第28話 エピローグ
――晴町ダンジョン 魔王領域――
『おめでとうございます! 魔王が討伐されました! 討伐者は特別報酬として『ジョブスキル』がひとつ強化されます!』
魔王戦の余韻も冷めないまま、脳内アナウンスによって報酬が告げられる。ジョブスキルの強化など聞いたことがない。新しいコンテンツのひとつだろう。
「仕方ないけど唐突だなー」
私はステータスを開いてスキルを確認してみる。
えーと、どれだ? どのスキルが強化されたんだ?
とりあえずレベルは上がってないっぽいね。
魔王からは経験値が貰えないようだ。
ん? これ『+』が付いてる。
強化されたのはコレかな?
―――――ジョブスキル―――――
◇主従契約+《発動》
主従契約を行う。他者を2人主人と定める。
主人【星熊ヤクモ】【なし】
――――――――――
ごごごご、ごごごご、ゴミだーーーー!!!!
ゴミ! ゴミ! ゴミ!! ゴミ!!
「ゴミーーーーーーーー!!!!」
「えっ!? 先輩どうしたっすか!?」
ご主人様が驚いている。そりゃそうだ、自分の先輩が突然大声をあげたらビックリするだろう。だが叫ばずにはいられなかった。このスキル強化はゴミであると!
「ごめん……あまりにもクソみたいな強化だったから、ビックリしすぎて叫んじゃったよ。反省してる」
「ええ!? 先輩ハズレだったんっすか!? せっかく魔王倒したのにっす……」
そりゃ私も残念だよ。あの激戦が何だったのか問いたいよ。だがイベント報酬など案外この程度なのかも知れない。どうせ他のスキルが選ばれていたとしても、大した強化ではなかったのではないか。私はそう思うことにした。それが精神的ベストだ。
「ウチも一応見てみるっす! なんか良いの強化されてろっす! ステータスっす!!」
ご主人様が気合を込めてステータスを開く。気合で乱数が操れたら誰も苦労はしないだろう。だが可愛いので良し。ぜひとも良いのが強化されていて欲しい。
―――――ジョブスキル―――――
◆マジカル使イ魔+《特殊》
ゆる使い魔を使役する。
使い魔【ゴースト】
索敵、地図、鑑定、洗浄、アイテムボックス
ワープ、罠消去、バリア(←NEW)
――――――――――
はあ?
「すごいっす! 白餡がパワーアップしてるっす!」
いやいやいや、おかしいって。
「これ『ワープ』ってワープっすよね!? 『罠消去』はちょっと分からないっすけど、『バリア』はバリア張れるんっすか!?」
「『ワープ』は転移魔法だよ。行ったことのある階層の好きな場所に転移できるんだよ。所持者は国から保護されるくらいすごいスキルだよ。すごすぎだよ。『罠消去』は範囲内の罠を自動的に消去するスキルだよ。罠解除系で最強のスキルだよ。私が罠を踏む必要が一切なくなるね。『バリア』はバリアだよ。白餡が盾を張ってご主人様を守ってくれるよ。私が身を挺してご主人様を守る必要が一切なくなるね(すべて棒読み)」
白餡は私になんの恨みが……!!
増えたスキルがヤバすぎる!
マジで白餡の序列1位もあり得るぞ!
もちろん、白餡の主人はご主人様なので白饅頭ごときが1位になることは一生ない! だが、私が序列2位になる可能性が果てしなく無くなってしまった! 白餡、許せぬ……!!
当の白餡は現在、魔王のドロップした大量の魔石をせっせとアイテムボックスに回収してくれている。働きものである。
「魔王が落とした魔石は『青色』っすね。こんなの見たことないっす。ふつうの黒い魔石とは違うっすかね?」
通常の魔石は黒色である。ブラックオパールのような色でサイズはドングリほどだった。しかし魔王が死んだ時に莫大に撒き散らした魔石はすべて青色である。黒魔石よりやや大きい(松ぼっくりサイズ)がこれも魔石だと思う。新コンテンツで追加された素材だろうか?
