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古き因縁が呼び込む復讐劇

ソロモンの悪魔との対決です

「エジプトと言うと、竜魔玉の時以来だね」

 暢気な良美と違い、珍しく優子が積極的だった。

「そんな事は、どうでも良いんです! 一刻も早くアレを取り戻さないと!」

 強く頷く友達に較がため息を吐く。

「何をとられたか知らないけど、おちつきなよ」

 そんな時、周囲を黒いローブを纏った集団が囲う。

 較の目付きが鋭くなる。

「あちき達に用事?」

「貴様らを案内しろと言われている」

 較の前に立った男が告げる。

 良美と較が視線で会話した後、良美が言う。

「大人しくついて行こうぜ」

 他のメンバーも文句がないみたいだった。



 そして較達が相手の用意した車に乗って移動すると大きな宮殿に着く。

「デカイね」

 良美が感心する中、較が庭園に建てられた悪魔の彫像を見る。

「『魔王の薬指』と協力してると聞いていたけど、ここは、貴方達の神殿?」

 細目の中年男性が現れる。

「その通りです。ここは、我々『魔王の薬指』の神殿。そして、今は、プリンスソロモンの宮殿です」

「『魔王の薬指』って言えば、歴史が古く、中東では、かなりの力を持ってると聞いていたけど、それがプリンスソロモンなんてイロモノに力を貸すの?」

 較の指摘に中年男性が淡々と答える。

「彼は、そう名乗るだけの力を見せてくれました。我々は、力には、従う主義です」

 優子が小声で聞いてくる。

「『魔王の薬指』って組織は、どんな組織なの?」

 較が悪魔の像を指差して言う。

「簡単に言えば魔王崇拝。古くからこの地方って争いが多いからね、力を手にする為に悪魔の力を使っている事が多く、そこそこの規模だった筈だよ」

「我々は、この科学万能の時代に悪魔の力で勝ち抜いていく必要があるのですよ」

 中年の言葉に較が肩をすくめる。

「解っていないな。悪魔の力がただのオカルトだと思っているうちは、意味が無いよ」

「どういう意味です?」

 聞き返す中年に較が答える。

「伝わっているソロモンの悪魔達の力を考えても判ると思うけど、神のシステムの一部なんだよ。はっきり言ってしまえば、摂理の一つでしかない」

 中年が苦笑する。

「悪魔の力が摂理だなんて馬鹿馬鹿しい」

 エアーナも頷く。

「あたしもそう思うけど、それがどういう関係があるの?」

「召喚とか生贄とか、手間は、普通に目的を達成するのと変わらないから、別に楽してる訳でもなんでもないんだよ」

 『魔王の薬指』のメンバーが戸惑い始める。

「冗談は、止めなさい! それでは、我々は、何をしてきたと言うのだ?」

 較が即答する。

「正に悪魔に騙されたんだよ。奴らの目的は、それ。楽してるように誤解させて、人に努力をさせようとする。その為に存在するのが悪魔システムなんだからね」

 『悪魔の薬指』のメンバーが動揺する中、数本の矢が放たれ。

 それが切掛けに一斉に暴動が始まる。

「どうしたんだ?」

 困惑する中年に較が宮殿の上を指差すとそこに緑色の服を着た狩人みたいな物が居た。

「レライエ、まさかプリンスソロモンの奴は、我々も利用するつもりなのか!」

「どうするの?」

 雷華の問い掛けに較が地面に手を当てた。

『ナーガ』

 地面が盛り上がり、土壁の道が生み出される。

「無視して進むよ」

「ほっておくのですか?」

 優子の質問に較が問い返す。

「盗られた物が取り戻すのが遅くなるけど良いの?」

「さっさと行こう!」

 走り出す智代達であった。



 宮殿に入ろうとした較達の前に炎の尾と翼を生やした鹿が現れた。

「フルフルって事は」

 較が、金属を上空に投げると同時に雷が落ちた。

 雷は、金属に落ちた後、土壁に流れてしまう。

 その間に較は、フルフルに接近していた。

『バハムートニードル』

 胸を貫かれてフルフルが消滅する。

「意外と弱いね」

 良美の言葉に較が首を横に振る。

「ソロモンの悪魔って言うのは、一般的な悪魔とは、別格。神のシステムだから、その能力は、絶大な効果をもたらす。でもね、それが故に能力が決まってる。だから事前に対抗策を講じておけたんだよ」

