幼馴染みの縁は、ムゲンに勝る
不死の魔女との対決、ヤヤ以外が活躍します
「ちょっと面倒な事が判明したよ」
較の言葉に智代が手を上げる。
「因みに気になってたんだけど、その情報って何処から手に入れてるの? 今回は、八刃の力は、借りてないんだよね?」
良美が較の頭をポンポンと叩く。
「ヤヤを甘く見ないんだな。それこそ年がら年中トラブルに巻き込まれている所為でその手の情報が向うから自然とやって来るようになったんだよ!」
良美の手を払う較。
「違うよ、色々と下準備してるの。だいたいトラブルの幾つかは、ヨシ絡みだって事を忘れないでよね」
「でも、ひたすらトラブルを大問題にしてるのは、ヤヤだと思うんだよな」
雷華の的確な突っ込みに較が黙ってしまう。
「話を戻そうよ、何が解ったの?」
エアーナが横道にそれた話を戻す。
「そうだった。前回戦ったカインが、魔女の森に回収されたみたい。下手をすれば、また優子を狙ってくる可能性があるよ」
較の話に優子が沈痛な表情をする。
「あの人の気持ちは、決して間違っていない。でも、殺されるのは、駄目だと思う」
「当然。過去がどうだったなんて関係ない。問題は、今だよ。もう一度、確りとわからせてやろう」
良美の言葉に較が頷く。
「そうだね。そうなると次のターゲットは、魔女の森になるんだけど、あそこのリーダーは、面倒なんだよね」
「面倒じゃない奴なんて居るのか?」
雷華の突っ込みに今度は、較が反論する。
「桃源と同種なんだよ、長生きしてる狡猾な魔女、それが魔女の森の率いる不死の魔女、マリアなんだよ」
「本当にそんな長生きをしているんですか?」
エアーナの疑問に較が頬をかく。
「正確に言えば、マリアって言うのは、英知の杖に記録された魔女としての魂をダウンロードされた人間の事なんだけど、魂をダウンロードされたら最後、元の魂が表に出る事は、無いって話だから、初代マリアがそのまま転生を繰り返しているって言っても問題ないよ」
「他人の体を勝手に使ってるって事?」
良美が不機嫌そうな顔をすると較が眉を寄せる。
「何か訳ありだと思う。あの手の魔法は、契約魔法が殆どで、本人の同意が必要の場合が多いんだよ」
「自分の体を差し出しても構わない理由ね」
首を傾げる智代であった。
マリアの根城、魔力を秘めた木々が隣接し、入った者を惑わせる森の中にある館。
そこで、純粋な顔で眠る白人の美少女を見つめる青年が居た。
「シルビー……」
青年の名は、クラウス、マリアに仕える男。
『ご主人様! 例の男が起きましたよ!』
前回出てきた蝙蝠猫、チュシャが美少女を起こす。
意識の覚醒と共にその顔に邪悪な影が広がる。
「そうか、奴には、淫虫の魔王の宿主の足止めをして貰わなければいけないからな」
「マリア様、あの男、単独の力では、淫虫の魔王には、抗う事は、出来ないと思われますが」
クラウスの発言に美少女、マリアの魂をダウンロードされた者は、悪意だけで作られた笑顔で告げる。
「大丈夫、奴には、特別な細工を施した。時間稼ぎくらいは、出来る筈だ」
そんなマリアの姿に拳を握り締めるクラウスを見てマリアが楽しそうに尋ねる。
「そんなにこの体で悪事をされるのが悔しいか? お前のたった恋人の体で?」
クラウスが何も応えず、タダ悔しそうにする様に高笑いを上げるマリア。
「その絶望の表情、何度見ても愉快愉快。今一度教えてやろう。この体は、明確な契約で引き継がれた物である以上、私をこの体から追い出す事など絶対に出来ぬわ!」
だが、次の瞬間、マリアの体が膠着する。
慌てて自分の魂情報を記憶させた英知の杖を掴むマリア。
「段々とこの英知の杖の能力も落ちて来た。早く代替を見つけなければ」
深刻そうな顔をするマリアのその姿に僅かな希望を抱くクラウスであった。
ベルリンに郊外、魔女の森に侵攻する較達。
『ポイズンクラウド』
『殺せ、デビルキャット』
毒雲が広がり、悪魔猫が襲い掛かる。
しかし、そんな物でどうにかなる較達では、無かった。
「無駄な抵抗って言葉を想像させられるな」
雷華の言葉に智代が肩をすくめる。
