子供狩り
「ここは、狙われている。今なら逃げられる。小雪は必ず見つける。あたな達は、身の安全を確保しなさい」
言葉を選びつつ、五月は木の陰から言った。馬の嘶きが、森を駆けてくる。
「みんなあ!!」
御者か叫んだ。
「針、」
北斗他一同が、黒い馬の方をみた。
森を馬で駆ける荒技を持っているのは、大陸中を探しても、数えるほどしかいない。
針と呼ばれた、切れ長の目を持つ娘は、黒馬からふわりと着地し、北斗に耳打ちした。
「なあ、赤間谷が落ちた話は知ってるか?」
五月はその問いに顔をしかめた。
「青葉も関わってるのか」
「知ってどうするの」
五月は問い返す。
今昔森に仕掛けられた導火線が次々に、弾ける。
音は次第に大きくなり、五月と北斗にも聞こえてきた。
さすがに、そちらを気にする。煙は既に、息苦しさを与えていた。
「…決まっている、俺は逃げない」
五月は、木の陰から、五月が叫んだ。
「…相談があるの!!あたし達に力を貸して。この森を熟知してる人間がどうしても必要なの!!あなた達だって、あたちとくんだ方が少なからず、都合がいいばず」
「利用されるなんざ、まっぴらだ!!…例えあんたらでも、大人の考えることなんて信用できない。あんたらは、あんたらどやればいいよ、俺達は俺達でやるから」
針と他数名が、北斗を宥める。
「解らない訳じゃないでしょう?あいつらは、手勢を減らさずに、戦を使用としてるの、そんなの、許されると思う!?」
口論は時間の無駄。
解りあえないまま時間は過ぎる。
押し迫る紅い色。
今昔森に仕掛けられた導火線が次々に、弾ける。
音は次第に大きくなり、五月と北斗にも聞こえてきた。
「どっちについたって同じだよ。今までが今までなんだ…今度も同じたろ!?」
煙は既に、息苦しさを与えていた。
(…ぼやぼやしすぎた)ぱあん火縄が弾ける。
火縄を得意とする、雛菊がいるのだろう。
ぱあん!!間髪入れずに、誰かが撃った。
「いい加減にしなさい…捕まるよ!?」
五月が呼び掛ける。
「…逃げたいやつは行け!!」
北斗が迫り来る炎に気づき、指示を出した。
バラバラと子供達が走り出す。
それとほぼ同時…。
木に向かい数本の火矢が突き刺さる。
五月が、木陰から木陰へと移る。
木々が勢い良く燃え始めた。
炎が夜を照らす。
大木が倒れ道を塞ぐ。
逃げ場が少なくなる。
(なんなの…何故こんなにはやく…)子供狩りの情報は、今朝入った。
いくらなんでも、速すぎる転回に、歯噛みをする。
寒さを感じさせない森を初めて見た五月だった。
(昨日の今日なんて…異常よ)いらいらと、血が流れてる腕を見た。
(戦…か)平和ぼけしている自分を叱責した。
夏でも日の光の無い森を照らす炎の脅威。
消火器官の乏しいこの大陸に彼らを止める術は無い。
「人質…三百人以上…アホかっ」
五月は楽しげに唇を嘗めた。
直接聞いたわけではないが、犬を主として使う敵など予想がついている。
敵はひとりなのに、その力は、巨大。
とはいえ、その大半が動物と言うから笑わせてくれる。
理解しょうのない時間を積み重ねて対立する人々。
眼前に用意されてるであろう、包囲網。
また、人を殺すことで時代を変えようとしている愚かさ。
時代など無意味な風に流れる記号。
キュイイン…弓が唸る。
物凄い勢いで、五月を掠る。
矢羽が雪に突き刺さり沈黙する。
ゆっくりそちらを見た。
矢文と言われる手紙。
巻き付いた手紙を躊躇い無く開いて、読む。
半目が最後に行くにつれ開いて行く…。犬の遠吠えが、空を鳴らした。
「ざけるな!!」
読み終えた手紙を握り、血相を変えて走り出す。
事態は急変していた。
夜討ち朝駆け。
忍者が良く使う、奇襲である。
(武士も落ちぶれたわね、忍びの真似ごとするなんて!!)苦渋の笑みを噛みしめて、雪道を走る。
春は来ない。
雪はやまない。
この世界に、平穏は訪れない。
そう、仮初めの暖かさすら。
全てを壊し奪い、憎しみあい、恨みあい、そうやって、時間を紬、ただ繰り返して。
人々は心に傷をつけて…。
それでも、夢をみる。
今昔森は赤く染まる。
染まる。なにもかも燃えていく。積もった雪が無機質へと帰っていく。黒い塊は殺気を隠して森を駆け抜ける。沈黙の目が目的をある場所へと追いやる。人を狩るために利用された動物。調教師の持つ笛に操られどこまでも忠実な表情を崩さない。そんな中、信濃は立ち止まった。
「五月ぃ」
「シナ??」
名前を呼ばれ五月は、走る方向を変えた。長い髪が乱れる。
「今日は運が良い…、銀は?」
「あなたを探しに行ったのよ…まさか本当にいるとは思わなかったけど」
「…そうか、子供達は避難させたでござるか?」
五月は首を降り毒づく。
「言い訳なら沢山見つかる…」
「拙者もだ、白羽が青葉に捕まった、今、連が後を追っている…」
「急ごう、猫ヶも危ない」
五月は重々しく呟いた。
猫ヶ町には仲間がいる。
言ってしまえば、仲間が住民だ。
五月は信濃の髪を掴むと、引きずるようにして猫ヶ町へと向かった。