 先に進む較達に、多くのソロモンの悪魔が道を塞ぐが、較の完璧な準備の前に、瞬殺されていくのであった。



「ここまでくるとは……」

 宮殿の最深部で、王座に座る美形の男が呟く。

「あんたが、プリンスソロモン?」

 良美の問い掛けにその美形が答える。

「我こそが偉大なるキングソロモンの血を引く者。オカルトで世界を支配する者だ!」

 自信たっぷりに言葉に較は、呆れた顔をする。

「本気で言ってる?」

「当然だ! お前には、通用しないみたいだが、多くのソロモンの悪魔が我に従っている。『悪魔の薬指』みたいな組織は、幾らでもあるから、そいつらに力を貸してやれば、手駒は、幾らでも増やせるからな」

 その時優子が気付いてしまう。

「あのもしかして、本当の家臣って居ません?」

 立ち上がるプリンスソロモン。

「馬鹿にするな、このカインが居るわ!」

 プリンスソロモンが隣の執事姿の男を指差す。

「一人だけ?」

 馬鹿にした顔を見せる智代にプリンスソロモンが怒る。

「数は、問題じゃない! どれだけ忠義を注がれるかが問題なのだ」

「その通りでございます。私、カインは、プリンスソロモン様に絶対の忠誠を誓います」

 その執事、カインが仰々しく頭を下げるのを見て満足そうな顔をするプリンスソロモンの姿に較が眉を顰める。

「本気でこいつがソロモンの悪魔を使役してるの?」

「どういう事だ?」

 雷華の質問に較がほほをかく。

「ソロモンの悪魔は、狡猾なんだよ。とてもじゃないけどあんな低能に黙って使役されてる訳がないんだけど」

「誰が低能だと! マルコシアス、奴らを殺せ!」

 プリンスソロモンの怒声と共に翼を持つ狼、アルコシアスが現れ、口から炎を吐き出す。

『カーバンクルカーテン』

 較がそれを受け流している間に、接近している。

「戦士として優秀だって逸話は、本当みたいだね」

 較は、前足の一撃をギリギリでかわしながらもう一度プリンスソロモンを見る。

「何時召喚した?」

「呼んでたじゃん!」

 良美の言葉に較が眉を顰める。

「冗談じゃない、ソロモンの悪魔をただ名前を呼ぶだけで召喚出来る術者なんて居るわけない」

 プリンスソロモンは、胸を張る。

「それがキングソロモンの血をひく者の力というものだ!」

 高笑いをあげるプリンスソロモンに較は、猜疑心を向けるが、アルコシアスの方に集中する。

「こっちを倒すのが先だね」

 炎を牽制に、地を這うように迫るアルコシアス。

 較が迎え撃とうとした瞬間飛び上がる。

 顔を上げようとした瞬間、体当たりを食らって壁まで吹き飛ぶ較。

「どうなってるの?」

 エアーナが驚くと雷華が言う。

「飛び上がったのは、フェイントで、飛び上がると同時に前方に飛行した。物理法則を無視できる化け物だから出来る作戦だよ」

「まさかと思うけど……」

 優子が顔を青褪めさせていた時、床が吹き飛ぶ。

『トルネイド』

