第20話 曇山ダンジョン
――曇山ダンジョンセンター 入場ゲート前ー―
ダンジョンに入るには『ダンジョン石碑』に触れる必要がある。曇山は探索者がとても多いため入場周りはいつも混雑している。
その混雑を緩和するため曇山ダンジョンセンターでは石碑前に『入場ゲート』が設置されている。
曇山でダンジョンに入場するには、
1、受付機械で整理券を発行する
2、自分の番号が呼ばれたらゲートに向かう
3、係りの人に整理券を渡して入場する
以上である。
入場ゲート前は、さながら空港の搭乗口のような作りになっており、待ち時間が少しでも楽になるように工夫がされている。たくさんのベンチやソファー、大きなホログラムビューではニュースやバラエティが流れている。各種自販機はもちろん、食事処や土産物屋まである。
他にも有料で使えるラウンジや、会議室、訓練場や資料室など、入場ゲート前だけでも晴町ダンジョンセンターとは比べ物にならないほどの充実ぶりだ。
ちなみに晴町では石碑がポツンと置いてあり、その前に職員の人が(パイプ椅子に)座っているだけである。順番待ちなんか、だーれもいない。何ならベンチすらない。
「先輩、整理券取ってきたっす。今は18組待ちらしいっす。わりと早そうっす」
「ありがとう、ご主人様。日曜だから混んでると思ってたけど、今の時間はそうでもないのかな? 早めに更衣室で着替えてきた方が良さそうだね」
曇山ダンジョンでは、パーティー1組が入場するごとに1分のインターバルを開けて入場させている。これは入場後のスタート地点が人多すぎで混雑しないようにするためである。
待ちが18人だと名前が呼ばれるまで10分ちょいしかない。私とご主人様は急ぎ更衣室に向かうのだった。
…
……
………
『整理券番号392番の方、入場ゲートへお越しください』
「あっ、ウチラの番っすね。間に合ったっす」
更衣室で着替えて戻ってくるとすぐに番号が呼ばれた。
私とご主人様はさきほど購入した新防具を装備している。そんなに重ったらしい防具ではないので装備している感はあんまりない。犬耳と尻尾と手枷と首輪だけである。あとサンダルか。
なんか周りの探索者が私のコトを遠目でチラチラ見てる気もするが気のせいだろう。こんな地味で矮小な私のどこに注目する要素があるというのか。ちなみに防具の下は『セーラー服』だが、それもそこまで珍しくないハズである。
ここで何故下がセーラー服なのか説明が必要だろう。
コレには深い、深い、理由がある。
動画の再生数のためである。
ご主人様の親友であるネム(動画編集全般担当)が『女子高生なんだから制服で探索するべき。それだけで再生数が10倍は違う』と言ったのである。
さらにご主人様が「10倍!? 了承っす!」と安請け合いしたのだ。
私としては『セーラー服よりもスクール水着の方が動きやすくて良いかも』と提案したのだが『それはやり過ぎ!』とネムに却下されてしまった。
私の場合、戦闘で被弾することが多いからね、セーラー服が破けちゃうことが多いんだよ。返り血は白餡が『洗浄』できるけど、破れると修復師に『修復』を頼むことになり、ちょっと面倒くさいのだ(晴町には修復師がいないため)。
そのコトをネムにメッセランで伝えると、次の日に予備のセーラー服を10着くれた。はあ? 10着もなに? 多すぎない? そしてなんでサイズ完璧に分かってるの?
持つべきものはご主人様の親友である。
その予備の私のセーラー服は現在、白餡のアイテムボックスにすべて収められている。というか、今日のセーラー服も白餡から出てきたものだ。
なんか、セーラー服からご主人様の匂いがするんだよねー。すごくいい匂い。幸せの香りだよー。ご主人様わざわざ洗濯してくれたのかな? ん? でも『洗浄』あるよね? ん? んーー?
そういえば最近は、返り血を浴びてなくて破れてもないのに「こっちと交換するっす! 予備を出すっす!」って、着ていたセーラー服を帰りに持ってちゃうんだよね。うーむ。深くは考えないでおこう。
「それじゃあ、出発っす!」
ご主人様は曇山ダンジョンに苦い思い出があるだろうに、そんな素振りを見せる様子はまったくない。過去をそんなに気にしないのだろう。強い娘だ。
私とご主人様は手をつないでダンジョン石碑に触れる。
(実際はパーティーを組んでいれば触れ合ってなくても同時に転移するのだが、私達はいつもダンジョンに入る時は手をつないでいる!)
パアァァァーーーー!!
身体が光に包まれた次の瞬間、私とご主人様は大きな森を目の前にした丘の上に立っていた。ダンジョン内に転移したのだ。
背後にはダンジョン石碑があり、近くにはダンジョンセンターの係員が2人立っているのが見える。
曇山ダンジョン内部はやさしい風が吹いており、空は快晴で雲一つなかった。『ダンジョンの内部は異世界に通じていて、私達の世界とは違う世界である』と、どこかの学者が言っていたのを思い出した。この空は確かにそうとしか見えない。身体が小さくなって石碑の中に入っている、と考えるのはまずムリだろう。どっちでも良いけどさ。
「ふわー! 久しぶりっす! 晴町に比べて開放感がすごいっす!」
ご主人様が嬉しそうに声を上げる。
「まあ、晴町は地下迷路ダンジョンだからね。森林ダンジョンの曇山とは3Dダンジョン(ウィザー◯リー風)とオープンワールドRPGくらい違いがあるよ」
マップの広さと自由度が段違いである。
ちなみに地下迷路ダンジョンと森林ダンジョンの違いはフィールドの開放感だけではない。
森林ダンジョンでは素材の【採取】が可能なのだ。
『採取』とはダンジョン内部にて、『戦闘なし』でダンジョン産の素材を入手することである。要は拾い物である。
薬草やキノコ、鉱石など、ダンジョンでは素材として活用できるアイテムがたくさん落ちている。モンスターを倒してのドロップとは違い、採取は安全に素材を手に入れることができる。探索者として戦闘が苦手な者も採取をガンバることで、わりと稼げたりするのである。
曇山ダンジョン第01階層で主に採取できる素材は、
緑薬草→売却額1000円
赤薬草→売却額3000円
夢キノコ→売却額5000円
黄金キノコ→売却額30000円
などである。
ちなみに、地下迷路ダンジョン(晴町)には採取ポイントはない。
こんなところでも格差が……
「「お疲れ様です。気をつけて探索してください」」
ダンジョン石碑(出口用)の近くに立っていた係員2人に声をかけられる。ダンジョンの出口にまで人員を配備できるとは、本当に曇山と晴町の格差はすごい。当然、晴町ダンジョンには略。
「行ってくるっすー!」
「行ってきまーす!」
私とご主人様は係員の人達に見送られ、曇山ダンジョンの探索を開始するのであった。
『開始するのであった』といっても、今回は散歩みたいなものだけどね。




