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第03話 忠犬少女


『ジョブスキル【主従契約】が発動しました!』


『ホシクマ ヤクモを【主人】に設定しました!』


『【忠犬ハ死ナズ】の効果により、イヌヤマ ツカサに【不死】が付与されます!』


ついにやってしまった主従契約。しかも名前も知らない女の子と。まあ冷静に考えてこの先生きのこるにはコレしかない。


「なな、なんすか!? 今のは!?」


なんか少女、もとい【ご主人様】が顔を赤くしてあわあわ言っている。が、今はそれどころではない。


私は自分の右腕を見る。


【不死】の効果でグチャグチャだった腕が一瞬で回復した。すさまじい再生能力である。なんか他の不調だった部分も全て治っている。


「スゴイ! 快適!!」


私は跳ねるように立ち上がりミノタウロスと向かい合った。


痛みもなし。怖さもなし。オールオッケー。先ほどまでのにらまれただけで動けなかった自分がウソのようだ。


もしかしたら【不死】には、【恐怖】とか【不安】に対して何らかの耐性があるのかも知れない。


「ご主人様! バットをお借りします!」


私はご主人様の金属バットを持ってミノタウロスと対峙する。さきほど吹き飛ばされた時に自分の斧は予備も含め全てどこかに失ってしまった。まあそこら辺に落ちてるだろうしヨシ。とにかく今はミノタウロスだ。


ミノタウロスはかなりのダメージを負っている。しかし私の攻撃力で倒しきれるかは疑問だ。自慢でないが私はそんなに腕力がない。たぶんご主人様よりも力がない。忠犬のジョブ補正の低さは本当に腹が立つ。どちらにしろ自分の攻撃力が低いなら相手が死ぬまで殴り続けるしかない。


こちらは不死身、死ぬことはない。


不死には不死の戦い方がある。


「不死身になっただけで攻撃力が上がったワケじゃないからな。長期戦になるかもだけどヨロシクな!」


私はバット振りかぶりミノタウロスに襲い掛かる。ミノタウロスは金棒で私の胴を狙うが私はそれを避けない。防御もしない。


ドガッ! ガッ!!


ミノタウロスの金棒を受けて私はまた盛大に吹き飛ばされる。壁から床へツーバウンド。契約前だったら完全に致命傷だ。背骨が腰ごと折れとる。でも不死だから大丈夫。私はすぐに回復して立ち上がる。


そして攻撃を受けた時にちゃんとこちらの攻撃も当てることができた。防御を完全に捨てて攻撃したのだ。相打ち成功である。


ダメージがどれだけ入ったか分からないが、これを繰り返せばどんな敵でも倒せるハズだ。100回でも1000回でも何千回でも、何時間でも。相手が死ぬまで続けてやる。これが私の相打ち戦法だ。


覚悟を決めろミノタウロス! 私はとっくに決まっているぞ!


「でも、出来れば早めに逝ってくれー!」


ドガ! ボン! ドガ! ボン!


殴ってはふっ飛ばされ、殴ってはふっ飛ばされる。


ダンジョンの通路は結構な血しぶきで赤に染まっていく。かなりスプラッタだ。15禁確定である。


金棒をくらうたびに強烈な痛みが襲う。が、繰り返しているウチにだんだん気にならなくなってきた。


なんかどうでも良くなってきたかも。


痛み感じないかも。


あれ? 全然痛くない? 逆に気持ちいい感じ? あれれ? 私の身体おかしくなってる? あははははは……! なんかテンション上がってきた!


殴る、やられる、殴る、やられる、殴る、やられる……


どれだけ繰り返しただろうか?

時間の間隔はないが100回は繰り返したかも知れない。繰り返してないかも知れない。


「グモオォォォォー……」


ミノタウロスは断末魔を上げると黒い霧となり消えていった。ミノタウロスが消えると同時に大量の魔石が辺りにパーンとバラ撒かれる。キラキラと光る魔石が大量に宙を舞い、まるで宝石のシャワーのようだ。


「すごい量……!(¥O¥)」


魔石1個の価値はゴブリンもミノタウロスも変わらない(1個1800円也)、しかし強い魔物ほど多くの魔石をドロップする。上層の階層ボスや狂敵を倒した後に大量に降り注ぐ魔石を、一部の探索者は【黄金の雨】と呼んでいる。


「はえー、100個以上は軽くありそう。すごー」


いかん、あまりの驚きで偏差値が下がってしまった。


私は地面に散らばった魔石を拾っていく。金だ金だ。これだけの数なので屈んで1個1個拾うのも大変である。上の階層に行くほどドロップする魔石の数が増えるワケで、ドロップの回収も一仕事になってくる。かなり上層まで探索の進んでいるパーティーは『自分のパーティーとは別にドロップアイテムを拾う専用の探索者を雇う』こともあるそうだ。


