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玉を潰した奴の膝を改めて叩き壊し、全員を歩けない状態に。
ひとまず安全を確保できたから『一号業務』をオフにする。さっきからずっとうるさかったんだよね、これ。まさかこういう連中が距離を置かずに何人も連なってるなんてことも無いだろうしな。問題ないだろう。
そうしてオフにしたところで、レベルが2に上がっているのに気がついた。具体的に何がどう変わったかはわからんけど。他にステータス的な数字があるわけでもなし、スキルの詳細が見れるわけでもなし。
身体能力とかが上がってたらいいなぁ……期待はしてないが。
さて、思いがけず馬をゲットしたわけだが、どうしたもんかねこれ。
実物の馬なんて、生まれてこの方乗ったことはおろか、近くで見たことすらない。たまに競馬の重賞の動画を見るくらいか。
そういうのに比べるとなんというか……低いような、太いような、なんかずんぐりむっくりというか。
でもまぁ、奴らが乗ってここまで来てたくらいだし、馬か馬に類する何かで間違いないだろう。
できればこの馬で荷車を牽いてスピードアップしたいところだが……ライラが乗れたりしないかな。
◇◇◇
「ごめんなさい、何度か乗せてもらったことはありますけど、ひとりでは……この足ですし……」
とても申し訳なさそうな顔で謝られてしまった。
「いや、すまなかった。そういえば足挫いてたな。気にしないでくれ」
望みは絶たれた。
奴らが馬を持ち出している以上、ここは夜を徹して街へ向かいたいところだが、人力で牽くしかないのか……疲労度的には十分イケそうな感はあるが、めんどくさすぎるからやりたくないんだよなぁ……。
『三号業務』があるとはいえ六人も乗せて荷車を牽けるかもわからないしなぁ……人が牽いて三人イケるなら馬なら六人イケそうな気がするんだけどなぁ……。
ライラが馬の顔や首の横側を撫でているのを眺めながら、見様見真似で俺も別の馬を撫でつつ考えていると、ふと何かが頭に湧き上がる感覚に襲われる。
なんだこれ? 馬具? 偽野盗の皮鎧とか服とか、縛ってるロープとかで作れる?
奴らが持っていたショートソードで切って、服やロープで縛って、どうにかこうにか荷車に繋げられるような構造の馬具……そんな物が頭に思い浮かんできた。これがあれば確かに荷車を馬に牽かせることができるだろう。
乗ることはできないが、隣で先導する形で馬を引けば、少なくとも俺が牽くよりも早く楽になるはずだ。
そんな知識は元々無かったはずだが、馬具の作成方法とともに馬の引き方みたいなのも自然と湧き上がってきた。これならイケる。
重量に関しては……まぁ『三号業務』が働いてくれることを祈ろう。
というか今頭に浮かんできたあれこれって、それこそ『三号業務』のおかげだろうか。そう思ってステータスウィンドウを見ると、やはりスキル欄には何も増えていない。マジで輸送関連ならなんでもありか?
ともかく、そうと決まればさっさと作ってしまおう。
月明りを頼りに、ライラにも手伝ってもらい即席馬具を作る。
「こっち持っててもらえるか」
「は、はい。こうですか?」
「そうそう、そのまま持っててくれ」
あくまで素材の保持とかの補助的な作業だが。それでも手伝ってる感があるためか、心なしかライラの表情も少し楽しげだ。うんうん、なんか作るの楽しいよね。かわいい。
そうして四苦八苦すること数十分、なんとかそれらしい物が完成した。穴あけとか縫製とかしないでもなんとかなるもんだね。
三頭のうち、一番体格の良い馬に取り付け、荷車も連結する。
残りの馬は残念ながらここでさようならだ。適当な方向、村側ではなく街の方向へ頭を向けさせ、尻を叩いて勝手に走らせる。なんとなくそんな描写をどっかで見かけた気がするからやってみたが、ちゃんとその方向に走り去ってくれた。
捕虜を縛っていたロープはほとんど馬具に使ってしまったが、五人は足が使い物にならないし、残り一人は余ったロープで手足だけを固定して動けなくする。これでなんとか街まで行けるだろう。
荷車には装備を完全に剥ぎ取られた捕虜六人だけを載せ、ライラは馬に乗せる。俺がそれを横から引く形だ。
さて、出発だが……ちゃんと牽けるか? 重すぎて馬でも引っ張れないとか、馬具とかロープ切れたりとかしない? 大丈夫?
