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 街に近付くと、門番もこちらを認識したのか「こちらに来い」と手招きをした。

 否やはない。素直に門へと歩みを進める。

 ……が、門番は俺じゃなくてライラを見ている? 知り合いか?

 一方のライラは、門番の顔を見て顔に緊張を滲ませる。目も少し潤み、ちょっとした弾みで泣いてしまいそうだ。

 ……あぁ、なるほどね、そういうことか。そりゃ、辛いだろうな。


「ライラちゃんか? こんな朝早くにどうしたんだい?」

「お……おじ、さ……」

「ラ、ライラちゃん!?」


 門番を前に声を出そうとすると、こらえきれなくなったのか声が詰まり、その目からはポロポロと涙が零れ落ちた。門番も何が起きているか分からず、あたふたしている。

 そうだよな、言えないよな。


『村人が皆殺しにされた。おそらくあなたの家族も』


 なんてさ。

 ここは俺の出番だ。子供にこんな残酷なことは言わせない方がいい。


「ちょっといいか」

「む、君は? 見ない恰好だな」

「堅斗という。ライラを連れて逃げてきたところだ」

「逃げて? ……村に何かあったのか?」


 逃げてきたというところで、門番も察するところがあったのだろう。神妙な顔で続きを促してきた。


「村が野盗と思われる集団に襲われた。奴らは村人を皆殺しにしようとしていた。恐らく、生存者は……」


 ライラ以外にはいない、と続けるまでもなく、門番は顔が真っ青になり、膝をついて世の無常を嘆く。その口からは、恐らく家族であろう最愛の人たちの名前も聞こえた。

 ライラも泣きじゃくっている。村の出身者であろう門番に、こんな残酷な事実を知らせてしまったからか、自分の口から言えなかったからなのか、それともこの門番の家族を救えなかったからなのか、それは分からない。ただ「ごめんなさい、ごめんなさい」と小さく呟きながら、とめどなく溢れる涙を手で拭い続けていた。

 俺はこれ以上何も言えない。伝えるべきは伝えた。慰めも、今は無意味だろう。

 ただ、二人が落ち着くのを静かに待った。


 ◇◇◇


 やがて落ち着きを取り戻した門番は、詳しい話を聞かせてもらおうとこちらに話しかけてきた。


「教えてくれ。村がどうなったのかを。君は何者で、後ろに連れている男共は何者で、どういった経緯でライラちゃんを連れて逃げてきたのかを」

「あぁ、知ってる限りを話そう。このまま話し始めても大丈夫か?」

「いや、門番がもう一人いる。そいつに調書を取ってもらいながらにさせてほしい」


 そう言って、門のところにある詰所で待機しているであろうもう一人の門番を呼び、聞く体勢に入る。


「まずは君についてだ。君は何者だ? どこから来た?」


 知ってる限りとは言ったが、いきなり答えにくい質問が来てしまった。

 どうしようか……正直に「気づいたら村にいました」なんて答えても怪しさしかないし、変に「旅人です」なんて言っても「で、どこから来たんだ」となるだろう。この辺の地理なんて知らないし、適当に答えれば嘘に嘘が重なって良い方向には行かないだろう。

 ……だったらもう正直に言うしかないな。


「誓って嘘ではないと先に言わせてもらうが……俺は遥か遠くから、ライラがいた村に飛ばされたんだ」

「飛ばされ……?」

「瞬きの間に別の場所からあの村に移動したと思ってくれ」


 本当の事だが怪しさしかない。が、なにか納得感があるのか、門番は「なるほど……」とか呟いている。

 え、そういうことあるの? なるほどとか思えるくらいには一般的なの??


