第19話 防具屋
私とご主人様はアドバイス要員のサイモンさんを連れて、曇山ダンジョンセンターの防具屋にやってきた。
――ディフェンスムーン 曇山店――
「久々に防具屋に来たけど、こんなにきれいな感じだったかな?」
防具屋に来たのは1年ぶりである。
私は2年間ひとりで『ずーっと』ゴブリンと戦っていただけなので、防具屋を使う機会はほとんどなかったのだ。
ここは曇山ダンジョンセンターにある防具屋『ディフェンスムーン』である。内装はスポーツ用品店のようにさわやかで、防具の種類によってコーナーが分けられている。中世ヨーロッパ感のある全身鎧、近代的なデザインの未来系スーツ、派手な色の和服、コーナーごとに照明の色を変えるなど展示にも工夫が感じられる。Tシャツやアロハシャツなんかも売っているようだ。
「そうっすね。店のデザインが古いって苦情が来たからリニューアルしたらしいっすよ。若者向けにオシャレにしたみたいっす」
やはりか……前はファンタジー風のボロっちい店構えだった気がしたんだよね。あれ人気なかったのか。てか、苦情でリニューアルされるの!? クレーマー怖っ! 私はあの古臭い雰囲気もキライじゃなかったけどなー。
「ハッハ! それじゃあ、防具を選ぶか! さっきの動画を見る限りじゃ、二人とも動きやすい『軽量装備』が良さそうだな! ジョブが分かればもっと詳しく教えれるんだがなー……どうだ?」
サイモンさんがニヤリと笑う。顔がデカい。まあこちらのステータスも分からない状態でアドバイスしろってのも酷だろう。
「べつにいいよ、気にしないし」
私は「ステータス」と唱え、現れたステータスボードをサイモンさんに見せた。
―――――ステータス―――――
探索ネーム≫イヌヤマ ツカサ
探索ジョブ≫忠犬
Lv.27(5up↑) LP ―/―
現在地≫ディフェンスムーン 曇山店
―――――ジョブスキル―――――
◇主従契約《発動》
主従契約を行う。他者を主人と定める。
主人【星熊ヤクモ】
◆忠義ノ者《常時》
主人の命令を断れない。
主人が死亡した場合、自分も死亡する。
◆忠犬ハ死ナズ《常時》
主人生存中【不死】を得る。
◆主従丿絆《常時》
主人と『絆』するほど全ての補正値が上昇する。
絆がマイナスになるとマイナス補正される。
絆ポイント【2550】
◆従者特権《常時》(NEW)
主人のJSを3つまでコピーして使用できる。
スキル【ミラクル物語】【なし】【なし】
―――――サブスキル―――――
【加速】【蹴力】【投擲】【忍耐】
【逆境】【痛覚耐性】
――――――――――
「なにぃっっ!? 嬢ちゃん……忠犬って……あの?」
どの忠犬かは知らないけど忠犬です。
「ハッハッハ! 参ったぜ! ツカサの嬢ちゃんがあの【晴町の狂犬】だったとはな! もっとイカつい人物を想像してたが、こんなに可愛いらしいとは思わなかった!」
いや私はその【晴町の狂犬】ってのを存じ上げないんだけど? 誰だよその『二つ名』広めてるヤツ? 絶対悪意あるよね? あと可愛いだって? お世辞でも嬉しいよ、ありがとう。
「先輩さすが有名人っす! 曇山まで名前が轟いているっす!」
電車で3分の隣町だけどね。
「ハッハー。すまんすまん。しかし俺から頼んだが『ユニーク』の情報は他人にほいほい見せない方が良いかもな。どんなメンドー事に巻き込まれるか分からないぜ」
もちろん誰にでもほいほい見せないよ。オッサンだから見せたんだよ。あとべつに頼まれてないよ。私から見せたし。
「しかし、なるほど。さっきの動画でツカサの嬢ちゃんがダメージを受けた時、キズの回復が異様に速かったのは『不死』の効果だったワケだな。【超再生】ってスキルもあるが、アレより遥かに回復が速くて驚いたんだ」
『超再生』は希少職の近接ジョブが稀に覚える回復スキルである。ダメージを受けてキズを負っても時間が経つとけっこうな速さで自動的に回復するのだ。反則級スキルのひとつである。
やりましたご主人様!
私、反則級に勝ってるらしいです!
「サイモンのおっちゃん! 次はウチのも見るっす!」
ご主人様がサイモンさんにステータスボードを見せる。こっちも驚かれそうだが大丈夫か?
