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第漆拾話

「トキオ君。目的地まではもうしばらくかかりますので馬車の中で体をお休め下さい」

「休めって言われても、この馬車揺れすぎじゃない」

「これでも街で一番良い馬車なのですよ」

「へーそうなんだ。まっ仕方ないか」

馬車の窓から外を眺め考えを巡らせる。

「ところでさ、今度の街はどんなとこなの?」

「国の首都から一番遠い街でカバタという街です。そこで取れる野菜はおいしく、首都まで噂が届くほどです」

「野菜かー。僕、野菜嫌いなんだよね。寄らないで帰ろうよ」

「野菜嫌いの者でもおいしく食べられると言われています。トキオ君も一度食べてみてはいかがですか」

「どうしよっかなー」

男は考えるそぶりを見せたが既に答えは出ていた。




日暮れと共に人の往来する場所が変わる。うるさいほど人が集まっていた市場は静まり、酒場や宿、歓楽街が賑わう。どの街もそれはかわらず、火の国の街カバタも夜になり賑わっていた。

「お待ち。追加の酒だ」

「おやじ、こっちにも酒の追加」

「へい」

酒場は新しい客が来ても座る所が無いほど繁盛していた。街を守る衛兵、仕事を終えた職人、商人等が疲れを癒しに訪れる。

「お前聞いたか? この国で勇者が召喚されたって噂」

「ああ聞いたさ。なんでも実験好きの老人が国の書庫に保管されてた何百年も前の実験書を読んで、興味本位で再現したら成功したってやつだろ」

「やけに詳しいな」

「衛兵詰め所にいると簡単に情報が手に入るんだよ。隣村のだれだれが死んだとか魔物が多すぎて肉が大安売りしてるとか、どうでもいい情報が大半だがな」

「そんな事より勇者だよ。召喚された奴はどんな奴なんだ」

「なんでも、男のガキだそうだ」

「ガキ? 勇者が子供だってか」

「訊いた話だとな」

商人は顔馴染みの衛兵の話に興味津々で、つまみと酒を勧めて質問を続ける。

「そんでそのガキは今どこにいんだ」

「さあな。そこまではしらねえよ。そこから先は衛兵じゃなくて役人の仕事だからな」


「王がいない国だと勇者はどうなるんだろうな。命令を強制する事も出来んし、危険だって殺すのか?」

「どうだかな。役人どもが決める事だからな。俺達衛兵には関係ない話だ」


「だけど処刑はお前たちの仕事だろ。その知らせが無いってことは勇者のガキはまだ生きてるってことか」

「そういわれるとそうかもな。じいさんの件以降、処刑の話は聞いてないな」

「だろ」


「だとすると、どこで何してんだ、勇者は」




ここにいてお酒飲んでまーす、なんて、言えないか。

勇者と呼ばれる男は噂話を聞きながら酒を飲んでいた。

「トキオ君、余計な事は言わないように。君を処刑するのは避けたいのでね」

「分かってるって、ドモンさん」


「それにしても勇者って何なの。子供に聞かせるおとぎ話の主人公じゃないの?」

「この国や近隣の国で勇者は殺戮兵器の名称です。大昔の戦争で多用した人間型の兵器。王の実権で人を奴隷のように扱い、鍛え上げて戦地に送り込む。今では考えられない旧時代の馬鹿げた遺物ですよ」


「でもさ、兵器って呼ばれる位強いのに王を殺さないのって変じゃない?」

「そこは王の力ですよ。昔のこの国の王、近隣の今の王達もそうですが、王になった者達は他者の自由意志を奪うことが出来たのですよ。それにより、勇者は強力な力を持ちながらも王の命令には逆らえず、兵器としての運命しか辿れなっかたのです」

トキオは話を聞いていて思った事を口にした。

「もしかして僕もいずれはそうなるとか?」

「残念ながら現在この国に王はいません。なので、勇者を兵器として扱う事は出来ません。良かったですね、召喚されたのがこの国で。他の国だと奴隷まっしぐらでしたよ。ふふふ」

「笑えないよ」

ドモンは懐から財布を取り出し、代金を机に置いて立ち上がった。

「さて、そろそろ宿屋に戻りますか」

「もう少し良くない?」

「君に勇者の悲惨な昔話を聞かせないといけませんのでね」

「うわっ、まだあるんだ。もう十分だよ」

「知らないと他の国に行った時に後悔しますよ?」

「どんな風に?」

「知らない内に王に支配されて戦場に立っていたりして」

「うん。早く帰ろうかドモンさん」


二人は宿へ向かって歩き出した。その夜、ドモンによる勇者の説明は深夜にまで及んだ。



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