始まりの日
やっとここまで来ました。テスト週間ながら頑張ったです。はい。
長針は時計回りに、短針は反時計回りにその重低音を響かせながら回り続け、少なくとも十数回以上を回転し終えた所で十二時ピッタリに止まった。
ゴォーン…‥、ゴォーン…‥、、、
時計塔に備え付けられた大鐘が腹の底にズッとくるような音を響かせる。
その時だ。時計塔の上空にポリゴンが集合し足下から何かを、いや、誰かを形作ろうとしていた。
ポリゴンは少しずつ密度を増していきながら上へ上へとのぼっていき、約4メートルを上りきった所で霧散した。
そこに現れたのは、人、だ。
身長が4メートルにとどきそうな程の人物だ。目深にフードを被り、全身をゆったりとしたローブでおおっているので性別は分からない。
実際は当然身長4メートルなんてことはないから、必然的にあそこに現れたのはGM、もしくはそれに類する権限を持った人物のアバターということになる。俺たち通常プレイヤーは一定以上、身体をいじれないからだ。
俺が塔の上に現れたそいつの事を何者か考えていると、その人物が口を開いた。
「よく来た、選ばれし1万5000の者たち。
ここは新世界となる場所だ。君達は、その新世界へと招かれた初めての客人なのだ。」
声質は低く、恐らくは男であることが分かった。
周りからは、「ふざけるな!」や「早くログアウトさせろ!」等という声が絶えず聴こえてくるが、彼は話すのを止めない。
「もう一度言おう、ここは新世界となる場所だ。君達は客人としてここへと来たわけだが、しかしこれからは客人としてではなく、住人としてこの世界で生きぬいて貰いたい。」
「もう気付いていると思うが君たちのメインメニューにログアウトボタンは存在していない。しかしそれはバグやミスなどではない。それはこの世界の仕様だ。」
言葉は続く。
「ここがゲームではなく、新たな世界へと変貌を遂げた時点でその他にもいくつかのシステムが凍結、又は追加されている。」
「そうだな、ここがゲームではないということを最も端的に君達に伝えるとするならば、答えはこうだ。」
そして彼は最悪の未来を口にした。
「このゲームでの死は現実とリンクする。」
それから先の記憶を、俺は持っていない。
気付けば彼の話は終わりがけとなっていたのだ。
「では、君たちの旅の門出を祝い、私からこの世界から元の世界へと還る方法を教えよう。なに、ただ普通に生きて貰うだけではこの世界のベースにゲームを組み込んだ意味がないからな。簡単なことだ、攻略しろ。この世界でもがき、苦しみ現実と変わらぬ姿で足掻いてみろ。この世界の元となったゲームをクリアするのだ。各地に遍在する塔を、な。」
「では諸君、健闘を祈ろう。」
俺達はただ、黙って聴いているしかなかった。朗々と紡がれる抑揚のない声は俺達の鼓膜を震わせその情報を脳へと送ろうとするがそれを脳自身、俺自身が拒んだ。
いやだ、と。
ふざけるな、と。
狂っている。
彼の話を聴き、ようやく頭が周りだして初めに感じたのはそれだった。しかもただ狂っているのではなさそうだ。自らの望みを現実とするためならば何をしようと構わないという雰囲気がありありと伝わってくる。
つまり、ここはそういう世界なのだ。
あいつが何者かなんて、もう些細な事だった。
今この瞬間から俺達の運命は二つにしぼられた。
彼の生み出した新世界なるこの世界で生きて行くか、命懸けで塔を攻略しこのゲームをクリアするか。
ふたつに、ひとつだ。
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そこからは、まるで地獄の様だった。
初めに思考が回復したであろうやつが上げた絶叫を引き金にまさしく阿鼻叫喚の体をなしていた。
それぞれが好き勝手な方へと走り出した。
それぞれが意味不明な言葉を喚き立てた。
だが俺はそれを見て、かえって頭が冷めていった。
まずは、真昼だ。
隣にいるはずの真昼からは驚くほどに微弱な気配しか感じ取ることができない。顔を青ざめさせよくみれば膝が笑っている。
俺はなるべく驚かせないように声を掛けた。
「大丈夫か・・、真昼?」
「・・・・・・」
返事は無かったがそれも仕方ないと思う。
俺達の周りには座り込んでしまっている人も見受けられた。それも、何百人も。
「このままじゃ、拉致が開かない。宿を取ろう。できるだけ早く。」
このゲームがデスゲームとなった以上、安心して眠れる場所はとても大切になってくるはずだ。
真昼からの返事は無かったが、俺達は宿まで行くことにした。