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銃声が轟き、贖罪の鐘が鳴り終わる

愛国者達との対決

「今回の黒幕も判った所で問題が一つあります」

 較の発言に首を傾げる良美。

「『神の光明』のところに殴り込みに行けば今回の事件は、終わりじゃないのか?」

 優子が真剣な顔で言う。

「大会自体のルールを無視するかどうかを気にしているのよね?」

 較が頷く。

「そう、はっきりいって今回は、ほぼ『神の光明』というか、その裏に居る奴の策略でしかないから意味は、薄いけど、大会自体の歴史が長い以上無視するわけにもいかない。そうなると『凍える息』の扱いをどうするかって事になるんだよね」

「無視して、解決後に殲滅すればいいんじゃないのか?」

 雷華がにべもなく告げるとエアーナが苦笑する。

「それは、それで問題がありますよ」

 そんな中、智代が手紙を持ってきた。

「ヤヤ、また果たし状が来たぞ」

 較が問題の手紙を開き確認する。

「今話題に上がっている『凍える息』から、自分の所のパーツをかけて戦いたいって。タイムリーすぎると思わない?」

「丁度良いじゃん、パッと行って倒そうよ」

 良美の言葉に優子が呆れる。

「だから、このタイミングで来るのがおかしいって話をしているの。間違いなく『神の光明』が何かしらの裏工作をしている可能性が高いって事でしょ?」

 較が頬をかく。

「その可能性が高いのは、確か。でも、無視するのは、二の足を踏むんだよ」

「挑戦を受けないと何か問題でもあるんですか?」

 エアーナの言葉に較が肩をすくめる。

「あちき達には、無い。ただし向こう側には、何かしらの意地があるでしょうね。それを無下にするのは、あちきの流儀じゃないんだよ」

「流儀なんて関係ないだろ。ここは、確実に勝ちに行くべきだろう」

 雷華の正論に較が頷こうとした時、良美が割って入る。

「いや、流儀は、大切だ。一気に決めて、憂いなく勝負を決めようぜ」

「だけど、このタイミング、何かしらの策略があるって思って間違いない。それに乗るのは、デメリットしか考えられない」

 較の感情を殺した言葉に智代が笑う。

「無理しない。きっちり決めて、すっきりした気持ちで終わらせよう」

 こうして、較達は、罠が待ち構えているロシアに向かうのであった。



 モスクワ空港に降り立った較達。

「流石に寒いね」

 ジャケットを羽織る智代に冷たい空気を吸いながらエアーナが呟く。

「ロシア、強大でありながら、脆弱な所を持つ不思議な国ですよね?」

 較が町を歩く人々を見る。

「社会主義、それがこの国を大きな歪みを生んだのは、否定できない」

「社会主義って良い事あるのか?」

 雷華のストレートな言い方に優子が反論する。

「世界大恐慌の時は、経済的な損失を軽減していた筈よ」

 良美が眉を寄せる。

「何で歴史の話が出て来るんだよ?」

「今回の事と繋がる話だよ。社会主義は、ある意味絵に描いた餅なんだよ。人が真に全を考えて行動できない限り社会主義の理想には、辿り着けない。それを実行しようとした為に出来た歪みがこの国には、根深く残っている。その一つが冷戦のツケ。『凍える息』は、そんな冷戦のツケを少しでも無くそうと動いている組織なんだよ」

 較の説明に優子が複雑な顔をする。

「正しい事をしているんですね?」

 較が強く頷く。

「智代の寿命を戻そうとしているだけのあちき達よりよっぽど社会貢献してるよ。だけど、それって社会主義の考えと一緒、無償の奉仕は、歪みを生む。『凍える息』は、その理想ゆえに暴走を始めている」

