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猫ヶ町

宝水を無視して逃げた二人の前に、老人は姿を表した。

「猫ヶ町は!?」


「やられたな…奴らには」


「やはり、戦」

信濃がぽつりと呟いた。

誰もが戦うことを嫌えば何も起きることはないが、先に進むこともない。

だからと言って、戦ばかりでは大陸はいつか滅する。

「お主等はどうする。…、春日小雪の件はいち早く、終わらせてほしいと、お頭様からの命令が下っているが」


「そのことですが、」

五月は即座に食いついた。

「あの娘を白夜に引き入れる理由、今一つ納得いきません。」


「娘を仲間にすれば。あの男の居場所は直ぐに分かる」

九十九は淡々と言葉を紡ぐ。

「狙われているのは、あの娘じゃ。あの男が動いているなら、確保しておくに越したことはないだろう」


「やはり、意味が分かりません」

信濃がコクコク頷く。

「手段を選ぶ暇があるか。現に猫ヶ町は火の海だ。なぜかわかんらんが、それだけの財と力をあ奴は持っている。本戦まで、これ以上の被害者はだせぬ。春日小雪は、あ奴をおびき寄せるための餌になる…もっもお頭様に言わせれば、あくまでも、仲間として引き入れたいとのことだがな。」

厳しい口調でいい募る。

「…あいつは…青葉と手を組んだの?」


「裏にいる可能性があるだけじゃ、」


「可能性?既についているんでしょう」


「犬か」

九十九は苦々しく吐き捨てた。

「子供狩るついでに…猫ヶまで…」

震えた声に信濃が気づく。

「混乱に混乱を重ねて、敵も味方も分からなくし…飄々と渡るそれが奴のやり方じゃろ」


「わかってる、探して見つからないなら…それしかないんでしょう」

納得できていないだろう五月の一言に、信濃は、困惑する。

「猫ヶへ行きます、馬拝借します。九十九様…折り連絡ありましたら、

「儚」

へお願いいたします」

五月は、信濃を掴み馬に乗った。

「あやつは居ぬと思うぞ」


「それでも、奴か動いたと言うのであれば行くしかないでしょう」

馬が一つ嘶いた。

森を抜け田圃道を駆け抜ける。

煙立ち昇る、猫ヶ町まで直進する。

戦はもう始まっているのだと、馬を走らせながら五月は思った。

森を燃やし、子供を狩るという行為は、氷山の一角にすぎない。

考えてみれば、戦が頻繁になるにつれ、始まりや終わりに規則がなくなった。武士の

「正々堂々」

から忍びの

「生きるために手段は選ばず」

へ。時代は動いていた。敵の本質が、朧気な今。見えない糸に踊らされているのなら、それを操る方法も必要とされる時代。まず、なにをすべきかということを整理し取捨選択をする。それを間違えた時、己の危機を感じるのだ。と昔誰かがいっていた。信濃が五月の後ろで目を回している。もちろん、そんなことお構いなしに、五月は馬を走らせていた。予期せぬところから、不安が湧き出る。振り切ろうとして、手綱を握り馬の腹を蹴る。向かうは、白夜城ことあの小さな庵。猫ヶ町へ入り、馬を止めた。馬が仁王立ちになり、信濃がドサリと地に落ちた。五月が地へ足をつける。顔見知りが数人集まってきた。闘うも残るも彼らの意志。

