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崩れ落ちる屋敷は、終りを告げた

知略と力技の対決です

「残る組織も多くないよ」

 作戦会議の頭で較が告げる。

「えーと、確か新興のキリスト系の『神の光明』って宗教団体も残ってたよね」

 うろ覚えの智代にエアーナが続く。

「ロシアの愛国者集団の『凍える息』と言うのもありましたね」

 雷華も地図を片手にあげる。

「ペルーに本拠地がある『老いた峰』やつ等も居ただろう」

 最後に優子が真剣な顔で言う。

「そして、以前関わりがあった『女王の王勺』に近い組織、『英国の英知』ですよね?」

「改まって何が言いたいんだ?」

 良美の言葉に較が難しい顔をする。

「はっきり言って強敵は、残ってないと言っても問題ない筈なんだけど、嫌な予感がするんだよ」

「リリスさんの件ですか?」

 優子の指摘に較が眉を寄せる。

「全体的に、不自然な臭いがする。これが残ってるのが『花鳥風月』や『封神演義』、『魔女の森』だったら、まだ解るけど、どこもいくつもの組織と対決出来るだけの基盤が無い。はっきりいって残ってるのがおかしい組織なんだよ」

「でも残ってるじゃん。第一うちらとは、一度もまともに戦ってないんだから、おかしくないだろう?」

 雷華が極々当然の様に言うが、そこでエアーナが気付く。

「それって、あたし達と戦っていない組織が全部残っているって事ですよね?」

 較が頷く。

「既にあちき達との連携を決めて守りに入っている『花鳥風月』や『封神演義』を別にしても多くの組織があるのに、あちき達と戦ってない組織が全部残ってるなんて不自然すぎるんだよ」

 疑問符が浮かぶ中、智代が冗談混じりに告げた。

「うち以外の全部が協定を結んでいるんじゃないか?」

 智代自身、笑い飛ばされると思った意見に較が深いため息を吐く。

「その可能性がけっこうあるって言ったら驚く?」

 重い空気が流れそうになる中、良美が言う。

「関係ない。全部が敵に回ろうと、最後に勝つのは、あたし達なんだから」

 その一言に苦笑する較。

「ヨシは、単純で良いね。でもそれが正解だね。さてその為に次の襲撃目標を決めるよ。あちきとしては、『凍える息』が良いと思う。ここなら正攻法でいける。数減らしには、丁度良い相手だよ」