―――――ステータス―――――
探索ネーム≫ホシクマ ヤクモ
探索ジョブ≫魔法少女
Lv.27(5up↑) LP 282/300
現在地≫ディフェンスムーン 曇山店
―――――ジョブスキル―――――
◇魔法少女☆変身《発動》
魔法少女に変身する。
全回復する。
基礎能力が大幅に上昇する。
効果時間3分(再使用に30分のCTが必要)
◇マジカル☆トゥインクル☆ベアーミー《条件》
子熊兵を召喚する。召喚数はレベル依存。
※魔法少女に変身中のみ使用可能
◇マジカル☆トゥインクル☆ベアトラス《条件》
巨大な光る熊が出現する。
※魔法少女に変身中のみ使用可能
◆マジカル使イ魔《特殊》
ゆる使い魔を使役する。
使い魔【ゴースト】
索敵、地図、鑑定、洗浄、アイテムボックス
◆ミラクル物語《常時》(NEW)
レアドロップのドロップ率が大幅に上がる。
狂敵、イベントキューブの出現率が上がる。
―――――サブスキル―――――
【魅力】【幸運】【豪運】【集中】【察知】
【星熊流古武術】
――――――――――
ご主人様もレベルが『5』上がっている。この前のイベント部屋のあとに上がったのだ。モンスターハウスでゴブリンを500匹倒したが、それでも5は上がり過ぎである。たぶん『イベントクリア報酬で経験値ボーナスが入ったのだろう』というのが私達の見解だ。
「なるほど、ヤクモの嬢ちゃんもヤベえな。魔法少女は希少職でもトップクラスの火力がある。さっきの動画では変身してなかったが、変身なしでアレだけの動きは将来有望すぎるぜ! えらい!」
「やったっす!」
褒められてご主人様は嬉しそうだ。ピースしてる。
私ももちろん嬉しい。ピース、ピース。
「嬢ちゃん達がステータスを見せてくれたお陰で、どんな防具を買えば良いのかだいたい掴めたぜ! あとはこのベテラン探索者の俺に任せとけ!」
「「うっす!!」」
私とご主人様は大きな声で返事をした。
…
……
………
そしてサイモンさんが見繕ってくれた私達の防具はこうである。
「まず、ヤクモの嬢ちゃん! 嬢ちゃんは動きがとにかく速い! その速さを殺すのはもったいないから防具も超軽量級のモノを選んだ! まずはふだん使ってるジャンパーだな! これはかなり良いヤツだから、そのまま変更せず装備し続けていい!」
「はいっす! このジャンパーはネムちんがプレゼントしてくれたものっす! このまま使えてうれしいっす!」
「いや、そのまま使うというのは早計だ! この防具屋には【刺繍使い】がいる! 魔法の糸で服に刺繍することで『効果を埋め込める』職業だ! 俺のおすすめとして【速度上昇】と【体力上昇】の刺繍をしてもらった! 刺繍の元デザインは俺だ! 見ろ!」
見ろ! と見せられたジャンパーは、背中に『クマ嵐』と書かれた筆字の刺繍と、勇猛そうなリアルな熊の刺繍が入っていた。前面にも熊の爪痕がハデに入っている。これは……、
スカジャンになっとる!!
「へーっす、これは……かっこいい? っすか? なんか顔怖いクマっすし……先輩……どう思うっすか?」
あれ? コレご主人様ノリ気じゃない? 微妙な顔してる? スカジャン化されたのイヤだった? いや、可愛くない熊が許せないのか? まさかのリアル熊否定派だった!?
「私は……良いと思うけど……? めちゃ可愛いと思うよ。リアル熊もキュートなご主人様には逆に似合ってるし。熊だけじゃなく星も入れると良いかな? とは思うかな?」
なんか動揺して歯切れが悪くなってしまった。実際、ご主人様はなに着ても似合うし、ベリーキュートなんすよ。どう思うって「めちゃ可愛い(ご主人様は)」という感想しか出てこない。名前的に星と熊の刺繍を入れておけば他人のモノと間違えることはないだろう。
「……そ、そっすね! ほし、星っす! 店員さん星も入れて欲しいっす! あと『犬山先輩命!』って入れて欲しいっす!」
さすがに『犬山先輩命』は全力で止めた。
恥ずかしい。///
「ハッハッハ! 次は頭防具だな。軽量装備というと『皮の帽子』とか『ニット帽』とかを連想するかも知れんが、アレラは防具としてまったく使えん。防御力が低すぎて近接戦では意味がねえ。かと言って『鉄兜』をかぶって戦うのもヤクモの嬢ちゃんのスピードが殺される。だから俺のおすすめはこれだな!」
そう言って、サイモンさんは小さな櫛みたいなモノを見せてきた。ん? ヘアクリップ……かな?
