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第26話 魔法少女の


――晴町はれまちダンジョン 第10階層――


第10階層はボス部屋のみの構成になっていて、転移すれば到着(そく)ボス戦となる。ボス部屋の内装はダンジョンによって異なるが晴町はれまちダンジョンは石造りの広い空間になっている。


「なんか……おはかっすね……」


しかし私達が目の前にしているボス部屋は、西洋風の荒れ果てた墓地ぼちだった。密閉された部屋でなく夜空になっており、大きな満月が煌々(こうこう)と照らしている。


墓地は墓や柵が壊され地面には所々穴が空いている。かなり広い空間だ。周りは雑木林に囲まれ木々がザワザワとれている。辺りにはボリッ! ボリッ! と何かを噛み砕くような生々しい音が響いている。


「魔王って言ってたね」


「はいっす」


私達がこの場所へ来たあと脳内アナウンスで『ダンジョン開設10周年!』と新バージョンの説明が流れた。


新シナリオ『魔王パレード』。


ランダムなダンジョンに『魔王』が出現し、その魔王を倒さないと30日後に『スタンピード』が発生するそうだ。


「先輩、スタンピードってなんっすか?」


「モンスターの大氾濫だいはんらんだね。たぶんダンジョン石碑からモンスターが外にあふれ出すんだと思う。どれくらいの規模きぼかは分からないけど同時多発的に発生したら人がいっぱい死ぬと思うよ」


街にモンスターがあふれればパニックでは収まらないだろう。自衛隊と探索者が総出で対処するとしても、複数のスタンピードが同時に起こればたぶんこの国は滅びる。


「はあ、どちらにしてもウチラはアレを倒すしかないってコトっすね」


墓地の真ん中、先程からボリボリと音をさせている原因を見る。


第一印象は大きな毛玉だった。5mはある大きな毛玉がボリボリと何かを食べているように見えた。食べられているのは『ボルケーノライノ』だ。かすかに炎を放つ巨獣の死体を、その毛玉はボリボリと食べていた。


第10階層の本来のボスを食いながら登場とは悪趣味な演出である。てか、モンスターって死んだらきりになって消えるんじゃないの? この登場演出のためだけにわざわざ残してんの? つーか、なんなんこの毛玉。なんなんこのお墓。なんなんこの展開。


「あーー!! アナウンスするならもっと速くやってよーー! アップデートと同時にアナウンスするんじゃねーよ! せめて前日だろ!? 新イベは前日告知がふつうだろ!?」


「せせせ、先輩!?」


毛玉の動きがピタッと止まる。私達に気づいたようだ。そりゃコレだけ大声上げたら気づくだろう。


「ごめん、ご主人様。ご主人様の忠告をもっと真剣に聞いておくべきだった。それならこんな展開にはなってなかったかも知れない」


毛玉がノソリと立ち上がる。立てるんかーい。座ってただけなんかーい。立ち上がったことで毛玉から毛山になった。


「大丈夫っすよ先輩。たとえ魔王でも倒せばいいだけっす。それに、もし第09階層の石碑の前で先にアナウンスを聞いていたとしても、先輩ならそのままボス部屋に突入してたっすよね?」


「ふっ……まあね。ご主人様わかってるじゃん」


いやいやいやいや、全然ソンナコトナイヨ!?


ふつうに引き返してたと思うよ!?


毛玉モンスターが完全に立ち上がった。デカい。7〜8mはある。腕が長く足が短い。大きな口には鋭い牙が並ぶのが見える。かなりアンバランスな見た目だ。全身が獣じみた硬そうな毛で覆われており、なんかどっかで見たことある気もする。モ◯ゾーとかムッ◯とかあの系統か?


―――――魔王―――――

【モーーン(魔王)】

墓場を荒らす悪魔。

いびつな獣。はがねの毛皮。月光の支配者。

――――――――――


白餡しろあんが『鑑定』してくれた。

名前に伸ばし棒を2本つけるな。


「モ゛ォォーーーーーーーン゛!!!」


モーン! て鳴くのかこいつ。声でかっ。


「うひゃー、すっごく強そうっすねー。毛も硬そうで攻撃が効きにくそうっす!」


ご主人様が嬉しそうに言う。バットを持ちつつ運動前のストレッチをしている。肩くるくる、目がめっちゃ楽しそうだ。


「先輩、一番手はウチと白餡しろあんに任せてほしいっす! 先輩はカメラを頼むっす!」


「はあ? 白餡?」


私は白餡からビデオカメラを渡される。


なに? 白餡(たたか)うんか? おまえ戦えるんか?


