表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

3

 手早く準備してしまおう。

 家の影に見えていた物はやっぱり荷車だった。サイズも大人3人並べて寝かせるくらい余裕だ。少し折り畳んで()()れば、ライラも乗せて余りあるくらいには大きい。これなら持ち出す荷物も多くできるだろう。

 あとは家の中で必要になりそうな物を漁るだけだ。食料に道具類、あとできればロープ。住人には悪い気がするが、どうせ殺されてしまっているだろうから、俺達が有効活用するということで。

 ……なんか襲撃者よりも野盗らしいことしてるのは気のせいか? 気のせいじゃないな?

 ならば努めて気にしないようにしよう。これは必要な事なのだ。


 幸い、想定していた物は全て確保できた。ロープも十分な長さの物が三本あったから、全員縛って持っていける。いくら怪我でまともに動けないとはいえ、念には念をってやつだ。食料も、1週間くらいは食いつなげそうなくらい確保。備蓄としてはもっとあったが、さすがに全部積み込む程の時間は無いし、そもそもめんどくさい。もっと言えば、そんな積んでも無駄になりそうだし。

 物資を荷車に積みライラの元へ戻ると、先ほど離れた時と同じ状態だった。制圧した偽野盗も、気力を振り絞って抵抗してくる事もなかったようで何よりだ。


「お待たせ。何か異常はあったか?」

「だいじょうぶです。とくに何もかわりありません」

「よし、ライラは荷車の空いてる所に乗り込んでおいてくれ。コイツらを積み込んでさっさと出発しよう」

「はい」


 先に縛って載せたいところだが、いつ敵がこっちに来るかもわからない。悠長に縛って時間をかけるわけにはいかない。

 追いつかれたらアウトどころか、見られた時点で危うい。そもそも見つからないのが最善、というよりも見つからずに生きるか、見つかって死ぬかの二択だ。

 見つかりたくない以上、声を上げられるのはご遠慮願いたいので、家の中にあった端切れで猿ぐつわを噛ませる。声で居場所を悟られると、文字通り死ぬほど面倒だ。

 手早く噛ませ、痛みで呻くのも構わず荷車に積み込む。なんか膝粉砕の二人は載せた後ぴくりとも動かなくなったから、もしかしたら気絶したかもしれん。それならそれで面倒が無くていい。


「よし、準備完了だ。出発するぞ」

「はい、おねがいします」


 ライラが来た方向とは逆方向に伸びる道へ、できるだけ急いで歩き出す……いや、待て待て、なんでこの重量を動かせる?

 大人3人にライラ、食料だなんだと合わせれば、余裕で200kgを超える。下手すりゃ250kgコースだ。

 車軸にベアリングだのなんだのを組み合わせた高効率のリヤカーで、コンクリートで舗装された道ならできるだろうが、こんなデカい板の両側に木製の車輪つけただけの荷車で、しかも未舗装のデコボコした土むき出しな道で、人が一人だけでそれを牽引できる?

 おかしいだろう。

 動き出すまでそれに思い至らなかったのもアホだが、とにかく今は動かせてるのを幸いとしてさっさと逃げるしかない。「何故」なんて逃げ延びてからいくらでも考えられる。今考えるべきはどう逃げるか、どこまで逃げるかだ。

 できるだけ急ぎ足で荷車を牽きながら、ライラに尋ねた。


「ライラ、こっちの方向に村とか街とかはあるか?」

「は、はい。すこし遠いですけど、街があります」

「遠いってどれくらいだ?」

「えっと……馬車で一日、らしいです」


 馬車で一日、ね。まぁ人の足ならもっとかかるにしても、このペースなら二、三日で着けるか。

 食料も十分積んであるし、見つかりさえしなければ問題ないだろう。

 とにかく、今は出せるだけの速度で街へ向かうだけだ。


 ◇◇◇


 村から少し離れた場所で偽盗賊を縛り上げ、それ以降はずっと歩き続けること数時間。

 特に問題もないまま、夕暮れという時間になってきた。夜通し歩くのも危険だし、今日はこの辺で野宿としよう。

 野宿の準備……なんて言うが、実際は道から少し外れたところに荷車を停め、荷物から食料と毛布を引っ張り出すだけだ。焚き火みたいなのはやったことないし道具もないし、薪を集めるのもめんどくさい。毛布にくるまればとりあえず一晩明かすくらいは問題ないだろう。


「ほら、食べておけ」

「ありがとう、ございます」


 ライラに保存食っぽいパンと干し肉を渡し、自分も同じ物を食べる……パン硬い。干し肉も硬い。そして美味くない。いくら保存食とはいえこれはひどい。世の異世界転移だの転生だのした連中が食に傾倒するのも頷けるというものだ。


