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 起きているでも寝ているでもない、うとうとうつらうつらとしながらぼうっとしている。

 久しく嗅いでなかった草の匂い、うるさいほどに多い虫の声、写真でしか見たことがないような満点の星空。

 半分寝ている頭で、ぼんやりと、現代との違いを感じていた。

 そんな、ある意味幸せとも思える微睡みの時間を邪魔するように、突然「ビーッ!」という警報みたいな音が頭の中で鳴り響く。


「なん、だこれ……!?」


 そのやかましさで一気に覚醒し、顔をしかめながら周囲を見渡す。

 すると、ネームプレートが光っているのに気が付いた。光ってるとは言っても周囲を照らしたりは一切していないから、あくまで俺にとって光って見えてるだけだが。

 何か更新されたのかと思い『ステータス』と念じると、スキル欄に『一号業務』というものが追加されていた。

『一号業務』か。主に施設の警備に関する分類だ。

 俺がこちらに飛ばされる前にやっていた夜間施設警備や、センサー類を設置して家屋や施設を遠隔監視する機械警備等がこれに当たる。

 そういった要素からスキルの効果を考えると、この頭の中の警報はとても歓迎できる事案ではないな。

 どう考えても敵対存在が近くに来たということだろう。

 何故発現したかなんてのは後回しだ。今はこの状況をどうにかしなければならない。


「ライラ……ライラ、起きろ。敵が来たかもしれない」


 静かに寝息を立てていたライラに小声で話しかけると、ビクッと身体を縮こまらせながら目を開いていった。


「て、敵……!?」

「落ち着け、まだそうかもしれないっていう状況だ。だが備える必要がある。いつでも動けるように荷車の影にいるんだ」


 小声で指示を出すとコクリと頷き、荷車の影に控えるライラ。それを見届け、俺は周囲を警戒する。

 道から少し外れ、障害物の影になるような場所に停めてはいるが、道を中心に周囲を捜索されれば見つかる恐れがある。

 だが警報の元が過ぎ去るのを、ただ待っているわけにはいかない。逃げるにしろ抵抗するにしろスルーするにしろ、状況が分からないとどうしようもない。

 幸い月の明かりを遮る雲はなく、周囲はハッキリと見えた。対してこちらは影になっている場所に居るから、一見するだけでは見つかることも無いだろう。

 そうして道の方を窺うと……


「……犬?」


 道の上を野犬っぽいのが歩いていた。


 おいおいおい、なんだそれ。なんだそれ?

 犬? 犬!? え、犬に反応したの!?

 センサー無差別すぎか!?

 マジで機械警備じゃねぇかよ!!


 警戒範囲内に何か感知したらとにかく警報を鳴らすのが機械警備だ。遠隔監視をしている場合、感知したセンサーの場所へ急行して異常を確かめるのだ。

 ここでポイントなのは、本来の機械警備であればセンサーが細分化され、感知した場所がピンポイントでわかるようになっている事だ。

 対してこちらは、状況を察するに自分か警備対象を中心に周囲何十メートルの範囲を一括で見る感じだろうか。

 対象無差別ってことは無関係の人がちょっと通りかかっただけでも頭の中でガンガン鳴り響くじゃねぇか……。というか条件はなんだ? 動きか? 侵入か? 敵味方の識別か?