 較の巻き込むような強烈な一撃がアルコシアスに小ダメージを与える。

「あん位でヤヤがやられる訳ないじゃん」

 自信たっぷりに告げる良美。

 左右のフェイントを織り交ぜて接近するアルコシアスだったが、較の目前で炎を撒き散らす。

『ガルーダー』

 突風で炎を吹き飛ばす較。

 しかし、吹き飛ばされた炎の向うには、アルコシアスは、居ない。

「フェイントを使うのは、そっちだけじゃない!」

 飛び上がっていたアルコシアスより上、天井に足をつけていた較が天井から飛び下がる。

『イカロス!』

 技も何も無い体当たりがアルコシアスに決まり、床にぶつかりあう。

 先に動き出したのは、アルコシアスだったが、直ぐに崩れた。

「流石にあちきの右腕を喰らったら、ただですまないね」

 血だらけの右腕を垂らしながら較が起き上がる。

 その迫力に怯むプリンスソロモン。

「い、いい気になるなよ、ソロモンの悪魔は、まだ居るのだからな!」

 顔を引きつらせて逃げ腰の言葉に説得力は、無い。

 較が戯言を無視して致命的な一撃を与えようと近づいた時、強い違和感を覚えた。

「何かがおかしい!」

 周囲を見渡し、再び王座の位置を確認する。

「王座が宮殿の中心から少しだけずれてる?」

 較の呟きにプリンスソロモンが騒ぐ。

「何を意味不明な事を言っているのだ!」

 顔を引きつらせて文句を言っているが、もはや完全に逃げ腰で隣のカインに縋り付く。

「カイン、私が逃げる間の盾になれ!」

 カインは、較の様子を確認して言う。

「白風の次期長がここまで消耗していれば十分でしょうね」

 その一言と表情に較は、確信する。

「あんたが真のソロモンの悪魔の召喚者だね」

 疑問符は、付かない。

「はい。キングソロモンの後継者等では、ございませんが、偉大なる王の血を引くものの一人。そして、邪悪なる淫虫の魔王に支配した国を滅ぼされた王の子孫です」

 意外な展開に優子が驚く。

「どういうこと?」

 較が慌てて叫ぶ。

「雷華、優子を連れて部屋を出て!」

「遅い!」

 カインが服を脱いで、全身に描かれた魔法陣を開放する。

『我が血の盟約に従い、契約を実行せよ、アガレス!』

 地震が宮殿全体を襲った。

「まともな手段では、淫虫の魔王には、通じない。その為に『魔王の薬指』が保有していた、長い間の魔力が染み込んだこの宮殿を利用し、今回のバトルと言う隠れ蓑を使って邪魔な白風の次期長を疲労させた」

「これじゃあ、あんたも死ぬよ!」

 良美の指摘にプリンスソロモンが慌てる。

「おい、本当なのか? この地震は、あいつ等だけを殺す物じゃないのか?」

 まるで怯えた子供のようなプリンスソロモンに哀れみの表情を見せるカイン。

「もはや大多数のキングソロモンの子孫の一人でしかないのに、後継者と誤解し、自分の力を過剰評価し、分不相応の地位を望む貴方がいてくれて助かりました。見事に一番の障害であった白風の次期長を騙しとおせました」