「暴走してるんだったら止めてやろうよ」

 良美の言葉で較達が目的地に向かうのであった。



 人気の無い元軍事施設に『凍える息』のアジトがあった。

「ターゲットがモスクワに入ったのを確認しました」

 バルットの報告にベッケンが頷く。

「パケッセから連絡があり、例の情報は、正しい事が判明した。冷戦の最大のツケ、核ミサイルの脅威からこの国を護る為、我々には、失敗が許されない」

 敬礼をするバルット。

「了解しました。直ぐに作戦を開始します」

 即座に行動を開始するバルットであった。



 アジトに向かう較達の周りに何台ものトラックが集まってくる。

 オープンカーのハンドルを握る較が苦笑する。

「随分と直接的な手段で来たな」

「直接的な手段って?」

 智代が聞き返すと較は、周りのトラックを指差す。

「ぶつけてくるよ」

 その言葉と同時に一斉に襲ってくるトラックに較は、ブレーキを踏み一気に減速し、トラックの後方に出ると片手を挙げる。

『フェニックス』

 炎の鳥が放たれ、道路から弾き飛ばされるトラック。

「死人出ていません?」

 心配そうに見るエアーナに較が軽い口調で答える。

「訓練された軍人だよ、そう簡単に死なない。それより今度は、戦車だね」

「大した事じゃないみたいに言うなよ」

 呆れる雷華の視界にも実戦経験が豊富そうな戦車が列を成していた。

「エアーナ、少し代わって」

 較の要求にエアーナが驚く。

「どうしてあたしなの?」

「他に任せられる人間が居ると?」

 較のストレートな言葉にエアーナがあっさり代わった。

「何気に酷い事を言われて居なかった?」

 智代の突っ込みを黙殺し、較がボンネットに立ち両腕を振るう。

『ダブルヘルコンドル』

 カマイタチが戦車を切り裂く中、反撃の砲撃が始まる。

『ガルーダ』

 突風で砲撃を逸らすとそのまま再びカマイタチを放ち戦車を全滅させる較であった。

「何かあっさりしてるね」

 良美の言葉に較が頷く。

「近代兵器だけだからね」

「でも、『鋼鉄の軍隊』の時は、もっと苦戦していたと思ったけれど?」

 優子の指摘に較が苦笑する。

「頭のネジが吹っ飛んでる奴等とは、違うよ。普通の奴らが、普通に戦いに来ている以上、あちき一人でも十分」

 そうしている間にアジトに到着する。

「ここから先には、行かせない」

 武装したバルットが部下達に指示を出して銃弾の雨を降らせる。

『ナーガウォール』

 大地の壁を作りあっさり防ぐ較。

「ランチャーでぶち抜け!」

 バルットの指示が終わる前に天井から飛び下がる較が兵士達の中央に降り立つ。

『ラムウ』

 電撃が兵士達を行動不能にしていく。

「まだだ!」

 一人回避したバルットがサバイバルナイフで較に斬りかかかる。

『アテナ』

 回避行動一つとらない較に受け止められ、ナイフを粉砕されるバルットだったが、まだ諦めない。

 拳銃を引き抜いて、至近距離から発砲するが、服に穴が空くだけだった。

「お終い」

 較の手刀で意識を失うバルット。



 一連の様子を見ていたベッケンが沈痛な表情を浮かべる。

「やはり通じぬか。しかし、契約は、果さなければいけない」

 その手には、恐るべき兵器のスイッチが握られていた。



 ゆっくりと土台がある場所に向かう較達。

「めっきり抵抗が減ったね」

 智代の言葉に較が眉を寄せる。

「嫌な感じがする。絶対に大きなトラップの予感がする」

「疑っててもしかたない。さっさと終わらせようぜ」

 暢気な良美が最後の扉を開くとそこには、ベッケンが待っていた。

「パーツは、この後ろにある。しかし、ただで渡すわけには、行かない」

 ベッケンがスイッチを押すと較達の背後のドアが閉じ、床が開いた。

 それを見た瞬間、較が叫ぶ。

「走って逃げて!」

「逃げればこの細菌兵器がアジトを充満し、アジトに居る人間全てが死ぬ事になる」

 ベッケンの言葉に悔しげな顔をしながらも、気のガードで、全員を覆う較。

『アスラバリア』

 そうしている間にも床下に隠された細菌兵器は、ベッケンを侵していく。

 血反吐を吐きながらもベッケンが告げる。

「これで足止めの仕事は、達成した」

「やっぱり、そういうことだったんだ」

 半ば気付いていた較が舌打ちする。

「どうしてですか! そんな自分達の命を犠牲にしてまで足止めなんて……」

 信じられない顔をするエアーナにベッケンが遠い目をする。

「冷戦、お前たちみたいな子供には、過去の遺物としか思えないだろうな。だが、我々にとっては、違う。確実に根本を侵し、国を滅びに向かわせる病魔だ。その原因の一端を私達は、作ってしまった。その贖罪、その為には、この命は、惜しくないのだ。安心しろ、この建物から外には、決して漏れ出さない様になっている」