 そんな食事をしつつ、俺は胸のネームプレートを外して「ステータス」と念じた。

 思い返すのは今日の事だ。スロー……いや、処理速度が上がるならアクセルか? まぁそんな効果が「警備の心得」にあるのはなんとなくわかった。

 だが人ひとりが牽くには過積載気味の荷車を当たり前のように引っ張れるのはおかしいし、昼頃からぶっ続けで夕方まで動き続けられたのもおかしい。これはさすがに何かスキルみたいなのが発現して、それが効果を発揮しているということだろう。

 硬くて噛み切れない干し肉をしゃぶりつつ、ネームプレートに浮かび上がる文字を見る。するとそこには、やはり新しいスキルがあった。


『三号業務』『四号業務』


「だからなんなんだよそれ!!」


 突然叫んだ俺に、ビクッとしてこちらを見たライラに「すまん」と謝り、ネームプレートを再び見る。

 三号業務と四号業務、それ自体は分かる。貴重品輸送の警備業務……警備会社がコンビニATMの金を移動したりするのをよく見かけるアレが三号で、いわゆるボディガードが四号だ。

 なんでこんな警備員に関連する名前のスキルばかりなのか。

 とにかくスキル効果の推察は進めなければいけない。具体的な効果が分かれば話は早いが、相変わらず詳細みたいなものは見れない以上、経験と想像で埋めるしかない。

『警備の心得』は確か、制服とか身だしなみに気を付けて、安全に配慮して、コミュニケーションしっかりとって、現場環境をちゃんと整理して、仕事のやり方も改善していきましょう……みたいなやつだったはずだ。詳しい文面は覚えてない。

 つまるところ警備員としてちゃんとしてれば効果を発揮するという感じでいいのだろうか。それでスローモーションみたいになるのは分からないが、『安全に配慮して』あたりを拡大解釈してる感じかもしれない。相手を殴ると効果解除というのは……わからん。警備員としてやりすぎるとダメってこと?

『三号業務』はさっき思い返した通り、貴重品などを警護しながら輸送する仕事だ。察するに、そこから転じて物資輸送の際に補正がかかるとかそんな感じだろうか。もしくは偽野盗の捕虜が貴重品扱いなのかもしれない。確かに情報源という意味ではかなり貴重な存在だ。それ以外、今のところ分かっているのは荷重影響の軽減、疲労度の軽減といったところか。

『四号業務』は、分かりやすいと言えば分かりやすい。テレビドラマとかでヒロイックに描かれたりするボディガード。あそこまで劇的ではないにしろ、業務としてはそう間違いではない。ライラを助ける時に出てきたと言われれば納得するし、実際ライラ狙いの時にもスローがかかったし。

 どれもこれも警備関連で、警備の心得を思えば、制服とかちゃんとしてないと効果を発揮しないのかもしれない。今後もこんな感じで警備員関係のスキルが増えていくかもしれないということは、この制服をずっと着続けないといけないってことか?

 なんだその面倒な縛りは……。


「あの……」

「うーん……」

「あの、ケントさん」

「ん? あぁ悪い、なんだ?」


 ちょっと考え込んでてライラの呼びかけに気付くのが遅れてしまった。


「いえ、あの、なにを見てるんですか?」

「これか? ステータスを見てたんだ」


 俺の返答に、ライラは疑問の表情を浮かべる。心なしか頭の上に「?」が浮かんでるようにも見える。かわいい。

 というかライラってめちゃくちゃ可愛いのではなかろうか。

 金色でまっすぐな髪は背中の中ほどまで伸び、夕日を反射して輝いている。クセなどは無く、サラサラで柔らかそうで、僅かな風でもかすかに揺れる。今はコケたりなんだりで少し埃っぽくなっているが、綺麗に洗えば輝きは今の比ではないだろう。

 垂れ気味な目は優し気で、大きな瞳と合わせて妙に印象に残る。丸っこい頬や小さな鼻が幼さを感じさせるが、バランスは非常に整っていて非常に可愛らしい。成長したら物凄い美人さんになるだろう。

 今は全体的にボロボロな見た目だが、身綺麗にしたら更に可愛くなるだろうな。

 俺がライラを観察している間に、ライラも俺のネームプレートを覗き込んでいたみたいで、こちらの手元を見つつこう言った。


「……読めない文字と、とても細かい絵が描かれてます。これがすてぇたすですか?」


 なんて?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