竜の息吹が途切れ、レベルアップのファンファーレ
久々に霧流ダンジョンの登場です
「そういうことでパーツを奪いに来ました『賢者の石』のホモンクルスのリリスです」
較達のアジトの玄関で頭を下げる美少女ホモンクルスのリリス。
較が対応に困る中、一緒に応対に出た優子も途惑う。
「えーとこの場合、私たちも挨拶するのが礼儀かしら」
「リリスは、襲撃者ですから礼儀を気にする必要はありません」
リリスの真面目な回答に較が大きくため息を吐く。
「普通の襲撃者は、玄関で挨拶しないよ。それで、目的は、解ったけど、それで何をするつもり?」
リリスは、どことなく不釣合いなガッツポーズを見せる。
「尋常に勝負してください」
「また正面からの勝負だな! 受けてやろうよ」
面白そうな気配を察知してやって来た良美に較が言う。
「多分、全然違うよ。殺気が全然ない。口では、色々言ってるけど、まるで戦う気が無い」
「そんな事は、ありません。リリスは、戦う気で一杯です」
リリスが無表情で主張するのを聞いて較が頭をかく。
「言い方を変えるよ。勝つつもり無いでしょ?」
リリスが黙る。
眉を寄せる良美。
「どういう事? 戦いたいけど、勝つ気が無いって変じゃない?」
「戦う事が目的だって事。簡単に言えば戦闘経験をつみたいみたいな感じかな」
較の言葉にようやく来た智代が手を叩く。
「詰まり、FFの言う所の青魔法のラーニングをしにきたって事」
「何ですかそれ?」
エアーナの当然の質問に較が答える。
「FFってゲームの中では、モンスターの特殊攻撃を喰らって、それを魔法として使える様になるの。多分、このリリスってホモンクルスは、実際体験する事で、相手の能力をコピーする事が可能なんだと思う」
「どうしてそんな事が解るんですか?」
優子の質問に較は、リリスを指差す。
「勝つつもりなら、こんな正面から来ない。ホモンクルスと言うか人工生物には、少ない経験値を補う為にラーニング機能がついてる事が多いんだよ」
リリスが悩み出す。
「作戦に失敗しました。どうしたら良いのでしょうか?」
「あちきに聞かれても困るんだけどな」
較も困っていると良美が言う。
「とにかく食事を再開しよう。あんたも食事が出来るだろう」
リリスが頷くと良美がその手を引っ張り家に上げる。
「一緒に食事をしながら今後の事を考えよう」
「解りました。確かに栄養補給は、大切です」
あっさりと良美の後をついて行くリリス。
「何を考えているんですか?」
エアーナの質問に雷華が肩をすくめる。
「今更だろ。ところでヤヤがゲームに詳しいとは、知らなかった」
「うちのお父さんは、あー見えて重度のゲームマニアだからね。ちなみに白風流戦闘撃術の技のいくつかは、ゲームに出てる魔法や召喚獣が元ネタだよ」
較の答えに雷華が流石に途惑う。
「闇の世界でその名を轟かせる八刃の盟主、白風の長がゲームマニア……」
「男の人って何歳になっても子供っぽい所あるって言いますよね」
エアーナの言葉に雷華が頭痛を感じながら呟く。
「そういうレベルの問題じゃないと思うぞ」
リリスの登場で中断されていた食事が再開された。
「おかわりを下さい」
ほっぺにご飯粒をつけながらお茶碗を差し出すリリス。
「大食いだね」
半ば感心する智代にご飯をよそりながら較が答える。
「ホモンクルスって人が作った物だから栄養摂取が非効率的なの。だから人より大量に食べるんだよ」
リリスは、お茶碗を受け取りながら反論する。
「リリスの栄養摂取効率は、人間より優れています。ただ、必要にするエネルギー量が多いだけです」
次々とオカズを食べていくリリスにライバル心を抱く良美と雷華をほって置いて較が今後の事を考える。
