第06話 説明会
――朝――
――晴天女子高等学校 3年3組教室――
昨日は色々あった。
まあまあ疲れている。
しかし私はいつも通り学校にいる。
探索をがんばるのも良いけど学校も休まないで欲しいです、と妹が言うのだから仕方ない。行くしかねえ。
ちなみに私は高校に入って学校を休んだことはない。探索者をやりながら皆勤賞を貫いている。これって本当にすごいコトだと思う。この高校にも探索者は何人かいるが、ほとんどが不登校で探索に励んでいる。
こんなにマジメって控えめにいって私は神なのではないだろうか? えらい。えらすぎる。私えらすぎる。
授業もしっかり起きてるし、成績も中の上をキープしている。非の打ち所がない。
友達が少ないのが気になるが、些細なことである。
「ツカサさん、おはよ〜」
そんなこんなで自分の席にて英語の課題(翻訳)をしている私の元に、この学校で唯一の友達である女子生徒がやってきた。
「ワキさん、おはよー」
私は課題をする手を止めて、私よりかなりタッパのある(推定175cm)お淑やかな少女と挨拶を交わす。
「ツカサさんは今日も朝から宿題がんばってるね〜」
彼女の名前は脇ノ浦カナデ。高校に入ってからできた貴重な私の友人である。比較的人付き合いが下手な私だが、ワキさんとは入学時に仲良くなり、三年間クラスが同じということもあって、そのまま友人関係がキープされている。
「提出物はできるだけ出しておかないとね。先生方の印象が悪くなるし。テキトーにそれっぽく埋めて出すだけでも評価になるから、効率厨の私は妥協できないよ」
「ツカサさんは相変わらずだね〜。探索者やってるのはみんな知ってるし、宿題くらいサボっても怒られないと思うけど?」
「探索者を理由に学業を疎かにするのは妹に止められているのだぜ。学生の本分は勉強っしょ? みんなマジメに勉強しよ?」
「そんなドヤ顔で言われても……要は妹さんに釘を刺されてるってコトだよね?」
「妹は私のためを思っているだけなので、釘なんて刺してませーん。そんなイジワルを言うワキさんにはこちょこちょの刑です」
私は両手の指をわきょわきょと鳴らしながらワキさんに近づく。
「ちょっと、やめてツカサさん! きゃははははー!」
ワキさんは私から逃げようとしたが一瞬で捕まえる。逃がさんよ。私もいちおう探索者だからね。体格差はあるけど一般人のワキさんでは私から逃げることは不可能なのだ。大人しく刑罰を受けなさい。はっはっはっは。
…
……
………
「よーし、ホームルーム始めるぞー。全員席に戻れー」
ワキさんが笑い疲れてグッタリなってきた頃、先生が教室のドアを開けて入ってきた。生徒達は各々自分の席に座っていく。
ワキさんもフラフラしながら自分の席に戻っていった。朝からあんなにフラフラで大丈夫だろうか? なんか最後の方は気持ち良さそうにしてたから、たぶん大丈夫なのだろう。
「あー、ではホームルームを始めるぞー。先に業務連絡だが、犬山は今日の午後から説明会だ。頼んだぞー」
ん? 犬山って私? 説明会?
「あ……!」
忘れてた……!
今日は【探索者説明会】の日だった!!
…
……
………
――午後:五限目:体育館――
「つまり高校入学と同時に皆さんは探索者試験を受ける権利を得ているのです。探索者試験を受けて試験に合格すれば、今日からでも皆さんは探索者として活動することができます」
なるべく丁寧に体育館に集まっている新入生達に話しかける。人数は200人くらいかな? みんな真剣に壇上の私の話を聞いている。
朝は完全に忘れていたが、今日は新たに探索者を志す新入生のための【探索者説明会】の日だった。
探索者試験は高校生になれば受けることができる。
私は入学式のあと即試験を受けに行ったクチだが、『どうしようか迷っている、説明だけでも聞いてみたい、なんか気になる』と、今一歩踏み出せない新入生のために少しでも探索者と探索者試験について理解してもらおうというのがこの会だ。
学校で新入生のために開かれる説明会では、その学校に在校している探索者が講師を任される。授業を1つ潰して学校の体育館で行ってはいるが、主催はちゃんと探索者協会となっている。よって講師の私は給料が貰える。
ちなみに去年の説明会の講師も私がやった。探索者の生徒で講師を受けてくれる人は少ないらしい。なんでだろ? 給料5万も出るんだけど。45分で5万っておいしいよ?
