイトルはFDVRMMOMMA Street(ストリート) Fighting(ファイト) Revolution(レボリューション)


「SFRで年間無敗、連勝、連続KO記録を未だに持っているプレイヤーネームが【YATO】」


 ナナの話にヤトは肯定も否定もしないまま話を聞いていた。


「あのタイトルは均一のステータスでランダムスポーンしたプレイヤーが、周りの誰とでも素手の戦いができるゲームだったけど。2075年の年間の間で、たった3ヶ月間の期間でその記録を出したプレイヤーYATO」


 ナナはヤトの隣に座ると自身の体験を交えてその話をし始めた。


「私はスペクテーター(観戦者)として参加してたんだけど、噂を頼りに3ヶ月間探し回って2回見つけることができたんだけど…、ユーザーが1億人強いるタイトルだから結構苦労したけどね」


 膝上までの裾と褄先を押さえながら足元のゲタブーツで、地面の外れかけたブロックをカツカツ音を出して遊び出すナナ。


「ランカーを含む30人を相手に、反則なしで次々倒していくのを見たときは鳥肌が立ったよ」


 そして、ナナは本題に入る。


「ねー、ヤトはあのYATOなんでしょ?」




 ヤトは首を振り言う。


「俺はMMORPG専門だからな…人違いだ」

 その言葉に息を深く吐いたナナは立ち上がる。


「そっか。ねーこれからギルドで新年会をするんだけど来る?」


 これにもヤトは首を振る。

 そのままナナと別れてベンチで座るヤトは届いたメッセージを見る。

 送り人はBJ。

 内容は新年会の誘いだった。

 ナナの誘いを断った彼だったが、返信には参加の意思をのせた。




 俺は嘘は吐いてない。SFRで【YATO】として記録を残したのは親父の開発したAIだ。

 HMCの制作責任者にして開発主任の親父に頼まれて、試作のAIとFDVRで何度も戦わされた。

 まさか、そのAIに"絶対強者"を学ばすために俺があてがわれていたとは思いもしなかった。

 500戦499勝1引き分け0敗。それがそのAIと俺の戦闘成績。

 SFRで戦ったアバターは親父が勝手に俺のアバターを使用した。だから、名前もYATOだったのだろう。あの頃、実験の後アカウントとアバターだけジェネレートした記憶がある。

 まさか自分の父親がハッキングソフトでセキュリティーを解除して、息子の私物を実験に使うなんてことは考えもしなかった。

 気付いた時にはなかなかに話題が広がっていて、結局俺はSFRにINしたことはない。


 ちなみに、0敗が俺でAIが449敗。引き分けは手加減してみせることでAIにかけ引きの何たるかを教えた時のものだ。

 その後、SFRで無敗のAIはもう一度俺と対戦したが、"小手先での戦い方"を覚えすぎたせいで俺とのかけ引きを読めずに結局負けている。

 親父はもの凄く悔しがったが、それ以降は一度として戦うことは無かった。




「ね~。VRMMOでNPCとプレイヤーの見分け方って分かる?」


 その言葉に俺は足を止めた。

 いつだったか、その質問に答えたのは俺がまだ13の時だった。

 親父の仕事関係でFDVRMMOに小学生の頃からはまっていた俺は、リアルの友達より仮想現実を優先していた。そのせいで友達は少なかった。

 中一になってとある非正規タイトルでそいつにあった。

 当時から俺は大人を演じることが多く。そいつと出会った時も大人の外見に話し方もそれに合わせていた。いや、普段から親父との会話でそういう風に話せるようになっていたのかもしれない。

 俺が始めて仮想現実で"友達"と認めた相手。


「カイト!!――」


 振り向いた俺の前には髪をフィラ販売のアイテムで金色に変化させた女がいた。

 俺にどれだけ美的感覚があるのか知らないが、そいつは美人でスタイルもいい。おそらく胸の大きな女だった。


「久しぶりだね――ヤト」


 俺の記憶上、仮想現実で会っていたカイトはスラッとしたイケメンの男。そう男だったはず…。

 なのに今、目の前にいるカイトの姿は―――どう見ても女だった。

 いや、どう見ても――

 美女だった。


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