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7 ボス攻略


 2076年12月


 KJからのメッセージを受けて第3エリアの街ヘイビアへ来た俺。

 4日前、第3エリアのエリアボスが討伐されて広がった侵攻可能なエリアは3つ。

 東の第4エリア、西の第5エリア、北の第6エリア。

 このおかげで攻略思考の高い連中が第6エリアに集中している。

 KJと別れてからもうすぐ一月になる。

 あれから俺は1人こそこそと、Lv上げやらドロップ探索に勤しんでいた。

 KJからのメッセージは今回が初めてだ。

 BJの方からは別れてその日の内に一度だけきていた。

 "いつでもお兄さんを頼っていいぜ"だそうだ。


 ナナは週2回ほど定時連絡が届く。内容は挨拶だ。

 "おやすみなさい"とか"おはよう"だとか。

 送られたそれを変更せずに送り返すのが俺の返信内容である。

 件名に"おはよう"とくれば、"Re:おはよう"と返えしていくスタイル。


 ナナはそんな感じだが、正直マリシャには嫌気が差した。

 毎日夕方に届くそれは内容が濃い。

 返信がないとシツコク返信の催促がくる。

 適当にあしらうと"真剣に返して"という件名で再び届く。

 一週間は我慢したが、それ以上は無理だった。

 現在俺のフレンドの欄に彼女の名前はない。


「やーやーヤトくんではないか!久しぶりだね!元気してた?」

 ラビット。


「………ご無沙汰」

 久しぶりだというのにもう別れの挨拶を言いたい。


「あれからどうよ、見たところ装備も変わっているようだし、でも見た目に変化はないね。さては外見を固定しているんだね」

 見た目スロットという装備の枠があって、そこにアイテムを入れておくと実際に装備しているアイテムと関係なしに姿を変えられる。

 つまり見た目だけでは相手の装備を判断できない。

 しかし、剣と装飾に関しては見た目スロットがないため、本来装備しているものが目に見える。


「見たところその装飾"ユニークアイテム"だね」

 ユニークアイテムとは、ザコモンスターが稀に落とす珍しい装飾アイテムのことで、見た目に反して高性能なものが多い。


「……ご想像にまかせる」


「バンドエイドだからおそらく回復か~HP関連かな?」

 ほー鋭い。たしかにこのアイテムは自動回復(小)のスキルを有している。


「………で、入っても良いのか?」

 俺がいるのはギルドオーダーの本部で、部屋の入室は制限がかけられている。


「今開けるよ!焦るな少年」

 ラビットはそう言うと、部屋のドアノブに触って、出てきたウィンドウに2回ほど振れて扉を開けた。


 中に入ると正面に円卓があり、すでに何人か集まっていた。

 扉の正面にはKJ。右側にはオーダーのメンバーがいてそこの空いてる席にラビットも座る。

 左側に、奥からガッシリとした戦士風の男。

 そして、格好が変わっているがナナ。

 最後に、今一番会いたくない人物。


「待っていたよヤト。今日は呼び出しに――」

 

「久しぶり~ヤトくん元気してた~?そのキズバンカワイイね~」

 KJの言葉を遮って椅子から飛び上がったそいつ。

 胸を強調した装備を着こなす耳障りな喋り方。

 俺がブロックした存在……マリシャ。


「………」


「ちょっと~無視しないでよ~」

 彼女の揺れる胸に周囲がオーと声を上げる。


「マリシャちゃんは富山の子だろ?キズバンって呼ぶの富山だけなんだよね?」

 ラビットの絆創膏豆知識。


「…私~ラビットさんに死んでもらいたい気持ちです~」

 本当に嫌そうにマリシャはそう言う。



「ラビット、リアルにふれるのはよくないな」


「すみませ~んKJさん」



 一先ずマリシャを無視して席に着いた俺は少しだけ眉を顰めた。

 それは不機嫌になったということでもあり、面倒なことになったということでもあった。


 KJが今回俺を呼び出したのはエリアボスについての情報交換だった。

 第3エリアのエリアボスは熊のような獣系のモンスターで、それについてはテスターの間で話が出回っている。

 このエリアボスを倒したのが、KJ率いるオーダーの攻略組みだということも周知の事実である。

 KJ曰く、ボスの脅威度は現状普通で理不尽過ぎず、安易過ぎずといった感じらしい。


「エリアボスは倒せた。が、ボス討伐のレアドロップはなく。ただ新エリア開放がそれの報酬だった」


「それじゃーボス攻略における利益って経験値とフィラってだけ?」

 フィラはこの世界の通貨だ。

 ボス攻略のメリットは本来経験値とフィラだけなのだろう。

 しかし、今あるこの世界ではもう一つメリットがある。


「利益はもう一つ。この世界からの帰還に一歩前進した」

 KJの言葉に、「そうね」と返したナナはまた口を閉じた。


「現在は調査中だがボス攻略におけるレアドロップは必ず存在する。でないとゲームとしてプレイヤーに不満がでてしまう」

 そう、この世界のボス討伐にレアドロップは存在する。

 だが、KJはそれを手に入れられない。入手手段もドロップしたという情報も。

 何故そんなことを俺が旨の内で思うのかと言うと、実際に一度それを手に入れているから。

 だが、そのことを俺がKJに話す義理はない。


「これからも検証を試みる。それに関しては以上だ。次に我々オーダーの攻略組みがエリアボスの攻略を来週末にはする。攻略エリアは5、参加は現在オーダーの攻略組みと私が声をかけた他のギルドから数名だ」


 参加するギルドは知らない名ばかりで、ここにそれらしきギルマスがただ1人だけいた。

 幻影の地平線(ファントム・ホライズン)

 ギルドマスターはアスラン。

 オーダー以外のギルドで唯一第3エリアのエリアボス戦も参加しているらしい。


「どうだろ諸君。ナナ、マリシャ、ヤト。キミたちも参加しないか?」

 来週末、参加メンバーも経験者でテスターばかり。戦闘で得られるのは大したものではない。

 この誘いに乗るメリットが少ない。


「俺は遠慮する。俺1人いてもいなくても変わらないだろうし。それに…レアドロップもないようだから」

 KJは肯くと他の二人の反応をみる。


「私は参加するわ。一度はボスの強さを見ておきたいし」

 ナナがそう言うとラビットが即"よろしくね"と微笑む。が、彼女が笑みを返すことはなく、代わりに鋭い棘のある視線を返した。


「私は~所属しているギルドが第6エリアの攻略に忙しいから~。今回はお断りさせてもらいます~」

 マリシャがそう言って断ると、ラビットは"今度またの機会にね"と片目でパチと合図する。


「……ラビットさん。生理的に無理~」



 ラビットがマリシャに完全に一線を引かれたのを最後に、俺はその部屋を後にする。

 その後、オーダーの本部前でマリシャに腕を掴まれて話をすることになる。

 話題はもちろん。ブロックに関してだろう。


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