「探索者の試験は1つだけです。この【探索者の種】というアイテムを使います。それだけです」
私は『探索者の種』を指でつまんで皆に見せる。ヒマワリの種ほどの小さなものだ。コレは説明会用のレプリカだが、じっさいこんなゴミみたいな物で探索者は生まれる。
つか、去年もだったけど教卓がデカい。踏み台としてビールケースを使っているが安定が悪くてフラフラする。
「この種をつまんで、『リスタート』と唱えます。合格した人は身体が発光して力を得ます。不合格の人は種が消えちゃうだけです」
ザワザワと会場がどよめく。想像より試験内容が簡単すぎるからだろう。去年もだったけどこのザワメキけっこう好き。
「簡単だと思われるかも知れませんが、じっさいに簡単です。掲げて唱えるだけ。しかし、探索者の合格率は約10%だと言われています。つまり10人に1人しか体が光りません」
私の説明でさらに会場がどよめく。そう、探索者になれるのは10人に1人なのだ。しかもどういう条件で成立するのかいまだに判っていない。完全に運任せである。探索者になりたくてたまらない人でも運次第でふつうに不合格になるのだ。
「むかし、不合格だった人がなにがなんでも探索者になりたいと探索者の種を100個近く使用したコトがあったそうです。しかし結果はすべて失敗。1度不合格が決まると、どうやっても合格することは出来ないみたいですね。ある学者先生が言うには『個人の魂的な何かが合否に関わっているのかも知れない云々』だそうです」
じつは問答無用で探索者になれる【探索者の蕾】という激レアアイテムも存在するが、取引価格が億を超えているのでここでは黙っておく。
「ダンジョンがこの世界に現れて10年。世界はダンジョンからさまざまな恩恵を受けました。1つはスーパークリーンエネルギー。むかしは発電所と呼ばれる場所で電気を作っていましたが、今はダンジョンで採取できる【電流石】ですべての電力を賄っています。安価でクリーンなエネルギーの出現によって社会は劇的に変わりました」
ここからは、説明会マニュアルの【ダンジョン恩恵イロハ】を読み上げる。ダンジョンが人類にもたらした恩恵をいくつか紹介するのだ。探索者は割りとイメージが悪いので、ここで少しでも正当性を感じてもらう。スーパークリーンエネルギーという単語が安直すぎてちょっと恥ずかしいけどな。
「1つは流通革命。マジックバッグに収納して物を運ぶことにより、コンパクトかつ大量、迅速な流通が可能となりました」
マジックバッグとはダンジョンで手に入る魔法の鞄である。見た目以上に物が入り、重さも感じない。ロボネコの四次元ポ◯ットみたいなものである。それなりに出回ってはいるが、かなり高額なので私は持っていない。大小あれど、最低でも高級車ぐらいの値段がする。
「1つはゴミ問題の解決。ダンジョンの内部は約1時間で元の姿に修復されるのですが、この特性をゴミ処理に利用しました。ダンジョンに大量のゴミを吸わせたのです。これによって家庭ゴミはもちろん、産業廃棄物やその他危険ゴミなど、すべてのゴミを除去するに至りました。むかしはゴミの島とか大気汚染、放射性物質など、ゴミ関係は問題が山積みだったようですが、現在はそのすべてが解決しています」
ダンジョンは約1時間で元の姿に修復される。
例えばダンジョンの壁に落書きをしても1時間後にはキレイさっぱり消えているのだ。森林ダンジョンで木を切り倒したり、地面に穴を開けたとしても1時間後には元の姿に戻っている。落とし物や放置した物も消える。それがなかった状態に修復されるのだ。
例外は生物とそれが装備している物体である。
命あるものとその生命体が身に着けているモノは時間が経っても消えることはない。例えばダンジョン内でキャンプしようとする場合、テントは人が入っていたら消えないが、焚き火は触るのを止めた1時間後に丸々消滅する。触れていないとコップや椅子も消える。