 較は、真の宮殿の中心に立つカインに告げる。

「名前くらいしかしらない先祖の復讐の為に命を捨てると言うの?」

 カインが真摯の瞳で答える。

「例え何千年経とうと、あの悲劇を忘れては、いけないのです。そして、淫虫の魔王の眷属等、この世界に存在する事は、私の全てを賭して許しは、しません!」

 崩壊が始まる宮殿、淫虫達が防御を開始するが、魔力が染み込んだ宮殿の瓦礫に十分な効果を発揮できないで居る。

「ヤヤ、ホワイトファングで天井をぶち抜け!」

 良美の言葉に較が首を横に振る。

「ダメージを負い過ぎてる。何か別の方法を……」

 必死に何か利用できるものが無いか探って居る時、エアーナが智代に告げる。

「智代、抜け道を探して、この手の建物だったら今の住人も知らない抜け道があるかも!」

「了解!」

 導きの指輪の力を発動させる智代。

 そしてその賭けは、勝った。

 隠された地下通路が出てきたのだ。

「建物の中を進むより安全の筈です!」

 エアーナの言葉に一斉に抜け道に駆け出す一同。

 その中には、プリンスソロモンも居た。

 そして、優子の前に立ち塞がるカイン。

「淫虫の魔王を宿した貴女だけは、いかせません!」

 戸惑う優子。

「死にたいの? 個人で淫虫の魔王の前に立っても発狂するだけだよ」

 較の指摘にカインが自らの指を折り、痛みで正気を保つ算段をつけながら言う。

「宮殿を潰れるまでの時間を稼げばそれで良いんですよ」

 にらみ合う較とカイン。

「はい、そこまで!」

 完全に忘れ去られていた良美の蹴りがカインの頭にクリーンヒットして意識を奪った。

 倒れたカインのそばに行ってから較が躊躇する。

「このまま放置しておいた方がいいかも……」

「馬鹿を言ってるな。そんな事をしたら優子が責任を感じる事になる」

 良美の指摘に較が優子を見る。

「生かしておいたらまた襲われるかもしれない。別に優子の所為じゃないし、正に自業自得だよ」

 優子は、首を横に振る。

「連れて行ってください」

 較は、カインを担ぎ優子と共に抜け道に駆け込む。

 宮殿と同じく崩落が進んでいたが、宮殿と違い、魔力が侵食されてない物体では、淫虫の防御を突破できなかった。



 宮殿の外に出た。

「助かった!」

 倒れる智代とエアーナ。

「覚えていろ! 私には、まだ『魔王の薬指』がいるのだ!」

 プリンスソロモンが駆け出した先に『魔王の薬指』のメンバーが居た。

「おお、いい所に……」

 しかし言葉は、途中で止まった。

 『魔王の薬指』のメンバーから、明確な殺気を感じたからだ。

「どうしたのだ?」

 あの中年が答える。

「どうしただと! お前の放った悪魔の所為で我々がどれだけの被害をだしたと思う! 我ら『魔王の薬指』、その威信にかけてお前を抹殺する!」

「違う、あれは、違うのだ! 私では、無い。全ては、カインの独断だ!」

 必死に弁解するプリンスソロモンだったが、『魔王の薬指』には、通じない。

「あいつは、お前の家臣であろうが!」

 なけなしの力で逃亡を開始するプリンスソロモンであった。

 そんな様子を見て肩をすくめる較。

「分不相当な野望を抱いた男の末路だね」

 そんな中、カインが意識を取り戻す。

「淫虫の魔王を滅ぼせなかったのか……」

 その顔には、死を覚悟した悲壮な表情があった。

「勘違いしてると思うけど、殺さないし、殺されないよ」

 較の言葉に目を見開くカイン。

「馬鹿な! 大体、一つの国を平然と滅ぼした淫虫の魔王が人一人の命を潰すのに躊躇するわけが無いだろうが!」

「淫虫の魔王も、また生き残りたいと願ってるだけの存在なんです。私の中の淫虫の魔王も、同胞が悪い事をしたと反省しています」

 優子の言葉にカインがにらみ返す。

「反省しただと! どれだけの人間がお前等の所為で死んだと思っているのだ!」

「だからって関係ない優子を殺していい理由には、ならない」

 良美が睨むとカインが苦々しい顔をする。

「……仕方ないのだ」

「淫虫の魔王も同じ事を言っていたし、あなたの祖先の国も世界を救う為に仕方ないって理由でこの世界の人間によって滅ぼされたんだよ。結局の所、何かを犠牲にしなければ生き残れないって事。それを含めてあちきが宣言する。あちきの友達に手を出す奴は、絶対に許さない」

 流血している右腕を振るってその血をカインの体に降り注ぐ。

『白い風の力を宿す血を触媒に、我が敵の術を封じよ。白血封呪ハッケツフウジュ

「術を封じたか、だが、私は、諦めないぞ!」

 カインの言葉に較が頷く。

「何度でもきなよ、叩き返してやるから!」

 そして、較達は、円盤と秘密アイテムを回収して帰路につくのであった。



 倒れるカインに蝙蝠の翼を生やした猫がやってくる。

「いい情報源が居やがったぜ」

 そして、その猫は、カインを確保して何処とも無く消えていくのであった。

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