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きみアホリック 〜なにもなくても、愛してる〜

作者: 西浪

 穏やかな昼下がり。

 ベッドに寝そべり、君の寝顔を見つめる。

 無防備な体勢、ゆるく瞑られた目元、小さな口。

 どこをとっても愛くるしい。


 見つめているうちに、君はぱちりと目を開いた。

 僕に比べたらずっと小さい体で、めいっぱい伸びをする。

 あ、大きなあくび。何の気なしに、口の中へと指を入れてみる。


 かぷ、と噛みつかれた。


 「くゎ……」

 思わず声が漏れる。

 独特の痛みがクセになる。

 まだ寝ぼけている君は、僕の指をちうちう吸っている。


 かわいい。

 かわいい。

 かわいい。


 指がざらりと削られていくのを感じながら、僕は悶絶した。

 こんなに愛らしい存在が、僕のそばにいてくれるなんて。

 興奮のあまり、顔が熱くなる。

 好きが湧きあがって、とめどなく溢れる。


 鼓動が速まる。

 呼吸が上がる。

 ぴこぴこ動く手に触れた。

 嫌な顔ひとつせず握らせてくれるのが嬉しい。

 むしろ嬉しそうで、愛おしい。


 初めて会った日を思い出す。

 言葉は発さないけれど、君は確かに泣いているように見えて。

 小さくて心細そうで、一分でも一秒でも僕が近くにいなくちゃだめだった君。

 今は逆だ。

 君がいない時間なんて考えられない。

 僕はすっかり、だめになってしまったみたいだ。


 首筋に顔をうずめる。

 堪らない。

 君の体温も匂いも、何もかもが堪らない。




 大好きだよ。

 ずっとそばにいてね。


 いつまでも一番大切な、


















































































 僕の愛猫。










 「猫かいな!!!!!」

 勢いよく投げつけられたツッコミをかわすように、ナーニャを抱き上げる。あぁ、なんてかわいいお顔。思わず鼻をつき合わせた。

 「何があかんねんッ!んーふふ、かわいいねぇえ〜?ミルクティベージュ似合ってるよぉ♡あーかわいっ!キャワイィ゛ッ」

 「いや、あかんくはないねん。むしろええことやねん。お前と戯れるナーニャ見てんのも好きやねん。でもな、空気感が甘すぎんねん。なんや今のポエム。なんや毛色をヘアカラーみたいに。怖いねん」

 「それはしゃあないやん。そっかヤキモチか!ごめんな、お前とはこれからも友達でいたいんや」

 「怪しい方向に進めんなッ!」

 なぁん、と鈴の鳴るような声が響く。

 なんなん鳴くにゃんこで、ナーニャ。

 今家に来てるこいつと一緒に拾って、ペット飼育可能な物件に住んでいた俺が飼うことになった。

 あったかくて柔らかい、ちっちゃくて重い命。

 あぁかわいい。無理。溶けちゃいそう。

 ふわふわの毛並みに頬をすりつける。

 「んふ、……うふふ」

 「…まぁ、幸せならええねんけどさ」


 「とんだ中毒者がいたものよのぅ」


 どこかから聞こえてきた声が、俺の幸せに水を差す。ナーニャを抱えたまま見渡すと、網戸の外に大きな白猫が。

 「……お前の声?」

 「あんな偉そうな声出えへんわ。喋る猫なんとちゃう?飼い主にえらい教え込まれてんねやなぁ」

 「誰がオウムだ、このクソガキ!」

 「おぉ、やっぱ猫の声や。上手いな」

 友達が網戸に近付き、白猫の顔を覗き込む。白猫は少し顔をこすると、しぴぴっと耳を掻いた。そのまま前足でナーニャを指差す。思わず隠すように自分の身をよじった。

 失礼な奴め。

 「んやねん」

 睨みをきかせると、白猫は俺の首筋を眺めながら口を開いた。





 「そやつ、猫娘だろう」






 「…初めて会ったうちの子を妖怪扱いか!?失礼も大概にせえ、どこの猫じゃお前はッ」

 友達が網戸の縁に掴みかかって威嚇する。多少の迫力はあったらしく、白猫はたじろいだ。偉そうなのは言葉遣いだけらしい。

 「じッ、事実を教えたまでだ!それを証拠に、そこのお前は骨抜きにされておるだろうが!」

 俺?


