第08話 白餡
――晴町ダンジョン 第02階層――
「いけっ! 白餡! 洗浄っす!!」
「きゅぷるりぃぃぃ!!」
使い魔である白餡の可愛い鳴き声と共に、私の身体が光に包まれる。洗浄の光は私の身体に付着していたモンスターの返り血をすべてキレイに消し去ってくれた。気持ち〜。
「ありがとう白餡。めっちゃ助かるよ」
「きゅぷい!!」
ここは晴町ダンジョンの第02階層である。第02階層といえば過去に私にトラウマを与えた階層だ。イヤな思い出が蘇る。
晴町ダンジョンの第02階層はゴブリンに加えて【ピクシー】が出現する。ピクシーは小さな妖精型のモンスターだ。このモンスターの何がやっかいかと言うと、魔法を使ってくる点である。
ピクシーは【ファイヤーボール】という魔法を使ってくる。ファイヤーボールはソフトボールサイズの火球を時速160kmの速度で射出する魔法だ。当たったらめちゃ痛いうえに熱い。魔法の火球なので延焼効果もあり、連続で受けると火ダルマになる。
むかし、ひとりで第02階層に挑んだ時はかなり死ぬかと思った。ゴブリンの後ろからファイヤーボールを連発してくるピクシーをソロで倒すなんてムリゲーすぎる。大ケガと大ヤケドを負いながらなんとか逃げ帰ったのである。
あの時は治療費で100万以上の赤字が出たなー。
ホント探索者は命がけの仕事だよ。
今? 今はもう余裕ですがなにか?
「つぎっ! 次はウチがひとりで戦うっすよー!」
ご主人様が手を上げてぴょんぴょん飛び跳ねている。
超可愛い。にへへ。
先程はゴブリン2匹とピクシー1匹の群れだった。ファイヤーボールを1発被弾してしまったが、どうということはない。私一人で余裕で片付けた。キズもすでに完治してるし、不死バンザイである。
「きゅっぴりゅー!」
白餡が私達を次のモンスターのもとへ案内してくれる。白餡はなんと【索敵】スキルを使えるのだ。
索敵はダンジョン内のモンスターの位置を把握することができるスキルだ。このスキルがあればモンスターを探す時間が大幅に短縮される。素晴らしいスキルである。
白餡は他にも有用なスキルを使える。
身体と衣服をキレイにする【洗浄】。
ダンジョン内がマッピング化される【地図】。
アイテムの詳細を把握する【鑑定】。
そして、マジックバッグのように空間に物を収納することができる【アイテムボックス】。
どれも戦闘しか能のない私達にとって、ありがたいスキルである。
使い魔選択でサポートタイプを選んだのは大正解だった。ゆる使い魔と書かれていたが、ぜんぜんゆるくなかった。むしろ白餡様とお呼びしなければならないかも知れない。
このパーティーの序列最下位はそう、私です!
「おーっす! 団体様のお越しっすねー!」
先に角を曲がったご主人様が嬉しそうに言っているので、見てみると、
ゴブリン8匹、ピクシー4匹の超団体様だった。
これは……ちょっと多いのでは? ダンジョンってモンスターの最大同時出現数って何匹だっけ? なんか勝手に8匹が限界だと思ってたよ。
これはさすがにヤバいぞ。ご主人様が変身すれば対応できるだろうが、本人にはそのソブリがまったくない。バットをブンブンと振り回し、やる気まんまんである。
「よーし、よしっす。全員同時にかかってきて良いっすよー! なんならウチはここから一歩も動かなくて良いっす。ハンデっすよ!」
無茶苦茶言いよる。
モンスターにハンデなんかやるな。
言葉が通じたかどうか分からないがモンスター達が一斉にご主人様へ襲いかかる。前列のゴブリンは8匹同時に走り出し、後列にいるフェアリーはそのスキマを縫ってファイヤーボールを放つ。
「そこっす!」
カキーン!
ゴブリンを追い抜いて襲いかかる4発のファイヤーボールをご主人様はバットで打ち返した。一振りで、4発全部。打ち返された火球はそれぞれ3匹のゴブリンに直撃した。
いや、え? おかしくない?
そうはならんやろ。
「あれー? 1球ハズレたっす」
いまので不満なのか。
そのまま走ってくる5匹のゴブリンは一瞬で倒され、残りはフェアリー4匹になった。
なんつーか、今のゴブリンを倒した動きすら見えん!
一瞬すぎる!
そして残ったフェアリーは哀れだった。恐る恐るフェアリーがファイヤーボールを放つたびに、正確にバットで打ち返され、自分に返ってくるのだ。どんどん減っていく味方。最後のフェアリーになったが、恐怖で震えて動けなくなっている。
これモンスターには逃げるっていうアルゴリズム組まれてないっぽいね。絶望的すぎるもん今の状況。私だったら確実に逃げてるよ。
「あらー、投げてくれなくなったすね。どーするっすかねー。ここから一歩も動かないって言ったっすし」
いやもう、ふつうに歩いて行って倒せよ。フェアリーは恐怖にガクブルで動けないじゃん。早くとどめ刺してやれよ。
「そうだ! いいこと考えたっす! 白餡〜!」
そして、ご主人様は白餡を自分のもとに呼び寄せて、
打った。
カキーンといい音を響かせて白球はフェアリーへと飛んでいった。フェアリーは避けることもできず、ただ粉砕された。
「きゅぷるるふぅぅぅぅーーー………!!」
私は白餡の声が遠くなるのを聞きながら(絶対ホームランだこれ)夏の始まりを待ち遠しく思うのだった。
…
……
………
「ってダメでしょ、仲間を打っちゃ!!」
「はい……すいませんっす。反省してるっす……」
私は先ほどの件で説教している。
ご主人様はダンジョンの床に正座している。涙目で少しは反省しているようだ。
「先輩にカッコいいとこ見せたかったっす。ついやりすぎちゃったっす。ごめん白餡……」
「きゅぷるるぅぅ〜」
白餡はとくに気にしてないようでふよふよ飛びまわっている。強い。
それにしても、なんだって?
私にカッコいいところを見せたかった?
そんなん、
嬉しいに決まっとるやないかーい!!!
めちゃくちゃカッコ良かったやーい! ご主人様サイコーなんだーい! 強いし! カッコいいし! 可愛いし! これが私のご主人様ですよ!? サイコーすぎるんだが! 控えめに言ってサイコーすぎるんだが! たまらん! たまらん! かわいすぎーーるよーーーー!! ヤーーーハーーー!!! ヤバい鼻血出そう。
ひゃああああおぉぉぉぉーーー!!!
「ご主人様の気持ちは分かったけど、それでも私は仲間を大切にして欲しいと思う。約束してよ、2度と仲間をバットでかっ飛ばさないと」
「わかったっす、2度とやらないっす……約束するっす」
良かった。約束された……
これは白餡だけの問題ではない。
私にも関わってくる問題だ。
たぶんご主人様は使い魔である白餡が死ぬことはないと分かっていたからかっ飛ばしたのだ。死なないから大丈夫。バットで打っても大丈夫。
それって私にも当てはまるんだよねー。
さすがにないと思うが、万が一にでも私にバットが向けられないよう、ここでちゃんと釘を刺しておく。私はキラーンと星になるのはイヤなのだ。
「約束だぞ。たのむぞご主人様」
「わかったっす……先輩……」
これでヨシ! これにて一件落着!
私とご主人様はその後、第02階層にて、ひたすら狩りを続けたのであった。
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