「相手は魔王、こちらも最初から全力を出すっす! ネムちん(・・・・)から渡された『秘密兵器』使わせてもらうっす!」


秘密兵器!? 事故の印象しかない!!


「モ゛ォォォォーーーーーーーン゛!!!」


ご主人様の言葉と同時にモーーンが襲いかかってきた。けっこう距離があったのに一瞬で詰めて来た! こいつ意外と速いぞ!


ドガァァーーーン!!


モーーンの両腕叩きつけで墓場に爆発が起こる。巻き起こる粉塵ふんじん。一瞬、夜が輝きご主人様が魔法少女に変身した。もう変身!? いけるのか? この化け物3分(・・)でいけるのか!?


「白餡、行くっすーー!!」


ご主人様が白餡に指示をだした。


「きゅぴぃぃ!!」


白餡はご主人様の言葉にうなずき、


低空から一気にモーーンに肉薄する、


食われた。


「え???」


食われた。


白餡はモーーンに食われた。


「しろあーーん!!」


なんてこった。体当りしようとしてパクリと食われた。たしかにモーーンにとって白餡は白くて髑髏しゃれこうべみたいで美味そうだったかも知れない。それでも食べる? 食べられる?


「ちょっと、ご主人様! 白餡食べられちゃたよー!」


ドンッ!!!!


え!? 私がご主人様に『白餡が無惨むざんに食べられましたの報告』をしようとすると、墓場に何やら爆発音が響いた。いや、墓場を見渡すが何かが爆発したようすはない。


ドンッ!!! ドンッ!!!!


再び爆発音!? 今度は2発? どこからだ?


「モ゛ォォーーーーーーーン゛!!!」


モーーンが苦しそうにうめいている。


ドンッ!! ドドドンッ!!!!


「モ゛ォォォーーーーーーーン゛!!!」


爆発音と共にモーーンが苦しそうに暴れる。


「え……? これは……」


もしかして、この爆発音、モーーンの腹の中(・・・)でなってるのか?


「マジカル☆トゥインクル☆べアトラス!!」


ご主人様が魔法を発動して金色巨大熊に変身した。


10m以上あるご主人様黄金熊はモーーンよりもはるかにデカい。攻撃が当たればたしかに倒せそうだ。


「これがぁぁウチラのぉぉ秘密兵器ぃぃっすぅぅ!!」


ご主人様(巨大熊)が拳を振り上げてモーーンを殴りつけた。ドグォォン……と、とてつもない音をさせてモーーンが地面に叩きつけられる。


「せぇぇんぱぁぁい、さがぁっててくださいぃっすぅ。ここはぁウチとぉぉしろあぉぁんがやるっすぅぅ!」


ご主人様(巨大熊)が倒れたモーーンに連続で拳を打ちつける。打撃が当たるたびに墓地がれ、墓が倒れる。


モーーンはまったく思い通りに動けないようだ。腹の中から爆発音がするたびにもだえている。


これは、こわー。


秘密兵器とは、白餡による内部爆破だったのである。


白餡を相手の腹の中に突入させ、アイテムボックスから爆弾を取り出させて、ひたすら体内を爆破する。おそらく爆火弾を使っているのだろう。


―――――魔道具―――――

【爆火弾】≪消費≫

魔力を込めて投げると爆発する爆弾。

威力が高く爆風によるダメージも強い。

――――――――――


さっきからボンボン聞こえてるけど一発20万だぞ?


「ご主人様ー! ちなみに爆火弾は何発用意してるんですかー?」


モーーンに馬乗りになって殴り続けているご主人様(巨大熊)に聞いてみた。


「ええぇぇ? たしかぁぁ200発っっすぅぅ」


よよよ、4000万円やないかーーー!?


