「あちらの方からでございます」に憧れるけれど、んなのないわー。でも、割り箸の袋に書かれた電話番号を渡された事はあるの。え?印刷されたお店の番号じゃないってば。
いつも有難う御座います
よろしくお願いします
誤字のお知らせありがとうございます。
修正致しました。
一人静かに飲む、馴染みのバー
暗い照明がカウンターに映る影を揺らす。
惰性で続けていた恋に終止符をつけた。
涙は出なかった。ただただ苦くなってしまった思い出をアルコールで喉の奥に押し流す。
一杯目が終わろうとする時「レディ、あちらの方からでございます」そう言ってマスターがそっと差し出してきたマルガリータ。
ハラリと落ちた前髪をかきあげながら、あちらに視線を向けるとそこには…
な〜んて。
漫画にそんな場面があり「あちらの方からでございます」に憧れた。
「あちらの方から」をご存知ない方のために説明しますと。「あちらの方から」は、あちらに座っている知らない人からの一杯の奢り。
マスターがそっと差し出すバージョンと、あちらの方直々にカウンターの上をグラスを右から左(もしくは左から右)にスィーーーーーと滑らせるバージョンがあった。
私と同じ様に「あちらの方から」に憧れていた同級生男子、吉田(仮)と山田(仮)。
飲み屋で右から左へスィーー!っとやって、途中でグラスが倒れて大変だったと…ぶはっ!!笑
私に縁があるのは「こちらの方々(山田と吉田)」で、憧れの「あちらの方(本物)」には無縁でした。
そもそも一人でバーでカクテルを飲むなんて、私にはハードルが高すぎる。
友人が「あちらのかたから」をされたと聞き、心底羨ましいと思った。でも、友人くらい1人飲みに慣れてないと「あちらのかた」は動かないのだろうと思い納得。
ならば私にはないな。と、諦めた。
そんな私でも「電話下さい。待ってます」と、割り箸の袋に書かれた電話番号を渡されたことがある。
え?違う違う。袋に印刷されたお店の電話番号じゃないってば。
そんなの貰ってどーすんのよ。
渡してきたのは、どう見ても私より年下で、ピンクと白のワンピースに身を包む女子を連れているオダギリさんちのジョー君みたいな煙男子だった。
その日私はカウンター席で友人と並んで飲んでいた。
「記憶だけでキャラクターを書く」遊びをしていた。別の友人が「簡単なのに全然描けなかった」と言っていた「ビッケ」
ビッケ??………と、なんのことだかわからないほど忘れた存在を描く。ホニャホニャラ〜と、適当にボールペンを走らすが…@w@…わかんない笑
記憶が通用しなさ過ぎて笑っていた時、ビッケの背中に視線を感じ振り返ると、オダギリさんがビッケをジッと見ていた。
私は聞いた「ビッケ知ってる?」と。
彼は答えた「いえ、知らないです」と。
そりゃそーだ。
私だって忘れてるくらいだから僕ちゃんは生まれてないだろう。
「何か書く?」
「いえ…いいです」
それと何か少し話したくらいで…
それからは友人と会話して過ごしていた。
しばらくするとその彼の席がガタガタと帰り支度をはじめた気配。
一緒にいた彼女に「タバコ買ってきて」と頼んでいる「えー?タバコあるじゃん」「いいから買ってきて」そんな会話が聞こえた。
彼女が頬を膨らませながら(ほんとうにぷっくーーっと。 席を立つと、彼は私に声を掛けてきた。
「ペン貸して下さい」と。
「ビッケ書くの?」
「いえ…」
そう言って割り箸の袋にさらさらと電話番号を書いた…のは横線で消し、新たに番号を書いて私に渡してきた。
「これ、俺の電話番号です。電話して下さい」
と。
「いや…彼女いるじゃん」
「彼女じゃないです」
そこまで言うと、彼女が戻ってきた。
「電話待ってます」
そう言って彼はペコリと頭を下げて去った。
私は貰った割り箸の袋を眺めて不思議に思った。
何故1回目の電話番号を間違えたんだろう?
…と。
可愛い女の子を連れて、私よりずいぶん年下なはずなのに…何故私に電話しろと言ったんだろう?
ちょっとシンジラレナイ。
訝しむ私の横で友人がきゃあきゃあ言っている。
「これ、人身売買じゃないかな?怖いよね。」
私の考えはそこに至った。
だって電話して、何も見ないでビッケを書ける仲になるわけがない。
オダギリさんが何故私に電話しろと言うのか理由がわからなかった。
何より私は既婚者だ。
私はくしゃりと割り箸の袋を握りしめた。
…くそう。
しばし不貞腐れる。
友人が「電話するの?」と何度も聞いてくるので「しないよ」と言って割り箸の袋をちぎった。
持ってたらうっかり電話してあっさり売られちゃうかもだし?
「くそっ!くそっ!」
全然悔しくなんかない。
ちぎってちぎって小さくしてからゴミ箱に捨てた。
くそう。
………………
ずいぶん前の話です。
「おまっ!鏡見てから言えよ!」
そのクレーム、採用。
「割り箸の袋」ってところが私の価値を表している気がしてならないの。
そう思わない?
拙い文章、最後までお読み下さりありがとうございます