「マチュ・ピチュにいってみたいな」

 智代の自由な意見に優子が怒る。

「遊びじゃないのよ!」

「誰の寿命がかかっているの忘れてるのか?」

 雷華が呆れる中、良美が言う。

「キリスト教とは、喧嘩したばっかりだから、残った『英国の英知』と一発やるか?」

 較が頭を押さえる。

「あのさ、建設的な意見は、無いの?」

 何気に決定権がある良美の意見に回の一番の影響がある智代が頷き、涙する較であった。



「結局、ヨシの鶴の一声で『英国の英知』の所に来たけど、面倒な気配がする」

 ロンドン空港に降り立った途端に発生する濃霧に較がため息を吐く。

「あれロンドンって霧の都って言われるほど霧が多いんじゃないですか?」

 優子の言葉に雷華が苦笑する。

「これは、ただの霧じゃない。間違いなく魔力で作り出した霧」

「この霧の目的は、色々あるんだろうな」

 較が呟きながら無造作に右腕を伸ばし、呪具をとりつけようとした男を捕まえる。

「あのさ、いくらなんでも単純過ぎると思わない?」

 そういった瞬間、男の体から強力な呪波が流れる。

「ダブルトラップ!」

 較の右腕が白く輝き、男が悲鳴を上げて床を転げまわる。

「何が起きたの?」

 驚いているエアーナに較が右腕を押さえて白い光を鎮める。

「呪具を使ってこっちに間接攻撃してきたのかと思って捕まえたら、その男自体がトラップだった。左手で掴んでたらやばかったかも」

「そうか、ヤヤの右手ってもう化け物に侵されているんだもんな」

 智代のストレートな言い方に眉を顰める較。

「一応、うちの家で崇めている神様の使徒なんだから、言い方に気をつけてね」

「そこは、気にしないとして、初手からかましてくれるな?」

 良美の言葉に較が強く頷く。

「英国最古のオカルト組織、『英国の英知』は、やっぱり一筋縄では、いかない相手みたい」



 ロンドンの歴史を感じさせる『英国の英知』の屋敷。

「お婆様、『良美とその仲間』がロンドンに入ったと言うのは、本当ですか?」

 アンナがエリザベスの居る部屋に駆け込んできた。

「静かにしなさい。こちらのパーツを狙っている以上、常に考えられる可能性、慌てる事では、ありません」

 冷静なエリザベスとは、正反対にアンナは、焦っていた。

「ホワイトハンドオブフィニッシュ、その手に係り滅びた組織は、数知れません。あの『女王の王勺』もあの娘と関わって、その力の大半を奪われたと聞いています!」

「力があるのは、知っています。しかし、力に恐れ、屈服するようでは、この世界に居る資格は、ありません」

 毅然と言い放つエリザベスに拍手する紳士が居た。

「流石は、エリザベス様。この男爵も貴方の下で働ける事を誇りに思います」

 その紳士、『英国の英知』の一員、男爵の言葉にアンナが苛立つ。

「男爵、貴方ほどの人だったら、相手がどれほど恐ろしい存在かを知っている筈よね。なのに何故止めるのを手伝ってくださらないの?」

 男爵が苦笑する。

「残念な事に、『英国の英知』には、次を待つ余裕など無いのですよ。そうですよね、エリザベス様」

 アンナが困惑する。

「何を言っているの。『英国の英知』は、そんな貧弱な組織では、無い筈よ」

 同意を求める為に振り返ったアンナだったが、エリザベスは、苦々しい顔をしていた。

「全ては、『女王の王勺』の暗躍が原因。あの一件で王室の我々に対する対応が激変した。自分達の忠実な駒になる組織以外は、排除する動きが出始めている。ここで、我々の存在価値を高めなければ、王室の手駒になるしか道が無くなる」

