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95 考察その9!?


 あはは!日笠くんは息子ラブだからね!常に息子にエンパシー!感情移入しているほどだよ!


『ヤトのお父さんがまた何か言っている。でも、なんでだろう?全然音が聞こえてこないや。もし、好きな人がダイブしたままの状態でその体の世話をできたとしたら?』


 ボクは自身の経験上、その時にとる行動が理解できる。

 何せ、BCOで一月ほど意識の無いヤトの面倒をみたのだから。


 頬を摺り寄せ、匂いを嗅ぎ、頭を撫でて、手を握る。

 少し行き過ぎた行為もあった。


『何でもでき放題だ。ボク自身アバターの体を好き勝手されて嫌な想いをしたのに…』


 今更になって恥ずかしい気持ちと自身の特権のようなものを、ずっと前から奪われていたような錯覚が、ボクの心を大きく揺らした。

 仮想と現実の体の違い。対して違いは無いけど…、やっぱりリアルでの体が少しだけ勝るのだろう。

 ボクは酷く嫌な言葉を連想した。


『ボクのヤトなのに――』


 そんな心の声を再び例のシステムがフキダシに出現させた。

 それに気が付いた小野さんが、ヤトのお父さんを睨んだことにも気が付かないほど、ボクはヤトのことを考えていた。


「カイトくん…。いや、小野坂凜さん」


「…………………」


「愛情を持っているからと言って、それでどうなるというものでもありません。彼女、日笠さんが裕人くんの体を世話しているのはそういう感情からじゃないんです」


『なら、どう言う感情ですか?』


 口にも出さず小野さんを見つめた。


「彼女がヤトくんに懐いているのは確かに"愛情"です。でも、それと同じほど、いやそれ以上に"敬愛"や"畏怖"の念も強いんですよ。何せ彼女は――」


 小野さんの言葉にボクはハッとした。


「それ…ヤトから聞いたことがあります。小学生の時に助けた人がいるって――」


「ええ、その事件を直接見たわけでわないですが、その事件の話が決定的になり、私は彼をVRCDのエージェントとしてスカウトしたぐらいですから」


 ヤトが確か小学5年の頃だったような気がする。

 VR世界で出会ったプレイヤーに対し恋をしたヤトは、その人がHMCを無理やりに父親に付けられ、週末に複数の男性を相手にさせられた。

 実の父に複数相手の売春を強要されていた彼女を救いたいと考えてたヤトは、家に直接乗り込んでVR仕込みの格闘術で全員を病院送りにしたそうだ。


「裕人くんはその時の事件がきっかけで精神鑑定を受け、Different(ディファレント) World(・ワールド) Hegira(・ヘジラ) Syndrome(・シンドローム)だと診断された」


 小野さんはそう言ってヤトのお父さんを見る。ヤトのお父さんも眉を顰めながら口を開いた。


「その時の私は色々と忙しくてね、息子にはHMCとフルダイブ環境だけを与え放置していたんだ。事件後、妻に知らされてようやく息子の異常性に気が付いたくらいだ…ダメな父親と罵ってくれても構わない」


 溜め息を吐くその表情からは本当に申し訳なさが漂っていた。


「英雄願望症候群、Argonaut(アルゴノート) Syndrome(・シンドローム)と言う精神鑑定。…実際には世界的には精神病とは認知されていないんだがね。それを聞かされても私は"カッコイイ病気"程度の認識しか持たなかった」


 自身の座る椅子を握り絞めて、「妻には"厨二病みたいなものらしいわ"と言われたが、調べてみるととんでもないものだったよ」と言う。

 ボクの認識では、"少し人助けの願望が強く出てる"という感じだったため疑問を持った。


「まず、仮想世界と現実世界の境が曖昧になり、自身が定義する正義に基づいて行動を起こす。そして、定義に反することにはどこまでも暴力的になる。例え相手が"子ども"だろうと"老人"だろうと、"友人"だろうと"恋人"だろうと、"兄弟"だろうと"家族"だろうと絶対に手加減は無い」


 ヤトも言っていた、物心ついた頃にはもう暴力と生活していたって。


「初めて息子が人を殴ったのは通っていた小学校で1人の女子が男子にイジメられていた時だ。他愛無い少年少女によくあることだ。好きゆえにイタズラして、恋心の意味を理解できないゆえにそうする。そんな少年に息子がしたことは行き過ぎた行為でしかなかった」


