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太陽に一番近い神殿での激戦

大会最強の老人が現れる

 マチュ・ピチュに一人の老人が静かに黙祷を捧げていた。

「インティワタナ、今日も来なかった」

 若い戦士、ワイナが不満気に告げると老人、インティワタナが透き通った目で答える。

「まだその時では、無いのだ」

「それじゃ、何時なんだ?」

 血気に逸るワイナにインティワタナが天の果てまで見通す目で答える。

「もう直ぐだ。多くの血が流れ、今時が満ちようとしている」

 その顔には、強い悲しみを感じさせるのであった。



「エリザベスさんが殺されたの?」

 優子の問い掛けに較が頷く。

「嫌な空気が流れている。今回の大会の闇に潜む何かが本格的に動き出したのかも」

 エアーナが緊張で唾を飲み込む。

「何が目的なんでしょうか?」

「十中八九真相の隠蔽。多分、あちき達より先に真実に辿り着いたんだよ」

 較の答えに智代が真剣な顔をする。

「死人にくちなしって奴だね。それじゃあ、犯人は、この大会の黒幕?」

「それ以外に居ない。きっと敵を全部倒して優勝だって所で現れて、悪巧みを語ってくれる筈だよ」

 良美の根拠が全く無い断言に雷華が呆れる。

「漫画じゃないんだぞ」

「しかし、残った奴らに強い奴らは、居ないんだろう?」

 良美の言葉に較が一枚の写真を見せる。

「たった一人を除いてね」

「このお爺さんは、誰ですか?」

 写真を見た優子の質問に較が答える。

「インティワタナ。『老いた峰』のトップ。単独で言えば今大会最強、あちきのお父さんクラスの兵だよ」

 雷華が引きつる。

「ヤヤの父親って最強の鬼神だろ? それと同等ってどんな化け物だよ!」

 エアーナが手を上げる。

「どうしてそんなに強いって知ってるんですか?」

 肩をすくめる較。

「一度お父さんが戦った事があるの。あのお父さんでも勝てなかったんだから尋常じゃないよ」

「それって勝ち目無いって事?」

 智代の言葉に較が自分達の乗る飛行機を指差して言う。

「勝算が無い状態で向かうと思う?」

 全員一斉に首を振ると較が言う。

「個人がどれだけ強くてもチーム戦では、意味が薄いんだよ。そう言う事であちきが足止めするから、その間にパーツを盗み出して」

「何かコソ泥みたい」

 良美が不平の声を上げるが較は、無視する。

「そう言う事なら任せておけ」

 一番戦力の雷華が胸を叩く。



 そして、較達は、マチュ・ピチュに到着し、台座が置かれているポイントに向かうと槍が投擲された。

 較があっさりと掴むと一人の若き戦士(と言っても較達より年上)、ワイナが立ち塞がる。

「こっから先に行きたかったら俺を倒す事だな!」

 槍を構えるワイナに較は、無造作に近づく。

「痛いけど、我慢してくださいね」

 技も撃術も無い普通の拳が腹にめり込みワイナが倒れる。

「弱いね」

 智代の言葉に雷華が苦笑する。

「ヤヤが強すぎるだけだ。化け物クラスじゃなければあんなもんだろう」

 先を進む較達の前に老人、インティワタナが居た。

「遂に来たか。お前達の力を見せて貰おう」

 天に掲げた手を振り下ろす、それだけで無数の光の玉が較達に襲い掛かる。

「作戦通りにお願い!」

 さっきまでの余裕など全く無い様子で較が光の玉を避けながら叫ぶがインティワタナは、それを許さない。

「逃がしは、しない」

 地面を蹴ると地面がせり上がり、行く手を遮る。

「どうなってるの?」

 困惑する優子に較が答える。

「多分、こんな高地に神殿を作り出した技術、重力操作の一種だよ。遠回りをしても良いから行って!」



