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第27話 現代ダンジョン攻略


――晴町はれまちダンジョン 魔王領域――


夜空に浮かぶ満月は墓地を白く照らす。


私は魔王『モーーン』と対峙する。


モーーンは体長8mほどの毛深い獣である。


大きな腕に短い足。


周囲には蒼白い炎の玉が無数に浮かんでいる。


あの炎に触れるとLPが削られるのだ。


探索者にとってLPを削られる攻撃というのは、かなり危険な存在である。通常の傷を治す方法はたくさんある(回復薬や回復魔法など)が、LPを回復する手段はLPポーションしかない。


そして探索者はLPというのは『1日に1ポイントのみ減るもの』だと勝手に思い込んでいる。つまりLPポーションを大量に所持した状態で探索する探索者はいないのである。かさばるし。


「モ゛ォォーーーーーーーン゛!!!」


雄叫おたけびと共にモーーンの周りに浮かぶ炎の玉から蒼白い光弾が連続で放たれる。


ピュンピュンピュンピュンと軽快な音を鳴らして無数の蒼白色光弾が私に襲いかかる。


「散弾みたいにも撃てるのか。凶悪だねー」


私はそれを避けない(・・・・)。襲いくる光弾の群れは私の身体を焼いていくが、1発1発の威力は低いようだ。皮膚を焼かれてもはしから再生できる。どちらかと言うとLPダメージの方がヤバそうだね。これだけの連続光弾をすべて回避するのは至難だし。


私? 私はLP無限ですが何か?


ユニークジョブ忠犬の特徴『LP無限』。


実際は主人のLPに依存してしまうため契約後はLP問題から逃げることはできないが、私自身のLPは間違いなく無限である。


「モ゛ォ?」


モーーンが光弾を放つのを止めて不思議そうに首をかしげる。そんなコミカルな動きもできるのかよ。今までのダンジョンのモンスターはどこか規則的で単純な動きしかできなかった。バージョンアップで新しく挙動が追加されたのだろうか?


「モ゛ォォォォーーーン!!」


モーーンの叫びとともに周囲に浮かんでいた蒼炎の玉が両腕に集められていく。巨大な二本の腕が蒼白い炎をまとい禍々(まがまが)しく輝く。LPダメージが効かないと判断して物理に切り替えたようだ。学習能力まであるのか。


「うわー。連続光弾をひたすら撃ち続けてくれれば、それだけで30分(かせ)げると思ったのになー。やっぱり多少避けて、焦ってる感じを出した方が良かったかな? 失敗したー」


「モ゛モ゛モ゛ォォーン゛!!!」


モーーンが蒼白に輝く腕で攻撃してくる。速いし鋭い。墓石をバターのように切り裂き、地面をスポンジのように削っていく。今のところ避けてるが当たったら痛そうだ。


でもやっぱりコイツと私は相性が良いね。LPダメージが凶悪なぶん、その他の攻撃が甘めな気がする。今の絆パワーを得た私には触れることもできない。


両腕が輝いたら勝てると思ったかい?

勝てないよ。だって私、不死身だし。


「私はオマエを倒す必要はないんだよね。負ける要素もないし。ご主人様が戻ってくるまで粘るだけ。主人を待つのが忠犬の仕事なのだ」


モーーンの攻撃をよく見て、避ける。


   避ける。


      避ける。


うーん、『待つだけ』とは言ったモノの、ご主人様が復活(変身)した時のために、少しでもダメージは与えておきたいかな。


私は右手に持つ『風神の斧』を見る。先ほど白餡しろあんから受け取っていたのだ。入手したのが今日なので使い慣れてはいないが、こちらの方が風をまとえるぶん攻撃範囲は広い。自分より大きな相手には有効だろう。


「風神の斧よ! 風をまとえ!」


ビュォォォッーーーー!!