 自分が知らない新事実にアンナが困惑する。

「だから、お婆様がこんな無謀な事を……」

 そんな中でもエリザベスは、強い意志を籠めた瞳で告げる。

「安心しなさい。私は、必ず勝ち残り、貴女に今以上の『英国の英知』を引き継がせます」

 何も言えなくなるアンナであった。



 作戦が始まる中、未熟なアンナには、仕事が無く、独り、町に出ていた。

「私では、お婆様の力になれない……」

 俯いていたアンナが人にぶつかった。

「すいません」

 顔をあげるとそこには、良美が居た。

「気にしなくて良いよ」

「大丈夫ですか?」

 逆に心配する優子。

 アンナは、当然その二人の顔を知っていた。

 はっきり言って、闇の業界でこの二人の顔を知らなければモグリと言われてもしかたないのだ。

 どちらも関われば大損害を想定されるのだから。

 罠を疑い周囲を見回すアンナを見て良美が周りを見回す。

「もしかして、追われている? なんだったら、助けようか?」

 見当違いの発言に途惑うアンナに優子が同情する。

「気にしないでください。この子は、普段からトラブルに巻き込まれるのが普通で、相手も極々日常的に追われていたりすると思っているんです」

 アンナの場合は、どちらかと言うとそちらの方が現実に近かったりするが、そんな事をおくびにも出さずに作り笑顔で答える。

「面白い人ですね」

「そうか? ところで、この近くでテイクアウト出来る店無いか? 友達が色々準備でホテルから出られないんだ」

 良美の質問にアンナが呆れる。

「ルームサービスで済ませたら良いじゃないの?」

 苦笑する優子。

「半分は、言い訳です。暇を持て余して邪魔なので追い出されたんですよ」

 良美が不満気に口を膨らませる。

「そんな事は、無いやい」

 普通すぎる二人のやり取りをアンナは、信じられなかった。

「友達は、忙しいのにどうして、平然としてるんですか?」

 もっと踏み込みたいアンナだったが、立場上出来ないので、遠まわしの質問になってしまう。

 優子が困った顔をする。

「平然としてるつもりは、無いんだけど……」

 しかし良美は、右手を掲げて言う。

「あたしの一番の親友は、何時も何時も緊張してる。理由は、言っても解らないけど、そうなんだよ」

 アンナは、その理由を知らされているが知らない風を装う。

「ちょっと信じられません。ずっと緊張し続けられる人間なんて居るわけありませんから」

 その言葉もアンナの本音だった。

「その子は、普通とちょっと違うんです」

 優子が説明し辛そうに答えるのに対して良美は、はっきりと言う。

「無理してる。だからあたしが傍で馬鹿をやって緊張を解してやってるんだよ」

 驚いた顔をする優子。

「そんな複雑な事を考えられたの?」

「なによ、それじゃ、あたしが何も考えてない人間みたいじゃない」

 良美のクレームに優子がため息を吐く。

「ちゃんと物を考えている人間だったら、八割方決まっていた推薦入学に失敗しませんよ」

 高校入学の失敗を突かれて視線を逸らす良美であった。

 そんな二人とその後ろに見えてくる友情がアンナには、眩しかった。

 アンナは、『英国の英知』の後継者として、一般人とも深い関係を持つ事も許されず、かといってこの業界の人間には、隙も見せる事が出来なかった。

 唯一心を許せたのは、家族、今では、祖母のエリザベスだけだったのだ。

 それなのに自分よりもっととんでもない存在である筈のこの二人は、血の繋がりも損得でも繋がっていない筈の人間と友情を育んでいる。

 それが酷くずるく感じてしまったアンナは、本来なら言っては、いけない言葉を口にする。

「それって単なる足枷って意味じゃないんですか?」

 言ってからアンナが後悔した。

 悪意が篭ったこの一言は、相手に自分を警戒させるだけの意味を感じさせるだろう。

 しかし、優子が大笑いする。

「そうだね、足枷だね。良美みたいな凄く重い足枷は、そうそう無いよ」

 笑い過ぎででた涙を拭い優子が真面目な顔で言う。

「でも、その子には、そんな足枷が必要なの。そうしないと自分すら壊してしまう。そんな子だから」

 互いを信じ合う本当の友情の前にアンナは、徹底的にうちのめされた気がした。

「近くにフィッシュアンドチップスの屋台があります」

 それだけを伝え、その場を去るのであった。



「それじゃあ、襲撃を始めるよ!」

 較がそういった瞬間、ホテルの壁紙が捲れ、性質が悪すぎる魔法陣が露わになる。

 四方八方から迫る触れるだけで発狂しかねない呪を込められた触手が迫る。

「何ですか!」

 エアーナだけが涙目で叫ぶ中、較が何かするよりも早く、全ての触手が蝶に変化して、周囲に居た『英国の英知』のメンバーを逆に発狂させていく。

「不用意な全体攻撃が通じないって事ぐらい気付かないのか?」

 雷華が軽口を叩いていると較が手刀を振るう。

『オーディーン』

 較の手刀は、必殺の毒が塗られ、超高速で迫ってきていた魔物を加工した弾丸を切り裂く。

