1ー5 「二度目の旅へ」
カグヤのいう準備とは、「心」の準備ではなく、「覚悟」の準備だ。
旅には必ず危険というものがある。物を盗まれることもあるし、人や魔物に殺される。
そんな可能性を消すために――
「殺すことに躊躇う必要はない」
目を瞑り、カグヤは自分に言い聞かせている。
エレメンは困惑し、ルークは苦笑いを浮かべる。
「物騒なこと言ってますね」
「あれがカグヤ君の準備だよ。少し変わってると思うけどさ」
「少し?」
たしかに変わっている。だが、こうすることでカグヤはあらゆる生命体を殺しても罪悪感を覚えることはない。
「よし大丈夫。二人は外で待ってて」
「了解」
「分かりました」
目を開けて、ソファから立ち上がり自分の部屋へ向かう。ルークとエレメンは、家から出てカグヤを待つ。
廊下を歩いていると、爺やが刀を持ってカグヤの部屋の前にいる。
刀を部屋に置かないで持っているということは、カグヤが旅をするということを分かっている証明だ。
「爺や」
「坊ちゃま。部屋は綺麗にしておきました。話は終わりましたか?」
「うん。部屋の掃除ありがとね。……ごめん。また一人にさせちゃうけど、必ず帰ってくるから」
「私は大丈夫ですよ。坊ちゃまの帰りをいつまでも待っていますから、楽しんできてください」
爺やは持っていた刀をカグヤに渡す。
カグヤは刀を腰に差して、爺やと玄関へ向かう。
「行ってくる」
カグヤは爺やに笑顔を向けて外に出る。
「いってらっしゃいませ」
爺やも笑顔を向けて、カグヤを見送る。
×××
家から出て、カグヤを待っている二人の元へ向かう。
「お待たせ」
「来た来た。カグヤ君、君はどこに行きたい?」
「どこって……決めてないの?」
「一応、決まってますがカグヤさんの意見も聞かないとダメだと思ってですね」
「とくにないから決まってる場所でいいよ」
なんの理由もなしに青空を見上げる。なぜ人は、急に空を見上げるのかとカグヤは思う。
「カグヤさん?」
「ああ、はいはい。それでどこに行くの?」
「行けば分かるよ」
瞬きをすると、どこかの路地裏が視界に入る。
一瞬だが、ここに来る前、カグヤは三人の周りに青い光が見えた。
つまり、誰かが転移魔法を発動したことになる。
カグヤは絶対に無理であり、エレメンは魔法は使えるが転移魔法は使えない。
となると、ルークが転移魔法を発動したことになる。流石は世界最強だとカグヤは感心する。
「フレイス王国ではないことは分かる。……ヘイノス王国のどこか?」
「よく分かりましたね。ヘイノス王国のアウテルです」
「あー、なんとなーく思った」
三人がいる場所――「ヘイノス王国」は観光業が世界一と言われている。
もちろん、事件は起こる。
主に街――「アウテル」では、窃盗が一番発生する。
「ここに来た理由は?」
「とある人に依頼を受けたんだ」
「依頼?どんなの?」
「暗殺らしいですよ」
「うっわ、めっちゃ面倒じゃん。なんでその依頼受けることにしちゃったん?」
観光客が多い国で暗殺とは、熟練の暗殺者でも難しいことだ。なぜ暗殺者ではないルークに依頼を頼んだのか、一番の謎はルークがその依頼を受けたことだ。
「暗殺対象者の行いが酷いらしい」
「例えば?」
「カップルの男性を殺害後、女性に性的な暴行。その女性は四肢欠損状態の遺体で見つかった。それもゴミ箱の中」
「よく見つかったね」
「やばいですよ」
三人は一度目の旅で慣れてしまっているのか、怒りという感情が出てこない。
こういう事件には何度も遭遇している。
「似たような事件が多くて、簡単に言うとやばい変態」
「依頼主は目撃者ですか?それとも被害者ですか?」
「被害者。意識がなくなるぐらいに殴られて、目の前で恋人が……っていう」
「なるほど。今日、実行するってわけじゃないよね?」
行きたい場所がなくてよかったとカグヤは思いながら、今日するかしないかの確認のためにルークに聞く。
「明日にする。二人にも協力してもらうからね」
ルークの言葉にカグヤとエレメンは耳を疑う。
「俺たちも?」
「え?」
