ステンドグラスの光より蘇る神
今まで戦ってきた組織が入り乱れて最後の戦い
「最悪の展開になってきたよ」
較の発言にダウン中の智代が嫌味を返す。
「今のあたし以上に?」
「『花鳥風月』に預けてあったパーツが全部盗まれた」
較の報告に智代も体を起こす。
「どういうこと!」
「新達が倒されたって事?」
良美の質問に較が首を横に振る。
「尊ってオヤジが裏切ったみたい」
「あのクソオヤジ!」
怒りに燃える良美を尻目に較が話を続ける。
「ついでに言えば『封神演義』が足止め喰らってる。各個撃破するつもり。そして、いまは、『老いた峰』と交戦中。急いで助けに行かないといけない」
較達が目指す建物から強烈な光が立ち昇る。
「もう始まってる! 乗り遅れられないぞ!」
駆け出す良美に智代を背負って追随する較。
目的の教会の中は、巨大なパイプオルガンと数多のステンドグラスが織り成す威厳に満ちた空間が生み出されていた。
「残念です。貴方がどれだけ強くとも、光を力にする限り、私には、勝てません」
宣言する何処にでも居そうな牧師にインティワタナは、無数の光弾を放つ。
しかし、その全てがその牧師から放たれた光に相殺される。
「あのインティワタナと互角に渡り合ってる!」
驚く智代を良美に渡し、較が牧師に接近戦を仕掛ける。
「もう来ましたか、『凍える息』ももう少しは、使えると思っていたのですが」
少しだけ落胆した顔をしながらも牧師は、消えた。
「ヤヤよ、奴は、光の化身だ!」
インティワタナの言葉に較が咄嗟に撃術を構成する。
『シヴァダンス』
氷の粒が光を乱反射し、牧師が変化したそれを拡散させたが、直ぐに集結し再び牧師の姿に戻る。
「流石は、人外。簡単にいきませんね」
苦笑しながらその性を現す。
それは、人の形をした意思を持つ光。
『我は、最速で、絶対なる『浸食する光』様の使徒、気里素斗なり。この世界に主の教えを伝える為にやって来ました。その上で邪魔な貴方達を始末させてもらいます』
気里素斗は、光に変化したと思うと一気に突っ込んでくる。
光の壁を生み出して防ぐインティワタナの傍に退避する較。
「かなり強力な奴ですけど、実は、関係有ったりしませんか?」
ずばりの質問にインティワタナが答える。
「あの者が言う神は、我々が崇拝する太陽神の眷属の一種。神々の戦いの際、袂を割る事になった様だが、この世界を狙っていると神託には、あった」
「なるほど、同種の神の力だから防ぎあったり出来る訳ですか。でも、けっこう不利ですよね?」
較の指摘にインティワタナがあっさり頷く。
「肉体を捨て、光と一つになったあの者と違い、肉体を残した私では、力に有限がある。だからこそ、この命を捨てる覚悟でここに来た」
「ヨシも言ったけど、そんな覚悟は、不要だよ。あちきも力を出す。そして、あのフザケタ奴をぶっ飛ばしちゃおう!」
較が、再び光の姿に戻った気里素斗に迫る。
『愚かな。幾ら人外でも我に触れる事も出来ぬわ!』
自信たっぷりの気里素斗に対して較は、右手を突き刺す。
気里素斗の言うとおりダメージは、無いようだった。
「離れるのだ! 侵食されるぞ!」
インティワタナが警告をしたが、逃げたのは、気里素斗の方であった。
『その右手だけには、気をつけなければいけないな。そういう意味では、淫虫の魔王を足止めしてくれているだけでも『凍える息』は、役に立っているかもしれないな』
舌打ちする較に良美が叫ぶ。
「ヤヤ、ホワイトファングで一気に決めちゃえ!」
「無理。光の化身にホワイトファングを当てるなんて真似は、不可能」
較は、苛立ちを隠せない様子であった。
「時間を稼いでくれ。私が力を溜める」
インティワタナが手の中の光を集束させていく。
『やらせは、しない!』
正に光となって接近してくる気里素斗に較が反応する。
『シヴァダンス』
氷の粒に行動を阻害され、一旦人のシルエットに戻る気里素斗。
