猫耳魔法使いと呪われた森
霧がかった森の中、木々がざわめく。
「うぅ……空気が重い……というか、息苦しくない?」
悠真が顔をしかめる。
ノイが「ノイ……」と小さく鳴いた。
「ここが呪われた森か……。妙に冷えてるな」
バスが言い、ザイドが鋭く周囲を見渡す。
「……森そのものが生きているような、そんな気配だ」
カンナの村を出た彼らが次に訪れたのは、「フェルネの森」――だが、そこは今や入った者が帰ってこないと噂される呪われた地だった。
「それでも進むのか?」とザイドが聞くと、悠真はうなずいた。
「この先に小さな村があるはず。そこに魔法使いがいるって聞いた。呪いの元凶が何であれ、その人の力が必要だと思う」
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森の奥へ進むにつれ、影が濃くなり、道なき道へと変わっていった。何度も木の根に足を取られ、霧が意識をぼやけさせる。
「ぐ……こりゃ確かに、精神にもくるな……」
「ノイ〜……」
その時、唐突に霧が晴れた。
目の前に現れたのは、古びた石造りの小屋。そして、その前に立つひとりの少女。
黒いマント、鋭い緑の瞳。そして何より――
「……猫耳?」
「は? 見て分かんないの? 魔法使いだっつってんの!」
「思ったよりノリが軽い!?」
少女――セラ・ニーニャは、自称「魔法の天才」であり、同時に「この森の主」だという。
「森を呪ってるのは、私じゃない。ただ、原因を探ってたら、勝手に魔女って呼ばれるようになっただけ。まったく、やってらんないわ」
「でも、あなたが無事ってことは、ここで生活できるってことだよね?」
「まぁね。霧と呪い、そして、あいつらの動きを読めれば、なんとかなるし」
「あいつら?」
セラは、ふっと表情を曇らせた。
「森に棲みついた魔物たちよ。霧を媒介に人の弱さを吸い上げてる。近づくほど、自分が一番ダメだった記憶に引きずられるの」
「メンタル攻撃かよ……!」
「しかも最近、核みたいな存在が現れたの。そこを壊さなきゃ、この森の呪いは消えない」
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悠真たちはセラの案内で、森の最深部へと向かった。
途中、ザイドが動けなくなった。
「……民を見捨てた、あの日が……」
悠真が肩を貸す。
「一人じゃ抜けられない霧だよ。でも、手をつないでれば、見失わない」
セラが「……バカね」と呟いたが、その声はどこか優しかった。
そして、最深部――
そこにあったのは、人のような姿の影だった。
「自己否定の集合体よ。生まれた原因は、おそらく……この森に捨てられた、ひとりの少女の記憶」
セラの瞳に影が映る。
「……私のことよ」
「え?」
「昔、村から魔女と呼ばれて追い出された。森で泣き叫んで、その記憶が、魔力が影になったの」
その時、影が暴走を始めた。
悠真が前に出る。
「セラ、あんたはもう一人じゃない!」
「……っ!」
セラは魔法陣を展開した。
「《光屑よ、真実を暴け――ルクス・ディスペル!》」
炸裂する光。影が悲鳴を上げて消える。
霧が晴れ、森が静かさを取り戻した。
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「……ありがと。でも別に、仲間になるってわけじゃ――」
「セラ、行こ?」
「は?」
「一緒に旅しよう。魔法使いがいたら百人力だし、何より……あんた、放っとけない」
「……あんた、バカでしょ」
だが、セラは小さく笑って言った。
「……まぁ、悪くないかもね。こんな馬鹿たちの中なら」
「ノイ〜♪」
こうして、猫耳魔法使いが加わった放浪団。次なる地は、小さな村と空飛べぬ天使の話――