仮想と現実の境界線Ⅱ
――――鏡に写っているのは、紛れもなく、俺の顔だった。
思わず一度スルーしてしまったが、我慢ならずに振り向いてしまった。
髪の色や眼の色は変わっていないが顔の造形なんかは現実世界の俺のモノと瓜二つで、まったくもって、言葉にならない、とはこの事を言うのだとどうでもいいことを考えてしまっていた。
「・・・どういうことだよ、これ。」
・・・そういえば、あの時あいつは、須藤は何と言った?
たしか、この世界で現実と変わらぬ姿であがいて見せろ!と、たぶんそんなようなことをいっていたはずだ。あの言葉の意味はこういうことだったのだ。
以前のキャラクターと今の顔とにかなりの差がうまれてしまっている。
具体的には、前の顔が男子としてはやや大きめの瞳にスッと整った鼻梁をしていたのに、
鼻の造形は殆ど変わっていないが目が以前よりも鋭くなっているので、全体的な変化としては前よりもこう、なんというか、切れ味が良くなっている、とでもいうのか。
とにかくこの時点でもうアウトといっても過言ではないのにまだまだ、問題は山積みだ。
目下最大の問題は、『真昼をどうするか』であるが雰囲気にもかなりの差があるので今のこの髪型と眼の色だけで俺の正体を信じてくれるかどうか・・・。
だからといって一人で放っておくの昨日のあの様子からしてもなんだか気が引ける。
「まぁ、悩んでたってきりないか。」
俺は隣の真昼が居るであろう部屋に行くことにした。
そしていざ部屋を出るという時になってもうひとつの異変に気付いた。
「・・・なんか身長まで変わってないか?」
そう、身長までもが変わっていた。
キャラクター設定の際俺はあまり身長やらをいじってはいなかったが、約五センチ程、低くしてある。理由としてはプレイスタイル上、小回りが効く方がいいことと、当たり判定の有効範囲を狭めるためだ。逆にこれ以上身体をいじれば重心やリーチにおいて意識との誤差が大きくなりすぎるので逆効果だ。
まぁこれも、現実と変わらぬ姿で、ということなのだろう。
俺は今度こそと気を取り直して部屋の扉を開けた。
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「真昼、いるか?」
コンコンッ、と二回ノックの音をならして部屋の中へ声をかけるが返事が聞こえない。いないのだろうか?とも考えたが取りあえずもう一度ノックをして声をかけてみた。
すると今度は中から返事が聞こえ、『暫く部屋で待ってほしい』という旨を伝えられたので了承の意を伝え、俺は自分の部屋に戻ってきた。
少し時間も出来たので簡単な所だけでも今後について考えてみる。
とにかく、安全面には最大限留意しておかなければならない。
このゲームがデスゲームと化した以上、ここだけは譲れないポイントとなるだろう。
次に考えるべきはやはり他のプレイヤー達との繋がり、だろうか。
俺たち二人でプレイしていくのかどこかのギルドにでも加入してプレイするのか。それだけでなく、情報面についても重要度が高いと思われる。
β版で培った経験や正規からのプレイヤーでは知り得ない様な情報もいくつかあるが、この場合の情報はただひとつ、このゲームが新たな世界として生まれ変わった際にシステムにどの様な影響が出たか、だ。
この世界に存在するシステムにいくつかの修正が入っているのはまず間違いないだろう。
顔や体型が現実世界のものにそっくりになっているのもこの修正のうちの一つと考えてよさそうだ。
きっと他にも大きな変更点がいくつも有るだろうからそこがどういったものなのかをいち早くおさえたい。
繰り返しになるがMMOにおいて信頼のおける情報というのはとても重要度が高いのだ。
俺はその後も次々にいろいろな懸念を引き出しては解消法や対処の仕方を模索して時を過ごした。
大体三十分程たっただろうか。
部屋の扉がノックされる音によって俺の思考は一時中断された。
どうやら真昼を待たせてしまったらしい。懸案事項を纏めるのに集中し過ぎた様だ。
はーい、と若干間延びした返事を返し扉を開けた。
そこには確かに真昼?がいた。
何故疑問形なのか。
それは、
俺の目の前にいる人物がどう見ても女の人の体型をしていたからだ。