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白羽

騒ぎ始めた今昔森で、えんえんと引かれた導火線に紅い毒蛇が走る。

数百年の時を経て育った大木に朱色の蛇が巻き付いた。

すべての合図が黒い主によって、潜む人々へ伝えられた。

炎と名付く紅い蛇が、我が物顔で木々をつたい黒黒としたうねりが、抜け道を探していた。

雪が熱で溶けていく。

昼間並の明るさが、森を支配していく。

総勢三百を越える人間がこの森に潜んでいる。

今昔森は大火に見回れた。

(子供狩りが始まった?…)生きとし生ける者が、騒ぎす。

(むちゃくちゃなんだ…やることが。

青葉は、)先程、荒野から森に着いたばかりの庭瀬白羽少年は、炎の広がる森を一目散に走り出す。

雪で走りづらいが、とにかく走る。

既に炎の道は出来上がっている。

(…にしたって、実行が早い)雪が降ると同時に熱で消える。

白羽は蓑と蓑傘を捨てると、更に走る速度をあげた。

腰の刀は見事な脇差し。

た着物を羽織っただけの、寒い格好。

それでも、火の熱で汗が流れてくる。

息が簡単に上がるような鍛え方はしていない。

白羽はとにかく連を追う。

今昔森が燃え始めて、そんなに時間は立っていない。

朝に近づく空が、炎に点滅する。

雪は、熱で溶け始めた。

火薬の弾ける音と同時に周りが火の海となる。

バサバサッとはためく音がして、一羽の梟が、白羽に体当たる。

「いたっ」

余りの突然さに、呻く白羽。梟は、雪の中に墜落している。

「連…近くにシナさんがいるの?」

拾い上げて白羽は聞いた。

連は、嘴で飛んできた方を差すと白羽の手か飛び立つ。

連を追い、白羽は炎をくぐり抜けた。

炎躍る雪の地に、無数の足跡だけが残っている。

そして、光に照らされた倒れた男に気づく。

「信濃さん??」

生存を確かめるため近づいて、目を点にした。

白羽の声に反応して、信濃が勢いよく立ち上がる。紅い色が周りで揺れている。

「いきなり、真夏でござるか?」


「無理なボケはやめようよ…」

「そうか」

寂しそうにつぶやいて、袖を丸めた。

「…困ったことになってるな?、森がこの有様故に…五月と銀矢も拙者達を探してると思うのだが…」

信濃は、辺りを見回し言った。

「いや、五月姉さんと銀ちゃんは僕がここにいることを知らないはずだよ。それに…頭の処へ飛ぶつもり、春日小雪を捕獲したかどうか、聞きに来ただけなんだけだから」


「拙者が知ると思うか?」


「期待してないよ」

白羽が笑顔で返した。

「ところで…なんで気失ってたのさ、誰かと闘ってたみたいだけど…?」


「犬に押し倒されたでござる。白い大きな犬でござった…」

しかし、仕掛け花火を爆破と同時に退散したと、信濃は続けた。

「それと…拙者を狙った子供数人」


「子供!?…この森の子?…連れて行かれたの!?」


「いや…戦っている間にうまく逃げたかと思うんだが」


「なんで、そんな曖昧な…五月姉さん殺される」

白羽が炎の火を頼りに足跡を見分ける。

犬が数匹子供を追ったようだ。足跡が残っている。

「…五月姉さんと銀ちゃんに、できる限りの子供を避難させるように…伝えないと…」


「あの二人なら大丈夫でござろう…こういう事態に慣れた二人だから」


「心配なのは…青葉の出方だよ…この森は最後まで生きてると思ったんだけど…甘かったね」


「拙者にはなにがなんだか分からぬ」


「僕もだよ…赤間、の二つが落ちたのが夕べの話なんだ。」




「な!?」




「四大砦が一夜で破壊されたんだ」



白羽は苦笑した。


「一体なにがどうなったでござる?…」



信濃と白羽は同時に作り笑いを浮かべて、柄に手を掛け神経を張り巡らした。


たぶん、白羽を今昔森の住人と間違えているのだろう。


「僕が近くにいるって良く分かったね?」



「なに、知り合いなら誰だって構わなかったでごさる…さすが、拙者の相棒…」



梟が、炎上空を舞う。


「…翻弄されてる…とにかく、森を抜けなきゃ…逃げきる自信ある?」

「ない…てか…無理でござるよ」

信濃が後ろにいる使者を気にかける。

2人は死角を作らぬよう背を合わせた。

熱風が身体を叩いた。

冬の筈なのに真夏を感じる。

メラメラと暴れる炎を縫って、無言の陰が近づく。次第に汗が白羽の手を濡らした。

「動いた…」

ぽつんと…白羽が言う。

声の後、数本のくないが、地に刺さった。

くないの先に2人の姿はない。

何か言い合いながら、誰かがでてくる。

後ろに、犬を何頭か連れて。

白羽は、燃える森に転がり込み息を顰めていた。

信濃はといえば気配がない。

(また…迷ったんだ)信濃の方向音痴は、天下一品だ。

犬と人はそこまで迫る。

