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Part6 放射線が体にダメージを与える仕組み

 放射能(放射性物質、放射線)は目に見えない上に、知らず知らずのうちに体にダメージを与えるので、いやみ嫌われています。

 では、どのようにして体にダメージを与えるのでしょうか?

 私自身、この作品を書くための勉強をするまで、遺伝子を傷つけて突然変異を起こすからというくらいしか説明ができませんでした。

 これだけの説明で十分な場合もありましたが、理科好きな私としてはこれでは納得ができなくなり、このたび理科の様々な参考書を読んで勉強しました。

 そして、次のようにまとめてみました。



 放射線の作用に共通して言えることは、電子にエネルギーを与えて高エネルギー状態にし、原子の外に飛び出させてしまう作用があるということです。

 原子の外に飛び出した電子は大変な暴れん坊で、体内で酸素(O2)と結合すると、「スーパーオキシド」(O2マイナス)という活性酸素になってしまいます。

 このスーパーオキシドは病原体やガン細胞を攻撃して殺す作用もありますが、我々の細胞や遺伝子DNAをも無差別に傷つけてしまいます。

 また、O2マイナスと金属(ナトリウム等)の陽イオンが結びついた場合、その物質は「超酸化物」と呼ばれています。

(スーパーオキシドとナトリウムが結合した物質は「超酸化ナトリウム」と呼ばれています。)

「超酸化物」とは聞きなれない名前かもしれません。

 しかし「過酸化物」であれば聞いたことがある人も多いでしょう。

 代表的な過酸化物として「過酸化水素(化学式H2O2)」が挙げられます。

 超酸化物とは、この過酸化物をさらに強力にしたものに該当します。


 超酸化物についてさらに詳しく説明するために、ここからは高校化学で習う酸化数を用いながら少し説明をしていこうと思います。

 酸化数は、その数の増減によって酸化、還元を決めるのに使われる数字です。

 他の物質と結合していない酸素、水素、炭素、鉄、銅などの単体は、酸化数0と定義されます。

 この過酸化水素に含まれている酸素の酸化数は-1です。

(酸化数の数字はローマ数字で表記される場合が多いですが、この作品では便宜上アラビア数字を使用します。)

 一方で、酸素が他の物質とくっついた場合、通常の酸化数は-2となります。

 過酸化水素中の酸素はまだ自身が還元される(相手の物質を酸化する)余地を残しています。

 そのため、私達の細胞が過酸化水素の攻撃を受けると、物質は酸化され、無差別に傷つけられてしまいます。

(この説明ではイメージしにくい場合は、過酸化水素H2O2から1原子の酸素が取れて、それが私達の細胞を構成する物質にくっつくことで酸化されてしまうと考えれば、分かりやすくなると思います。)


 話を本題に戻すと、超酸化物であるスーパーオキシドは、酸素原子が2つ集まった上で酸化数-1なので、酸素原子1個当たりの酸化数はいわば-0.5になります。

 つまり過酸化水素よりもエネルギーが高く、相手の物質を酸化する(つまり、無差別に細胞を傷つける)作用がさらに強いと言えます。


 無差別に傷つけられた細胞は、大抵が死んでしまいます。しかし生き残った細胞は制御不能の状態となって勝手に細胞分裂を繰り返し、やがてはガン細胞になってしまいます。

 だからこそ、我々はSODという名の、スーパーオキシドを消去する酵素を持っています。

 このSODによって、スーパーオキシドは過酸化水素(H2O2)に変えられます。

 過酸化水素も活性酸素の一種ですが、スーパーオキシドより作用は弱いです。

 そして、過酸化水素は私達の体内にあるカタラーゼという酵素によって、無害な水と酸素に変えられます。

(過酸化水素はオキシドールという消毒薬に含まれる物質で、傷口に塗る薬として有名です。)


 余談ですが、超酸化物である超酸化カリウム(KO2)は、非常用酸素発生剤として使われています。



 また、放射線に限ったことではありませんが、高エネルギーの電子などに由来して生じた活性酸素は遺伝子DNAなどの結合を切るなどの作用も知られています。

 DNAの結合が切れたままになってしまうと、細胞分裂の時にそこまでしか複製が行われないため、不完全な細胞が出来上がってしまいます。

 また、DNAの転写によって生成されるタンパク質も不完全なものになってしまい、まともな機能を果たすことが出来なくなります。

 するとそれが突然変異の原因になったり、ガン細胞の原因になる可能性があります。

 だからこそ、私達をはじめとする生物は体内にDNA修復酵素を持っていて、そのような傷はきちんと修復されています。

 ですから多少の放射線や活性酸素で神経質になる必要はありません。

 現に、運動によって体内で生じる活性酸素の量は増えますが、運動をしないと脂肪がたまって生活習慣病の原因になるなど、活性酸素以上に大きな害が生じてしまいます。

 ただ、多量の放射線を浴びるなどして、遺伝子が傷つくスピードが修復作用よりも速くなってしまうと、見かけ上、遺伝子はどんどん傷ついて行きます。

 遺伝子の傷が修復されないと、細胞はやがて生きることができない状態になっていきます。

 特に、分裂が盛んな細胞はダメージが大きいです。

 ですから体が成長している子供は盛んに細胞分裂をしていることもあって、大人よりも放射線によるダメージが大きくなります。

 ニュースなどで子持ちの母親達が、子供達の健康が心配と言うのには、このような原因が考えられます。

 また、SODの作用は20代を過ぎると年を取るにしたがって下がっていくので、高齢者もダメージが大きくなっていきます。

(ただ、修復作用がなくなってしまうというわけではありませんので、その点は誤解しないでいただきたいです。)



 この項では、放射線が体にどのような作用を及ぼすのかについて書きました。

 上記の内容を理解するには少なくとも高校化学と高校生物(もしくは大学生物)の知識が必要になるため、正直よく分からないという人も多いかもしれません。

 でも正直、私はそれでもかまいません。

 ただ何も知らないまま放射線(または放射能)と聞いて、ただ恐れおののくのではなく、少しでも聞く耳を持ってくだされば、それで私としては満足です。

 次の項では、放射線に関するダメージを軽減するための対策について書きます。

 私としては、そちらをしっかりと読んでいただければと思います。


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