斧から風が巻き上がり、私を包む。


本日、なぜか私の『きずなポイント』が爆上がりしていた。絆はご主人様の心境が影響あるらしい。昨夜、眠っているあいだに、私に(私と?)何かしたらしい。18禁って言ってたけど何のこと? どこか触られたのかな? 想像もつかない。


しかし、そのお陰で私の身体能力補正が爆増したのは事実である。さすが私のご主人様だ。さすご主だ。


今の私には一気に上がりすぎたパワーを制御することは出来ない。力を正確に操るにはそれなりの訓練が必要だろう。でも私気づいちゃったのだ、


「制御しなくてもべつに良いよね」


風神の斧に込める魔力をさらに上げる。


「もっと! もっとだ! 風神の斧よ! もっと風をまとえ! この身を弾丸として、私は敵を穿うがつ!!」


カッコイイ詠唱(自作)は気分も上がる!


覚悟は決まった!


行くぞ、魔王モーーン!


「これが忠犬の戦いだぁぁーー!!!」


私は全身全霊の力を込めて、モーーンに突撃した。


突撃というか『体当たり(・・・・)』である。

全力の全力の全速力を持ってモーーンにぶち当たる!


……

………


ドォォォーーーン……!


気づいたら、モーーンがぶっ飛んでいた。


数秒だが私は完全に意識を失っていた。


というか、たぶん体当たりの衝撃で頭が潰れていたのだ、と思う。もしくは全身グチャッてたのかも知れな、い。めちゃ痛い。目の前が真っ赤である。


モーーンがぶっ飛んで倒れているのを見るに、私の全力の体当たりはヒットしてダメージを与えたらしい。これはイケル!


斧で斬ろうにも自分の力を上手く制御できない。だが体当たりでぶち当たるだけなら技術などいらないのだ。全速力で突っ込む。以上だ。


最初の一撃ですでに私の全身は真っ赤に染まってしまった。頭から足まで、セーラー服も真っ赤っ赤だ。そうとうグチャッたのかな? あとで動画を見るのが怖い。


そういえば私の装備『赫犬あかいぬシリーズ』だったね。


赫犬あかいぬ』は火山ダンジョンの第25階層に出現する犬型のモンスターである。特徴としてはとにかく死物狂いで探索者を襲ってくる。斬られようが殴られようが意地でも攻撃するのを止めない。クビをハネられるまで動き続けるのだ。そんな性質が探索者にめっちゃ嫌われているモンスターである。


「変なところで共通点あったなあ……どうでも良いけど」


モーーンが起き上がろうと動いている。


「ふふ、オマエはもう二度と立ち上がれないよ。なぜなら私が全力で体当りするから。私の身体はグチャるけど、オマエはグチャらなくてうらやましいね。私はクビを切られたって止まらないよ。あー、早くご主人様とお話したい。私、めっちゃ強くなったよって報告したい!」


私は再び全力の全速力でモーーンに衝突した。


……

………


荒れ果てた墓地に大型トラックが衝突したのかと思う轟音ごうおんが響き渡る。音は一度では止まらない。何度でも何度でも、轟音を響かせ続ける。


ココはどこだ? 事故多発地帯か?


ドォーン! ドォーン!


と響き続ける音は大地を揺らし、木々を震わせる。


どれだけの時間が経っただろうか?


蒼い満月に照らされる墓地にようやく静寂せいじゃくが戻った。


音が止まったのだ。


真っ赤な血溜まりの中心で、


ひとりの少女が大の字になって寝転んでいる。


魔物の姿はすでにどこにもない。


「や、や、やったよご主人様! 私倒しちゃった!!」


少女が嬉しそうに、


夜空に向かって声をあげた。


……

………


「っても、どうせ『まだある』んでしょ?」


私は一瞬で冷静になった。


よっこいしょと立ち上がる。


魔王は消えたが魔石やドロップアイテムは出現していない。つまり『まだある』ということである。



『ファイナルWAVEに突入します!』



「ファイナルって、最後はちゃんと教えてくれるんだね。WAVE制なんて嫌がらせを導入してる割には最低限の優しさはあるワケだ」


ここでふつうに『第3WAVE』とか言われたら、あと何回戦うんじゃーい! となってさすがにモチベーションの維持は難しかったと思う。次でラストと分かっただけで、やる気はメラメラ燃えるってものだ。


そもそも、もう一回戦っても負ける気はしないんだよね。なんなら第2WAVEは私ひとりで倒してるし。


コレもしかしてご主人様より上を行ったのでは?