「無駄だ。台座がある場所は、既に天と共にある」

 インティワタナが指差す先には、台座があると思われる建物が空中に浮かぶ様が見える。

「とんでもない大技を見せてくれるな」

 感心する良美。

 較が荷物を全て降ろし、久しぶりの完全戦闘モードに移る。

「あちきが本気でやって、あんな大技を使う余裕を失わせるよ!」

 その気迫に良美以外は、恐れおののく。

「戦闘の申し子、あの男の娘だけは、ある。しかし、その力だけで足りぬな!」

 光の玉が次々と較に襲い掛かる。

『イカロス』

 空中を飛び跳ね一気に近寄る較にインティワタナは、ゆっくりとした動きで掌を突き出す。

 較の重力操作を全てキャンセルさせられた挙句、慣性も重力も無視して近くの建物の壁まで横に落下させられる較。

「ヤヤ!」

 良美が叫ぶと、崩れた壁から這出る較。

「大丈夫、こんな柔な壁にぶつかってくらいじゃダメージは、無い」

 最早、闘気を剥き出しにしている較は、その右手に壁の瓦礫を掴んでいた。

『レッドキング』

 大きな瓦礫が向かってくるがインティワタナは、反応しない。

 直撃する寸前で、瓦礫が吹き飛ぶが、その後ろから較が現れる。

『タイタンキック』

 較が蹴った地面から無数の塊がインティワタナに襲い掛かるも弾き飛ばされてしまうが、弾き飛ばされた瓦礫でダメージを食らいながら較が接近していた。

『バハムートブレス』

 較の気の篭った掌が迫るとインティワタナは、正面から受ける。

 両者の力が均衡したのは、一瞬、直ぐに較が弾き飛ばされる。

「その程度か。やはり、私がこの命を懸けるしかないと言う事だな」

 インティワタナの言葉に唯一冷静だった良美が不自然に思う。

「圧倒しているし、何に言葉がおかしい?」

 較は、諦めないで立ち上がろうとするが、インティワタナが掌を下に向けると超重力に押しつぶされる。

『イカロス』

 重力中和を行ってもまだかかる強力な重力に動きが制限されても較は、前に突き進む。

 その様にインティワタナが眉を寄せる。

「何故そこまでする。実力の差は、明確だと思うが?」

「だからって諦める訳には、いかない理由があるんだよ! この戦いには、友達の命がかかってるんだから!」

 較のその叫びに智代の硬直が解ける。

「そうだ、何か方法があるかも。何時までもヤヤ独りを戦わせておくわけには、行かないよ!」

 それが切掛けに雷華が前に出る。

「ヤヤ、作戦変更だ。お前がパーツを取りにいけ、ここは、あたしが引き止める」

「冗談、相手の実力が解っているでしょ。無理だよ」

 較の反論に優子も前に出る。

「防御は、私がします」

「だけど……」

 まだ躊躇する較に良美が怒鳴る。

「仲間を信じる。それともあたし達は、ヤヤの足手纏い!」

 斬りかかる雷華をあっさり吹き飛ばすインティワタナそれを受け止める良美。

「偉大なる白き牙に侵食された者以外の力も見てやろう」

 光の玉が良美達に襲い掛かるが、優子が自分の身を盾にする。

 光の玉は、変質し、戻っていくがインティワタナが突き出した掌で撃ち弾く。

「愛を求める虫の王の力か、これを防ぐのは、確かに一苦労だな」

「行って下さい!」

 エアーナに後押しされ較が駆け出す。

「行かせない!」

 光の玉を打ち出そうするインティワタナに雷華が斬りかかる。

「今度は、あたし達が足止め役だ!」

 しかし、インティワタナは、その身を天に舞い上げる。

「まだだ。まだ足りぬ。圧倒的な脅威の前では、その程度の力では、勝てぬぞ!」

 突き出した両手の先に太陽と見間違う強烈な光の玉を生み出すインティワタナ。

 走り続ける較に光の玉が打ち出された。

「ヤヤ、撃ち返しちゃえ!」