熱さにたえながら、じっとして、敵の数をよむ。

彼らは無意識に気配を消せる玄人。

出てきた男と女のコトは知っている白羽だ。

青葉党中忍月岡光、大木幸之助…それと…。

忍犬。死の使い、死神と隠語で扱われる。調教師が調教し、飼い主が犬を使う。飼い主が調教師と言う場合が多いが、飼い主がそれ専門の人間に調教だけ頼むということもある。(厄介だよなあ…分かってるとはいえ…)今昔森の子供だけを狩る為だけに用意された犬や人間の数を考えて、ぞっとする。しかも、あまり顔を合わせたくない2人もいる。庭瀬白羽は、争いを好まないが、この世界それでは生きていけないことを肌で感じている。日ノ国を四六時中走っているだけの経験はつんでる積もりだ。それでも、しつこい、獰猛、最悪の三拍子揃った使者達を振り切るには相当の集中力を用いる。特に、光と幸之助は白羽にとって、鬼門以外の何者でもなかった。息を顰めていた所で、犬の鼻にかかれば、何の意味もない行為である。逃げ道は無い。囲まれている。少しでも踏み出すタイミングがズレれば、捕まるだろう。その後のことは、考えるだけでぞっとする。半殺しならまだ、笑えるのだろうか。ぱったりと、言い合いがやんだ。火の勢いが風に煽られて増した。

「…っ」

白羽は、顔をひきつらせる。

「…、、!」

火矢が雪に潜り込み、更なる仕掛けが火を吹いた。

呻いて、刀を抜きそのまま踊り掛かる。

犬が体当たってくるのをなんとか払いのける。

(10匹)確認しただけでそれくらい。

気配を露わにした、黒いのが後方に控えている。

「みいつけた」

光の声が実に楽しげに、白羽を捕らえた。

(なんで…僕だけこんなめに)胸中の叫びは光には通じない。

扇の骨が白羽の喉仏に刺さる寸前で止まる。

光の口元が静かに笑う。

口元の黒子とくの一にしては珍しく派手な衣装が目につく二十歳。踊り子として、有名な女だ。

「おいおい…殺すなよ?」

光に寄ってくる三十前後の男。

茶色がかった髪を後ろで結んでいる。黒の忍者装束を着ている。

「幸之助様、」

苛々と光は、彼の名を呼んだ。

「片割れだろ、白夜の居場所くらい吐かせないとな」

ざっ…光をよけて、幸之助は白羽に近づいた。

「庭瀬白羽だな?」

白羽は、なんとか間合いを計る。

「だったら…なに」

白羽めがて、犬が向かう。何とか立ち回る白羽だったが、雪に足をとられた。

「…」

その一瞬に、幸之助の蹴りが白羽の鳩尾を捕らえた。

唾液を吐き出し、崩れる白羽。落ちていく混沌で、恐怖を感じた瞬間だった。

「幸之助様、私、仕事に戻ります。」


「何を怒っている?」


「先程も申しましたでしょう!?…冬は苦手です。早く、お布団に入りたい」

ふいと、きびすを返した光を犬が追う。

幸之助は白羽を担ぎ、歩き出す。

(仕事ねえ…ガキ集めてどうするんだか)決まっている事実を予測はしているが、いくらなんでも、多すぎる。

森を焼き払ってまで、やる一大行事とも思えない。

確かに、子供狩りの実行は、最後の最後まで揉めた。

拉致した子供全てが使えるとは限らないからだ。

(とんだ…大博打だ。

何を考えているかすら見えん。

)雑魚も集まれば、処理に時間がかかる。

いったい、この催しの指揮官は誰なのか、実は青葉の人々も良く分かっていなかった。

「参った…はぐれた」

信濃はキョロキョロあたりを見回したが、炎と煙と吹雪でてんやわんやの常態だ。

このままでは、信濃自体が危ない。

森に長居はできない。

しかし、道が分からない…今に限ったことではないが、美作信濃絶体絶命だ。

木々には燃えたがり、闇が紅く光る。

「出口はどこだ!!?」

独りで騒ぐ信濃の目に、小さな子供を加えた数匹の犬が映る。

(ええいままよ!。

)とばかりに、犬を追うことにした。

すると、追い詰められた子供達がどこかに誘導されていく処を発見した。

先頭を行くのは、青葉の光と幸之助。

担がれてるのは…白羽だ。

信濃は、燃えてる木に身を隠した。

(あつい)必死で通り過ぎていく、黒い列を見送る。

(白羽…つかまったでござるか…救出せねばならん…しかしどうする…あち…)服に火の粉が纏つき燃えている。

信濃は服を脱ぎ捨て雪でそれを消した。

そんなことしてる間に、列が消える。

殺気らしい殺気もなく、道標もなく、信濃は、本題に戻る。

(ここは、何処…)森は限りなく広い。

火が回る速度からして、そんなに移動はしてないのであるが。

似たような景色ばかりの場所である。

方向音痴組にはかなりきつい脱出になりそうだった。

梟の連が再び姿を表し、颯爽と霙に変わる雪の間を飛び抜けた。

ある意味飼い主より逞しい。(…頼んだぞ)信濃は、胸中で思うのだった。

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