放置していると何もかも消えてしまうため、ダンジョン内でキャンプをする時は大きな耐火シートを広げ、その上にテントや焚き火を設置するのがセオリーである。この方法で睡眠中に大消失事件が起こる可能性を防げる。『ダンジョンセオリー辞典』より抜粋。
「このように、ダンジョンは我々人類にさまざまな恩恵を与えてくれています。しかしその恵みを得るには探索者の存在は欠かせません。危険なダンジョンに入って物資を持ち帰る者達、探索者がいてこその恵みなのです」
そもそも探索者でなければダンジョンに入れない。一般人ではどうやってもダンジョン内に移動できないのだ。
「では次は、資料6ページをご覧ください。『第二項、探索ジョブとLPについて』を説明させていただきます」
こうして説明会は順調に進んでいった。
…
……
………
「晴町ダンジョンはCランクのため、晴町ダンジョンセンターでは試験を受けることはできません。もし探索者試験を受けようと考えている人は隣町の曇山ダンジョンセンターにおいでください。初回受験料は無料ですし、合格者は領収書があれば交通費の支給もあります」
なんか大量カットされた気もするが説明会もようやく終盤である。あとは最後の言葉と質問コーナーで終わりだ。
「最後に、探索者はとても危険な仕事であるということは忘れないでください。新人探索者の半分は初めの1年で死ぬと言われています。この学校に在校する探索者も例外ではありません。私と同じ学年には初め私を含め8人の探索者がいましたが、今は2人しかいません」
事実である。
最初の1年で5人死亡して、去年1人亡くなった。
「ネットやテレビでは『探索者はとても儲かる、身体能力も向上する、就活で有利になる』と、聞こえの良いことばかりがピックアップされがちです。しかし、つねに命の危険と隣り合わせである、というコトは忘れないでください」
体育館がしーんと静まり返る。
探索者試験の合格率は10%しかないので、わりとテキトーに受けても不合格になる。「とりあえず試験の権利を貰ったし受けて見るかなー」と、深く考えず記念受験する輩はかなりいるのだ。初回無料だし。
しかし、それなりに覚悟を持って試験を受けなければ、合格してしまった時に逆に死を見ることになる。
モンスターとの戦い。LPに追われる日々。
記念受験で合格してしまったヤツはだいたいすぐに死んでしまうのだ。
それを事前に防ぐのがこの探索者説明会の本意である。きちんと危険性は理解して貰えただろうか? どこの世界にもアホはいるが無駄死にする必要はないと思う。最後のアドバイスが少しでも心に響いていることを祈る。
「では、時間もあまり残ってないですが、ここからは質問コーナーとなります。質問がある方は挙手をお願いします」
私の言葉に三人の生徒が手を挙げた。
よし! 少ない!!
質問コーナーは先輩探索者としての腕の見せどころだが、質問者が少ないに越したことはない。答えるのけっこう緊張するし。
「1年5組の山田です。探索者は就職にも有利と言ってましたが取り敢えず試験を受けてみるというコトでいいんですか? 試験を受けるデメリットというのも教えてください」
うわー!! 言ったー!! それ説明したよーー!?
しっかり聞いてろよ、やまだー!!!
「はい、山田さんありがとうごさいます。"先程も説明した通り"探索者になるというのは確かに就活で有利になります。例えば警察官や消防官などの身体能力が必要な公務員は探索者であればほぼ100%採用されます。しかし探索者には"先程も説明した通り"LPというステータスが与えられます。"先程説明した通り"LPが0になった場合は死んでしまうため定期的にLPポーションを手に入れなければなりません、、、うんぬんかんぬん」
この説明2回目だったから途中から記憶が途切れて無意識で喋ってしまった。大丈夫だっただろうか? 伝わったかな?
「ありがとうございました。よく意味が分からなかったですが、私も探索者には興味があるので試験を受けてみようと思います」
おーい、まじかー!?
そんな頭脳だと合格したら死ぬぞ、やまだー!!
頼むから落ちてくれ、やまだーーー!!!
