地下図書館の夢
砂漠のような大地を越え、放浪団はかつて学術都市と呼ばれた廃墟へとたどり着いた。
かつては「サウラ・ノヴァ」と呼ばれ、全世界の知が集められていたという。だが今は、風に巻き上げられる砂塵と崩れかけた石造りの建物が残るばかり。
「なんか……ここ、昔セラがいた学院の空気に似てない?」
悠真が周囲を見渡しながら口にすると、セラはすぐに首を振った。
「似てる、けど違う。もっと古い。魔術の構造が旧時代のもの」
「この下に地下図書館があるって話、マジなんだな……」
ザイドが苦笑交じりに言うと、バスが真顔で地面に耳を当てた。
「……ある。地下に空洞。深いぞ」
「じゃあ、掘る?」
フィリエルがさらりと無茶を言ったところで、突如、地面の一部が崩れた。
「おい待って、それ死亡フラグ――ってわあああっ!!」
悠真が叫びながら落下し、それに引きずられて全員が見事に落ちた。
着地したのは、巨大な石造りの空間。
そこは確かに、図書館だった。だが、整然とした書棚の間には、何か異様なものが漂っている。
「この空気……記憶が詰まってる。書かれてないものまで、読み取れる気がする」
セラが本を一冊取り、そっと撫でた。
「これは……来訪者記録。異世界から来た人の名前、能力、消失地点……」
フィリエルが読み上げ、全員が顔を見合わせた。
「それって……俺たちのこと?」
悠真が声を震わせて聞くと、セラが頷いた。
「転移者って、偶然じゃないのかも。何か意図がある」
ザイドが、棚の奥で何かを見つけた。
「こっちには……転移装置設計図? 魔法と科学のハイブリッド……どう見ても、こっちの世界の技術じゃない」
悠真は、ふと一冊の古びたノートに目を留めた。そこにはこう書かれていた。
【No.013 YUUMA SAKAKI】
記録消失前に転移成功。転移時年齢:17。
観察対象:精神抵抗・因果干渉適性特A。
「俺の名前……?」
ページをめくるごとに、手が震えた。
実験の記録。観察対象としてのデータ。目的不明の存在を異世界に送り込む計画の一部。
「じゃあ……俺は自分の意思で、ここに来たわけじゃないのか?」
膝が震えた。その瞬間、書棚の奥から気配が走る。
「下がれ、来るぞ!」
ザイドの声と同時に、黒い影が現れた。
現れたのは、図書館を守る守護者――記録喰らいと呼ばれる魔物だった。
本を捕食し、知識と記憶を奪う化け物。しかも、その姿は曖昧で霧のように揺らぎ、物理的な攻撃が通じない。
「セラ、魔法は?」
「効かない! ……記録そのものを喰ってる。形が、固定されてない!」
「なら……記憶で固定してやる!」
悠真は、ノートを高く掲げた。
「おい悠真、危ないって!」
「こいつは俺の記録を狙ってる。なら、俺が囮になる!」
飛びかかってきた影に向かって、悠真は叫んだ。
「――俺は、俺だ! 誰に作られたって、誰の観察対象だったって関係ない!」
光が放たれた。
図書館の記憶が、悠真の叫びに反応するように、本の背表紙がいっせいに輝く。
「悠真……お前、何を……?」
「分かんないよ。でも、これがこの世界に来た意味なら、俺は知る。全部。受け止めて、生きる!」
光が霧を焼き尽くし、魔物が断末魔のような悲鳴をあげて消えた。
静寂が戻る。図書館の天井から、ゆっくりと光が差し込む。
「お前……ちょっと、かっこよかったぞ」
ザイドが呆れたように言うと、フィリエルがふふっと笑った。
「じゃあ、次は悠真がリーダー名乗る?」
「やだよ、そういうの向いてないって!」
悠真が照れ隠しに笑うと、セラが一冊の本を差し出してきた。
「これ。記録の一部をコピーした本。あなたが、なに者だったかを知る鍵になるかもしれない」
悠真は、それを静かに受け取った。
「ありがとう。ちゃんと、向き合ってみるよ」
図書館を後にする放浪団。
その背に、今も静かに知が語りかけてくる。




