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妖精の気まぐれなイタズラ


 エラは自分の身に何が起きたか分からずにポカンとしているが、それは周りも同じだった。シャーロットと似ても似つかなかったエラが突然目を見張る程の美人になったのだから当然の反応だった。


 シャーロットは眉尻が上がっており目元がキリッとしたいかにも『美人』という言葉が似合う女性だ。

 今のエラは、楚楚とした、美女であった。可憐で、国中の綺麗な花はこの人のためにあると言われても納得してしまうような美しさがある。ぼんやりとした色合いの亜麻色の髪すらも儚さを醸し出す材料となっている。その美しさはシャーロットを霞ませる程であった。

 エラの麗しさに、会場が一時いっときシン…と静まり返る。

 静寂を破ったのはエラに魔力を振り撒いた妖精だった。


『ホラ、これがキミのホントの姿だよ』

「本当の…?どういうこと…?」

『ニンゲンが好まない見た目に変えてたんだ。彼らがキミをクラウドにあてがわなければボクが貰おうと思っていたんだよ〜。ザンネンだなー!』


 彼らというのはクラウディウスをエラの元に連れて行った小さな妖精たちのことだろう。

 あーあ、と言いながらも妖精は特に気にしてはいないようだ。


 彼にとっては、洋服店で注文していたハンカチが入荷されなかった程度のことらしく、欲しくなればまた別のものを見繕えばいいと思っているようだった。そもそも、なくたって困りはしない。そんな認識なのでもちろん悪びれもないようで、くるくると楽しそうに宙を舞っている。


 エラは口をはくはくと動かしたが、何を言えばいいのか分からなくなってしまったのか口を閉じた。まだ状況が飲み込めていないのかもしれない。

 何も言葉を紡がないエラに代わってクラウディウスが口を挟む。


「一体いつから…。どうして彼女にイタズラをしたんだ?それに貰うとはどう言うことなんだ」

『フフッ!落ち着けよー!…えーと?まずいつから魔法をかけていたかって?いつだっけかな…まだこの子が歩き始めた頃くらいだったかな』


 妖精は便宜上『魔法』と口にしたが、エラにかけられていたのは一般的にはイタズラの部類だろう。妖精はあごに手を当てて考えるようにしながら、言葉を続ける。


『なんで…ってのに理由はないよ。なんとなくかな。あぁ!髪色がちょっとだけボクたちの愛しの女王サマに似てるんだよね。だから見せてあげようと思ったんだったあ』


 楽しそうに笑いながら、妖精はエラの周りをくるくると飛んだ。


『ボクたちと面白おかしく暮らすのは楽しいよ!妖精のくにに連れて行くとニンゲンは成長が止まっちゃうらしいんだよね。だからある程度大きくなるまで待とうと思って。その時までに誰かに取られないように隠しておいたんだけどな〜』


 妖精は、エラの顔を覗き込みながら言った。カッと頭に血が昇ったエラが声を荒げる。


「…っ!あなたが、変えたりしなければ私は…!」


 1人だけ家族の誰とも似ていなかったのは妖精のイタズラのせいだったのだ。

 エラが両親に愛されなかったのは見た目が原因だった。

 もし、妖精に魔法をかけられていなかったら父も母も私を愛して育ててくれたのかもしれない。姉とも仲のいい姉妹になれたのかもしれない。愛されたくて泣いた、苦しい日々を送らなくて良かったのかもしれない。


 悲しいやら悔しいやら、色々な感情が溢れてくる。それは涙となってこぼれ落ちた。


 妖精は時に祝福を与えてくれる愛すべき隣人だ。しかし、彼らにとっての祝福が人にとっても祝福だとは限らない。しかしいくら腹が立とうが人間が妖精に手をかけたりすることはもってのほか。それに人の法で妖精を裁くことなんて事もできるはずもない。エラは誰にぶつけることもできない苦しみにただ泣くしかできなかった。


『皮一枚で態度を変えるニンゲンのことをふるいに掛けられたんだよ。よかったじゃないか』

「…望んだことじゃなかったわ」

『ま、そうかもね』


 シン、と2人の間にしばし無言の時間が流れる。会場内の人の動く音や話し声がエラには遠く聞こえた。

 ざわめきを遠くで聞きながら、エラは自分の気持ちに折り合いをつけ始めた。怒っても仕方がないのだ。彼らは妖精で『そういう存在』なのだから。

 エラはギュッと握りしめていた拳から、力を抜いた。

 諦めるしかない。もしかしたら、見た目が妖精によって変えられていなかったとしても私は愛されなかったかも知れない。そう、考えることにした。


 今までは妖精と王太子殿下の会話に口を出さないように黙っていたシャーロットが、機を伺いながら話の輪に参加してくる。


「あの、エラが妖精のイタズラを受けていたっていうのは分かりました。でもあの子の盗み癖は決して妖精のせいではないと思うのです」


 シャーロットの言葉に、妖精とエラに見惚れていた聴衆たちもハッとなる。確かに、問題は解決などしていなかった。


「妖精にイタズラをされたって、スピライト国の者なら怒ったりしないわ。可愛らしい隣人のすることですもの。自分の見た目に自信がないからと周囲に嫌がらせをすることで憂さ晴らしをしていたのは、エラの心根の問題ですわ」


 言いづらいけれども…、という顔をしながらシャーロットがもっともらしいことを言う。再び会場の空気がエラを責める旗色に染まっていく。

 その場の空気を操作することなど、シャーロットには容易いことだ。昔から他人の言って欲しいことや隠しておきたいことなどを察するのが得意だった。


『クックック!キミは諦めが悪いなぁ!』

「なっなによ!私は殿下のために妹の本性を申し上げているだけよ!」


 妖精の見透かしたような笑顔に、シャーロットが一瞬たじろぐ。しかしもう後には引けない彼女は、自分の意見を押し通した。


『愛し子のためならボクたち妖精はいくらでも手を貸してあげるんだって、知らないのかな?』


 そう言うと妖精は、人間の言葉ではない彼らの言葉で何かを唱えた。するとブゥンッという音と共に空間に切れ目が入り、その隙間から光が漏れ出る。するりとその隙間に入って行ったかと思うと、白く光る球体状の何かをいくつか抱えて瞬時に戻ってきた。


「それは何だ?」

『時の神に時間の記憶の模造品を借りてきたんだ』


 クラウディウスの問いに妖精は答えたが、会場内の人間でその意味が分かった者はいなかった。


『すぐに分かるよ。えいっ!』


 聴衆たちの思考を読んだ妖精は、球体を上に放り投げた。それらはボールのように天井に向かって飛んでいったかと思うと、空中でピタと止まり、ぱつんと弾ける。小さな破片となり弾けた記憶は、雪のように会場内に緩やかに降り注ぎ始めた。



今回とっても構成に悩みました…。

難産でした。

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