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6 一期一会


 ビージェイはその表情を強張らせて自身の生命の危機を感じている様子だった。

 それを見た俺は振り上げた拳を下ろして左手を左にスライドさせた。

 簡易のスロットに選択したアイテム。回復アンプル(小)が手元に現れる。


「……これを飲め」

 俺がそれを投げつけるとビージェイは恐る恐る口にする。


「コレ…回復薬か?」


「そうだ。……どうだった?自分の命の危機ってやつは――」


「どうもこうもねー!お前俺を騙したのか!」

 その怒りは必然だ。


「…騙した?教えろと言ったのはあんただ」

 俺の言葉にビージェイは不満タラタラだった。


「教えろって言ったさ!誰がHPを減らしてくれなんて言ったんだってんだ!」


「……もしコレが俺じゃなく、本当に悪意を持ってる奴だったら――――あんた今死んでたぞ」


「は?どういう意味だ?」

 俺は丁寧に一から説明した。



「一つ。あんたは他人に自分は初心者ですと言って廻っていた。二つ。この世界ではそれは命とりになる。今みたいにな」

 ビージェイは黙って俺の言葉を聞く。


「三つ。この世界は良くも悪くもゲームだ。だが、今は命がかかっている。もう少し頭を使って行動しろ」


「…お前――ひょっとして良い奴か?」

 ……たく、こいつは。


「人を疑え、すぐ信用するな、用心しろ。そう言っているんだ」


「……俺より年下みたいなのに――すげー年上に思えるな」

 …………。




 そうして俺はビージェイにこの世界を教え始めた。


「剣は体で覚える。それしかない。運動が不得手ならこの世界では生きられない」


「なるほど…なかなか難しいな。ゲームなのに本当に剣の修行しているみたいだ」


「向こうでこんなに剣を振れば息切れして、筋肉の疲労で腕が上がらなくなる。この世界ではそういったことはない」


「なるほど、ちゃんとゲームってわけだな!とう!りゃ!」



 そうしてスキルやチェーンスキルを教え終わった頃には数時間が経っていた。


「ありがとな!色々と世話になっちまった」


「こっちも、"人に教える"ってのは大変だと実感できた。良い経験だったが、もう二度とごめんだ」


「な~、フレ申請していいか?」


「……最後にもう一つ教えておくが、フレンドにもデメリットがあるんだぞ」

 フレンドに登録すると、いつでも自分の居場所が知られる。それに、戦闘中視界の隅にメッセージがチラつくことも少なくない。


「へ~そう言われればそうなのかもしれないな。だが、俺はフレになる方を選ぶ!」

 そう言ってビージェイは俺に申請してきた。



 【KJ】:IN:ORDER:ヘイビア街中

 【MARI】:IN:――:ヘイビア街中

 【7NANA7】:IN:――:F3-A3

 【BJ】:申請中


 視界に入ったORDERの文字。


秩序(オーダー)……ね」


 ビージェイがBJであろうことはなんとなく想定していた。


 この日の俺はどういう訳か申請を断らない日だったらしく。

 呟いた後すぐに"登録"を選択した。


「お!…や、と。ヤトか!おお!そうか!よろしくな!ヤト!」


「………それじゃーな、BJ」


 これで漸く俺も第3エリアの先へと行ける。

 右手を上げて始まりし街へ帰ろうとする俺をBJが引き止める。


「ちょっと待てよ!おいヤト、お前の名前なんかグレーだぞ」

 まだ教授が必要な項目があったようだ。


「それは"他のプレイヤーに攻撃しました"って印だ。HPバーがその色のプレイヤーにもしも会った場合は関わるな」

 過去の事件では黄・赤へ変化してPKをした奴をレッドプレイヤーと呼んでいた。が、その事件以降はそれらは禁止され。

 グレーから黒へ変色するよう変化し、PKした奴はブラックプレイヤーと呼ばれるようになった。


「もしPKしてたらこれが黒になるのか?よし、今度から気を付ける」


「言っておくが、あくまでそういう側面があるってだけだからな。グレーの奴が全員危ないって訳でもないし。緑が安全な奴って訳でもないからな」


「なるほど…。って、それじゃーこの色あまり世間体がよくないんじゃないのか?」

 1日も経たない内に元の色に戻る。ソロの俺にとっては別に大した弊害もない。


「ん、まーな」


「それなのにヤト…お前、俺に危険さを教えるために……お前!いい奴だな!見てくれはアサシンみたいだけど!…俺!一応ギルドの頭なんだ!困ったことがあったら何でも言ってくれよな!」

 感動の涙を流しながら俺にそういうBJ。


「……頼りにはしないが、覚えてはおくよ」


 BJは俺が見えなくなるまで手を振り続けていた。

 俺はBJみたいな奴は嫌いじゃない。

 この世界は俺の世界でもあって、BJの世界でもある。

 世界を共有している人間が自分より後輩となれば、それなりにこの世界を嫌って欲しくないと思うものだ。

 こんな世界でも。

 それに、俺は悪人じゃないつもりだし。


 しかし、BJの言った"アサシンみたい"ってのは俺の誤解を一つ解いた。

 俺はマリシャとナナが情報屋としてフレンドになったと思い込んでいた。

 しかし、BJの言葉から俺は"アサシン風"に他人に見えていると分かった。ちょうど、装備に暗殺者のストールもあるし。

 とにかく、二人は俺をアサシンだと疑っていて。

 フレンドになり居場所を確認できる状態にし、"今どこで何しているのか"を知りたがったのだろう。

 つまり危ない奴に見られたということだが。


 納得のできる解を得られたところで、俺は漸く始まりし街を出ることができた。


 俺の貴重な時間を割いたんだ。BJには死んでほしくはない。

 "どうかこの世界に殺されないように"と祈っておくとしよう。


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