エピローグ:それぞれの“勇”を胸に
(アーサー王とヘラクレスの退場からしばしの静寂が会場を包む。
円卓に戻った対談者たちは、一様に遠い目をしていた。
あすかが、ゆっくりと前に出てくる)
あすか(深く息を吸いながら):
皆さん、ありがとうございます。
そして、ここまで見守ってくださった皆さまも、本当にありがとうございます。
私たちは今日、「勇者は本当に必要か?」という問いを通して、
時代、思想、そして心の奥にある“勇”のかたちに向き合ってきました。
(対談者たちが静かにうなずく)
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義経の言葉 ― 忠義と誠の刃として
あすか:
義経さん、最後に、この問いに、今ならどう答えますか?
義経(静かに立ち上がり、剣の柄に手を添えて):
私にとって“勇者”とは、信義を貫く者でした。
戦場であれ、兄との絆であれ、自らの誓いを曲げぬこと。
だが今日、私は知りました――
勇者とは、敗れても、なお誰かの中に生きる存在でもあるのだと。
もし誰かが、私の生き方に“何か”を見出すのなら……私は、それで充分です。
(静かな拍手)
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マキャヴェリの言葉 ― 現実に立ち向かう者へ
あすか:
マキャヴェリさん、あなたにとって“勇者”とは?
マキャヴェリ(両手を組み、前を見据えて):
私は現実を語ってきた。
“勇者”という言葉には、民衆の感情が織り込まれ、支配のツールにもなる。
だが今日、老子殿の言葉と、ジャンヌ、義経、皆の想いに触れ――
私はこう言いたい。
“勇者”とは、理想を掲げながらも、現実の泥に足をつける者だ。
それは非常に、困難で、孤独で、報われない道だ。
……だが、それを選ぶ者がいるなら、私は――その者を「勇者」と認めよう。
(会場にざわめきと小さな驚きの声)
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老子の言葉 ― 柔なる者、道を知る
あすか:
老子先生。あなたの“勇者”観は、どう変わりましたか?
老子(ゆっくりと立ち、両手を袖に入れて):
私にとって、勇とは“柔”であり、“無為”であり、“調和”でありました。
だが今日、私は“逆らってでも立つ勇”にも、また一理があると学びました。
その者が己を求めず、名を求めず、それでもなお誰かのために動くなら――
その者もまた、“道”に沿う者なのでしょう。
勇者とは、力を示す者ではなく、“在り方”を示す者。
静かに世を変える者に、私は敬意を表します。
(観客の一部が涙を拭う)
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ジャンヌの言葉 ― 焔となるために
あすか:
ジャンヌさん。今、あなたの言葉を聞かせてください。
ジャンヌ(まっすぐ前を見て):
私は神の声を信じました。
その声に導かれて、民を導き、そして火に包まれました。
“勇者は必要か”――
……私は、誰かが立ち上がることを“信じられる”世界のために、勇者は必要だと思います。
それが本物でも幻想でも、
立ち上がる姿を見た誰かが、自分の足で歩き出せるのなら。
たとえまた燃やされても、私は立ちます。
(拍手が起こる。会場の空気が熱を帯びる)
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あすかのまとめ ― それぞれの中にある“勇”
(あすかが一歩進み、舞台中央に立つ)
あすか(深く、噛みしめるように):
勇者は、民のために立つ者。
勇者は、理想を語る現実主義者。
勇者は、道に沿う者であり、
勇者は、誰かの光となる存在。
私たち一人ひとりが、そのすべてに少しずつ触れることができるなら……
勇者は、今この瞬間も、あなたの中にいるのかもしれません。
(ゆっくりと舞台の明かりが落ちていく。対談者たちがそれぞれ微笑み、円卓を囲んだまま、静かに視線を交わす)
あすか:
それではこれをもって――
特別対談「勇者は本当に必要か?」
閉幕といたします。
ありがとうございました。
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(観客、総立ちの拍手。舞台はゆっくりと幕を下ろし、言葉の余韻だけが静かに残る)
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― 完 ―