「君が村に急に現れたのはわかった。では、後ろの裸の男達はなんだ?」

「村を襲っていた野盗っぽい奴らだ。奥側三人は村で、手前側三人はここに来る途中で確保した」


 その言葉を聞いた瞬間、門番の目に強い殺意が宿るのを感じた。だが今はその時ではないと、自分を落ち着けるように数秒目を閉じる。再び見開いた目には、冷静な色が戻っていた。こいつプロだな……こんな風に自分を抑えられるなんて。

 追加情報として、荷車から一揃えの装備を取り出す。馬具を作る際に、念のためにと一着だけ指揮官っぽい奴の分を残しておいたのだ。


「これが奴らが着ていた装備だ。全員同じのを着ていたように見えた。武器はショートソード。荷車の一番奥の奴だけこのロングソードを持っていた」


 刀身がひん曲がったショートソード五本と、若干ではあるが装飾が施されたロングソードも出す。

 渡したロングソードを角度を変えながらじっくり見ていた門番は、「この装飾は帝国の奴らの……」とか呟いてる。まさかこいつら、地域性出ちゃうようなの持ってきたの? 馬鹿なの??


「総数は分からんが、ライラの話だと村の大部分を取り囲めるくらいには人数がいたらしい。こいつらについて分かるのはそれくらいだ」

「そうか……わかった、ありがとう。ではここに来るまでの経緯を教えてくれるかな?」

「あぁ」


 そうして、村に転移してからこの街に着くまでを語った。内容については言うまでもないよな。


「よく……よく、ライラちゃんだけでも助けてくれた。ありがとう……!」


 話を聞いた門番は、他にも言いたいことがあるだろうに、ライラを助けた事に感謝を述べる。

 本当に、ライラといいこの門番といい、良い奴ばっかりだな。そんな村があんな風に襲われるなんざ、冗談じゃない。コイツらが何をしたっていうんだ。


「いいさ。やらなきゃ俺も死んでたからな、ついでだついで」

「ついででもいい。君がライラちゃんを助けてくれたのは事実だ」


 良い奴すぎるわ!

 照れ隠しにマジレスすんじゃねーよ!


「それより君の話を聞く限りでは、後ろの襲撃者の事も含めて、領主軍の上層部に話を通さなければならない。報告に同席してもらいたいが……」


 おっと、これは休めないフラグだな?

 さすがにここから更に寝ずに取り調べとか勘弁してもらいたい。


「それについては構わんが、悪いが先に休ませてもらえないか。俺もそうだが、ライラもここまで移動してきて疲れている」

「む、それは悪かった。そうだな、ライラちゃんもいるなら逃げる心配も無いだろう。宿を紹介するから、そちらで休んでいてもらえるかな? それまではこちらで簡単に報告を済ませておこう」


 紹介という形で宿を指定するってことか。この門番やり手なのでは?


「助かる。あー……名前を聞いても?」

「ジャンだ。これを見せて宿で名前を出せば良くしてくれるだろう。夕方ぐらいに人を向かわせる事にしよう」


 そう言って割符みたいなのを渡してくる。何かがあった時のために懇意にしてる宿屋を作ってるってことだな。やっぱりやり手だな??

 だがまぁこの状況ではありがたい。こちとら文無し、ワケアリの二重苦。休める場所が確保できるだけでも御の字ってもんだ。


「分かった。それまで休ませてもらう」

「ありがとうございます、ジャンおじさん」


 ようやく落ち着いたライラは、腫れぼったい目をしながらも、しっかりと礼を言う。本当に強い子だ。


「いいんだよライラちゃん。今はゆっくり休むんだよ」


 引いてきた馬と、牽いてきた荷車と、連れてきた男達を門番に引き渡し、足を挫いているライラを背中におんぶし、ジャンへと向きなおる。


「それじゃ、後は頼んだ」

「頼まれた。そちらもライラちゃんを頼むよ」

「あぁ」


 短く返答し、宿屋へと歩を進める。

 まだこちらの世界に来て、丸一日と経っていないはずだが、体感ではもう二、三日とぶっ続けで動いてるような感がある。これ以上は我慢できない! 俺はベッドで休むのだ!!

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