そんなのは杞憂だとばかりに、馬は力強く歩き出した。即席馬具もちょっとミシミシ言ってるが、この感じならとりあえず街までは持つだろう。
道は月明りでハッキリと見える。このまま街まで、行けるだけ行こう。
◇◇◇
歩き始めること、早数時間。
俺は息も絶え絶えに、なんとか馬を先導していた。
何故か歩くのが速く、常に早歩きをしているような速度で歩き通していた。感覚的には時速6~7kmってところだろうか。数時間歩き通しで大丈夫なのは、きっと『三号業務』の補正ありだからだろうなぁ……短時間ならともかく、数時間もこんなペースで歩いてられるか!
っていうか馬の足速くない? 大人を六人も積んだ、めちゃくちゃ抵抗のデカい荷車を牽いて、こんな速く歩けるもんなの?
「だ、大丈夫ですか?」
「はぁはぁ、あぁ、はぁ、だい、はぁ、じょうぶ、はぁはぁ」
大丈夫とは言ったが、さすがにもうそろそろ休憩したい。
目の前に見える少し丘になってるところを超えたら休憩しよう。絶対そうしよう。
なんなら休憩じゃなくて速度落とすだけでもいい。奴らに後続があった場合を想定してできるだけ速度を出してきたが、この速度でこれだけの時間を移動すれば、奴らに捕捉されるようなことももうないだろう。
そう思っていると、ライラが丘を指差して口を開いた。
「あの丘を越えたら街まですぐですよ!」
「お、おう、はぁはぁ、そうか、はぁ、それは、はぁはぁ、よかった……!」
じゃあもういいや! 速度落とす!
自分の歩く速度を落とし、同時に馬にも速度を落とさせるように引くのを弱める。
息を整えながら、それまでとは逆にゆっくりとしたペースで丘を登っていく。
頂上に近付くにつれて、丘の向こうに城壁のような物が見え始めた。城壁があるなんて、いかにも異世界の街って感じがするな!
そして頂上に立つ頃には息も整い、街の全貌をしっかりと確認する余裕も生まれる。
ライラが住んでいたような村が周辺にあるとは思えない、全周囲を石造りの壁で覆った大きな街だ。完全な円形ではないが、だいたい直径1~2kmくらいの楕円形な感じをしている。
道は十字に伸びていて、右手に伸びるのは山へと続く道、奥側と左手の方向は平野へと続いていた。今歩いている道は細く、それと比べて広く踏み固められたような道だ。あちらがメインの道なのだろう。大きな門の数も確認できる限りは三つ、こちらの道以外の三か所に作られている。
街の内部は全体的に平坦だが、中央にデカい屋敷が建っている。如何にも領主の館ですと言わんばかりだ。それ以外だと、なんか監視塔みたいなのが何本もあるのが目立つな。更に一部区画が石壁で覆われていて、そこだけ建物の雰囲気が周囲と違っている。
「着いた……!」
「はい、着きました……!」
結局、馬車で一日という距離を、ほぼ一晩で踏破してしまった。
歩き詰めだった俺ももちろん、馬に乗っていたライラも疲れた顔をしている。やっぱり馬って乗ってるだけでも疲れるものなんだな。だというのに、こちらを気遣うような言葉まで出せるなんて、なんていい子なんだ。可愛い。推せる。
道の先には大きくはないが一応門がある。なんか裏口的な感じだが、道の先には小さな村が一つあるだけだもんな。そりゃ大きな門にはならんか。
門番っぽいのが一人いるから、そいつに話しかけて街に入れてもらおう。とにかく安全なところで一休みしたい……!