『やはり、まとまって来られたら厄介だな。こちらも助人を呼ばせてもらう』
『キャハハハ! 遂にこのチャンスがやって来たわよ! あんたらもこのチャンスを逃がさないでね!』
ギリシャで『英雄の血統』の監視をしている筈のチュシャが現れ、その後ろからオディッセオと同調していた英雄の子孫達が現れる。
「なるほど、あんたも『神の光明』の手駒の一つだった訳だ」
良美がぼやくと他の方向からも声がした。
「私も居るのだよ」
『英国の英知』の男爵まで現れる。
「まさかと思うけどエリザベスさんを殺したのも?」
較の指摘に男爵は、微笑むだけだったがそれで十分だった。
『こんな仕掛けもあるぞ』
気里素斗が光を放つと、ベンチが跳ね上がり、ホモンクルスが起き上がり、それが触媒となり、悪魔達が召喚されていく。
「何なのよ!」
智代が叫ぶと較が言う。
「あれって『ソロモンの王冠』が使っていた悪魔召喚術、多分、プリンスソロモンって奴の血を使って大量の血の盟約を持つホモンクルスを作ったんだろうけど、そんな大量な材料は、『賢者の石』が保有していたのを流用したんだろうね」
「本格的に今回の大会、全部がこいつらの思惑の中って感じだな」
良美の指摘に気里素斗が高笑いをあげる。
『その通りだ。我が主の力を持ってすれば金など幾らでも生み出せる。そして生み出した金を使って参加組織に裏工作を続けた。金とは、本当に便利な道具だな』
大きなため息を吐く較。
「下らないね」
『貧乏人の戯言だな』
気里素斗の発言に較が一言。
「こっちに付けば百億無償であげるよ」
動きが止まる『神の光明』の助人達。
『ふざけるな! そんな大金が直ぐに用意できる筈が無い!』
怒鳴る気里素斗に較が携帯を操作して見せる。
「もう半額を組織に振り込んだよ、確認してみなよ」
オディッセオと男爵が確認をし、驚く。
「こんな大金を個人で持っているのか?」
オディッセオの質問に較が肩をすくめる。
「いや、人工衛星から見えるクラスのトラブルにかかわっているとそんくらいの金額ってはした金に思えてくるよ」
「冗談だよね?」
智代の質問に良美が首を横に振る。
「山を一つ消し飛ばした時は、何兆って金が動いたって話だよ」
「そう言う事で、悪魔の始末を任せたよ!」
較の言葉に男爵とオディッセオが答える。
『何て奴らだ!』
苛立ちを籠めて吼える気里素斗に較が冷めた視線を向ける。
「『凍える息』のベッケンや『ソロモンの王冠』のカインみたいな覚悟を持った人間とは、違う。金で動く人間は、同じ金で動くんだよ」
『まだだ! 私の圧倒的な力でお前らを倒せばそれで終わる!』
拡散した光が四方八方からインティワタナに向かう。
「あんなに分かれたらヤヤでも対応出来ない!」
智代の言葉に較が苦笑する。
「単なる時間稼ぎなら幾らでも方法があるよ! 『ナーガウォール』」
床の下から地面が盛り上がりインティワタナをガードする。
『この程度の土壁で私を防げると思うな!』
気里素斗の言葉通り、土壁は、あっさりと砕かれるが、較は、砕けた部分に向かって冷気を放つ。
『ウーブレス』
氷が発生して、気里素斗の進攻を阻害する。
『こんな小細工が何時までも続くと思うな!』
叫ぶ気里素斗の目の前に巨大な光の塊が生まれた。
「もう十分だ。滅びよ」
インティワタナが放った光が気里素斗を覆い尽くす。
周囲の気配を確認し、全てが終わった事を確認した後、較がしゃがみこむ。
「今回も面倒な事件だった」
苦笑する智代。
「今回もって所がヤヤらしいね」
そして、良美が『神の光明』が確保していたパーツを手にとって言う。
「これでこの大会も終りだな」
『そうだな、下らぬ大会は、終り。我が支配する時代が始まる』
その場に居た全員が恐怖を呼んだ声は、ステンドグラスの光が集まる床から漏れ出した。
『気里素斗は、よくやった。最後に我のこの世界での仮初の肉体を構成するのに足る光を集めたのだからな』