「僕一人だと無理だと思って。勝てないかも」
ルークは自分が世界最強だとは思っていない。自分よりも強い存在がいるかもしれないと考えているらしい。
だから自信があまりない。
「君に足りないものは自信だよ。いずれ君よりも強い存在が現れる。だけど、今最強なのはルーク。君だ」
「ですね。……って何回も言ってますよ。私とカグヤさんが協力しなくても成功できます」
これはルークに協力しないでだらけるという作戦だ。励ましの言葉は嘘ではなく本当だ。性格はそこまで腐ってはいない。
「でも……」
「大丈夫だって。暗殺なんて何回やったか覚えてないぐらいしてきたじゃないか」
「失敗したことないですし」
暗殺は何回目だろうか。暗殺対象者からの暴言、命乞い、殺意などを三人は体験している。
そして、何回もしていると慣れてしまう。殺人は慣れてはいけないものであり、後戻りはできない。
後悔や罪悪感などといったものは、そこら辺に捨てるべきだ。でないと、生きてなんていけない。
「……そうだね。一人で頑張ってみる」
ルークは決心した。
「じゃ、適当に宿を探そう。疲れた」
「賛成です」
路地裏で三人が話し合っている状況。
他人からして見れば、二人の少年が一人の少女にやらしいことをするという感じになってしまっている。
「予約してあるよ」
「マジ?」
「マジだよ」
「ありがとうございます。探す手間が省けました」
「ついて来て」
ルークを先頭について行くカグヤとエレメン。
路地裏から出ると、他国からの観光客がたくさんいて、賑わっている。
「やべえ、下手したらはぐれる」
「こんなにたくさんいたらそうなりますね」
「大丈夫だって。行こう」
トレヒットと比べるとアウテルは、はぐれる可能性が高く、危険だ。
見回り騎士の仕事が大変になるだろう。
(人が多い場所、苦手なんだよなー)
カグヤは、そう思いながら、ルークについて行く。
×××
カグヤとエレメンは、宿を見て絶句している。
「二人とも、どうしたの?」
「あー……すごい」
「ですね」
圧倒的な存在感を出す宿にカグヤとエレメンは語彙力を失う。十階はある宿に泊まることは三人にとって、初めてだ。
「早く入ろう」
「う、うん」
「はい」
中に入ると、再びカグヤとエレメンは絶句する。
広い。広すぎる。
「ほら、部屋に行くよ。来て」
ルークが鍵を持って階段を上る――ことはなく、一階の部屋に向かっている。
「せっかくなら、高い方がよかったんですけどね」
「同じく。でも、休めるならいいや」
カグヤとエレメンは、少しがっかりしながら、ルークについて行く。
「がっかりしてる?」
部屋の前に着いたルークは二人に聞く。
「少しだけだよ。どうせなら高い部屋にした方がテンション上がると思って」
「なるほど。じゃあ、また今度にしようか。一回だけってわけじゃないから」
「ありがとう」
ルークの器の大きさに感謝する。
部屋の扉を開くと、カグヤとエレメンのテンションが上がった。
「うわっ!広い!広い!」
「ベッドに突撃です!……あー、最高です……」
「俺も、とーつげきー……柔らかい」
エレメンがベッドに飛び込むとカグヤも刀をテーブルに置き、ベッドに飛び込む。
カグヤが泊まったことのある宿屋の中で一番が更新された。三人では、もったいぐらいの広さで、何よりベッドがとても柔らかいというのに好感を持った。
「昼食はどうする?」
「そうだった。あれ?メニュー表あるじゃーん」
カグヤは、ベッドから降りて、テーブルに置いてあるメニュー表を見る。
「どれどれ……品揃えすげえ」
「私にも見せてください。おお、これは悩みますね」
肉料理や魚料理、スイーツなどがあり、朝食セット、昼食セット、夕食セットというものがある。
「おかわり無料だから、たくさん食べられるよ」
「え!?マジか!すんげえすげえ!」
「最高じゃないですか!」
カグヤとエレメンのテンションが更に上がる。
「『VIP』を選んだからね」
少し?の間、この作品を停止?させます。
いずれ再開?するので、すみません。