「目晦まし程度の効果しか期待してないみたいだよ」

 較が油断なく告げて移動を促し、先に進む。

 しかし、車に乗れば車が暴走した挙句、その先には、トラップの山があり、徒歩で移動すれば、地面に描かれた魔法陣が凶悪な効果が襲ってくる。

「何なのこの仕掛けの数は!」

 切れる智代に雷華も頷く。

「姑息というか、正面から戦えって言いたい!」

 五人を背負って電線を駆ける較が言う。

「これが相手の戦い方、こっちの戦い方と違うからって否定するのは、間違い」

「随分と余裕ある態度だね」

 良美が意地悪い笑みを浮かべると苦笑する較。

「余裕は、無いけど、あっちがあっちの戦い方するなら、こっちは、こっちの戦い方をするだけ!」

 襲ってくる鳥の形をしたキメラがどんどんやってくる。

「このルートも駄目みたい」

 エアーナが弱気な言葉を発するが較は、平然と言う。

「何言っているの! 普通に敵が来るだけなら、ぶち破るまで! 『ダブルガルーダ』」

 突風がキメラ達を蹴散らす。

「こっちの戦い方って何?」

 優子の問い掛けに良美が拳を前に突き出して言う。

「力任せのぶっこみ!」

 電柱を足場に『英国の英知』の本拠地に飛び込む較。



「あれだけのトラップを全て突破しましたか」

 エリザベスが壁を突き破って入ってきた較達を見る。

「賞賛します。こちらの心理を読み、先手先手を打った見事のトラップの数々でした。でも、あちき達は、そこまで頭を使ってないんですよ」

 較の言葉にエリザベスが壁に開けられた穴から見える町の惨状を見て言う。

「その様ですね。この世界に住む人間なら、もっと穏便に済まそうとします。間違ってもあんな目立つ方法で移動しようなんてしません」

 優子の顔が引きつる。

「もしかして物凄く目立って居たんですか?」

 エリザベスがあっさり頷く。

「今、この時点でもあらゆるメディアに貴女達の目撃情報が通報されマスコミが動き出しています」

 視線が自然と較に集まる中で良美が言う。

「一応、対応策は、とってあるんだろ?」

 較が仲間と視線を合わせないようにエリザベスを見ながら言う。

「一応、金で動く連中に動いて貰っているから、握りつぶされてると思いますけど」

「そうでも無いですよ」

 男爵が現れて、携帯電話にニュースを映す。

『信じられません、一人の少女が五人もの少女を背負って電線の上を疾走しています。これは、現実です。特撮では、ありません!』

 突き刺さるような視線を感じながら較は、強引に締める。

「全部、誤報にするから良いんです!」

 大きなため息を吐くエリザベス。

「若さという奴ですね。しかし、それだけで勝てると思わないで下さい」

 エリザベスの合図に応え、男爵がその杖を投擲する。

 較は、嫌な予感を覚えてかわすとそれが突き刺さった壁が杖を中心にゴーレムと変化する。

「我が最大の魔術、触れたもの全てを吸収し、必ず敵を抹殺するアスポートゴーレム。その力に屈服しなさい」

 勝ち誇る男爵に較がゴーレムに右手を突き出して言う。

「最初に謝っておく、この屋敷が崩壊するからね」

 ゴーレムが較の右手に触れた瞬間、一気に増殖し、屋敷を取り込み始めた。

「馬鹿な、何故暴走した! 私の魔術は、完璧な筈だ!」

 取り乱す男爵に較が肩をすくめる。

「暴走なんてしてない。普通の反応だよ。あちきの右手を侵食する力を少しでも吸収すれば、その力の分ゴーレムが増殖し、屋敷を取り込むのは、まだ良い方だよ」

「良い方って、悪くするとどうなるんだ?」

 雷華の問い掛けに較が少し躊躇した。

「多分、この一帯全部が吸収されるかな?」

「どうしてそんなとんでもない事するんですか!」

 優子の問い掛けに較が頬をかく。

「何か策略してるんだもん、まともに相手してたら不味いと思ったの」

「それでさらに状況をとんでもない事にするのがヤヤだよね」

 智代の言葉に反論できない較であった。

「予定とは、違いましたが、これが私の切り札です!」

 エリザベスが両手に描かれた印を合わせる。

 歴代の『英国の英知』の魔術師達が放ち続けた魔法の波動が屋敷からあふれ出し、較達を覆い尽くしていく。

「完全捕縛魔法。この屋敷に籠められた先人達の魔力を用いる事で、如何なる力も封じます!」

 エリザベスの宣言が響き渡る。

 魔法の中、較が頭をかく。

「本格的に罠に嵌ったって感じ」

「ホワイトファングでぶち破ろう!」

 良美の提案に較が首を横に振る。

「外の様子が全く掴めないから撃てないよ」

「敵の被害なんて気にする必要ないんじゃないか?」

 雷華のクールの意見に較が遠い目をする。

「下手に撃って地球のコアを撃ち抜いたら大変なんだよ」

 長い沈黙の後、エアーナが詰問する。

「もしかして、本気で地球破壊出来る攻撃をちょくちょく使っていたんですか」

 較が無理やりな笑顔で言う。

「最悪の可能性だよ」

「因みにその可能性ってどんくらいなの」

 智代の的確な質問に較が冷や汗を垂らす。

「教えてください」