「きゅぷい!!」
白餡が飛んできて、ご主人様のつまんでいた青い魔石に鑑定をかける。どこまでも献身的なヤツである。えらい!
―――――素材―――――
【青色魔石(魔石)】
ひとつで通常の魔石100個分の素材性能を持つ。
レア度は高いが価値は低い。
――――――――――
「なるほどっす。この青い魔石ひとつで、黒魔石100個分として使えるっすね。かさばらなくて便利っす」
今までは魔石がジャラジャラ嵩張っていたからね。100単位でまとめられるなら、生産職の人達が喜びそうだ。
「うーんと、魔王がドロップしたので1000個はありそうだから……1800✕100✕1000で180000000!?」
1億8000万ッ!? いちおくはっせんまんっ!!?
ついに億万長者になってしまった!
やり遂げたぞ妹よ!
「すごい額だね……どうしようご主人様? とりあえず換金せずにネムに渡しておくのが良いと思うけど……」
魔王戦で使った秘密兵器代(4000万)もあるし、マジックバッグの件もある。クランの立ち上げにもお金がかかってるかも知れないし、色々お世話になってるネムに預けて置くのが一番だろう。今後は生産兼事務兼倉庫番を任せよう。
「そう言ってもらえると嬉しいっす。ネムちんもきっと喜ぶっす。個人で魔石を大量に確保するのはかなり大変って言ってたっすし、これだけあればしばらく魔石に困らないっす」
「きゅぷりゅぅぅ」
ちょうど白餡が魔石を回収し終わったみたいだ。ホントに優秀なヤツである。よく考えたらご主人様に従うモノ同士争う必要はまったくないのではないだろうか? 白餡は使い魔部門。私は人間部門で、お互いご主人様を支えていけば良い。
「決して、勝ち目がないと諦めたワケじゃないよ。白餡は何れ、私が倒す……!」
「え? なんか言ったっすか?」
「言ってない。それよりあとは『アレ』を開封するだけだね、ご主人様」
私は言いながら、墓地のど真ん中、魔王の消えた中心に鎮座する『アレ』に目を向ける。
「そうっすね。まさか探索者になって一ヶ月も経たずに拝めるとは思ってもなかったっす」
そう、魔王のドロップは魔石だけではなかったのだ。
ダンジョンに出現する宝箱6段階の最上位!
期待値金額『???円』!
日本の探索史でも発見報告が10に満たない伝説の宝箱!
『虹色宝箱』である!!
その伝説がいま私達の目の前に、ある!!
「ふー。それじゃご主人様、開けてよ」
虹色に輝くキラキラの宝箱。
やはりこの宝箱を開けるのは幸運系スキルをたくさん持つご主人様しかいない。変なの引いて責任を被りたくもないし、ここはご主人様に任せるのが一番だ。
「え? ここは先輩の方が良くないっすか? 今までの宝箱も先輩の方がいいヤツ引いてるっす」
「早くお祭り行きたいよね?」
「……うっす!」
ここであーだこーだ譲り合いをしている時間もない。
この宝箱を開ければ今回の『晴町ダンジョン攻略』は終了である。このあとは曇山の『出現祭』に遊びに行くつもりだ。
1泊2日と短い探索期間ではあったが、私とご主人様にとっては色々あった。自転車事故とか、マラソンとか、マラソンとか、マラソンとか、キャンプとか、マラソンとか、マラソンとか……
ほとんど走ってしかいない!!?
「まったくダンジョン攻略は恐ろしいよ……」
「え? 先輩なにか言ったっすか? 宝箱開けるっすよ」
「うん、頼むよご主人様」
ご主人様が虹色宝箱に手をかけて開封する。宝箱の中から『パァ!』と、虹の柱が出現し、私達を照らす。すごく演出が派手である。これは期待できる!