「こっちの技をラーニングする為だけの捨て駒としては、かなり作りこまれているみたいだし、本気で目的が解らないぞ」
「技を覚えてから逃げ切れる自信があるんでは、無いですか?」
エアーナの指摘に較が首を傾げる。
「その可能性も高いけど違和感が有るんだよな」
悩む較の後ろで、本気のオカズの取り合いが始まる。
「居候は、三杯目は、そっと出すって有名な格言しらないの!」
良美の言葉にリリスが淡々と突っ込む。
「リリスは、襲撃者で居候では、ありません。居候と言う立場に一番近い貴女が一番遠慮するべきです」
「なんだと!」
ついに立ち上がる良美。
「手伝うぜ!」
雷華も近くの木刀を構える。
「戦いは、望むところです」
リリスが迎え撃つのであった。
「ウイナー!」
勝ち名乗りを上げる良美。
「どうして、良美が勝つわけ?」
エアーナが驚く中、リリスが呆然としていた。
「スピード、パワー、テクニック全てで勝っていたのにどうして……」
「ヨシは、経験値が高いんだよ。どんなに高スペックで、高度なスキルが有ろうとも、勝負の駆け引きの技術が未熟なら勝ち目が薄いよ」
較が後片付けをしながら答えた。
「やはり、経験値ですか。因みに経験値は、何処でゲット出来るのですか?」
「やっぱモンスターと戦えば良いんじゃない?」
気楽に智代が言うとリリスが真面目にメモを取り始めるのを見て、雷華が続ける。
「やっぱりダンジョンに潜らないと」
「ドラゴン退治は、外せないね」
良美まで参加した所でリリスが首を傾げる。
「そんな事が可能な場所は、リリスは、知りません」
優子がため息を吐く。
「ゲームじゃ無いんだからそんな場所がある訳が無いでしょ」
「そんな事も無いけどね」
較の呟きにエアーナが顔を引きつらせる。
「この世界に、モンスターがでた挙句、ドラゴンも居るってダンジョンがある訳無いと思うけど」
「霧流ダンジョンだったら、モンスターも出るし、ドラゴンも居るからね」
較の言葉に良美が手を叩く。
「それだ! よし、次の勝負は、霧流ダンジョンアタックだ!」
「望むところです」
あっさり受けるリリスであった。
場所が変わり、八刃の一家、霧流家の地下。
「最初にいって置くけど、地下三階までのアイテムは、うちの個人所有だから盗ったら、駄目だからね」
霧流の長の妻、八子の言葉に較が言う。
「毎回思うけど、それより地下だったら本当に良いですか?」
八子が遠い目をして言う。
「だって、あそこまで到底管理しきれないもの」
そんな注意事項の復習をする較達を背中に本物のダンジョンに途惑う雷華達。
「ダンジョンって実在したんだ」
智代が驚きすぎてなのか、薄いリアクションをとる。
「これほどのは、少ないですが、ヨーロッパには、幾つかの実働しているダンジョンが存在します」
リリスの言葉にエアーナが疲れた顔をする。
「ダンジョンだった遺跡だったら何度か行った事あるけど、本物のダンジョンに潜る事になるなんて」
「竜魔玉の時も入ったっけ」
雷華が懐かしむ中、ダンジョンに入っていく。
目の前からモンスター、ゴブリンが現れた。
「こういう場合って普通、スライムが基本じゃない?」
智代の言葉に較が首を横に振る。
「ドラクエで誤解されてるけど、スライムって魔法生物だから高等なモンスターに分類されるんだよ」
「殲滅します」
リリスが魔剣でゴブリンを切り裂く。
「負けられるか! 『我が心を喰らい、魔を討つ刃を生み出せ、心光刀』」
雷華が心光刀でゴブリンに切り込む。
両者が活躍する中、較は、優子とエアーナと三人でノートパソコンを使って膨大な資料を確認するのであった。
巨大なモンスターが溢れる地下六階、リリスは、淡々と巨大モンスターの弱点を貫いていく。