闇を侵食し、増幅していく光、ありえない筈の現象がそこには、あった。
『我は、『侵食する光』なり。この世界は、駐留する八百刃獣も居ないみたいだな』
圧倒的な存在感に較が脂汗を垂らし、囁く。
「不意打ちで決めるよ」
「ド派手な奴をかましたれ」
良美が頷くと較が右手を『侵食する光』に向ける。
『ホワイトファングバハムート』
白い閃光が『浸食する光』とぶつかり合う。
余波だけで山を消し飛ばし、並みの魔王なら簡単に消滅させる白い光だったが、『侵食する光』は、悠然と受け止めた。
『白牙の力か。しかし、こんな爪の垢の様な物では、我には、通じぬ』
「爪の垢って、世界を滅ぼすかもしれない力でしょ?」
智代の質問に較が汗を拭いながら答える。
「それでも過大評価。本体があちき達の想像外の力を持ってるんだから」
『この世界を喰らい、力を溜める。そして、奴に一矢報いてやるのだ』
その表情は、とても圧倒的な力を持つ神の物では、無い。
「あんな神が世界を喰らっても勝てないと思う存在が存在すると言うのか?」
愕然とするオディッセオ。
「勝てない」
悔しそうな表情を浮かべるインティワタナ。
「エリザベス様を殺してまで手に入れた権力も、全てが無駄だったか」
諦めに入る男爵。
しかし、良美が怒鳴る。
「ふざけるな! ヤヤ、連発でかましたれ!」
較がその一言に笑う。
「駄目だよ、勝つためには、もっと作戦を練らないと」
『愚かな、お前等の様な塵芥の力で我に触れる事も出来ない』
侵食する光が悠然と言い放った時、空間が歪み、『封神演義』の梅香が現れる。
「我々では、無理でしょうが、彼女の力なら別の筈です」
そして、空間の歪みから優子達が現れる。
「えーと、あたしは、何をすれば?」
困惑する優子の手を較が笑顔で掴む。
「ナイスタイミング。それじゃ、行って来い!」
侵食する光に投げ飛ばされる優子。
「何をするの!」
『馬鹿な、『愛を求め続ける虫』だと!』
侵食する光がその手と思われる場所を優子に向けて、その身に宿る淫虫の魔王の力に抗う。
「流石に侵食能力者同士、中々面白い勝負になってるな」
較が解説する中、光と虫が喰らい合うと言うこの世のものとは、思えない情景が広がる。
「奴の力をこっちに引き込む、光の補給を阻害しろ!」
インティワタナが自分の崇拝する神と同種の力である浸食する光の光を集め始める。
『ナーガウォール』
較がステンドグラスや外に通じる場所を土壁で塞いでいくと男爵やオディッセオ達も同調する。
『この世界には、太陽がある。それさえ、捉えれば!』
侵食する光が天井を撃ち抜き、空を露にする。
『馬鹿な、何故太陽が無いのだ!』
途惑う侵食する光に空いた天井の穴の端に立つ『花鳥風月』の忍が言う。
「常に太陽が天を輝き続けるお前の世界とは、違い、この世界の太陽は、夜には、沈むのよ。新様から伝言よ、『侵食する光』の蛮行は、既にあの御方達に知れ渡っている。直ぐにあの使者がやってくるわ」
『そんな筈が無い! 奴等とてこんな末端世界まで監視の目が届く筈が……』
侵食の光は、気付いてしまう、何故自分の存在が知れたのか。
『貴様か、『白牙に侵食されし者』。お前を通してあの者、『八百刃』に我が存在が発覚したのか!』
較を睨みつける侵食する光。
そして、大地が鳴動し、神々しい声が響く。
『『侵食する光』、汝の行為は、我らが定める規約に反する。大人しくこの世界より退散するが良い』
『まさか、上級八百刃獣、『大地蛇』が自ら来たと言うのか!』
驚愕する侵食する光の四方から大地が盛り上がり包み込み消えていった。
「今度こそ、終わったのよね?」
智代の言葉に較が頷く。
「間違いない。大地蛇様が態々やって来て、憂いを残す事は、無いよ」
「ヤヤ! あの扱いは、酷すぎます!」
優子が涙目で抗議し、雷華が頭をかく。
「最終戦は、何もする事無かったな」
「それで良いと思いますよ」