あーあ、死んだわ。こいつ絶対死んだわ。


第10階層の墓場部屋、


ご主人様(巨大熊)の振るう暴力の音、腹の中から響く爆発音、モーーンの苦しむ叫び声、3つの音が絶妙な不協和音ふきょうわおんとなって聞く者の心を微妙びみょうな気分にさせる。聞く者とはもちろん私だ。


私は体育座りをして巨獣達にビデオカメラを向けながら、満月の下で振るわれる一方的な暴力を眺めている。


「あーあ、白餡のパーティー内序列2位は確定かな。私ってホントにいらない子になってしまった。ボス戦でなんの役にもたってないよ」


まあ、適材適所だし、良いんですけども。


そうこうしていると、ご主人様の身体が一際ひときわ輝き、巨大な黄金熊の姿が解除された。3分経ったのだ。


ご主人様は、てふっと私の側に着地すると白餡に最後の指示を出す。


「白餡! とどめっす! 全弾爆破っす!」


もはやボロボロで動けないモーーンの身体が膨らんだかと思うと、大爆発を起こして、粉々に消滅した。すっごい威力である。さすが使い捨て4000万円の秘密兵器だ。


終わった……最後まで白餡に持っていかれた。


「やったっすー! 先輩! ウチラの勝利っす!」


ご主人様がハイタッチを求めてくる。うん、やったね。あ、ああ、でも私いまカメラ係だから、ね。え? 白餡、カメラ代わってくれるの? ヤバっ。めっちゃいいヤツやん。いい白饅頭しろまんじゅうやん。なんか色々ごめん。白餡しゅき〜。


「それじゃあ、改めて、ウチラの勝利っす!」


やったー! 私達の手が叩かれる、その時、



『第2WAVEに突入します!』



「「は?」」


脳内でアナウンスが流れた。


ゲーム用語で【WAVE】というのは攻略の進行状況を表す言葉である。第一波第二波と波のように押し寄せるステージを表すらしい。とりわけRPGにおいてWAVEシステムはユーザーから不評である。ボス戦でボスのHPバーを削りきったと思ったら全回復して、まだまだ死なんぞい! としてくるのだ。味方に強化をかけまくり『超強力な一撃でボスを即死させる』という戦術を防ぐために実装されることが多い。要は簡単にクリアーされると悔しいでしょの精神である。


「私はRPGに置けるWAVE制はクソだと思ってるんだよ! バフ盛り盛りで一撃死させる自由を奪うな!」


「先輩?」


夜空に輝く月の光が収束し、墓地の一点を照らす。


蒼白い炎が燃え上り、炎の中から、巨大な獣の姿が出現する。モーーンだ。


姿はまったく変わらない。ただし目が蒼色に光っている。そしてモーーンの周りには先程とは違い蒼白い炎の玉が無数に浮かんでいる。


「ご主人様は下がって、私が時間をかせ……」


「モ゛ォォォォーーーーーーーン゛!!!」


私の言葉をさえぎるようにモーーンが大きな雄叫おたけびをあげる。身体が蒼白く光り、口に蒼炎が集まっていく。


「モ゛ッ!!!!!!!」


モーーンの口からレーザー光線のような蒼い光が放たれご主人様を襲った。


「ご主人様!!」


「うわっ!? っす!」


避けたー。


モーーンの放ったレーザービームをご主人様は間一髪で避けた。いや少しカスったようで、服が破れている。ケガはないようだ。良かった。


「ご主人様!? 大丈夫!?」


私の問いかけに、


「大丈夫っす! なんともなっ……」


ゴフッと大量の血を吐いて、ご主人様は倒れた。


「はっ?」


ご主人様がうつ伏せに倒れている。気絶するように前のめりに倒れたのだ。大量の吐血をしたのでこの体制のままだと自分の吐いた血で溺死してしまうかも知れない。


なんで? かすっただけでダメージは受けてないハズ。毒があるのか!?


「きゅぷりゅっ!」


―――――ステータス―――――

探索ネーム≫ホシクマ ヤクモ

探索ジョブ≫魔法少女

Lv.28 瀕死 LP 2/300

現在地≫晴町ダンジョン 魔王領域

――――――――――


白餡がご主人様に『鑑定』をかける。


瀕死ではあるが毒ではないらしい。


て、『2』!?


LPが残り2ッ!?


「これは……ライフブレイク(・・・・・・・)……!」


『ライフブレイク』とは『断罪者だんざいしゃ』というジョブが覚えるスキルである。探索者に対して直接ダメージを与えるのではなくLPにダメージを与えるスキルだ。LPが0になると当然探索者は死ぬ。また、LPが最大の10%を下回ると急激に衰弱し動けなくなる。ご主人様が吐血したのもLPが一気に減ったためだろう。


「まさか、こいつの蒼い炎にはライフブレイクの効果があるのか!? いや、すべての魔王に搭載された特性の可能性もある!? いやがらせ(・・・・・)がすぎる!!」


こんなもん、知らなかったらみんな全滅するぞ!?

