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宝水

「おや…奇遇ですねえ」

飄々とした声とともに現れた笑顔の男が、五月と信濃の前に立ちはだかる。

「金子宝水…何用でござる?」

問う信濃に、金子宝水と呼ばれた男は変わらぬ表情のまま、黙視した。

「用がないなら通して頂けませんか?」

五月の押し殺した声が怖い。

「用という用もないですけど。私に言わせると…邪魔なんですね。君たち」

宝水は軽い言い回しで、答える。

おもしろくなさそうに、五月は身震いすると、宝水を睨み付けた。メガネの奥瞳が冷ややかである。

「あたしには、あんたがじゃまでありす」

「変な言葉だね」


「変とは失礼やろ?」


「いや…十分変でござる」

信濃の呟きに、宝水が小さな笑いを漏らす。

「うるさいわ!!青葉の鬼畜!!」

怒声が、炎を支配した。

投げつけられた、鉄扇が雪に沈む。

飛びのいた宝水に、信濃と五月が切りかかった。

「な?!」

驚愕の声を上げた宝水を後目に、二人は一目散に駆け抜けた。

(はなっから…戦意はなかった…そういうことですか?)胸中で問いかけて、宝水は雪に片膝をついていた。

「…それで、貴方はいつまで底にいるつもりです?」

皮肉に笑う宝水は、雪に片膝をつけたまま後ろの気配に聞いた。

「貴方の考えでは、関わりあるものには通用しないと思うのですが」

雪を払い立ち上がる。

「そうか?」


「速めに別のことを考えたらいかがです」

「いや、予定通りだ」


「予定通り、それはまた」

宝水はバカにしたように言い返す。男は眼鏡の奥から殺気を漂わせた。

「おお、怖い怖い」

わざとらしく小袖を丸めて、こちらに戦う意志のないことを示す。

「ところで、貴方の予定だと…この森に子供は今の時点でいない予定でしたが?」


「既に終わっている。」

男は、それだけ言い去ろうとする。

「ちょっと、お待ちなさい」

男が動きを止めて、宝水を見る。宝水は不敵な表情を見せて続ける。

「いくら完璧主義の貴方でも、全ての砦から子供を回収するなんて芸当ができるはず無いと…私は思いますがね」

素早く犬が宝水を睨む。

「貴方という人は、肝心なところを言わない。貴方が関わる事件があやふやなのは、独断で動き本音を喋らないから…今に、犬にも見放されますよ」

男は、なにも言わずに姿を消した。

姿を消したといっても、何か特別なことをした訳ではなく、宝水の前から立ち去ったというだけだ。

漂ってくる灼熱の炎に、犬達はなにを考えているやら。

溜め息をついた宝水は、燃える森を見つめ苦笑するしかない。

「金子様」


「光か」


「いいえ…光姉様は幸之助様と子供の誘導に回っております」

クスっと徒っぽく笑い、光に良く似ているがよくよく見れば胸のない目尻に泣き黒子の女装青年が、先程、男が去った方向から出てきた。

「社…」

宝水は、驚く様子もなく、青年の名を呼ぶ。月岡社は、光の双子の弟である。

「あのような、お方を良く青葉様が信じましたね。」


「信じてはいないでしょう。騙し合いの世の中ですから」


「あーあ、まぁた、戦かあ…やっぱり、男と寝なくちゃなんないのかな〜光姉様のせいで」


「寝る前に殺ればよいでしょう」


「あ、そっか。そうね。」

社はケタケタと笑った。

忍びが男と寝るなんて話は、情報収集のため稀にあるらしい。

気になるなら、本格的歴史小説を漁ってみてはどうだろうか。

と、とりあえず、フォローして先に進む。


「それで、あの人は?」




「すれ違いませんでしたか?同じ方向へ消えたのに」




「あら、気づかなかった…おもしろいこと、お伝えしようかと思ったのに。」



口元に手を当てて、うっすらと目を細めた。

身のこなしが女である。


「金子様お聞きになります?」




「お喋りですね、あなたも」




「犬に伝えても、あの人に届くかしら」



宝水は苦笑するしかない。


「なにかな、一体」




「それがですね…」



社が赤い唇で囁いた。


「おや…犬と遊んでいる場合ではなかったようですね」



二人の陰が消えると、残された犬が何事もなかったように散る。


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