源義経×ジャンヌ・ダルク&マキャヴェリ×老子〜小休憩の語らい〜
第一幕 ― 義経とジャンヌ:滅びゆく者たちの光
(あすかが小休憩を宣言し、場がやや和らいだ雰囲気に包まれる。照明は落ち着いた暖色に切り替わり、ジャンヌと義経は並んで座っていた)
ジャンヌ:(義経の方を見ながら、そっと口を開く)
……あなたの最期、聞いたことがあります。奥州で、討たれたのですよね。
義経:(うなずきながらも、どこか遠くを見るように)
ええ。家来とともに逃れ、最後には自ら命を絶ちました。
兄に背いた覚えはない。だが、“勇者”という名が重荷になったのでしょう。彼にとっては。
ジャンヌ:(静かに目を伏せて)
私も、王太子に尽くしたつもりでした。王として即位させ、祖国の土地を取り戻す助けをして……
けれど、私が捕らえられたとき、彼は私を迎えにも来なかった。
義経:(ゆっくりと)
あなたも……“戦が終わった後に、不要とされた勇者”だったのですね。
ジャンヌ:(わずかに唇を震わせ)
でも……私たちは、本物でしたよね?
戦いも、祈りも、命も、全部…
演技なんかじゃなかった。
義経:(力強く)
ええ、確かに。本物であろうとした。
だからこそ、たとえ語り継がれる姿が幻想であっても、その根にある“思い”は、決して偽りではない。
(少しの沈黙。やがて、義経がそっと口を開く)
義経:
……ジャンヌ殿。あなたが火に包まれたとき、恐くはなかったのですか?
ジャンヌ:(迷いなく)
ええ、恐かった。……でも、もっと恐かったのは、あの時、誰も立ち上がらなかったらどうなっていたか、ということ。
誰かが勇気を示さなければ、誰も次に続けない。
義経:(静かに目を閉じる)
……あなたの言葉は、まるで、もう一度“立ち上がれ”と言われているようです。
ジャンヌ:(微笑みながら)
あなたの剣も、私の祈りも、まだ誰かの中で生きてるはず。
滅びたように見えても、私たちは“始まり”だったんですよ。ね、義経さん。
(義経が初めて、少年のような笑みを浮かべ、深くうなずく)
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第二幕 ― マキャヴェリと老子:支配と無為のあいだで
(一方、円卓の反対側では、マキャヴェリと老子が静かに向き合っていた。)
マキャヴェリ:(ワインを軽く回しながら)
……東洋の哲学者は、皆静かですな。
特にあなたの言葉は、いつも静かすぎて、少し不気味に思えるときがあります。
老子:(小さく笑いながら)
それは、そなたが常に“音”を求めているからです。
言葉で民を導こうとし、記録し、体系化しようとする。
だが、真の治めは、気づかれぬものです。
マキャヴェリ:(鋭く)
だが、それでは何も動かない。
国家というのは人間の“混沌”であり、それを束ねるには、明確なルールと力が要る。
あなたの“無為”では、戦火も腐敗も止められない。
老子:(静かに語る)
力をもって混沌を制しても、さらに強い力が生まれるだけ。
争いは、争いを引き寄せる。
私は、人が“足るを知る”ようになることこそ、治めの本質だと信じております。
マキャヴェリ:(ふと、グラスを置き)
……あなたの言葉には理想がある。そして不思議なことに、それが“怖い”と思った。
私は常に現実と戦ってきた。人の裏切り、暴動、野心……
あなたのような理想は、美しすぎて、脆く見えるのです。
老子:(そっと頷く)
理想とは、脆きものです。
だが、脆きものを育てる手こそ、為政者が本来持つべき“徳”ではないでしょうか。
(マキャヴェリ、しばし沈黙。やがて、低く笑う)
マキャヴェリ:
…あなたは、私が一番“信じたくない類の人物”です。
けれど、私は…その言葉を、羨ましく思ってしまう自分がいる。
老子:(目を細め)
ならば、そなたの中にも、きっと“道”は宿っている。
あとは、見えぬことを恐れぬことです。
マキャヴェリ:(やや苦笑しつつ)
それは政治において、いちばん難しいことだ。
(ふたりは見つめ合い、静かに杯を交わす。言葉なき理解が、そこに流れている)
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幕間 終了――そして次章へ
(あすかが中央に戻り、声を整える)
あすか:
ありがとうございます。皆さんの言葉の一つひとつが、どこかで交わり、時を越えて響き合っているのを感じました。
それでは次のラウンドへと参りましょう。
「もし、現代に勇者が現れたら?」
今この時代に、皆さんのような存在が現れたら――社会は、どう反応するのでしょうか?
(照明が再び切り替わり、新たな対話の幕が静かに上がる)