Part3 放射能の単位
ニュースなどで聞いていると、放射能の強さについて説明する時に「ベクレル」、「シーベルト」という単位について耳にすることがあります。
これまで聞きなれない単位だっただけに、よく分からないという人も多いのではないかと思います。
この項ではその2つの単位について説明することにします。
もちろん、すでに本などで勉強して知識を身につけた人も、飛ばさずに読んでいただければうれしいです。
・ベクレル(Becquerel、記号:Bq)
定義としては、「放射性同位体の原子が毎秒1個の割合で放射線を出して崩壊する場合の放射能の強さ」となっています。
・シーベルト(Sievert、記号:Sv)
定義としては、「人体などが吸収した放射線量に、放射線ごとの係数をかけたもの」となっています。
(係数はX線、ガンマ線、ベータ線は1、中性子線は5~20、アルファ線は20)
※同じ量の放射線を吸収した場合、アルファ線はX線、ガンマ線、ベータ線の20倍のダメージを受けるということが言えます。
(参考資料:チャート式シリーズ 新物理Ⅱ、Wikipedia)
上記のような説明では少し分かりにくいと思ったので、私はテレビゲームのRPGでの戦闘に例えて説明してみることにします。
・ベクレル… 戦闘で、1ターンで敵が攻撃してくる回数
・シーベルト… 戦闘中にこちらが受けるダメージ数(減ったHP量)
これをもとに考えた場合、ベクレルの値が高ければ(敵の攻撃回数が多ければ)、シーベルトの数値(こちらが受けるダメージ量)も大きくなる傾向があります。
ですからベクレルとシーベルトには、比例関係があるように報道されることが多いような気がします。
しかし放射性物質によってはベクレルの数値が高くても、シーベルトの数値が低くなることもあります。
RPGの戦闘で言うなら、弱い敵(三重水素など)が大勢現れた場合、攻撃回数は多くてもそれ程大きなダメージは受けないでしょう。
一方で、たとえ攻撃回数が少なくても(ベクレルの値が低くても)、強力な魔法を使ってくるボス敵(プルトニウムなど、強力なアルファ線を出す物質)の場合には、多くのダメージを受けてしまう(シーベルトの数値が高くなってしまう)ことが考えられます。
※なお、放射線は一瞬で放射能としての効果がなくなってしまうため、ベクレルの値を使うことはできません。ベクレルの値を使えるのはあくまでも「放射性物質」です。
では、実際の生活において、一体何ベクレルなら安心なのか、何シーベルト(※1シーベルトは事実上大きすぎるので、実際にはミリシーベルト、またはマイクロシーベルトを使っています。)なら安心なのかという疑問を持っている方も多いのではないかと思います。
(1ミリシーベルトは1シーベルトの1000分の1、1マイクロシーベルトは1ミリシーベルトのさらに1000分の1です。)
ここからは「そうだったのか! 池上彰の学べるニュース第5巻」を参考にしながら、それについて説明していくことにします。
まずはベクレルについて書きます。
食品の暫定規制値(単位はベクレル/kg。数値が大きい程安全性が高い。)
1. 飲料水・牛乳・乳製品における放射性ヨウ素… 300
2. 野菜類(根菜、イモ類を除く)における放射性ヨウ素… 2000
3. 飲料水・牛乳・乳製品における放射性セシウム… 200
4. 野菜類・穀類・肉・卵・魚・その他における放射性セシウム… 500
5. 飲料水・牛乳・乳製品・乳幼児用食品におけるウラン… 20
6. 野菜類・穀類・肉・卵・魚・その他におけるウラン… 100
7. 飲料水・牛乳・乳製品・乳幼児用食品におけるプルトニウム類など… 1
8. 野菜類・穀類・肉・卵・魚・その他におけるプルトニウム類など… 10
※今後、暫定規制値の値が変更になる可能性があります。
この項で書いたRPGの戦闘で、1ターンで敵が攻撃してくる回数に置き換えると、放射性ヨウ素が300回攻撃してきた時のダメージと、プルトニウムが1回攻撃してきた時のダメージが同じと考えることができます。
つまり、この中では放射能の強さはヨウ素が最も弱く、プルトニウムが最も強いことになります。
ですから、プルトニウムはもしも検出された場合は、たとえ微量であっても大変なことになります。
なお、輸入食品の規制値は370ベクレル/kgとなっています。
(参考資料:Q&A放射線物理 大塚徳勝・西谷源展著、共立出版)
ベクレルという単位は、必ずしも放射能の強さを表しているわけではないため、数値を聞いただけではそれが安全の許容範囲内なのか、そうでないのか分からない一面があります。
しかし、ここまで理解するだけでも少しでも不安は解消できると思いますし、一石を投じるくらいのことはできると思っています。
次にシーベルトについて書きます。
下記の条件を満たすと、私達の体は次の量の放射線を浴びることになります。
1. 胸部レントゲン1回… 0.05ミリシーベルト
2. 飛行機で東京~ニューヨーク間往復… 0.19ミリシーベルト
3. CTスキャン1回… 6.9ミリシーベルト
4. 原発で働く人の年間許容限度… 50ミリシーベルト
5. 日本人の平均年間被曝量… 1.5ミリシーベルト
6. 世界の平均年間被曝量… 2.4ミリシーベルト
ニュースでは、よく「1時間あたり○○ミリシーベルト」「1時間あたり○○マイクロシーベルト」という言葉を耳にします。
5の項目に基づいて計算した場合、年間1.5ミリシーベルトは、1時間当たりに直すと約0.171マイクロシーベルトになります。
(1500マイクロシーベルト÷365(日)÷24(時間)≒0.1712329となります。)
また、それと4の項目に基づいた場合、原発で働く人の許容限度は、1時間当たり約5.71マイクロシーベルトになります。
つまり、1時間当たり0.数マイクロシーベルトであれば、それは自然界と大体同じで、1時間当たり数マイクロシーベルトであれば、原発で働いている人達もこれくらい浴びているんだと考えることができます。
また、放射線濃度が数倍から10倍程度になっても、健康には特に影響はないと考えることができます。
Part1でも書きましたが、私が2011年6月に福島県の郡山を旅してきた時、その場所の放射線濃度は通常の5倍程度でした。
しかし、私はその程度なら健康被害は無いと言うことを事前に勉強して知っていたため、特に放射線を意識することもなく、普段どおりの旅行をしてきました。
私が現地で出会った人達も、放射線を必要以上に気にしている様子もありませんでしたし、何より放射能に負けてたまるかという意気込みを感じました。
私自身、出かける前は地震や風評などについて触れたら、現地の人々を傷つけたりするのではないかという思いがあり、多少の不安こそありましたが、杞憂でした。
テレビやマスコミでは色々な情報が飛び交っていますが、それに惑わされないようにする勇気も必要だと感じました。
自然界には放射性物質が常に存在しているため、放射能の強さを0ベクレル、または人体が受けるダメージを0シーベルトにすることは絶対にできません。
ですから、「ベクレル」「シーベルト」という言葉を聞いただけで敏感に反応したり、避けたり、食べたら害になると言い出すのは、よくないことです。
それではレントゲン検査や、X線検査、放射線治療もできなくなります。
正直、この作品を読んだからと言って、読者の方々の考え方をすぐに変えることは難しいかもしれません。
しかし、私としてはこの作品を読んだ読者の方が少しずつでも放射能について適切に理解をしていただき、誤解を少しでも減らしていっていただければと考えています。