「これは、『守神の髪留め』だ。1回だけ頭部への大ダメージを無効化してくれる。効果が発動すると髪留めは壊れるが発動させなければ問題ねえ。ベテランの近接職でこの髪留めを装備してるヤツは多いぞ。すべて避けるって精神だな! ヤクモの嬢ちゃんもそのつもりだろ?」
「うっす! もちろんっす!」
もしも頭部に被弾したら髪留めが壊れて『頭装備なし』になってしまうが、予備にもうひとつ買っておけば大丈夫だろう。ご主人様が被弾するトコあまり想像できないし。
「次は足防具だな。俺はこの『流星のブーツ』に決めたぜ! 速度がかなり加算されるブーツだ。ふつうは慣れるまで時間がかかるが、ヤクモの嬢ちゃんの戦闘センスならすぐにでも使いこなせるだろう!」
「はいっす!」
ブーツか……これで残りは【腕防具】と【補助防具】だ。探索者の防具は『頭、胴、腕、足、補助の5種類』が存在する。同じ箇所に2つ、例えば頭部に『迷宮バンダナ』と『鉄兜』を装備したとしても、防御力の低い方の防具効果は無効になる。上記の場合バンダナが無効化される。
「腕はこれだな! 『黒熊グローブ』! 腕力ではなく、握力が上がる手袋だ! 単純に腕力上昇の装備を選んでも良いが、ヤクモの嬢ちゃんは動きでも攻撃力を加算できるみたいだからな。力の基礎となる握力を上昇させる装備を選んでみた!」
「握力でありがたいっす! 攻撃力は武術の型を使えばいくらでも加算できるっす!」
武術すご!? そういうもんなの!?
「あとは、補助防具だが予算が足りん! ここでムリして安物を買うよりは、ある程度お金を貯めて一気に良いランクの装備を買うことを俺はおすすめする! ランクCの晴町を攻略するだけなら(嬢ちゃん達なら)補助防具なしでも余裕だろう!」
補助防具とはゲームで言うところの『アクセサリ』のことである。ピアスとかネックレスとか、補助防具自体にはたいした防御力はないが、代わりに『魔力上昇』や『毒耐性』など、いろいろな効果が付与されている。
強力な効果を持つ補助防具は当然お高い。妥協して安物を買うくらいなら『お金を貯めて高級品を買え』とサイモンさんは助言しているのである。
最終的にご主人様の装備は、
頭→守神の髪留め
胴→スカジャン
腕→黒熊グローブ
足→流星のブーツ
補→なし
に、なった。
「もちろん動画映えを考えて、できるだけ可愛いく見える装備を選んだぜ! せっかくの女子高生だし、楽しく青春しないとな! ハッハッハー!」
はあーーーー!?
可愛い装備で戦うことのなにが青春なのっ!?
まったく理解できないのだがー!?
「さすが、サイモンのおっちゃんっす! 青春をわかってるっす!」
ご主人様は『可愛いは青春』肯定派だった!?
私が間違っているのか!?
「次はツカサの嬢ちゃんだな! 嬢ちゃんは手っ取り早くシリーズでまとめてみたぞ!」
手っ取り早く!? 本人にそれ言う!?
そして、サイモンさんは(おそらく)私の防具と思われる装備を渡してきた。なにこれ……? 動物の耳? これ尻尾じゃね?
私はとりあえず渡されたモノを装備してみる。
頭→犬耳カチューシャ
胴→赫犬の尻尾
腕→赫犬の手枷
足→赫犬のサンダル
補→赫犬の首輪
ハア?
ハア?
「す、すす、素晴らしいっすーーーー!!!」
ご主人様が叫んだ。
「すす、すごいっすーー!! まずは頭からピョコンと飛び出した犬耳! 最高っす! ちっちゃくて可愛い先輩に似合いすぎっす!」
ん? 今ちっちゃいって言った? 戦争する?
「お尻からピョコっと生えてる尻尾も最高っす! 今までの先輩も完璧だと思ってたっすけど、さらなる、さらなる、変身を残していたとは! ウチ感動っす!!」
べつにお尻からは生えてないからね。なんか不思議な力でくっついてるけど。どーいう仕組みなのかは分からん。あとご主人様お尻あんまり見ないで。恥ずかしい。
「く、く……首輪と手枷についてはウチの口からは言えないっす……しかし、しかし、サイコーに似合ってるっす……先輩!」
え? 言ってない? 口から言ってない?