「あ、スキルカードもある。コレはご主人様と要相談だね」


レアアイテムであるスキルカードまで手に入れた。消耗品だが使用すれば何らかのサブスキルを覚えられる。どんなスキルのカードであっても売値100万円以上は確実である。レアなカードなら天井知らずだ。超うまい。


ちなみにご主人様は戦闘の途中から通路の壁に寄りかかってスヤスヤと眠っている。もう大丈夫と安心したのだろうか。この状況で寝れるのは本当にすごいと思う。脳に重篤じゅうとくな症状がある場合、急に眠ってしまうこともあるらしいがそれではないと信じたい。


そして拾い続けて5分。

私は魔石300個、スキルカード1枚を手に入れた!


拾うのめっちゃ大変だった。危なかった。【忠犬ハ死ナズ】の不死効果が無ければ私の腰が粉砕しているところだった。


次に確認するのはレベルである。


オプション設定しておけばレベルアップのお知らせも脳内アナウンスされるのだが、連戦の時など集中が乱れる可能性があるため、基本的にはoffにしておくよう探索者協会は推奨している。


私はステータスを確認する。


「ステータス」


狂敵を倒したことだし目茶苦茶レベル上がってないかな? かなり期待できるぞ。わくわく。



―――――ステータス―――――

探索ネーム≫イヌヤマ ツカサ

探索ジョブ≫忠犬

Lv.13(7up↑)LP ―/―

現在地≫晴町ダンジョン C01/10階層


―――――ジョブスキル―――――

◇主従契約《発動》

 主従契約を行う。他者を主人と定める。

 主人【星熊ヤクモ】


◆忠義ノ者《常時》

 主人の命令を断れない。

 主人が死亡した場合、自分も死亡する。


◆忠犬ハ死ナズ《常時》

 主人生存中【不死】を得る。


◆主従丿絆《常時》(NEW)

 主人と『きずな』するほど全ての補正値が上昇する。

 絆がマイナスになるとマイナス補正される。

 絆ポイント【20】


―――――サブスキル―――――

【加速】【蹴力】【投擲】【忍耐】

【逆境】(NEW)【痛覚耐性】(NEW)

――――――――――



すごい! レベルが7も上がっている!


二年間ゴブリンを狩り続けてレベル6止まりだったのが、一瞬でプラス7してしまった。


狂敵さすが、ハンパない経験値である。


この二年間でゴブリン3000匹以上は狩ってると思うけど、ミノタウロス1体の方が経験値高いってことだよね。ザコ狩りでレベル上げは限界があるってことか。なるほど。緑の小鬼たちに合掌。


新しいジョブスキルも覚えたみたいだね。


―――――ジョブスキル―――――

◆主従丿絆《常時》(NEW!)

 主人と絆するほど全ての補正値が上昇する。

 ポイントがマイナスになるとマイナス補正される。

 絆ポイント【20】

――――――――――


ふむふむ、主人と【絆】するほど身体能力の補正値が上がるね。なるほどー、なるほどなー、このスキルを覚えるから基礎補正が低いのかー、なるほどー、


「いや、絆って何だよっ!?」


つい自分にツッコミを入れてしまった。


パキーーィィーーン!!


「――――うえっ!?」


私のツッコミに呼応するように大きな音がダンジョンに響いた。


大気を震わせる音と共に、ダンジョンの通路に黒い水たまりが現れる。


「なんだ……モンスターポップか」


無駄にビックリしてしまった。


モンスターポップ。モンスターが倒されると、同じ階層のランダムな場所にモンスターが再出現する。出現するモンスターの種類や数はそのつど再抽選される。『探索初心者必読マニュアル』から抜粋。


目の前にモンスターがポップすることは珍しいが、ありえないことでもない。私もこの二年で何回も経験している。どうせ第01階層でポップするのはゴブリンだけだ。


レベルも上がったし今ならゴブリン5匹のパーティーも怖くない。ってか5匹きて欲しい。マネー的にな。


先程の戦闘で吹き飛ばされていた(戦闘後に拾って回収した)自分の手斧を2本、両の手に装備する。やっぱりバットより斧の方がしっくりくる。1本60万円は伊達じゃない。


ゴブリンなんぞもはや相手にならないが、寝ているご主人様にヘイトが向かないようにだけは注意する。もし彼女が殺されたら私も死んでしまう。殉死じゅんしはイヤだ。


そんなこんなで黒い沼からポップしたモンスターは、


ミノタウロスだった。



応援&ブクマよろしくお願いします!


☆☆☆(^∇^)ノ♪☆☆☆


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