「1年3組の田中です。先輩が探索者として活動している時に命の危険を感じたことはありますか? また、そのさいにどうやって切り抜けたのか教えてください」
「はい。この2年間でもっとも命の危険を感じたのは昨日です。右腕がバキバキに折れて肺に肋骨が刺さってました。出血で水たまりができるし、ふつうに死を覚悟しました。切り抜けられたのは、運が良かったんだと思います」
ええ〜〜、ひぇ~~、と体育館で悲鳴が上がる。
嘘は言ってないよ、うん。
「えーと……では先輩が今元気そうなのはなぜですか?」
「スキルの力です」
今度は、おお〜っと歓声が上がった。
本当はご主人様のお陰だけどな! と心では思ったが黙っておく。変な人だと思われても困る。
「な、なるほど……ありがとうございました」
少女がペコリとお辞儀をして、最後の質問者にマイクを渡した。
ん? なんか見たことあるね、この子。
「っす。1年1組、星熊っす。先輩は探索者としてどういう目標を見据えて活動するのがベストだと思うのか、教えて欲しいっす!」
質問した少女はとても可愛らしい顔でこちらにキリッとした視線を向けている。背筋を伸ばし、とても真剣な目だ。
てか、ごごご、ご主人様やないかーい!!
そういえば同じ学校だったわ。
1年生だし説明会にいてもなんもおかしくなかったわ。
ただただ失念してたわ。
「ごほん、ごしゅ……じゃなくて、その質問は探索者によって見解がまったく違うと思うので、私なりの意見にはなりますが見解を述べさせてもらいます」
うーん、探索者としての目標かー。
やっぱりお金だと思うんよ。本音はもっと別の所にあるけどさ、私が言うには烏滸がましいし、ここはお金と言っておくのがベストな気がする。
「私は探索者になって2年間、お金を貯めることにのみ尽力していました……力もない、スキルもない、底辺探索者の私はこのままコツコツお金を貯めて生きていくのがベストだと思っていました、」
ん? なんか口が勝手に動くのだが?
「しかし、最近ある人に出会いました。その人は強くて、カッコよくて、可愛くて、とてつもない才能を持っていました、」
んんん? これ、なんか変なモードに入ってないか?
「運が良いことに、その人は私とパーティーを組んでくれると言ってくれました、」
もしかしてさっきの質問……
『先輩は探索者としてどういう目標を見据えて活動するのがベストだと思うのか、教えて欲しいっす!』
……あ、これベストを教えてしまうわ。忠犬的に。
「私はその人と共に、頂点を目指したい思います!」
おおーー!! と会場から歓声が聞こえた。
やだー! 本音出ちゃうーー!! 恥ずかしー!!
顔がすっごい赤面してるのが分かる。マジで恥ずかしい。自分の本音を人前で言うのってこんなに恥ずかしいことだったのかー!!
「前人未到の頂き! 世界でまだ誰も達成していない偉業! Sランクダンジョンの攻略!!」
ひゃーーー!!!
「それが私の探索者としての目標です!!」
先程まで盛り上がっていた体育館が一気に静まり返る。静寂の中、ギャラリー達は私が次になにを言うのか待っているかのようだ。
う、うーん……
「ま……満足していただけましたか? ご主人様?」
ここまで恥ずかしい思いをしたからには、すぐにでもご主人様の感想を聞きたかった。
「はいっす!!!」
笑顔で元気いっぱいに拳を突き上げて、ご主人様は答えてくれた。
満足してもらえたようである……嬉しい!!!!泣
ん……? あれ?
なんか体育館がざわざわ言ってるね。
ひゃー、とか、きゃーとかの声も聞こえる。
あれ? もしかして私なにかやっちゃいました?
新入生達の顔がなんか赤いし。ご主人様もなにやらクラスメイトらしき女子達に囲まれている。
よく分からん。まあいい。
なんか最後の最後で疲れてしまった。
私は挨拶もそこそこに、会を閉じるのであった。
後日、学校新聞の見出しに『ついに忠犬が主人と出会う!?』と書かれ、記事を読んだ私が悶絶しまくったことをここに後述しておく。
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