サイコーに似合ってるってどれが? どれのこと?
あと予算オーバーで補助防具は買えなかったんじゃないの? なんで私だけ? どーいうことサイモンさん?
『 お、 ご、 り 』
サイモンさんの方を見ると、ジェスチャーで「奢り」と伝えてくれた。どうやら補助防具(首輪)はオッサンの奢りだったようだ。なにこれー。もしかしてこのオッサン変態なのでは? 通報するか? 通報しとくか?
「ハッハッハ! その装備は【赫犬シリーズ】と言って、まーー、探索者に人気のない装備だ!」
人気ないの!? そりゃこんな見た目だとねー!!
「見た目の話じゃないぞー! 性能の話だ! 『赫犬シリーズ』は『防御力がほとんどない代わりに攻撃力が上がる』という効果があるのだ!」
あーーー、なるほどーー。
「ツカサの嬢ちゃんは不死だから防御力を気にする必要がない! 殺られる前に殺る! 殺られながらも殺る! とにかく殺る! そして殺るためには攻撃力を上げるのが一番だ! そういうコトで、今回は攻撃力上昇に特化した防具にしてみたぞ! 決して犬つながりでテキトーに、とかは考えていない!」
女子高生にあんまり「殺る殺る」言うなとは思うが、言いたいことは分かった。
そもそも今まで雨合羽(返り血耐性小)しか装備してなかったのだから、防御力がなくてもなにも変わらない。むしろ攻撃力がめちゃくちゃ上がるため、大幅強化と言えるだろう。
「先輩良いっすねー。ウチも防御を捨てて攻撃特化にした方が良くないっすか? 全部避ければ良いわけだし」
ご主人様が羨ましそうに私に言ってくる。
ご主人様も犬耳と尻尾つけるの? 最高だな!!
最高だな!!!!(2回目)
「ハッハッハ! それはさすがに止めといた方が良いぜ! モンスターの攻撃力が高すぎるから、基本的に避けることが前提にはなってるが、それでも『防御力』ってのはバカにできねえ! 防御力が低すぎるとカスっただけでも大ケガになるし、完全に避けても風圧で骨が折れることもある」
防御力――、ダンジョン産(ドロップ、生産)の防具を人間が装備すると『防御力』と呼ばれる見えない薄い膜で全身が覆われる。敵対者の攻撃にさらされた時、この膜によって敵の攻撃威力が減退されるのだ。防御力が高いほど減退効果は高くなる。防御力は頭、胴、腕、足、補助の5つの防具の合計値が採用される。
ちなみに、今回ご主人様が新調した防具の防御力合計がどれくらいなのか例えると『時速60kmで突っ込んできた乗用車の衝撃が、通学中の自転車にブツケられたくらいの威力に減退する防御力』である。軽さや速度上昇などの効果を重視したため、防御力は低めとなっているが、それでも大したものである。さすがダンジョン産防具だ。
さきほどサイモンさんの言った『カスっただけで大ケガ』とは、60kmの自動車にカスられるか、通学中の自転車にカスられるかの差である。前者はまさに死と隣り合わせである。
蛇足ではあるが、防具そのものの『硬度』も守りとしては重要である。毛糸で作ったニット帽と、鉄でできた鉄兜では単純に物質としての硬さが違う。頭部に攻撃を受けたさい、毛糸よりも鉄で守っていた方がダメージが少なくなるのは必然である。
こうして私達の新装備も整った。
価格は全部合わせて2600万円だった。
微妙に予算オーバーである。
「サイモンさん今日はありがとうございました」
「サイモンのおっちゃんありがとうっす!」
私とご主人様は防具屋の前でお礼を言ってサイモンさんと別れた。なにやら今日はいろいろ予定が入っていて忙しいらしい。
現在の時刻は午後3時。
「ご主人様、この後は予定通りダンジョンでいい?」
今日の予定は午前中は買い物、午後は曇山のダンジョンに入ることになっていた。ぜんぜん予定通り行ってないし、時間も少し遅くなってるが問題はないだろう。
「もちろんっす! 新スキルの検証とついでに新装備のチェックもするっす!」
私達は防具屋をあとにして、曇山ダンジョンの探索に向かうのだった。久々の曇山だなー。
よろしければ、
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