「あとから、追うわ」

最後にすれ違った少女に、五月は言った。

城へと向かう。

面白いほどに時の立つのが遅い。

誰も事態を読めなかったというのか。

犬がこちらを見た。

それらを相手にせず、城へと向かう。

城もまた、火にかけられていた。

中庭を駆け抜け、離れの倉の錠に手をかける。信濃が、五月の行動を理解した。

「五月、退いていろ」

鞘から刀を抜き払い、構え錠を斬る。

「畜生…もってかれた」


「子供達も心配でござるが」


「百合は」


「奴が持って行ったのでござろうか?」


「……」

ここに猫ヶ町住んでいるのは、下っ端ばかり。

潰したところで害はない。

たまたま、九十九が閉じこもっているのを嗅ぎつけただけなのだろう。

「わからん…奴の考えることは」

五月が無言になってしまったので、少し気まずい信濃だった。

佐久間の話になると、大抵が閉口するか罵るか。

信濃だって余り話したくはないが、過去と割り切ったのは、白羽だった。

集められた四人の共通点にも最近気づいたばかりだ。

共通点に気づかなかったあの頃が少し懐かしいきもする。

ただ、命をうけ、仕事をしながら、笑ったり泣いたり、騒いだりしていたころが。『お頭に

「春日小雪を仲間に」

と言われた頃から、なにかが崩れた気もする。

五月姉さんは必死になるそぶりはなかったけど、隠れてなにやらやってた気もするし、銀ちゃんは銀ちゃんで、いつもすんなりこなす仕事を長引かせている。

シナさんは方向音痴だから、仕事に出る度五月姉さん達と離れてしまうからなにしてるか知らないけど。

』たまに会う白羽がぼやいていたのを思い出し、思わず唸った。

「なに?」


「あ、いや、白羽を助けねばと」


「見捨てたあんたが言う台詞?」


「い、いや…連が追いやすいようにと」


「梟は朝は役立たずでしょ」


「拙者の梟を甘くみるな。朝でも飛べるようにだな」


「滅茶苦茶怪しいじゃない!」


「すまない…」

見捨てたわけではないが、そう思われても仕方のないことをした。謝ってすむ問題でもない。

「明日には誰か死ぬ」

ぽつりと五月は言って、歩調を早めた。

明るい話題もないものだから、気を抜く暇がない。

(五月も疲れてるだろうに…)まあ、雪の中であり得ない出現をし、酒で息吹き返した奴が言える義理もないが。

一旦倉から離れた。

雲が開きゆっくり朝を告げる。雪はやんでいた。五月と信濃は、白夜城からでると

「こづち」

へ足を向けた。

「こづち」

前で何か大切なモノを奪い去られたように、胸にぽっかり穴があく。

五月は、信濃の袖を掴んだまま、炎に焼き払われそうな暖簾を潜る。


部屋の中に隠して置いた火薬に火がつき、こづちは業火の中にある。


引き出しを手早く開け、風呂敷に包まれた小太刀を取り出すと、信濃を掴んだまま、二階の屋根に出た。

次から次へと、炎が踊る。


「…錦と(ユカリ)…をどうするつもりだ?」



信濃の問いに、五月は


「紫はあんたの所持でしょ?」


と間髪入れずにつっこんだ。


錦、紫、百合とは、妖刀であり銘刀である。

昔々、絢文(あやふみ)と呼ばれる腕の良い刀師が死に際に生み出した10本の刀。その銘刀が、妖刀と名を変えたのは、

「月影乱」

の真っ直中。

諸国で大量虐殺を繰り広げたのである。

持ち主は、武将だったり忍者だったり、名もない美術商人だったり様々だった。人びとは

「絢文の呪い」

であるとか、

「神罰」

だとか言ったが、別になんてことはない。

世が世であったために、忍び達が流した、嘘である。

10本の刀自体存在するものの、人を操ったり、なんら刀に能力が備わってる訳でもない。

ただ、その見事な刀を集め、使いこなそうとする輩は後を立たない。

五月と信濃の二人は、特殊部隊として命を受ける前まで、刀を探していた時期がある。

見つけた刀は三本。

先程述べた、紫、百合、錦である。

ほかの刀の行方は分かっていない。

青葉下忍もその情報が知れていて、持っていったのだろう。

九十九には、倉に置いてあることを言っていない。

なぜなら、九十九が帰ったのはつい最近、茶飲み友達の雨水に嫌われてからだ。

誰もいないからと、今昔森の子供達の収容所にしていたのがバレて里親探しが急に忙しくなり、すっかり伝えることを忘れていた五月。

刀が見つかったのは、夏の頃。蛍飛び交う戦禍の中で。信濃は、五月に言った。

「こいつは良いおなごと推薦できる」


「あたしには、さっぱり」

五月は、百合と錦を抱えた。

「子供達…上手く逃げたでござろうか…」

小さくため息をつき、寒さに気づいて二人は苦笑する。

火は広がるだけ広がって踊っているのに。

「鴉主 の到着が少し遅かったら…あたしも火の中だった。」


「そうでござるな」

猫ヶ町の民家屋根を渡る二人に火の粉は舞う。

「朝でござる」


「分かってるわよ、言われなくたって」

二言三言話してから、どちらともなく無言になる。

喋ることは山ほどあるのかもしれない。

二人は町を出て、雪道を歩く。

今昔森は赤く点滅する。猫ヶ町と今昔森は一夜にして落ちた。

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