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《Next World Online》  作者: 十時 仁
≪第一章≫
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プロローグⅣ

俺たちはお互いのレベリングをある程度済ませたところで、一度町に戻ってログアウトすることにした。


「そうだ、俺はともかく、真昼はローブ外しておいたほうがいいぞ。」


「ん?どうして?」


「俺はぱっと見、ただの短剣使いだけどお前のその格好、一目でβテスト出身のプレイヤーって分かるぞ。杖は初期のと見た目大差無さそうだけど、いくらなんでもそのローブは誤魔化しきれんぞ?」


「あ、ああ!なるほど!寄生されるのはなるべく回避したいしね。」


俺の考えを理解してそそくさとウインドウを操作してローブを外す。これで二人ともぱっと見、ただの短剣使いとただの魔術師のパーティにしか見えないはずだ。

俺は内心、寄生って・・・と思いながらも口にはせず、そのまま北門へと歩き出した。



「なんかさ・・・騒がしくない?」


「やっぱ何人かは捕まっちまったんだろうな。」


そこには予想通りの光景が広がっていた。

寄生するのが目当てのプレイヤーに、見るからに他とは違う装備を纏った恐らくはβテスター達。彼ら一人に四、五人が取り巻いていて寄生条件の交渉中と思われる。

ああいうのは一度引っ付かれるとめんどくさいからな。


俺がつい門前でそんなやり取りするなよ、なんて事を考えていたそんなときに、その集団の中の一部から声が上がった。


「お・・、おいっ!ログアウトボタンがねえぞ!どういうことだ!?」


一瞬の静寂、そしてその後に大きな笑い声が広がる。


「「「ハッハッハッハッハッハ!!」」」


そんなわけねーだろ!といたるところから異口同音に先程の人物の発言を否定する声が聴こえてくる。恐らくは付きまとってくる寄生目当ての連中が鬱陶しくて今日のレベリングを諦めログアウトしようとしたのだろう。そこでなんの見間違いか、ログアウトボタンが無いなんて事を言い出したに違いない。


・・・・そう、そのはずだ。そんなことが起きていい筈がない。


視線を落とし、頭の中で必死にそう繰り返す。けれども俺の左手は止まらない。親指と薬指を素早く二回擦り合わせる。

目の前に半透明のシステムウインドウが出現し右側にデフォルメされた俺のアバター、左に様々な項目毎に別れたボタン、そしてその一番下にあるはずのログアウトボタン。



ログアウトボタンは、あたかもはじめからそうであったかのように存在していなかった。



さっきまでのように馬鹿笑いしている奴はもういなくなっていた。皆口ではああ言っていながらも俺と同じように自らの手を止められなかったようだ。

辺りに居るやつらは全員顔を青ざめさせ、なかには座り込んでいるものもいた。


・・・どういうことだ?


こんなことが起きていい筈がない。俺はいったんウインドウを閉じるともう一度同じ動作を繰り返し再びウインドウを開き、左下に

目をやるが、そこには相変わらずログアウトボタンは存在していなかった。



「・・!そうだっ!GMコール!」


今度は別のところから声が上がる。だが、


「・・ッ!?繋がらねぇぞ!」


ログアウトボタンは消え失せ、GMコールも繋がらない・・。

脳内に最悪の展開が予想されるが、すぐさま強く目を閉じ頭を振り払いその考えを捨てる。


一人また一人と、ゆっくりと、ずりずりと音を立てて歩を進めはじめる。

進む先は恐らく時計塔前広場、この世界にはじめて降り立った場所。

歩みはやがて小走りに変わり、小走りは叫び声を伴った全速力に変わっていった。


気付けば周りに人は誰もいなくなっていた。

俺たちもこんなところでぼうっとしている訳にはいかない。


「・・・真昼。」


「ッ!?・・とりあえず、僕らも行こう。何か分かるかもしれない。」


「・・ああ、行こう。」


俺たちも他のやつらに遅れながらも時計塔前広場へと向かった。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲




そこは既に人で埋め尽くされていた。



見渡す限りに人だらけで寒気を覚えたほどだ。

俺たちよりも後からきたやつもたくさんいて今も続々と、ある者はうつむきながら、ある者は叫びを上げて走りながらこの広場へとやって来ていた。


「夜?これってやっぱり・・・」


「まだ・・、まだその可能性は考えるな。」


真昼も俺と同じことを考えてしまったのだろう。だがそれを考える時はまだ早い。


・・・いや、本当は分かっているんだ。何だかんだと理由をつけてこの状況における最悪の未来予想図を思い描くのを拒んでいるだけだと。


このゲームが、いやこの世界そのものが、デスゲームと化してしまったことを。




その時、俺が俺自身の内面と向き合おうと思考の海に沈みかけていたのを阻むかのように時計塔の長針と短針がグルグルと歯車の回る重低音を広場全域に響かせながら回転しはじめた。




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