炎とトカゲと元王子
「……でさ、何をどうしても、村の職人たちは、ハンマーは貸さんって言うんだよな」
カンナの鍛冶村に入って一晩。村の広場にて、バスが腕を組んでふんぞり返っていた。
「そりゃ記憶喪失のドワーフが、俺は鍛冶屋だって名乗ってもねぇ……」
「ぐ……認められるには、結果を出すしかないのか……」
「ノイ〜」
悠真とノイがあきれたように見ていると、村のはずれから騒がしい声が上がった。
「火が出たぞーっ! 森だ、森が燃えてるー!」
「またか!? この一ヶ月で三度目じゃねぇか!」
「誰か、消火の魔法を――っ!」
「消火……魔法……?」
悠真の脳裏に、なぜか浮かんだ言葉は、火ではなく竜だった。
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森へ向かうと、そこはすでに小規模ながら火の手が上がっていた。だが、村人たちは近づこうとしない。
「森の奥に……何かがいるって噂があってな」
「何かって……?」
「燃えてるのは確かだが、火の中心に誰かいるらしい。誰も近づけねぇ」
悠真はノイと目を合わせた。
「行くよ、ノイ。見捨てるわけにはいかない」
「ノイ!」
そして、バスも背後から言った。
「ふっ、男が一度火花を見たら、飛び込まずにいられるものか」
「名言風だけど、意味があるようでない!」
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火の中心に、確かに『それ』はいた。
リザードマン――だが、鱗は艶やかな黒。尾は王者のように太く、何より瞳に知性と怒りが宿っていた。
「……人間か」
その声は低く、だがはっきりとした言葉だった。
「喋った!? 喋る系モンスター!?」
「違う。俺は……ザイド=ラナクス。かつて、この地の王だった者だ」
「かつて……?」
話を聞けば、彼はこの国の辺境で、リザード族の王子として育てられたが、ある日、国が滅び、すべてを失ったという。
「なぜ火を……?」
「身を守る術だ。俺の吐く《竜火》は制御が難しい。だが、それ以外に……俺にはもう何もない」
その言葉に、悠真は胸を締め付けられた。
「……それ誰かに伝えた? 助けを求めた?」
「必要ない。俺は一人で立つ」
「だったら、なおさらだよ!」
悠真が踏み込んだ。
「一人で立てるなら、誰かの隣にも立てる。今の俺だって、ノイがいて、バスがいて、それで……何とか歩けてるんだ」
ザイドは目を見開いた。炎が少しだけ弱まった。
「お前は……弱いのか?」
「そりゃもう!」
「……正直か。だが嫌いじゃない」
その時――森の奥から低い唸り声が聞こえた。
「来るぞ、あれは……」
現れたのは、魔獣。四つ目を持つ熊のような異形の存在。
「フォーレイジ・ビースト!? あれ、ゲームで見たような……!?」
悠真は棒を構え、バスは拳を握る。だが、ザイドが先に前へ出た。
「……王子だった俺は死んだ。だが、今ここで――」
彼の口から、真紅の炎が迸る。
「今の俺を生かすのは、この竜火だ!」
ビーストの突進を、ザイドが火で止める!
悠真とバスがその隙に飛び込み、ノイが「ノイッ!」と叫んで地面を爆発させる。
「またそれか!?」
だが、その一撃が決定打となり、魔獣は地響きを立てて倒れた。
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戦いの後、ザイドは小さく言った。
「……王子でなくても、人は誰かのために戦えるのだな」
「なに名言風になってんの?」
「ふっ、俺も誰かの隣に立ってみたくなった。旅に連れて行ってくれ」
「え、あ、はい」
「ノ〜イ♪」
三人と一匹となった放浪団は、再び歩き出す。
次なる出会いは、耳と尻尾のあるツンデレ魔法使い――




