OVER・THE・RAINBOW
夏樹は転校したての同級生、朱美が一人、自分の殻に閉じこもっているのが心配でならなかった。彼女はいつも一人廊下で弁当を食べるし、部活には入らない。下校時はいつも一人だ。
「彼女、変わってるなぁ。友だち作らないのかなぁ」
そんな夏樹の心配をよそに朱美は今日もひとりぼっち。
そんなある日、夏樹は体育の時間、水泳の授業に出てこない朱美を教室へ探しに行った。夏樹は水着姿のままだ。すると教室で一人、これも水着姿のままの朱美が黒板にチョークでラクガキをしている。観るとキレイな虹が街にかかった絵だ。夏樹は驚いて朱美にきいた。
「うわぉ!キレイな虹!これあなたが描いたの?朱美」
「うん、そう」
「こんな特技があるなら美術部に入りなよ!友だちたくさん出来るし」
「別に。友だちなんていらない。煩わしいだけ。それに......」
朱美はしばらく沈黙して言った。
「この程度描ける子なんてざらにいるから」
そうして朱美はプールへ行く準備を始めた。しょんぼりする夏樹はぼそりと言った。
「RAINBOW......OVER・THE・RAINBOWだね。この絵のタイトル」
朱美はすげなく呟く。
「別に......タイトルなんて決めてないから」
するとそこへクラス一のお調子者、浩司が教室にやってきた。
「おい!二人ともなにやってんだ!担任怒ってんぞ!サボリだって......あっ」
浩司は水着姿の二人を観ていやらしい目で冗談を言った
「なーにー?水着姿で二人きり......ひょっとして同性愛のぬめぬめとか。そんなのがあったりして
」
そう言って笑う浩司に夏樹はつかつかと歩み寄る。その間も浩司の妄想は続く。
「他にもこんな事やあんな事やってたりして......。それにこんな......!」
その瞬間、強烈なアッパーカットが浩司の顎に入った
「OVER!THE!RAINBOW!」
この夏樹の怒りの言葉を添えて。
「ほふぅ!」
上半身から崩れ落ちる浩司を置いて夏樹は言った。
「あんたってデリカシーがないの?浩司!女と言えば見境なくそういう妄想ばっかりして!ホンットにもう!」
すると怒りのおさまらない夏樹の手を引く手があった。朱美のだ。
「いいよ。ほっとこう。こういう子は」
そして朱美は夏樹を連れてプールへ駆けだしていくのだった。
「あの絵、ホントにOVER・THE・RAINBOWだね」
と彼女は笑っていた。
こうして朱美の初めての友だちが出来たのだった。苦く甘い痛みを浩司に残して。教室でノックアウトされた浩司はこう呟くしかなかった。少し歯噛みしながら。
「ちぇっ少しは感謝しろよな。友だちつなげた友情のキューピットなんだからさ」
と。