仮想と現実の境界線Ⅲ
―――ドアをあけると真昼がいた。ただし女の容姿の。
どうして真昼だと分かったかというのは髪型や髪色、眼の色は変わっていないからなのだが、なんというか、雰囲気がそのままなのだ。
元々中性的な顔立ちをしていたのもそうだがしゃべり方なんかも中性的なものだったので、どちらかというと、元に戻った、という表現がしっくりくる。
というか、そういうことなのだろう。
俺の身体は寝ている間に現実のものとほとんど変わらないものになっていた。俺だけこんな事が起こっているとは考えにくい。他のプレイヤー達にも同様の変化が起きていると考えてもよさそうだ。とすると、だ。
はじめのアバター設定の際に体格をいじっていれば男でも女に、女でも男に変装することは可能なのではないだろうか。
まして真昼ははじめからローブをまとっていた。あれでは体格から性別を判断するのは難しい。そうなってしまっては自己申告を信じるしかないだろう。
βの時は・・・うん、初めて会ったときもたしかローブを着ていたな。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「・・・で、どういう事か教えてくれるよな?」
今は宿の俺の部屋にあるウッドデスクをはさんで向かい合って話している。
流石に性別が違うなんて大切な事を聞かされなかったのは俺としても不本意なので何故こんなことをしたのかと聞いてみる。もっと強い姿勢であたることも出来るのだろうが俺としては女にそういう事をするのは嫌なので、できるだけ自分から話してくれるよう促す。
「・・・。だって、夜は誰とも組まない上位プレイヤーって、ソロプレイヤーにもギルド所属のプレイヤーにも関係なくあの時から有名だったし。」
「それがどうして性別を偽るなんて結論にたどり着いたんだ?たしかあの時、真昼が俺と組む条件は例のフィールドボス攻略を手伝ってほしいってことだったと思うが?」
「それは勿論あったよ。それと何で男だって言ったかはね、ある情報屋がそう言ってたからだよ。あいつは女とは天と地がひっくり返っても組まないって。」
「!? その情報屋ってまさか・・・」
「そ。ゴーストだよ。」
「・・・はぁ~。あいつが噛んでやがったのか。」
―――通称ゴースト。正式名、蜻蛉斬り。
β時代に俺が懇意に、というか半分は向こうが付きまとってきたせいで交流のあったプレイヤーだ。
本人の名前の通り槍の名手でもあるが当人曰く『そんなものはただのお飾り』だそうで実際そう思えてくるほどにアイツは諜報能力に長けていた。
βで通じるほどの槍の名手でありながらその実、情報屋が本職という異色のプレイヤーながら、その実力は上位プレイヤー達ほど認めているという変わったやつである。
俺も随分世話になったが、そうか、アイツが情報源だったわけか。
・・・・今度あったらシバくかな。
俺は久々に話題にのぼった知人に今度あったら一発くれてやると脳内メモリに保存し、話の結論をまとめることにした。
「あー、つまり、こういうことか?
フィールドボス攻略を俺に手伝ってほしかった、でも俺は殆どいつもといっていいほどにソロで攻略を進めている。そこで、どうしたら俺とパーティーを組めるのかって情報をゴーストに依頼した。そしたらアイツが『女であることを隠せば或いは』みたいなことを真昼に伝えて、俺も丁度同じフィールドボスを攻略するつもりだったこととプレイスタイルの相性がよかったことから俺とパーティーを組むにいたった、と。」
「うん、それでだいたい間違いないよ。」
「ふはぁ~。・・そうか。」
俺の考えとしちゃゴーストのやつ、俺の次のターゲットがそのフィールドボスって事も、プレイスタイルの相性がいいって事も知ってて真昼に情報くれやがったんだと思っているわけだが。
あと今更かもしれないがフィールドボスというのは塔最上階のボスではなくフィールドの特定の範囲内を徘徊するボスモンスターの事である。特徴としては塔最上階のボスと遜色無いレベルであることと戦闘に参加する人数に合わせて戦闘力に補正が入ることだ。
まぁ結果として、パーティーを組むのを決めたのは俺自身だしそのおかげで楽にフィールドボスを攻略する事が出来たのも事実だ。
一応は感謝しといてもいいのかもしれない。一応は。
「えっと、その、夜?」
「・・・なんだ?」
「あの、ごめんなさい!」
「・・・・。まぁ今頃になってパーティー解散ってのもどうかと思うしな。」
「!! じゃあ!」
真昼が期待のこもった目でみてくる。
「ああ。パーティーを組むことに関してはこのままでオーケーだ。」
そういうと真昼は、やった!とグーを突き上げて喜んだ。