「くそう! ヤヤ、こっちを手伝え!」
良美の注文に較がノートから顔を上げずに言う。
「リリスさんが相手してるから大丈夫だよ。それより、ボスの部屋に入るのは、ちょっと待っててね、流石にあそこは、あちきも協力しないと無理だろうから」
「ヨシ、サボるな!」
雷華が巨人の攻撃を避けながら叫ぶ。
「先に行きます」
リリスがボスの部屋の扉を開く。
そこは、東京ドーム程の広大な空間とその大半を占めるドラゴンが居た。
「ギガントドラゴン、この階のボスだよ」
「経験値が豊富そうです」
リリスが魔剣を振るうが、その強靭な皮膚には、弾き飛ばされる。
「流石にドラゴン、硬い鱗です」
リリスは、素早い動きで、移動して目を狙うが、再び弾き飛ばされる。
「おかしいです。眼球は、鱗ほど硬いわけが無い筈です」
ノートパソコンを閉じながら較が入ってくる。
「竜の鱗は、物理的にだけで硬いわけじゃないの。ドラゴンワールドを利用した絶対防御、それこそがドラゴンをモンスターの王者と呼ぶ所以だよ」
『小娘、また来たか!』
ギガントドラゴンが較を睨み、息を吸い込む。
「はいはい、あちきの後ろに隠れて」
較の指示に良美が慌ててリリスを回収して、退避する。
『カーバンクルマント』
較の撃術発動とほぼ同タイミングで強烈な炎のブレスが放たれる。
炎は、闘牛の牛の様に受け流し、ギガントドラゴンに返す。
『自らの炎でダメージを食らうと思ったか!』
炎を自らのドラゴンワールドの防御で防ぐギガントドラゴンだったが、そこに較が突撃する。
『アポロンパンチ!』
両手から放たれている拳がギガントドラゴンの鱗に同時に当たり、一気に熱量を倍増させて一気に穴を空ける。
『シヴァリング』
出来た穴を氷の輪で固定する較。
『その程度の穴!』
ギガントドラゴンが較を振り払う。
「穴が空いた防御で、次の攻撃を防げない。『モスラストーム』」
毒の空気がギガントドラゴンを覆う。
『我がドラゴンワールドがある限り、その様な攻撃が……』
ギガントドラゴンの言葉が途中で止まり、膝を折る。
「ドラゴンワールドが強固なのは、長い歴史を持つからだよ。穴が空いた状態にその歴史が無いからドラゴンワールドが有効に働かないんだよ」
較が両手を突き上げる。
『オーディーングレートソード』
較の気が篭った一撃は、ギガントドラゴンの頭を打ち砕いた。
「それが、意思に因る理の変質……」
自分の両手を見るリリス。
「無駄だよ、これは、ある種の遺伝子を持つ者にしか真似が出来ない。小較みたいに八刃の遺伝子を使った遺伝子変換を使わなければ真似できない」
較の言葉にリリスの目が鋭くなる。
「ならば、貴女からその遺伝子を奪い取るのみ!」
魔剣を較に振るってくるリリスに較が苦笑する。
「貴女は、ホモンクルスじゃないよ」
「冗談は、止めてください。リリスは、ホモンクルスです!」
強固に主張するリリスの頬に較の手刀が浅く切る。
「ほら赤い血が流れている。ホモンクルスの血は、赤い訳がないよ」
「そんな訳は、ありません!」
必死に否定するリリス。
「何かさっきまでと違うね」
良美の言葉に優子が答える。
「自分で封印した自我を取り戻し始めたんだと思う」
エアーナがようやく見つけた資料を見せる。
「ヤヤがリリスさんに見覚えがあるからって調べてんだけど、ようやく見つかったの」
良美と雷華が問題の資料を見る。
「リリス=パルケルスス、パルケルススの子孫の候補として一番可能性が高い少女。偉大なる錬金術師の祖父の死後、その研究を引き継いでいたが、突如として消息不明になるってどういう事?」
その時、一人の老人が現れる。
「騙されるな、お前は、私の最高傑作だ!」
「了解しました、ご主人様」