「仕方なくない、ヤヤって規格外だから」
その規格外の較のやったのは、常人としては、神業としか思えない事だった。
毒が蔓延した雲に突っ込むと凍らせ、その氷を悪魔猫達に直撃させていく。
その上で、それを使役していた魔女達を昏倒させたのだから。
「まだ手加減してる方だよ。ヤヤが本気モードだったら、森に入らず火を放つもん」
良美の解説に顔を引きつらせる優子。
「良美の冗談だよね?」
何故か応えない較に怖いものを感じる優子達であった。
そんな中、カインが現れる。
「今度こそお前を殺す!」
毒々しい色に広かる刃の短剣を構えて突っ込んでくるカインに雷華が呆れる。
「今度こそ、淫虫の魔王に殺されるぞ」
しかし、淫虫の魔王の力が発動しない。
「やらせないよ!」
較が割って入ろうとした時、チュシャが突っ込んでくる。
『あんたらは、こっちだよ!』
体当たりを食らわしてくるチュシャを受け止めながら較が怒鳴る。
「雷華、そっちをお願い!」
雷華が、心光刀で、短剣の一撃を防ぎながら応える。
「解った。しかし、どういう事だ?」
カインは、自分の胸の刻まれたおぞましい刻印を見せる。
「不死の魔女との契約だ。全ての性欲を消失させたのだ」
「そこまでして私を殺したいんですか?」
優子の言葉にカインが狂気を孕んだ瞳で答える。
「当然だ!」
「面倒な奴」
舌打ちする雷華達を横目に較は、チュシャの翼を引き裂いていた。
「これでただの猫だね」
『残念賞!』
甲高い笑い声を上げながらチュシャは、あっさりと翼を生やし、飛び上がる。
「再生能力高いタイプの使い魔って事だね。封印してやろうか」
睨む較の前にマリアが現れる。
「可愛い私の使い魔をあまり虐めないで下さる」
較は、チュシャに気を配りながらもマリアのほうに体を向ける。
「裏でこそこそやるタイプの貴女がこの場に出てきたって事は、もうトラップの中って事だね」
嬉しそうに笑うマリア。
「ご名答。これが私の奥の手よ!」
次の瞬間、較達の周りを霧が立ち込める。
そして、較の前にその恋人、夢斗が現れる。
「ヤヤ、好きだよ」
ストレートな言葉に較が戸惑う。
「えっと、これって幻術! 騙されちゃ駄目!」
「幻術だろうが、なんであろうが僕がヤヤを愛している事には、変わりないよ」
夢斗の愛の囁きに闘争心が激減していく較。
「ヤバイ、これって何かの伏線だ!」
焦りながらもその目的がつかめない較。
「ヤヤは、その心の強さが僕を惹きつけるんだ」
続けられる愛の囁きが較の集中を削り落としていくのであった。
「この手の幻術であちきを混乱させて、その間に必殺の攻撃が来る筈。だからそれさえ気をつければ」
周囲の警戒に力を注ぐ較に夢斗が接近する。
「ヤヤの全てが見たいんだ」
恥ずかしさに俯き始める較であった。
較、エアーナ、智代がそんな幻影に騙されている様を見ながらマリアは、勝利を確信していた。
「きっと、幻術で誤魔化して攻撃してくると思っているでしょうけど間違いよ。幻術自体が本命。あの幻術は、自分が思う理想の恋人との未来を映し出す。嫌悪する物なら抗う事が出来たとしても、自分が望む未来を拒む事が出来るかしら?」
『上手く行きましたね。流石に淫虫の魔王には、通用しませんが、問題の連中を幻術の中で、こっちの契約で縛りこむ間さえ、邪魔されなければこっちの勝ちですよ!』
ルンルン気分でチュシャが言った時、その尻尾が引っ張られて地面に叩き落とされる。
「あんな幻術であたしが騙されると思ったわけ?」
霧の中からあっさり出てくる良美の姿にマリアが驚く。
「そんな、貴女にだって恋人くらい居るでしょ? 間違いなく幻術が掛かっていた筈よ!」
良美が肩をすくめる。
「良太の態度は、普段と全く変わらなかったぞ」
「どういうこと?」
困惑するマリアに傍で控えていたクラウスが告げる。
「資料にある通りなら可能性があります。あの娘とその相手との関係は、完成していて、更なる展開は、無いのです」
「そんな事が有るわけないでしょう!」
マリアが叫ぶがクラウスが首を横に振る。