 良美の一言に較が振り返り白く輝く右手を打ち出す。

『ホワイトファングバハムート』

 インティワタナの太陽の様な光の玉と較が打ち出した白き闘気がぶつかりあい、鬩ぎ合った。

 結果は、較の白き闘気が打ち勝った。

 その隙に較は、台座の所に辿り着き、パーツを奪う。

「皆、逃げるよ!」

 叫び、駆け出す較だったが、空中に浮き上がる。

 良美達も同じだった。

 顔を引きつらせる較。

「冗談でしょ、ここまで広域で圧倒的な重力操作が出来るんだったら、最初からやれば……」

「最初に言っただろう、お前達の力を見たかったのだ」

 インティワタナの言葉に怪訝そうな顔をする一同の中、違和感に気付いていた良美が言う。

「さっきも変な事を言ってたよね。自分が命を懸けないと駄目だとか」

 それにインティワタナが頷く。

「私が信仰する神からのお告げがあったのだ。この大会には、邪悪なる光の者が暗躍していると。それを放置すればこの世界に大いなる災いを呼ぶ。その者の力は、強大で、私の力をもってしても勝てるか解らないだから、対抗出来る者を探していたのだ」

「神託、それで、あちき達の力を試したんですか。それで、その相手は?」

 較の問い掛けにインティワタナが答える。

「『神の光明』やつ等の後ろには、邪悪なる光の者が控えている。その者が光臨するだろう。その時は、命を賭して戦うつもりだ」

「命懸けでですか?」

 優子が悲しそうな顔で聞くとインティワタナが頷く。

「それが、私が産まれた意味なんだろう。しかし、私には、憂いは、無い。希望が、ワイナが居るからな」

 インティワタナが指差した方向から、立ち上がるのも苦痛の筈なのに必死に槍を杖代わりにこちらに進むワイナの姿があった。

「そんな覚悟は、不要だよ。だってそんな奴らは、あたし達がぶっ飛ばしてやるんだからね」

 良美の断言に較がため息を吐く。

「あのね、こんなに強いインティワタナさんが命懸けになる相手にあちき達が楽に勝てると思うわけ?」

 良美は、首を横に振る。

「思わない。でも楽に勝つ必要なんて無いだろう。今回みたいに力を合わせて戦えば絶対に勝てるよ」

 自信満々の言葉に心強くインティワタナが告げる。

「邪悪なる光の者との戦いの時は、近い。その時は、我が神の尖兵として共に戦おう」



 較達と『老いた峰』との協力関係が確立した頃、ロシアの『凍える息』の首領、ベッケンの元に『神の光明』の使者がやって来ていた。

「残すは、我々と貴方達だけです。契約通りにお願いします」

 揺ぎ無い強い意志を持つベッケンが睨む。

「最後の確認だ。本当にお前達は、アメリカが我が祖国を狙う大陸間弾道弾の位置を提示できるのだな?」

 使者は、封筒を差し出す。

「前金代わりの一つの座標ですが、これをお渡しする以上、契約の破棄は、出来ませんよ?」

 ベッケンは、頷きそれを受け取る。

「この埃に懸けて契約は、必ず履行しよう」

「その言葉、信じさせてもらいます」

 立ち去る使者に不機嫌そうな顔をするベッケンの部下のバルット。

「ロシアの英雄であるベッケン様に向かってなんと失礼な奴だ」

 ベッケンは、そんな部下に先ほどの封筒を渡す。

「これをパケッセに渡し、確認させろ。もし正確な情報なら、我が祖国の安全の為にも多くの犠牲を払っても『良美とその仲間』と戦う事になる」

「了解しました」

 敬礼し部屋を後にするバルット。

「冷戦も終った今、私に出来るこれが最後の献身。この命に代えても必ずや成功させてみせる」

 ベッケンは、大戦以後の歴史の裏側の戦争で得た勲章を見ながら決意する。

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