ふつうはLPポーションなんて持ち歩かない!


「モ゛ォォォォーーーーーーーン゛!!!」


再びモーーンが叫び声をあげて、身体を蒼白く光らせる。またさっきのビームを撃つ気か? てかなんでご主人様ばっかり狙うんだよ。ヘイトか? 私のヘイトが足りないのか?


「モ゛ッ!!」


モーーンの口からビームが放たれるが、私はご主人様を抱えて一気にその場を離脱した。


とりあえずモーーンから距離をとる。

100mくらい跳躍する。着地。

この距離ならビームを撃たれても余裕で回避できるだろう。


「白餡! LPポーションを!」


「きゅぷりゅうう!!」


カメラを抱えた白餡が飛んでくる。

LPポーションは1本だけストックがある。


それを飲ませれば、とりあえずご主人様は大丈夫だろう。


白餡からLPポーションを受け取り、ご主人様に飲ませる。ご主人様が自分で飲めそうになかったら口移しで飲ませようと思ってたが、ふつうに飲み干した。ち。


「せん……ぱい……ごめんなさいっす……やられちゃったっす……」


「うん。大丈夫だよご主人様。あとは私が何とか時間を稼ぐから、ご主人様はここで休んでて」


魔法少女のクールタイム30分をかせぐ。

私達が勝つにはそれしかない。


……? 


いや何かおかしくないか?


私いま何かおかしいコトしなかったか?


すごく違和感あったんだが?


んーーーーーーーーーむ……


「いや、なんで100mもジャンプしてんだよ!? おかしいよ私の身体!? なんでだよ!?」


風神の斧を使ったワケでもない、素の状態だぞ!?


そもそもアレは斧が原因じゃなかったの!?


レベルが上がってなにかスキルでも覚えたのか!?


いや、昨日今日でモンスター3匹しか倒してないし……


「ステータス」


私は自分のステータスを開いてみる。モーーンは追い撃ちしてくる様子はない。ゆっくりとこちらに歩いてくる。えらいぞ、もうちょっと歩いてろ。


私はステータスにおかしなところがないか確認する。


―――――ステータス―――――

探索ネーム≫イヌヤマ ツカサ

探索ジョブ≫忠犬

Lv.28 LP ―/―

現在地≫晴町ダンジョン 魔王領域


―――――ジョブスキル―――――

◇主従契約《発動》

 主従契約を行う。他者を主人と定める。

 主人【星熊ヤクモ】


◆忠義ノ者《常時》

 主人の命令を断れない。

 主人が死亡した場合、自分も死亡する。


◆忠犬ハ死ナズ《常時》

 主人生存中【不死】を得る。


◆主従丿絆《常時》

 主人と『絆』するほど全ての補正値が上昇する。

 絆がマイナスになるとマイナス補正される。

 絆ポイント【30020】


◆従者特権《常時》

 主人のJSジョブスキルを3つコピーして使用できる。

 スキル【ミラクル物語】【なし】【なし】


―――――サブスキル―――――

【加速】【蹴力】【投擲】【忍耐】

【逆境】【痛覚耐性】

――――――――――



なんか『きずな』がおかしいですねー。


30000ポイント突破してとるやないかーい!!


コレ補正値がヤバいことになってるよね!?


すべては私の純粋な(・・・)強さだった!?


いやいや、おかしい、昨日ステータスを見た時はたしか3000半ばくらいだったハズである。おかしい。おかしすぎる。なんかあった? あったかな? 全然記憶にない!


「ご主人様……もしかして、きのう、私が寝たあと(・・・・・・)に何かした?」


弱ってるトコ悪いがちょっと確認したい。何かしら絆の上昇理由があるとすれば私が寝てからだろう。正味、寝てから朝起きるまで『グッスリ』すぎて何も記憶がない。


「……………ごめんなさいっす。18禁になるから……言えないっす……」


はあ?


はあ?


ハア?


18歳以上にしか言えない何かがあったらしい。


私17歳だし、たしかにそれは聞けないね。


ん???


イヤまてその理論はおかしい。


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