パーティー内序列1位を私が取ってしまったのでは?


ごめんねご主人様! 私一応先輩だから! 1位です!


そんなこんなで、考えごとをしていると、


墓地の中心にモーーン(ファイナル)が出現した。


まず、言わせていただこう。


「イヤガラセがすぎる」


出現したモーーンは、


全身の毛が逆立ち『針ネズミ』のようになっていた。


ゼンシン・ハリネズミ・モーーン。


身体中の毛という毛が逆立ち、するどく長いトゲの鎧に守られている。そのトゲひとつひとつが毒々しい『紫の光』をびている。


いやなんなんコレ? たしかに第2WAVEは体当たりのみで突破しましたよ? だからって全身にトゲ生やしてくるか? 意味がわからないぞ? なんだコレ?


「ムカつくなー……体当たり対策(・・・・・・)に全身にトゲを追加したってコト? 第2WAVEのこちらの戦術をファイナルでは完全に対策してくるってこと? 何なのそれ? めちゃくちゃムカつく……!!」


無意識に涙が出てくる。


あのトゲ、めっちゃ痛そうなんよ。そりゃ私は今からまた体当たりするつもりだよ? それしかないし、覚悟かくごはあるよ? でもあれめっちゃ痛そうなんよ。しかも本体に届かずにトゲに引っかかったら、私どーなんの?


ムカつく……! ムカつく……!


怒りでマジで泣けてきた! 悔しすぎる!


やって良いコトと悪いコトってあるよね!?

その場で対策は反則だろ!?


第1WAVEは火属性、第2WAVEは雷属性を使いましたね? では最終WAVEは火と雷に耐性を付けまーす! って、そんなゲーム聞いたことないよ!!


私はダンジョンを! 絶対に許さない!!


「やるよ! 私はできる子だ! 針山に体当たりぐらい何ともない! ご主人様にめてもらう! 褒めてもらうんだ! いくよっ! いくよっ……!」


私が目に涙をためて覚悟を決めた、その時、


「せんぱーい、お待たせっすー! 30分ありがとうございましたっす!」


救世主が現れた。


――私のご主人様である。



ごごごご、ご、ごしゅ、ごしゅ、


「ご主人様もう大丈夫なのっ!?」


「はいっす! ケガ自体はないのでもう大丈夫っす! ちょっとLP低すぎてフラフラするっすけど、先輩ほどじゃないっす!」


そう言ってご主人様はニッコリと笑った。

きゃわ、きゃわ、きゃわわわわ〜〜。


「どういうコト? 私はべつに何ともないけど……?」


「いや、先輩全身血まみれじゃないっすか。見てたけど、とんでもない戦い方だったっすよ。ウチ泣きながら見てたっす。アレでよく正気をたもてるっすね。マジで尊敬するっす」


ご主人様に褒められた! 嬉しいー! 再開と相まって嬉しすぎて(私が実際の犬だったら)嬉ションするトコだったよ! 理性ある人間で良かった!


「それにしてもなんすかあのモンスター。マジでムカつくっすね。体当たり対策なんて絶対後付けで追加されてるっすよね? 先輩のハグはちゃんと受け止めろって感じっす!」


ご主人様もムカついてくれたようだ。分かってくれるか、この苛立ちを。ハグ?


「うん、でもこっちは体当たりしかないし。私はやるよ。ご主人様はアイツの蒼い炎の攻撃には絶対に気をつけてね。いまだとカスっただけで即死する可能性もあるし」


むしろ離れて隠れていて欲しいが、言っても聞きはしないだろう。私達はパーティーで相棒だ。


「私とご主人様、ふたりで魔王を倒すよ!」


「もちろんっす!」



「モ゛ォォーーーーーーーン゛!!!」


待ってましたとばかりにモーーンが雄叫びをあげる。周囲の火の玉から蒼白いビームが一斉に乱射される。


ヤバっ!?


