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鳥は空を忘れた

青い空を、鳥のように飛べたら。


そんな夢を一度でも抱いたことがあるなら、今の彼女を見て、何を思うだろうか。


====


「なんか……静かすぎるな」


悠真は、周囲の気配を探りながら呟いた。


放浪団がたどり着いたのは、山間の小さな村だった。地図にもほとんど載っていない、名前すら曖昧な集落。にもかかわらず、周囲に人気がない。


「人の気配はあるけど……なんだ、あれ?」


ザイドが視線を向けた先に、村の広場があった。


その中央に――大きな鳥籠のような檻。そして、その中に一人の少女。


透き通る白い髪。背中には畳まれた翼……しかし、それは見るも無残に損傷していた。


「堕天族……?」


セラが顔をしかめる。


「違う。ただの堕天使よ」


「……ただの、ってなに」


悠真が思わず突っ込むが、少女がこちらを見た。その瞳は深く、そして悲しみに満ちていた。


====


「名前は?」


「……フィリエル」


囁くような声だった。


村長に事情を聞くと、フィリエルは数日前、上空から墜落するように村に落ちてきたという。翼は砕け、飛ぶ力を失った。村人たちは彼女を「天罰の使い」と恐れ、こうして檻に閉じ込めたのだ。


「ふざけんなよ……ケガ人を捕まえるとか、どんな理屈だよ」


悠真が怒ると、村長は困ったように言った。


「空から堕ちた者は、災厄の印……そう伝わっておりましてな。神の怒りが村に降る前に、閉じ込めるほかなかったのです」


「……バカバカしい」


セラが吐き捨てるように言った。


「飛べないだけで罪人扱い? 誰かの価値を決めるのは翼じゃないでしょうに」


「ふむ、ならば飛ばせてみせるか?」


バスがぼそりと呟いた。


「砕けた翼でも、飛ぶ手段はある。空を知る者ならば、きっと……」


====


夜。檻のそばに立つ悠真に、フィリエルが囁いた。


「……あなたは、なぜ私に構うの?」


「うーん。困ってるやつ見て放っとけるほど、冷たくないから……かな」


悠真は檻越しにしゃがみ込む。


「飛べないって、そんなに辛い?」


「……空は私のすべてだった。生まれてからずっと、風の音と雲の形だけが私を包んでいた」


「でも」


フィリエルの声が震えた。


「今は……空を見上げるのも怖いの」


悠真は、焚き火の炭をポケットから取り出す。村人に黙って少しだけもらってきた。


「じゃあ、見なくていいよ。俺たちと一緒に歩こう。空が怖いなら、地に足をつけて旅すればいい」


「……あなたたち変わってる」


「よく言われる」


彼は照れくさそうに笑った。


====


翌日、村に問題が起こる。


山から魔獣が現れ、家畜を襲い始めた。


「くっ、タイミングが悪すぎる!」


ザイドが剣を抜き、セラが詠唱を開始する。


「私も行く!」


檻から出たフィリエルが、飛べない翼のまま村の中央に立った。


「ダメだ、君は――」


「飛べなくても……戦える!」


叫んだフィリエルは、拾った槍を握りしめる。


翼は折れても、誇りは折れない。地を蹴って魔獣に立ち向かう姿に、村人たちは目を見張った。


「……飛べなくても天使だな」


悠真がそう呟いたとき、魔獣はバスの打った杭とセラの魔法により封じられ、ザイドの一撃で討ち取られた。


そして、フィリエルは、最後まで仲間として戦いきった。


====


「……私は、空を忘れた。でも……あなたたちとなら、歩いていける」


フィリエルがそう言って微笑んだとき、悠真は小さくうなずいた。


「じゃあ、行こうか。放浪団へようこそ」


白い翼を持ちながらも、空に背を向けて地に立つ少女。


その名はフィリエル。


翼をなくして仲間を得た――そんな夜だった。


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