「幼馴染み同士の恋人と言うのは、そんな物です」
その一言にマリアは、気付いてしまった。
「あんた、最初からこの可能性に気付いていたわね!」
クラウスは、何も応えない中、良美の回し蹴りがマリアの側頭部に決まった。
「取り敢えず、地獄を見せて良いよね?」
幻術から解放された較の言葉にエアーナや智代が頷く。
「放せ!」
幻術から解放された較にあっさり掴まったカインがもがき叫ぶが、無視される。
「これ以上の事は、止めてもらえないだろうか?」
真摯なクラウスの言葉に雷華が辛辣に返す。
「敵の言葉を聞かないといけない理由は、無いよ」
クラウスは、マリアの体を大切そうに抱え上げて言う。
「この体の持ち主、シルビーは、私の幼馴染みで恋人でした。その弟が不治の病に発病し、通常の医療では、手の施しようが無くなった時、前の体のマリアが現れました。そしてシルビーの体と引き換えに弟の治療を約束したのです。シルビーは、悩みましたがその条件をのみました。シルビーの弟は、無事に病が治り、両親の元、元気に暮らしています。そしてシルビーは、今マリアに人生を奪われ、悪事を繰り返させられているのです」
何ともいえない空気が流れ、智代が言う。
「何とか助ける方法無いの?」
較は、眉を寄せる。
「不死の魔女の転生に抗うって事になると生半可な方法じゃ……」
「淫虫の魔王を滅ぼすんだ!」
諦めず叫び続けるカインの声に手を叩く較。
「荒療治だけど、良い方法があるよ」
「荒療治って何をするつもり」
問い掛ける優子の肩に手を置き較が笑顔で言う。
「ここは、優子の出番」
嫌な予感に顔を引きつらせる優子であった。
マリアの体であるシルビーの精神世界。
本来ならマリアが絶対の支配力を誇る世界の筈であった。
「馬鹿な、どうして私の支配が跳ね除けられる! 英知の杖の力は、減退しているとしても、まだ支配が奪われる筈は、無い筈だ!」
マリアが叫ぶ中、シルビーのエッチな声が精神世界を蹂躙していく。
「支配力が撥ね退けられる! 人の数十倍の人生を使い、くみ上げた精神支配の網が焼き消されていく!」
そしてそのままシルビーの精神世界にあったマリアは、消えていくのであった。
疲労の色が濃い優子にお茶を差し出すクラウス。
「お手数をお掛けしました」
その顔を見て顔を真赤にする優子を智代が指差して笑う。
「何、反応してるの? そんなに二人のエッチが凄かったの?」
「言わないで下さい!」
涙目でクレームをあげる優子。
「良くわからないんですが、どうして淫虫の魔王の力でエッチになったクラウスさんとエッチしたらシルビーさんが元に戻ったんですか?」
較がエッチのし過ぎで倒れているシルビーさんの治療をしながら応える。
「淫虫の魔王の力も精神支配なの。それにマリアが自分の精神支配の力で抗おうとしたけど、魔王の力に正面から抗う事は、不死の魔女にも出来なかった。それで精神支配力を使い果たして消滅したって寸法よ」
「随分と危険な方法だ。だいたい、その娘の気持ちを無視している」
カインの指摘に良美がクラウスの背中を叩き言う。
「そっちのフォローは、こいつの仕事」
クラウスが力強く頷く。
「無理やりしてしまった責任は、一生掛けてします」
そしてカインは、優子の方を向く。
「淫虫の魔王の力で、人を助けるか……」
優子が真摯の顔で言う。
「私は、絶対に淫虫の魔王の力を暴走させたりしません。信じてください」
カインが背中を向ける。
「その約束が破られた時、私は、どんな手段を使ってもお前を殺す。覚えておけ」
そのまま去っていくカインであった。
「そういえば、あの使い魔のくそ猫は、何処に行った?」
雷華の言葉に較が肩をすくめる。
チュシャは、主の敗北と同時に逃げ出していた。
『人外に捕まったら最後、何されるか解ったもんじゃない』
そんなチュシャの前に天使の羽根をつけた男達が現れた。
「情報収集をしていたら、面白いものを見つけたな」
警戒をしながらチュシャが言う。
『情報を渡せば、そっちに入れてくれる?』
「良いだろう」
男達の返事にあっさりと魔女の森を裏切るチュシャであった。