第弐話 起床 承)始まり
火の国の外れ。デゴという村のさらに外れにある家。そこに、寝るのが大好きな青年がいた。
いや〜、いい天気ですね〜。こんな日は家でごろごろするに限りますね。
その青年は、起きたばかりだというのに怠ける事を考えていた。
バンッ
突然、家の戸が勢い良く開かれ、男が入って来た。そして言った。
「おい、馬鹿!」
入って来た男は村人の一人でカムという男であった。青年は、面倒ではあったが一応訪ねて来た理由を聞いてみた。
「ん〜、何ですか〜」
すると男は言った。
「お前、技能で人の治療出来るか?」
「ん〜治療に近いことなら出来ますが、面倒なので嫌ですね〜」
「そうか、出来るんだな。なら、一緒に来い!」
「おやすみなさい」
青年は面倒な事だと判断し、眠ろうとした。それを見た男は、必死に訴えた。
「寝るな! 起きろ! 今は村にお前しか治療できそうな奴がいないんだよ!」
青年は、いつになく焦っている男の声を聞き、どうしたのかと尋ねた。
「そんなに焦ってどうしたんですか?」
「ああ、森の入り口に見慣れない女の娘が倒れていてな、魔物に襲われたんじゃないかってよ」
「それがどうかしましたか?」
「いや、助けないでどうする。放っといて死んじまっても気分が悪いしよ。とにかく一緒に来てくれ」
「お断りします。今は歩きたくありませんので」
青年は、村の人間では無いと聞いて安心し、男からのお願いを断った。
「はぁ、ずいぶん変わったものだな……。子供の頃は自分から進んで大人の手伝いをしていたってのにな」
「寝ます。おやすみなさい」
「わかった! 俺が運んでやるから起きろ!」
青年は、運んでくれるならと、お人好しの男の願いを聞き入れた。
青年が男に背負われて森の入り口へ行くと、村人が倒れている女の娘の周りに集まっていた。
男が集まっていた村人の一人へ問いかけた。
「その娘の具合はどうだ?」
「よくわからん。傷は無いようなんだが、声をかけても反応が無い」
「反応がないのか……」
それを聞いた青年は、倒れている女の娘が死んでいて自分に対しての用事がなくなったと判断し、早く帰りたいですね~、と考えていた。しかし、
「おい、降りろ馬鹿! 早く治療しろ!」
「私の技能でも死んだ人を生き返らせる事は出来ませんよ?」
「まだ生きてるよ!」
女の娘はまだ生きていたようで、青年は女の娘の近くの地面へ落とされた。
ドサッ
「痛いですね〜」
「さっさとやれ!」
男に急かされ、青年は仕方なく自分に出来る処置を女の娘へ施す事にした。と言っても今の青年に出来る処置はただ一つ。自分の技能を使用し、女の娘の身体を活性化させる事だけである。
だが、その方法はあまり褒められたものではない。青年は絶対に自分には行わない方法。しかし、青年には他に方法がないので女の娘の額に手をあてて技能を発動させた。もし、女の娘に怒られた場合は男へ責任を押し付けようと考えて。
「んっ、うっ……」
青年が技能を使った事により女の娘は意識を取り戻した。
「終わりましたよ、カムさん。お家に帰らせて下さい」
青年にはこれ以上の処置は出来ない。なので、連れて来た男へ家まで運んでくれと頼んだのだが。
「この娘どうする? 村長の家にでも運ぶか?」
「いや、村長は出かけていて今は村にいない」
「そうなのか。ならどうする?」
「そうだな……、誰か分からない女の娘を村の中に入れるのもなぁ。どうするか」
青年の頼みは男に無視された。さらに、男は頼みだけではなく青年の存在さえも無視し、他の村人と話し出した。
青年は、家まで送って行って欲しいのですが~、と思いながらその話し合いを眺めていた。青年に、自分で歩いて家まで帰るという選択肢はなかったのだった。