第拾陸話 魔力
疲れた。眠い。今日は寝ましょう。そうしましょう。
「これで話しも終わりましたし、カオルさんの寝る布団と、早いですが夕食の準備をしましょう」
「おい、布団は私のを使え。私は村を出るので必要ないからな。
カオルの事は任せたぞ、馬鹿弟子」
「はい、はい」
「しっかりな」
「カオルさん、しっかりしてください。今日からあなたはここで暮らすんですよ」
「えっ、いつ決まったの?」
「あなたが放心状態の時です」
「私がここで暮らすの?」
「はい」
「なんで?」
「今すぐニホンには帰れませんので。
ですが、もしここが嫌でしたら外で野宿をしてください。魔物に食べられてしまうかもしれませんが、それはカオルさんが決める事です」
「泊めてください!お願いします!」
「わかりました。では、あらためて、これからよろしくお願いします、カオルさん」
「はい、よろしくお願いします、ウシオさん」
「俺もいるんだがな」
「あっ、カムさんもよろしくお願いします」
「おう。よろしくな、カオル嬢ちゃん」
※次の日
「ではまずカオルさんには魔力を使ってもらいます」
「えっ、いきなりすぎませんか? 私、魔力って何なのかも知らないんですよ」
「大丈夫です。おばあちゃんの練習法ですから」
「シバさんの?」
「はい。きついかもしれませんが死にませんので安心してください」
きついのはいやだな。
「それに、カオルさんはすでに【火】のスキルを持っていますし」
「スキルがあると楽なんですか?」
「まあ、楽ですね。普通の人は魔力の扱い方を覚えてから技能を習得しないといけないので大変ですが、カオルさんは既にスキルを持っていますので使おうと意識すれば魔力は使えると思います」
「どんな感じにですか?」
「そうですねー。例えば、こんな風に」
もわもわと煙のようなものがウシオさんの手の平から出てきて丸い球のような形になりました。
色はついていないんだけど景色がゆがんでるから分かる。大きさは野球のボールくらいかな?
「では、ほい」
「えっ?」
ウシオさんはその球を私に投げつけてきました。でも痛くない。柔らかいものが当たったような不思議な感触。
「カオルさんにはこれをやってもらいます」
「どうやるんですか?」
「今私がやったように」
「それだとわかりませんから」
「はぁ、面倒くさい」
私はあなたのほうがめんどくさいと思います。
「まず手に集中。次に煙でも水でもいいから想像。自分の中からしみ出すように。そして出てきたら球の形にする。最後に投げる。以上」
「もう少し分かりやすく説明出来ませんか?」
「無理です。
ですがカオルさんの場合、火を想像すると上手くいくと思います。【火】のスキルを所持していますので」
やってみよ。
うーん、自分の中から火が出てくるイメージかー。普段そんなことはないから難しいな。
火より血の方がイメージしやすいかも。血をイメージして………(イメージ中)………。
「あっ、体から何か出てきた!」
私の手から液体のようなものが出てきました。でもウシオさんが出した透明で、もやもやっとしたものでなく、赤く色がついたもので、地面にぽたぽたと垂れてて、球の形になるとは思えません。
「では球の形を想像して」
「これ、固まるんですか? 私の、液体みたいに垂れてるんですけど。それに赤いですし」
「大丈夫です。想像すれば纏まります。
それと、赤いのは【火】の影響ですので問題ありません」
そうなんだー。なら続けてみよ。
えっと、ウシオさんのは野球ボールみたいだったから野球ボールをイメージして
………(イメージ中)………。
「その調子です、カオルさん」
すごーい。ボールだ。赤い野球ボール? うーん、プラスチックのカラーボールの方が近いかも。
でも凄く不思議な感触。
それに出来たのはいいけど、これ、どうしよ? ウシオさんに投げる? いいかも。
「えい!」
ガン!
「えっ?」
なんで? ウシオさんの作ったボールは痛くなかったからウシオさんに投げたのに、私の作ったボールはぶつかってとても痛そうな感じのいい音をたてました。
ウシオさんは痛がってないみたいですけど、大丈夫かな?
「何するんですかカオルさん。痛いではないですか」
「大丈夫なんですか? いい音がしましたけど」
「はい、これ位でしたら問題ありません」
あっ、そういえば、シバさんに言われてウシオさんをなぐった時も痛くないみたいだったし。
この人はどのくらい固いの?
「ではカオルさんは練習を続けてください。私は用事があるので少し畑に行ってきます」
「あ、はい。分かりました」
ウシオさんは畑に行ってしまいました。
本当に不思議だなー。魔力って。イメージするだけでボールの形になるなんて。
他の形も出来るのかな? ウシオさんもいないし少しくらい遊んでもいいよね。
何がいいかな?