「これは……なんすか?」
虹色宝箱の中から出てきたのは『小さな鍵』だった。
「鍵?」
鍵のアイテムなど聞いたことがない。ネットでも見たことない。新コンテンツで追加されたヤツかな? そもそも虹箱自体が激レアなので、まだ見つかってないだけのアイテムかも知れない。
「ぷきゅ!」
―――――魔道具―――――
【EX鍵(消費)】
使用すると『EXダンジョン』への入場資格を得る。
どのダンジョンかは選べない。
――――――――――
「EXダンジョン? 聞いたことないね」
ご主人様から鍵を受け取る。小さな鍵だ。魔法的な力も感じないし、本当に魔道具だろうか?
「ウチも聞いたことないっす。入場資格ってなんっすかね? 使ったらなにか起こるっすか?」
「うーん、良くわからないけどご主人様使ってみてよ。使えばすべてが分かるよ。ふふふ」
冗談である。こんな得体の知れないアイテム使えるワケがない。ご主人様なら分かってくれるだろう。
「いやいや、ウチには無理っすよー。こんな得体の知れないアイテム怖いっす。先輩使ってくださいっすよ。ふっふっふ」
ご主人様のも冗談である。私には分かる。分かるけど、命令形はあかんのよ。命令形は。冗談でも命令形では言わないで欲しかった。忠犬的に。
ピカーーー!!
私の手の中の鍵が発動する。ダメだ、勝手に使ってしまった! ご主人様の命令だから仕方ない! 私は悪くない!
「せせせせ、先輩!? ごめんなさいっすー!?」
ご主人様が焦って謝ってきたが、もう遅い。その後はとくに何もなく光は収まり平常に戻った。私の身体にも取り立てて異常はない。鍵は消えた。
ん? てかこれで終わり?
虹箱の景品これで終わり!?
「先輩……すみませんっす…………」
ご主人様が落ち込んでしまった。せっかくダンジョンを攻略したのに、こんな暗い気持ちになっていては不幸すぎる。
「うーーん、虹箱なんてなかった!」
「え……!? 先輩!?」
「返事が聞こえないよご主人様! 虹箱なんてなかった!!」
「は、はい……っす!」
ヨシ! 晴町ダンジョンは攻略した!
今回の攻略で私達の得たモノは大きい。
なにはともあれ『ワープ』である。絶対に公言することはないが、私達はとんでもない武器を手に入れたのだ。
ワープを使うとダンジョンを泊まりなしで攻略したり、ボスをひたすら周回したりと、いろいろ悪いことができちゃうのだ。ふっふっふ。検証が楽しみである。
「あとはこの出口用の石碑に触れて、ダンジョンセンターに戻るだけだね。ご主人様、準備はいい?」
私とご主人様は手を繋ぐ。
「はいっす! あ、そう言えば、先輩ってなんのスキルが強化されたっすか? ハズレって言ってたっすけど」
私はハズレとは言ってないよ、ゴミって言っただけだよ。
「それが、こんなんだったんよ」
私は、ステータスボードを開いてご主人様に見せた。
―――――ジョブスキル―――――
◇主従契約+《発動》
主従契約を行う。他者を2人主人と定める。
主人【星熊ヤクモ】【なし】
――――――――――
瞬間、
空気が凍った――。
いや、実際には凍ってはいない。
ご主人様から放たれた殺気が私にそう感じさせたのだ。あれ? どしたの? 怒るとこじゃないよ?
「なんすか……コレ?」
ひゃー、空気が重い。
なんかブチギレてらっさる。
「先輩……これ……どう思うっすか?」
「ええー!? ええ、と、さっきも言ったけど、めっちゃゴミだと思う。なんの強化もされてないし、ご主人様以外の人をご主人様にする気はないし……」
怖い……なんで私睨まれてんの?
なにも悪いことしてないよね?
「先輩、これで最初の最後にするんで、『命令』させてくださいっす」
「え?」
ええ? 最初で最後って言われても、私けっこう命令されてるよ? なんならさっきも鍵の件で命令されたよ?
「ウチ以外は誰もご主人様にしたらダメっす!」
「はい。分かりました」
まるで頭に電流が流れたようだった。思えばコレが初めてのご主人様からのガチ命令だった。いままでの命令がすべて生温く感じるほどの衝撃を脳に受けた。魂に刻まれた感覚がある。
この命令を遵守する! 命をかけてもやり遂げる!
