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 知らない文字と細かい絵。なるほど、それはネームプレートとしては正しいな。

 そこには俺の名前と会社名、そして顔写真が表示されているはずだ。

 ネームプレートに重なるようにして表示されているステータスウィンドウが、自分以外にも当たり前のように見えていると思っていたが、どうやら違ったらしい。


「ライラには見えていないのか……コレに重なるように、ステータスウィンドウが表示されてるんだ」

「すてえたすういんどう……?」


 おぉっと、そもそもステータスが伝わってないな?

 というかステータスウィンドウが表示されてて実際にスキルの効果と思しき能力も発揮してるから、()()()()()が当たり前の世界観だと思っていたが、もしかして違うのか……?

 そういえば職業軍人であろう偽野盗の三人も、特に常識から逸脱したような動作はしなかったな。スキルだとかが常識としてあるなら、なんか持っててもよさそうなもんだけど。

 これはもしや……


「あのさ、スキルって知ってる?」

「すきる、ですか? ごめんなさい、知らないです……」

「じゃあ魔法とか、レベルとか……」

「魔法って魔女が使うって言われてるものですよね。れべる?っていうのも知らなくて……ごめんなさい……」


 期待に応えられなくて申し訳なさそうにしているライラに「いや、大丈夫だ。変な事聞いてすまない」とフォローし、改めて考えを巡らせる。

 つまるところここは異世界ではあれども、俺がいた世界の常識に限りなく則した世界である、ということだろうか。

 ……いや、決めつけるにはまだ早いな。村で生きている少女にはアクセスできないくらいの情報である可能性もある。普通に生きていれば一生お目にかかれないくらい希少とか。

 大人であればそういう噂とかも知っていたかもしれないが、どちらにしても今は答えが出せないな。


「その、すてえたす?に描かれてる絵、すごい細かいですね。これってケントさんですよね」


 考え込んでいると、話題を少し変えるためか、好奇心が抑えられなかったか、ネームプレートを覗きながらライラが聞いてきた。心なしか前のめり気味な気がする。

 ありがたく流れに乗り、ネームプレートがよく見えるようにライラの方に向ける。


「ん、あぁ、そうだよ。これはステータスではなくてネームプレートっていうんだ。俺がどこの誰であるかというのがわかるようになっている」

「ということは、ここに書いてあるのがケントさんの名前なんですね。知らない文字……」

「ライラは読み書きできるのか?」

「いえ、できないですけど、書かれてる文字とかは見たことあるので……そういう文字と雰囲気が違うと思って」


 なるほどね。田舎村の子供らしく読み書きはできないと。でも文字の形自体は覚えてるってことだから、この子結構頭良いのかもな。

 それよりも、さっきから唇の動きを見ていたが、どう見ても日本語を喋ってるくさいんだよなぁ。読唇術の心得なんざ無いが、さすがに発音と口の動きが一致してるか程度なら見てわかる。

 でも漢字は見たことがないと。だとしたら……


「ライラ、こういう文字は見たことあるか?」


 そう言って、地面にひらがなとカタカナを適当に何個か書いていくが、ふるふると首を降りながら答えを返してきた。


「……いえ、見たことないです」

「そう、か……なるほどね」


 ひらがなカタカナでも見たことがないということは、文字の体系が全く違うんだろうなぁ……この世界で暮らすってなったら微妙に面倒くさいなそれ……。

 だってつまりあれだろ、喋ってる言葉が同じという事は自動翻訳的サムシングが無くて、こちらの文字がライラにとって見たことがないというのであれば、文字に関しても自動翻訳的なのが効いてないってことだろ?

 おそらく表音文字ではあるんだろうが、覚え直しは普通に面倒くさい。あと漢字に該当する文字とかあったら詰む。

 まぁこれも無事に街へ辿り着いてからだな。

 街といえば少し気になっていた事がある。


「そういえば街まで馬車で一日と言っていたけど、隣街まで随分遠いんだな。不便じゃないか?」


 街までそんな遠い以上、ライラが文字をどこで、しかも覚えるほど見たかというのが疑問に残る。あの村では文字っぽいものが書かれた看板などは無かったし、本みたいなのも家の中には無かった。まぁ見えた範囲内が村はずれだったからかもしれないけど。


「えっと、別方向に普段取り引きとかをしている町があるんです。そっちはもう少し近いですけど……」

「村を避けてそっちへ行くには大回りになるし、そもそもこっちの方向にある街を聞いたのは俺だからな」


 コクコクと頷くライラ。いちいち動作が可愛い。


「そっちの町にはよく行ってたのか?」

「はい、村で穫れたものとかを売るのについて行ったりしてました。それ以外にも、村で手に入らない物を買いに行ったりとか……」

「売買ね。計算はできるのか?」

「いいえ、できないです。けど、いつも同じくらいの量を持って行って、同じくらいの銀貨を貰ってました。村で必要な物もそのままそこで買って、銀貨を言われただけ渡してて……」


 詳しく聞けば、村で計算ができるのは村長とあと何人かという話だ。ライラはその計算ができる人に付いていく形で町へと行っていたと。

 銀貨という存在を認識し、売り買いという概念までは分かってるが、その計算はわかってないという感じか。分かる人も村に数人ということは、貨幣制度は確立されてきている途中といったところか。

 そういえば家を漁った時も貨幣っぽいのは見当たらなかったな。

 貨幣制度自体の浸透具合がその程度なのに、ライラが売買や銀貨、文字をしっかり認識しているところから察するに、わりと往来が活発だったんだな。

 ということは、逃げるのにも少しは有利に働いてくれるだろう。

 こんな大それた襲撃をする連中がその辺の下調べをしていないとは考えづらい。

 普段やり取りしている町が近くにあるなら、何かあった際は普通そちらに逃げ込むだろう。

 事前情報を元にそう考えて向こうで網を張っててくれれば、その分こちらへの捜索が少なくなる。こちらにも道がある以上ゼロにはならないだろうが、少なくなる分には、例え一人しか減らなかったとしても大歓迎である。


 とりあえず今のところ考えるのはこの程度か。

 もっと色々とこの世界の常識みたいなものを確認したいところだが、あんな襲撃があって心身ともに疲れているだろうライラに無理はさせられない。

 少しでも寝て体力を回復させるべきだろう。


「話はこの辺で終わりにしよう。疲れているだろう? 俺が起きて見張ってるから、ライラは寝てていいぞ」

「……はい。おやすみなさい、ケントさん」


 何か言いたげだったが、言葉を飲み込み従ってくれた。

 優しそうな子だし、自分だけ寝るのに抵抗があったのだろう。

 子供なのにそんなに気を使うなんて、できた子だなぁ……俺がこれくらいの時はただのクソガキだったってのに。

 できるだけ護ってやろう。俺だけじゃない、この子の命もかかってるからな。面倒くさいなんて言ってられない……まぁ言うけど。言うけどちゃんとやるさ。

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