 優子の明らかな作り笑顔の問い掛けに較が答える。

「二割は、行かないと思う」

 硬直する優子とエアーナ。

「ほぼ五回に一回は、世界壊してもおかしくなかったって事だよな」

 雷華の言葉を否定できない較であった。

「そんな過ぎた事より、これをどうにかするのが先だろう」

 珍しく建設的な意見を言う良美であったが優子が怒鳴る。

「そういう、後先を考えない行動をとるから地球が何度も危機に陥るんです!」

「そういう優子だって国を滅ぼす淫虫の魔王を宿しているじゃん」

 智代の言葉に優子が固まり、エアーナが大きなため息を吐く。

「結局、こんなとんでもない事になる定めだったんですよね」

「そういうわけで、奥の手その一を使います」

 較が携帯電話で合図を送るのであった。



「見事やりましたね。あのホワイトハンドオブフィニッシュを封印した功績は、『英国の英知』の実力を世界中に広める事でしょう」

 男爵の賞賛にエリザベスは、疲労を隠せない顔で告げる。

「まだだ、他の組織を倒し、新たな栄光の道を進む『英国の英知』をアンナに引き継がせなければ……」

 前だけを見るエリザベスの後ろでは、嫌悪の表情を露にする男爵が居た。

 そんな時、ただでさえゴーレムの所為で半壊状態の屋敷に爆発が起こる。

「何が起こった!」

 男爵が叫んだ時、エリザベスが歯軋りをする。

「こんな土台崩しを準備してたのね。早くメンバーを避難させろ、この屋敷が爆破炎上させられる!」

 目を見開く男爵を尻目に爆発は、続き、倒壊が進み、次々と炎が上がる。



 倒壊、炎上する中、氷が噴出し、鎮火され、較達が現れる。

「奥の手その一、相手の拠点の物理破壊でした」

 較の言葉に雷華が言う。

「助かっておいて言うのは、何だが、毎度の事ながらもう少し手段を選ばないか?」

 良美も頷く。

「美学が感じられないな」

「プロ棋士相手に将棋で負けないのには、盤を壊すのが一番なんだよ」

 較の宣言にエリザベスが策を模索する。

 圧倒的な不利な状況でもエリザベスは、諦めていなかった。

「もう負けだよ」

 そういったのは、アンナであった。

「何を言っている、まだチャンスは、ある。まだ勝機を見出せる」

 エリザベスの悲痛な言葉にアンナが首を横に振る。

「無理。もう『英国の英知』は、終わったの」

 アンナが指差すのは、崩れた屋敷に、それに背を向け逃げ出していく構成員だった。

 エリザベスの膝が崩れる。

「もう、組織としての柱が無くなっていたのか……」

 いきなり登場に驚く優子と良美にアンナが近づきパーツを渡す。

「これを渡す。むしの良い話だと思うけど、潔く敗北を認めるからお婆様からこれ以上、何も奪わないで」

 パーツを受け取り良美が言う。

「ヤヤ、別に良いよな」

「そうだね、欲しい物は、別の組織が賭けた物だから。でも、それで良いの?」

 較の問い掛けにアンナが頷く。

「貴女達を見て解ったのです。一番大切なのは、人の繋がりだって。今の私に一番大切なのは、お婆様との繋がり。それを失う訳には、いきません。『英国の英知』は、ここまで。私は、お婆様と二人、新しい道を見つけます」

「アンナ……」

 孫娘の意外な思いにエリザベスが涙するのであった。



 較達が退散し、『英国の英知』の解散が発表され、残った幹部達や他の組織が蠢く中、エリザベスは、自分とアンナの安全を確保し、田舎に移り住んでいた。

「お婆様、買い物に行ってきます」

 そういってアンナが仲良くなった友達と出かけていくのを見送った後、エリザベスは、慕ってくれた元部下からの情報を解析する。

「アンナも気にしていたみたいだが、やはりおかしい。今までの大会とは、明らかに異なる展開」

 そうやって情報を読み解いていくうち、とんでもない真実に至る。

「そうか、全ては、この者達の茶番だったのか」

 エリザベスは、電話に手をかける。

「ホワイトハンドオブフィニッシュへの借りを返すには、十分な情報だな」

 その時、チャイムが鳴り、エリザベスが用心して出るとそこには、男爵が居た。

「お前か、そうだな、お前にも苦労をかけたからこの情報を渡そう。ホワイトハンドオブフィニッシュに売ればそれなりの価値で買ってくれる筈だ」

 男爵が首を横に振る。

「残念ですが要りません」

 眉を顰めるエリザベス。

「遠慮をしている訳では、ないな。その顔、まるで前から知っていた……」

 エリザベスは、自分の油断を呪った。

「安心してください、アンナさんには、手を出しませんよ。あれには、私の『英国の英知』の旗頭になってもらわないといけませんからね」

 エリザベスの腹に短剣を突き刺した男爵の言葉にエリザベスは、何かを言おうとしたが、そのまま崩れ落ちていく。

 その後、エリザベスの死は、対抗組織の暗殺者の手のものとしてアンナに伝えられた。

 男爵を筆頭とする『英国の英知』のメンバーと共に復讐を誓うアンナであった。

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