 小さい子にはよくある"好きな子ほどイジメてしまう"というやつ。


「腕の間接を外して、足首をヒビが入るくらいに踏みつけて首を絞めて気絶させた。同級生といえど、特に仲のよかった相手でもない女子を守るには――とても行き過ぎた結果だ」


 ボクは同級生とだけ聞かされていたから、"女の子"って聞いて少し何かが引っかかった。


「しかし、普段からイジメられていた女子は心から感謝してしまった。それが息子の暴力を"正当化"してしまったんだよ」


 "正当化"――暴力が正義と認められてしまった。

 そして、小野さんは言う。


「その子にとっては男子の行為の方が行き過ぎていたんでしょうね」


 嫌な日常に現れた王子様…。その女の子も――恋――しちゃったのかな。


「担任に呼び出された私は、息子を守る言葉も言わずにVRに関しての雑学をたっぷり教師に話たのを今でも覚えている」


 ヤトの記憶では言い訳を言っていたようなことを聞かされたけど…、言い訳どころか話題にすら触れていなかったなんて。


「ま~息子には私が担任を説得した――と言ってあるが、あとの事は妻がなんとかしてくれたんだがね。私は父親としてできることなど無いと分かっていたから、とうに父の資格など――」


 ヤト……キミの記憶は捏造されているよ。


「うちの息子は特殊だった、それだけで満足した私は父として愚かだろうね。…………話を逸らしてしまったね!もう一つのシステムである視覚会話について話そうか。と言っても、それは機能しなかったがね。独立したシャドーにリンクしていたシステムだったためだろう。ウイルスとして除外されたのが原因でそのシステムは扱えなくなったが、例の剣を発動させることだけはできそうだ」


 小野さんは「それをしたところで問題の解決にはなりませんよ」と言う。

 それにはボクも同意見だ。


「さっきカイトくんが言ったように記憶が偽物だったりした場合、記憶の無いヤトくんが混乱するだけだと思うんですが」


 確かに!と、ヤトのお父さんは言う。


「だが、その黒い剣を使いさえすればどうにかなるかもしれないのだよ小野くん」


 ボクも小野さんも首を傾げる。


「仮に息子が黒い剣でプレイヤーを斬るとする。その瞬間VRCDのハッキングプログラムであるルシアンMK-2とカーディがIPやらなんやらで現実世界の場所を特定し、さらには仮想現実の居場所も特定したり、さらにさらに相手側に気付かれないように私の最新のシャドーが独自にAI側にルートを作る予定だ」


「は?ルシアン・ベリアルにもできないことを、どうして私物AIのシャドーができるのか、詳しく聞きたいところですね」


 小野さんは綺麗なアバターの顔をキリっとして睨む。


「無論ルシアンMK-2にも同様のシステムを加えることはできるんだが…まだ試作段階であることを考慮して、VRCDの本部内にあるルシアンMK-2には後々インストールするつもりではいたんだよ」


 本当だよ?!と言うその言葉を小野さんは今度はジト眼で見る。


「米国側のシステムと共同なんですから試験がし辛いのは理解できますけど、せめて私にぐらいは伝えておいて欲しかったですね。そうすればクライド博士にも私から――」


「わたす、あいつ嫌い」


 苦いものを口にしたような顔をしてそう言い、席を跳ね上がるように立ち上がり、「思考停滞型の人間とは他人以下の付き合いしかできない性分なんだ」とキメ顔をする。


「あの、クライド博士とは?」


 ボクはすぐに小野さんにそう質問する。

 すると、「米国側のVRCDの主任研究員だよ」と言う。


「ちなみに神谷博士は、これでも"日本側"の主任研究員なんだ」


「"これでも"とは言うじゃないかい!小野くん!」


 ボクも小野さんもできるだけ呆れた視線でヤトのお父さんを見る。

 見られた本人は、「その視線!本当に日笠くんが2人いるようだよ!」と何故か興奮気味。


「と言うことは、私のアバターもカイトくんのアバターも日笠さんをモデルに作ったものなんですね」


 小野さんのアバターは、言われるまでもなく"そうだ"と思っていたけど…ボクのも?


「正直言って"キモイ"ですよ博士」


「いい!実にいいよ!」


 分からないことだらけだけど、ボクには唯一理解できたことがある。


 ヤトのお父さんは――"まとも"じゃない。


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