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2/12

ドワーフはハンマーを忘れた

翌朝、目を覚ますと、ベッドの横にノイがいた。


「ノ〜イ……」


丸くなって寝息を立てている。


「……なんかもう、飼ってるっていうより、同居人って感じだな」


昨夜の騒動から一夜。野盗に爆発、報酬に宿泊券。まだ夢みたいな感覚が抜けないまま、悠真は起き上がって支度を始めた。財布代わりの革袋には、銀貨が数枚。宿屋の親父が言っていた。


『こっから南に行けば、鍛冶の村カンナってとこがある。いい装備欲しけりゃ、そっちに向かうといい』


「南ね……徒歩しかないけど、まぁ行ってみるか」


ノイを肩に乗せ、地図を片手に森を抜ける。


道中、モンスターは出なかった。代わりに、道の途中でガッシャン! という妙な音が響いた。


「な、なんだ今の……?」


少し進むと、岩の陰に――


「ハンマァァァアアアアーーッ!!」


と絶叫している小柄な男がいた。


「……うわ、ドワーフだ」


分厚い胴体、筋肉質な腕、編み込んだヒゲ。そして脇に転がっている壊れたカート。どう見てもファンタジー世界の職人代表、ドワーフ族である。


「おい、そこの兄ちゃん!」


「は、はい?」


「ハンマーがない!! ないんじゃぁぁああ!!」


「……落ち着いて!? あと初対面だよね!?」


話を聞けば、このドワーフは名をバス・グリモルというらしい。


「記憶が……ないんじゃ。気づいたらここにおって、気づいたら荷車だけがあって、ハンマーが……ない……」


「いや、それ記憶喪失ってやつでは」


どうやらバスは、自分が鍛冶師だったこと、旅をしていたことは覚えているものの、自分の武器や目的を忘れてしまったようだ。


「とりあえずさ、目的地ある? 俺、南に向かうんだけど」


「む、鍛冶の村カンナか。よかろう、同行してやろう」


「え、そっちが頼む立場じゃない?」


「ノイ」


「おぉっ!? 毛玉がしゃべった!?」


「ノイはしゃべらないよ。なんとなく語感だけ伝わるんだ」


「なにその能力。ずるいわ」


そんなわけで、一人と一匹と一ドワーフは、南の道を進み始めた。


====


道中、バスはやたら石を見たり、木を叩いたりしていた。


「うむ……この岩は鋼鉄に不向き」


「何してんの?」


「ハンマーがないなら、作るまで。材料を集めるのが先決よ」


「……あ、意外とちゃんと考えてるんだ」


「当然よ。鍛冶師とは即興の職よ。火がなくとも炉を作り、鉄がなくとも代用する。すべては腕次第――」


「……かっけえ」


昼過ぎ、三人が川辺で休憩していると、草むらがガサッと揺れた。


「おっ、モンスターか?」


「モフモフか?」


「違う、来るぞ! 構えろ!」


だが、武器などない。悠真は拾った枝を構え、バスは拳を握りしめる。


現れたのは――でっかいイノシシ。背中に岩のような甲殻を背負った、まさに異世界風野生獣。


「これは……《ロックボア》!?」


「知ってんの!?」


「わからんが、なんとなくそんな気がした!」


バスが突っ込む。


拳を振り上げ、ボアの顔面にぶつける!


「おおおおおおお!! ドワァァァアアアアフッ!!」


「なんで名前叫ぶの!?」


ロックボアが転倒し、ノイが飛び上がって「ノイッ!」と鳴いた瞬間、足元でまたしても小爆発。


「うぉっ!? またかよ!」


煙の中、悠真が駆けて木の棒を振り下ろす。……当たらない。だが、ロックボアはすでに怯えて逃げていた。


「……勝った?」


「いや、これは……ノイが強すぎるだけでは」


「ノ〜イ♪」


とりあえず、悠真たちはそのままカンナ村へと向かった。


村の入り口で、バスが立ち止まる。


「なにか思い出した?」


「……いや、ただ腹が減った」


「そっちかー!」


そして三人は、鍛冶の煙立ちのぼる村へと足を踏み入れた。


旅の始まりにふさわしい、トラブルと出会いの一日。次に待つのは、炎とトカゲと、そして元王子――


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