エアーナも安堵の息を吐く。
数日後、久しぶりの実家で背伸びをする較。
「長かった後始末も終わったよ」
「でも、今回の大会がノーカウントになったのは、釈然としない」
不満気な良美に優子が言う。
「しかたありません。『神の光明』が明らかなルール違反をし、多くの組織がそれに関わっていたんですから」
「でも、『花鳥風月』の新さんが智代の寿命の回復を受けてくださったのは、良かったですね」
強く頷く較。
「『封神演義』は、大地蛇様が出現に使った土を使って封印の強化を果せたみたいだしね」
「お姉ちゃん、結婚式の招待状が届いているよ」
小較が持ってきた手紙を読む雷華。
「『魔女の森』のクラウスさん達からだ。遂に結婚するんだな」
「そういえば、最後にまた裏切ったチュシャは、どうしてるの?」
良美の質問に較が苦笑する。
「あの後、平謝りしたから、『ソロモンの王冠』のアベルさんを探す様に言いつけてある」
優子が遠い目をする。
「あの人との約束も守らないといけませんね」
「約束って言えば、『英雄の血統』の裏切り者は、どうするんだ?」
雷華が嫌悪を籠めて言うと良美も続ける。
「『英国の英知』の男爵、奴にも金を渡したんだろ。本当に良かったのか?」
較が意地悪い笑みを浮かべる。
「あのお金の出所教えてあげる。あれね、アメリカの国家予算を不正送金したの。さぞ大変な事になってるだろうね」
エアーナが呆れた顔をする。
「どうしたらそんな事が出来るんですか?」
較が視線を逸らす。
「『鋼鉄の軍隊』の襲撃にも関わっていて、お金の動きがあったからそこから。一度、悪戯し掛けてやろうと用意してたの」
「余計な奴が居なくなれば、『英雄の血統』のヘラクレスもやりやすいだろうし、元『英国の英知』のアンナも自由になれるな」
良美が満足気に言っていると、治療を終えた智代がやって来た。
「朗報。力の消耗が激しく、一緒に治療を受けていた『老いた峰』のインティワタナさんも命をとり止めた。流石に力は、落ちたらしいが、ワイナがその代わりに頑張るっていきこんでいたよ」
「『凍える息』のバルットさんを中心にベッケンさんの意志を引き継ぎ、もっと穏便な方法で国を良くしていくって。『神の光明』に逃げてたパケッセから搾り出したお金と情報があれば、なんとかなるでしょ。残っていたホモンクルスも全部『賢者の石』のリリスさんに回収してもらった」
そう言いながら較が最後の資料を開く。
「『神の光明』だけど、その痕跡は、昨日の時点で殆ど消滅していた」
首を傾げる一同を代表して良美が尋ねる。
「消滅したって八刃が証拠隠滅をしたのか?」
較が首を横に振る。
「神々の力だよ。数日もすれば、そんな物があったのかも解らないほど歴史の中から消失する」
優子が顔を強張らせる。
「そんな事がありえるんですか?」
神妙な顔つきで較が頷く。
「神と呼ばれる条件って二つあって、他者への恒常的な常識変更と歴史の改ざんが行える事。だから、驚くことじゃないんだけど、相手も神様クラスだからちょっと問題が発生していて、それの対処にあちきに御指名が掛かってたりするんだよね」
「御指名って、誰から?」
小較の疑問に較が悩みながら言う。
「神様って言って良いかも。とにかくかなり上位者から、あちきには、不自然な決定が八刃から発せられたの。特定の痕跡を見つけてそれをホワイトファングで消失させろっていうね」
「それって変な事なの?」
智代の疑問に較が疲れた顔で頷く。
「ホワイトファングは、それだけで世界に歪みを生み出す危険な行為だから、使用前提のミッションは、ありえないの」
「でも、決定されたんだろう?」
雷華の指摘に較が頷く。
「だから、神が人知の及ばない所から圧力を掛けてるんだよ。また面倒な事になるぞ」
「頑張るしかないな」
良美が楽しそうに呟く。
一つのトラブルが終わってもまた新たなトラブルに中心になる較と良美であった。