 愛国心の塊である男の言葉に較が嫌な予感を覚え、気を使って周囲を探って、とんでもない事実を発見する。

「ここって欠陥施設だよ。細菌が漏れ出さない様にしてある機構の一部が機能してない。このまま放置すれば細菌が外部に漏れ出す」

 その一言に目を見開くベッケンが、何かに思い至り、電話をかける。

「パケッセ、この施設の改修は、正しく行われたのだろうな!」

 電話の相手、政府の人間である筈のパケッセの声は、ベッケンが予想したより遠かった。

『あの金だったら、私の隠し口座に入っている。嘘の確認情報での『神の光明』からの協力費を含めて一生遊んで暮らせる』

「ふざけるな! 貴様は、祖国が、国民がどうなっても構わないのか!」

 ベッケンの叫び声にパケッセが軽い口調で答えた。

『貴方達が古い。今時は、自分の幸せの為なら国の一つや二つ捨てるのが普通だ。私は、この細菌が溢れ出す国を捨てて新しい人生を歩く』

「許さんぞ!」

 血走った目で叫ぶベッケンだったが、細菌に貪られた細胞が悲鳴を上げ、立つ事すら困難になっていく。

 そんな中、優子が覚悟を決めた。

「ヤヤ、ここは、あたしが一人で何とかする」

「一人でなんとかするって?」

 首を傾げる智代だったが、較は、少し悩んだ後、告げる。

「完全に細菌が無くなるまで出れなくなるよ?」

「覚悟は、出来てる。一応非常食もあるわ」

 優子は、背中のバックを示し、較のガードの外に出る。

「おい、外の細菌、物凄くヤバイんだろ!」

 雷華が慌てるが良美が手をパタパタさせる。

「優子の中に居る淫虫の魔王の方がとんでもなくヤバイから大丈夫」

 その言葉通り、優子がそのまま床下の細菌貯蔵庫に行っても、まるで問題なく、それどころか周囲に撒き散らされていた細菌も残らず逆侵食して無効化されてしまった。

「雷華とエアーナは、ここで優子のフォローしてて。あちきとヨシと智代で『神の光明』きっちりぶっ潰して大会を終わらせて、八刃のバックアップを受けられるようにしてくるから、そしたら、ここも解放できる」

「頑張ります」

 エアーナの言葉に智代が答える。

「ここは、任せた。でもこういう場合って死亡フラグじゃないかな」

「違うよ、ボスは、任せたと言っておきながら、合流して一緒にボスと戦うってフラグよ」

 良美の突っ込みに手を叩く智代を無視して、較が奥に有ったパーツを手に入れる。

「自業自得って言葉を知ってる?」

 ベッケンが床に倒れたまま声を絞り出す。

「知っている。自分のばら撒こうとした細菌で死ぬ。全ては、冷戦に関わり、祖国を疲労させた己の業だ」

 較が首を横に振る。

「自業自得、悪い事も良い事も全て自分が受け取らなければ意味が無い。自分を犠牲にして何かを残したとしても、それを成した人間が居なければ有効に活かせない。罪悪感に負けて死を選んだ時点で貴方は、何も残せなくなったんだよ」

「死に行く人間に酷い言い草だな?」

 ベッケンの言葉に較が通信装置を起動させる。

「自分が犠牲にしようとした部下に最後の言葉を伝えなよ」

 ベッケンが最後の力を振り絞る。

「私は、一度たりとも祖国を裏切る事をしなかった。だが、それでも祖国に大きな負の財産を残してしまう。その罰で死ぬのだろう。しかし、残ったお前達は、間違えるな。祖国と共に明るい道を歩け」

 その一言を最後にベッケンは、永遠の眠りにつく。

 較は、目を閉じさせ、手を組ませる。

「行くよ!」



 モスクワの空軍基地。

「ねえ、もしかしてあれに乗るの?」

 智代が指差したのは、素人目でもはっきりと解る音速戦闘機だった。

「サイコーだっぜー! 自転より速い、最高の乗り物だぜ!」

 マッハの歓喜の声が聞こえてくる。

「諦めろ。時間が無いんだ」

 良美は、あっさり納得して対Gスーツを着込み始める。

「残っていたら駄目?」

 引きつった笑顔の智代に較も笑顔で返す。

「絶対駄目」

 智代が悲鳴をあげる中、世界最速の超音速飛行機が飛び立つのであった。

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