リリスは、パルケルススと名乗る老人の言葉に従い、攻撃を続ける。
『ベルゼブブ』
較は、隙を見て髪を放つがパルケルススは、左手を犠牲にして防ぐ。
振動で粉砕される老人の左手。
「馬鹿な……」
愕然とする老人の血飛沫は、緑色だった。
優子が老人に詰問する。
「無くなった筈のリリスさんの姿を真似る貴方は、何者ですか?」
老人が残った右手で顔を押さえる。
「私は、偉大なるパルケルススの名を継承する者の筈だ! 輝く神もそう認めてくれたのだ!」
その目からは、既に正気が失われていた。
長々と戦いを続けた疲労から動きが悪くなったリリスの額に較が手を当てる。
『アテナキッス』
特殊な衝撃が頭を貫き、その場に倒れるリリス。
「もう大丈夫な筈だよね?」
リリスは、即座に立ち上がり老人を見る。
「もー最低! なんでお祖父ちゃんが作ったお祖父ちゃんのクローンホモンクルスに良い様に操られなければいけないのよ!」
「私がクローンホモンクルスだと!」
叫ぶクローンホモンクルスを睨みつけるリリス。
「そうよ! お祖父ちゃんの研究施設で保管されていた筈のあなたが勝手に動き出した。本当にどうなってるのよ!」
「違う、私は、人間だ!』
叫びながら失った腕からどんどん細胞が増殖して醜い肉塊の化け物と変化する。
「処分するけど構わないよね?」
較の言葉にリリスが肩をすくめる。
「どうぞご勝手に。あんな失敗作には、興味は、無いわ」
較は、まだ漂っていた熱気を集める。
『フェニックス』
炎が鳥の姿を形成しクローンホモンクルスを焼き尽くした。
「リリスさんは、今回は、途中棄権、次の大会の為の準備を始めるって」
パーツを回収した較の言葉に智代が眉を顰める。
「結局、なんだったの?」
「普通に考えれば、本人を真似て作りすぎたクローンホモンクルスの暴走だね」
較の言葉に良美が確認する。
「そう思ってないわけだね?」
較もあっさり頷く。
「鍵は、クローンホモンクルスが言っていた、輝く神様。それがクローンホモンクルスを操っていたんだと思う」
「面倒な事になりそうだな?」
雷華の言葉に較がため息を吐くのであった。
「これも定めだからね」
ロンドンの古い屋敷。
「お婆様、どうか棄権してください。このまま行けば『良美とその仲間』が勝ちます、あそことでしたら取引次第で黄金の王勺も奪われなくても済む筈です!」
利発そうな少女、アンナの言葉に奥の玉座に座っていた老婆、エリザベスが言う。
「英国で一番の歴史と格式を誇る『英国の英知』ももはや衰退の一途を辿っている。これが最後のチャンスなのだ」
そして、英国の英知が祖母の全てだと言う事もアンナには、解っていた。
「ですが、今回の大会は、不可解な事が多すぎます。オカルトに関係ない組織まで参加し、その上人外まで」
エリザベスは、深い知識が紐解かれる。
「ただの人外では、ない。この星を侵食しつくす事も可能な淫虫の魔王とこの星を消滅させられる神の使徒と繋がる者だ。とうてい、普通にやりあってタダで済む相手では、無い」
「そこまで解っていて、どうして?」
困惑するアンナにエリザベスが冷徹な言葉を語る。
「危険を冒さなければ何も得る事は、出来ない。しかし、蛮勇とは、違う。確かな勝ち道が私には、見えている」
アンナは、唾を飲み込む。
祖母の言葉には、信があった。
それでもアンナは、不安が込み上げるのであった。
祖母の前を退室後、アンナが呟く。
「やはりおかしい、この大会が何度も行われ来たが、もっと激しいやり取りが行われていた筈。それが、主に動いているのは、『良美とその仲間』の周囲だけ。他の組織間での争いが少なすぎる」
その原因をアンナは、まだ知る術が無いのであった。