 一応念のために犬が通り過ぎるまで待ち、ある程度の距離が離れると頭の中の警報も消えた。

 あの犬に反応していたと見て間違いないだろう。ったく驚かせやがって。

 スキルが発現したのはいいが、これは使えないな……。いや、今みたいな状況であればありがたいが。

 今回はたまたま誤報だったというだけで、警報自体はかなり有用だ。

 ただ場所や方向、対象の数や種類が指定できないのであれば、使い道が限られすぎる。

 これオフにできないかな……そう思いながらステータスウィンドウの『一号業務』をツンツンしていると、表示がフッとブラックアウトした。


「おっ……オフにできるじゃねーか。よしよし」


 念のためもう一度『一号業務』をポチポチすると、文字が明るくなりオンになって


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 また警報が鳴り響いた。

 まさかと思い道の方を見ると、そこには馬らしき動物に乗った人影が三つ、村の方向から並んで歩いてきていた。その手には松明。ご丁寧に三人ともそれぞれ持っている。

 この状況で松明片手に堂々と、しかも村の方向から来るのなんて、偽野盗共以外には考えづらい。

 不幸中の幸いなのが、三人共道から外れずに周囲を見ていることだ。

 まるでこちらに人がいるとは思っていないような、一応探索していますというような感じで……いや、おかしいだろう。

 襲撃現場から仲間が三人、しかも一人は隊長か副隊長かまでは知らないが、指揮官級と思われる者がいなくなっているのだ。

 その捜索にしてはおざなりすぎる。

 ということはもしかして、偽野盗ではない……?

 どちらにしても見極めなければならないだろう。

 相手は馬のような物に乗っているというのであれば、見つかればその時点で逃げるのは難しい。

 偽野盗であれば、例えこの場をスルーできても、戻ってくるタイミングでまたスルーできるかは分からない。

 もし偽野盗でないのであれば、助けを求めることができるということだ。馬に乗って捜索するような動きをしているなら、もしかしたら軍の人かもしれないし、なんだったら町の自警団的なのでもいい。

 となれば、仮に敵だった場合に例の『警備の心得』を最大限生かすため、あえてこちらから姿を現そう。三人ならば囲まれるといっても大したことはない。……スローさえあれば。


「よし……」


 俺は物陰から出て、道の方へ進む。

 三人はすぐにこちらに気付き、道から外れてまっすぐこちらに向かってくる。

 月明りと松明に照らされた相手の姿がよく見えるようになってきた。

 その姿は昼間に戦った偽野盗と全く同じもので、三人共腰にショートソードを下げていた。

 こちらに近付きながら、そのショートソードを引き抜く。あぁ、これは間違いないね。

 ハズレもハズレ、大ハズレだ。なんであんなおざなりな捜索を……いや、待てよ? もしや目的は捜索ではない……?

 なんにせよ、どう足掻いても戦闘にはなるだろうと予想し、腰からは警棒を抜く。だがまだ伸ばさず、「ちょっと長い棒」程度に見せておく。

 その動きを見た偽野盗は馬から降り、半分囲むように散りながら、こちらの「ちょっと長い棒」のリーチのギリギリ外まで近寄る。真ん中の男が問いかけてきた。


「貴様、ここで何をしている」

「この先にある村に向かってる途中でね、この辺で野宿してたのさ。そういうアンタらは……追い剥ぎでもしに来たか?」


 その答えは言葉ではなく、行動で返ってきた。コイツら、どいつもこいつも問いかけてくるわりには、問答無用な感じで切りかかってくるな。

 迫りくるのは三方向からの同時攻撃。しかもこちらのリーチの外。普通ならば防ぐことなどできはしまい。

 普通ならな!

 スローになったのを確認し、警棒を持った腕を思い切り振ると、警棒が最大まで伸び本来のリーチを取り戻す。

 その勢いのまま、敵へと警棒を振るう。狙うはショートソードだ。

 剣に当てるならスローが継続するというのは確認済みだ。剣を横から全力殴り飛ばしてまず一つ、返す刀(刀じゃねーけど)で二つ、その間に届きそうになっていた残り一人の攻撃を避けつつ、振り抜かれた剣を叩いて三つ。

 そうして武器を失くして動揺している三人へ、それぞれ下半身を砕きにいく。こちらもテンポよく、スローを利用して膝を一つ、通常速度に戻ったが未だ動揺している奴の脹脛で二つ、更に動揺から戻りつつも丸腰のため防御手段を持たない最後の奴に、キンタマに向かって全力で振り上げて三つ。どれも砕いた手応えがあった。

 こうしてめでたく、コイツらも捕虜の仲間入りというわけだ。


「ふぅ……スロー様様だな」


 正直スローが無かったら一対三なんて勝てるわけもない。

 リーチを見誤らせるのもなかなかナイスな判断だった。さすが俺。

 で、だ。


「馬が逃げてないな。これは……馬、ゲットだぜ?」


 俺は乗れないけどな。

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