主人が本気で命令を下した場合、こんなことになるのか!? すごい! そして怖い! 主人の命令を絶対に逆らえないと理解した! 命令されれば、たとえ自分の命より大切な人でも、私は殺してしまうだろう!
「ご、ご主人様……?」
ご主人様は泣いていた。
「う、う、ごめんなさいっす。でもどうしても先輩が別の人のモノになるなんて考えられないっす……うう、本当に……ごめんなさいっす……もう二度と命令しないっす……」
私に命令したのが本当に苦しかったのだろう。
元々ご主人様以外とは契約するつもりはない。いまの命令は有って無いようなモノだ。それでも泣くほど辛かったのか……
「うう、う……っす。命令をしないって約束……破った『罰』を受けるっす……! 先輩からウチに……罰を与えて欲しいっす!」
「えぇー!?」
うーむ、罰と言われてもなー……全然気にしてないのだが? というか、なんなら今の言葉がすでに命令になってるんだよなー。ご主人様迂闊すぎる。さすがに魔王戦で疲れて冷静さを欠いているのだろうか?
それにしても罰かーーー。
どうしよっかなーーーー。
ご主人様を見る。
大きな瞳は涙で潤み、いつもとは違った弱々しい表情がめちゃくちゃ色っぽい。
私を見つめる大きな瞳に吸い込まれそうだ。
か、可愛い……!
なんだ、この可愛すぎる生物は……!
ヤバすぎる!!
私は考え抜いた末に、
ご主人様に『キス』をすることにした。
「…………っす!?」
私とご主人様は唇を合わせる。
たぶんご主人様は初キッスだと思う。
目を見開いて驚いているし。
人生初のキッスを好きでもない人間に奪われるとはかなりキツイ罰なのではないだろうか? しかも同性と。これは良い罰になるだろう。あれ? いや、なんかめっちゃ泣いてるし、ごめん、もしかしてショックすぎた!? ヤバいやりすぎたかも知れない! 名残惜しいがここらで唇を離しておこう。いや待て、なんかご主人様の舌がペロッと出て来てこっちの口に入ろうとしてるんだが? ちょっと待ってなにこれ!? どういうコト!? なになに!? 入ってきてますけどー!?
あーー、なるほどね、イヤすぎてベロで私の口を押し返そうとしてるんだね! わかる! そしてさせぬ!
断っておくが、この行為は決して私がご主人様にキスをしたかっただけではない! 頼まれたので仕方なくだ! これは罰である! 命令したことに対する罰である! 決して泣いて弱ってるご主人様を見てキッスしたくなっただけではない! 違うのだ! たしかにご主人様の唇はサイコーだよ! 柔らかくて奇跡みたいだよ! ベロもなんかよく分からないけど良い感じだよ! しゅきすぎるよ! あー、もっとしたい! もっとしてたい! さすご主! さすわたご主!(さすが私のご主人様の略)
名残惜しいがご主人様の口から唇を離す。
ちょっと長すぎたかもしれない。幸せすぎた。
「せ、先輩……!?」
ご主人様が目を見開いて驚いている。
「ごめんね、ご主人様。ちょっとショックだったかも知れないけど、これが私からご主人様への罰だよ」
ご主人様が信じられないという表情で私を見ている。よほど驚いたのか顔が真っ赤である。驚いている顔も可愛い! 好き!
「なんてことっす……ここでお預けって……これが罰っすか? さすが先輩っす……」
なんかご主人様がボソッと言ったが、よく聞こえなかった。
なにも難しいことはない。ご主人様は罰を受けて、私はやりたいようにやった、それだけだ。これで仲直り完了である。
私とご主人様は出口用の石碑の前に立つ。
「それじゃあ、脱出しよう、ご主人様!」
「は、はいっす!」
ご主人様も(まだ顔が赤いが)吹っ切れたようだ。
私達は手を繋いで出口用の石碑に触れる。
よーーし、このあとはお祭りに行くだけだね!
全力で楽しもう!
こうして、
私とご主人様の初めてのダンジョン攻略は完了した。