「ご主人様っ!?」


一発でも食らうと即死だよコレ!?


ご主人様はというと、後方にジャンプして拡散ビームを回避している。さすがの身のこなしだ。


「魔法少女変身っす!」


墓地に2度目の輝きが広がる。

ご主人様が変身したのだ。


「マジカル☆トゥインクル☆ベアーミーっす!!」


ご主人様が魔法を唱えと、空中に現れた無数の魔法陣からポコポコと子熊兵達が出撃する。数はおよそ30匹。最初に比べてめっちゃ増えている。


「先輩! ウチは遠距離から攻撃するっす! 先輩は体当たりじゃなくて、スピードを落としても良いから斧で戦って欲しいっす!」


ご主人様の言葉を聞いて私はモーーンへ走り出す。時間は3分しかない。ご主人様はモーーンの蒼炎を絶対に食らうワケにはいかない。遠くからの援護で正解だ。


子熊兵がもし誤射しても私は平気だし、私が近づいて倒すしかない! このパーティー序列1位の私がなあ!


「モ゛モ゛モ゛ォォォーーン!!」


モーーンが私に迎撃の体制を取る!


スピードをゆるめているので対峙している形になるが、相打ちなら十分狙えそうだ。私がモーーンに斬りかかろうとしたその時、


モーーンの頭に巨大な弾頭が炸裂した。


ドガァァァーーーン!!


はあ?


さらにモーーンの身体が次々に炸裂する。


「えぇーーー!?」


私はご主人様の方を見た。


そこには巨大な対戦車砲にせっせこ弾を込める子熊兵達の姿が見えた。た、対戦車砲〜!?


さらにドキャーンドギャーンとイカつい音がなり、モーーンの身体が撃ち抜かれる。た、対戦車ライフル〜!?


おーおー、ミサイルっぽいのも飛んできますわ。これは対戦車ミサイルですね。


ま、まあ、戦車がいないだけまだいいか……、


ギャルギャルギャルギャルルルル……


いる!!


「先輩には絶対に当てるなっす! 足止めしてくれる先輩に感謝っす! 一気に片付けるっす! 一斉放射(ファイアー)っす!」


私、足止め役だった。


うん、がんばろ。


……

………


夜の墓地に無数の光が輝く。


あれはなんだ!? 鳥だ! ミサイルだ!!


小さな子熊達が撃ち出す無数の弾頭は、


魔王の身体に爆炎の大輪を咲かせる。


しかしもっとも重要な働きをしているのは、


斧を持った小さな少女である。


魔王の動きを制限するように立ち回り、


その場から一歩も動かさない。


降り注ぐ砲弾の雨を恐れることもなく、


少女は斧を振るう。


戦いは一瞬のうちに決着した。


最後に子熊兵の使った大砲は、


砲身がまるで銭湯の煙突のようなサイズであった。


放たれた巨大弾頭を受けて、


魔王は莫大ばくだいな青い魔石となって消滅した。


……

………


気がつくと私はご主人様の腕に抱かれていた。まだ魔法少女の変身は解けていないようだ。銀色に輝く髪がキラキラ揺れている。まつ毛ながっ! 目おっき! きゃわわ!


「ふー。危なかったっす。先輩を巻き込むところだったっす」


最後の爆発だろう。


空を裂くような音が聞こえ、完全に巻き込まれたと思ったが、ご主人様が助けてくれたようだ。


「ふー、ありがとうねご主人様。でもやっぱり魔法少女ってすごいね。私自分のコトを序列1位だと思ってたけど全然そんなことなかったよ」


「序列ってなんすか?」


不思議そうな顔でご主人様が聞いてくる。


「うん、忘れて」


「はあっす」


ご主人様の変身が解ける。


墓地をオレンジ色に照らしていた火柱(巨大)が消え、再び静寂せいじゃくおとずれる。何度目の静寂だろうか。


「今度こそ、倒せたみたいだね」


「はいっす!」


私達は墓地に散らばる大量の魔石を見て、勝利を確信するのだった。


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[一言] 戦いは火力!……星熊流古武術さん、息してる……?
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