 ナーニャと顔を見合わせる。きゅるきゅるの瞳に自分の顔が映った。へへ、かーわい。

 「大体なぁ、猫娘って架空の妖怪やろ?昔で言うたら猫に顔やら性質が似てる女の子……ほーん。

 全然違っとるやないかいッ!!」

 スマホ片手に、また網戸に掴みかかる友達。ぴゃっと跳ね上がった白猫が、上ずった声で反論する。

 「妖怪の全てが人に認識されとるわけなかろう!お前らの知らん妖怪なんぞゴロゴロおるわ!」

 「へー。ほなお前も妖怪か」

 「そのうち猫又になるだろうて」

 「なんや、メジャーどころかいな」

 「なんじゃクソガキ!そやつの首の後ろを見てみろ、肉球の紋様がついておろうがッ。妖気に当てられて、中毒にされとる証拠よ!」

 スマホを首に回して写真を撮り、拡大してみた。くっきりと赤く肉球の跡がついている。


 ──こんなところに猫パンチを食らった覚えは、確かにない。

 跡の色は、まるで朱墨のよう。ただの跡がこんなに赤くなるはずもない。


 だからってこの肉球型を紋様と呼ぶのは違う気が…そんなことより、

 「なぁぁぁあ肉球の跡までかわいいってどういうことぉ?どゅふッ、うふふふッ」

 「…確かに重症かも知れんな」

 「そうだろうそうだろう。ま、特に害はないがな。

 その猫娘の特徴は、中毒にした者と寿命を共有することだ。既に人間並みの寿命を手にしておる。つまりだ、そこの男が死ねば──」

 「あほうッ!!余計なことは言わんでええ、いてまうぞ!」

 狂暴なお猿のように網戸を揺らす友達。シャーッ!と本格的に威嚇してやれば、白猫の毛並みがざわざわ逆立つ。俺も後ろで威嚇してやると、目にも止まらぬ速さで逃げて行った。




 ナーニャを抱っこしたまま、ベッドのふちに腰掛ける。布団が沈む感覚とともに、友達の声が降ってきた。

 「ナーニャ、妖怪やってんな」

 「…………」

 「でも寿命長いとか嬉しいやん、俺好きやで?猫娘。五期とかさ」

 「……ぐすッ」

 「お、お前泣いてへんか!?」

 「…………や」

 「おん?」


 「最ッッッ高やぁ!!!」

 ベッドの上でぴょんぴょん跳ね上がる。戸惑い顔のまま反動で飛び上がる友達に向き直り、ナーニャのやわやわな顔に頬ずりをした。

 「妖術なんかなーんにもなくても大好きやよぉ!!寿命が一緒なんやってぇー!嬉しいねぇ?ずっと一緒にいられるねぇぇ〜!俺もっともっと健康に生きるからねぇー!!!」

 「……ブレへんな、お前」

 友達は半ば呆れたように笑いながら、気が抜けたと言わんばかりにベッドへ倒れ込んだ。



 ブレないだって?

 当然だ。

 だって俺は、元からナーニャ中毒なんだから。



 

※当初かけていた予約投稿を取り消して色々大幅に手直しをしていたところ、いつの間にか投稿ボタンを押してしまっておりました。

 最初に読んでくださった方、内容が大幅に変わっております。

 なんなら多分書きかけだったかと思います。

 折角早く見つけてくださったにもかかわらずご迷惑をおかけし、大変申し訳ありません。


 これを最大のやらかしとしておきたいところです…


 こんにちは。

 西浪です。

 連載中の作品の箸休めに、短編を書きました。

 短編も短編、超短編です。

 (連載中のもちゃんと構想練ってますよ!!!)


 いつもは書籍っぽい書き方を意識していますが(=縦書きの方が読みやすいかも知れないような書き方)、きみアホリックでは「Web小説っぽい」に挑戦してみようかと思いまして。

 といっても、


 ○タイトルを長めにする

 ○改行をたくさん入れる


 の二つくらいなのですが。

 (よくある「…」か「……」か、というのは点々三つ分の間や六つ分の間を表したいので普段からあまり意識していません。)


 いかがだったでしょうか。

 少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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