第16話 宝箱
――イベント部屋 コロシアム――
私達の目の前には銀色に輝く宝箱がある。
ゴブリンを殲滅した報酬、王国からのプレゼントだそうだ。ありがとう、名前すら知らないどこぞの王国。
「銀色の宝箱っすね。先輩コレってかなりの『あたり』なんじゃないっすか?」
「イエス……! 銀箱から出るアイテムの売却期待値は5000万だよ! 私達もついに富豪の仲間入りだね!!」
『第01階層のイベント部屋&敵がゴブリンしかいない』という理由でクリア報酬には期待していなかったが、まさかの銀箱とは! 探索歴2年! 私もついにここまでキタ!!
ダンジョンで出現する宝箱には『木箱、鉄箱、銅箱、銀箱、金箱、虹箱』の6種類が存在する。宝箱に何が入っているかは基本ランダムだが、宝箱の色が虹に近づくほどレア度は高くなり、良い物が出やすくなる。
木箱→期待値100万円
鉄箱→期待値500万円
銅箱→期待値1000万円
銀箱→期待値5000万円
金箱→期待値2億円
虹箱→期待値?円
期待値とは中身の売却価格の平均値である。銀箱からは1000万円〜1億円のアイテムが出る。ネット情報だ。
それにしても、いいい、1億円!? ヤバすぎるっ!
「うーん、宝箱の『開封動画』はあまり配信したくないんだけど、ご主人様どう思う?」
カメラをこちらに向けてふよふよ浮かんでいる白餡を一瞥する。完全にドローンカメラだね。すご。
「そっすね。ウチもそれが良いと思うっす。すごいアイテムを出して妬まれても面倒っすし、ウチラは戦闘動画メインでいくっす」
宝箱開封動画は両刃の剣である。開封のドキドキと中身に対する一喜一憂、人の心を揺さぶる人気ジャンルではあるが、あまりに良いモノを引き当てた時に面倒くさいことになるのだ。
売ってくれという強引な交渉、妬みからの嫌がらせ、自宅凸からの不法侵入、中にはダンジョン内で闇討ちを受けた探索者もいるそうだ。
「開封動画は見る分には良いけど、やる分にはリスクが高すぎるね。私達はか弱い女子高生なワケだし……ネットリテラシーは高く持っていこう」
「うっす!」
顔出しの戦闘動画をアップしようとしている時点で『なにがネットリテラシーだ』という感じではあるが、顔を晒すくらい今どき普通である。恥ずかしいコトはしてないし、問題ない。
動画の説明欄に『リア凸禁止』『勧誘お断り』『取材NG』のタグを付けておけば基本大丈夫だと思う。破ったヤツラ全員通報できるし。
ルール違反者に対して動いてくれる探索者協会の怖い人もいるので、意外とタグによる抑止効果は高い。
「それじゃ、ご主人様、宝箱の開封をお願いします!」
「ええっ!? なんでウチっすか!? 先輩の方が良くないっすか!?」
「ほら、ご主人様ってサブスキルで【幸運】を持ってるでしょ? どれくらい効果があるかは分からないけど、0.1%でもレアが出る確率が上がるなら、私はご主人様が開けるべきだと思うんだ」
ご主人様は私より圧倒的に運が良さそうだしな。
そもそも私は目茶苦茶運が悪い。
ご主人様と出会えてようやく運が上向いて来たのだ。私にとっての幸運の女神はご主人様その人である。
女神がそばにいるのなら、女神に頼むのは必然だ!
「分かったす。ならウチが開けるっす」
そう言うと、ご主人様はポコンっと宝箱を開けた。
逡巡がまったくねえ! これが決断力!!
ご主人様といっしょに宝箱の中身を確認する。
「これは……トートバッグ?」
宝箱の中身は大きめのトートバッグだった。肩ヒモが長めのタイプで、買い物に使うのにちょうど良さそうだ。
「白餡、【鑑定】お願いっす」
ご主人様が白餡に鑑定の指示をだす。『鑑定』とはモノの名前と性質を表示するスキルである。魔道具だけでなく、武器や防具、スキルカードや生産レシピまで、あらゆる物質を鑑定できる。効果や性質を正確に把握できるため、探索者にとって『必要不可欠』なスキルである。
今さら鑑定の解説いる? って思ったけど、ひとりでに思考が動くので仕方ない。ぼっちだった頃の後遺症だ。
「鑑定を持っていないと悲観するあなた、心配いりません! 各地のダンジョンセンターでは鑑定と同じ効果を持つ『鑑定メガネ』の貸し出しを有料で行っています! 鑑定のスキルを所持していない探索者にとっては救いのサービスとなるでしょう!」……『ダンジョンセンター紹介動画』より。
「きゅぷ!!」
白餡がきゅぷと鳴くと、トートバッグがぼんやり光り半透明のボードが空中に浮び上がる。
―――――魔道具―――――
【マジックバッグ(大)≪常時≫】
異空間に物質を収納できる。
トートバッグ型。収納量3tまで。
――――――――――
3トン!?
「マジックバッグっすね。形状的に戦闘では使いづらいっすが、3トン収納できるっていうのはナカナカ便利っすね」
いや、大きすぎるだろ……3トンはもう業者だよ。
たしかマジックバッグ大の相場は2000万円くらいのハズだ。あちゃー、ふつうに期待値で大負けしとるやん。ご主人様が知ったら悲しむだろうから黙っておこう。確率とはそういうコトもある。
「ウチは白餡の『アイテムボックス』があるから使わないっすが、先輩使うっすか?」
「うーん、私も使わないと思う。ポシェット型だったら即採用だったけど、トートバッグはさすがに戦闘の時に邪魔になるかな」
遠距離から攻撃するならトートバッグでも問題ないけど、私は近接型だからなー。使いこなせないだろうなー。絶対壊すよなー。
ちなみにドロップアイテムや探索用アイテムの保管は『全自動回収&大容量収納』の白餡様がいらっしゃるから十分である。白餡神ありがとー。さすがパーティー内序列2位!
「ふだん使いだったら全然イケるかもっすね。先輩これで登校したらどうっすか?」
「さすがにン千万円するバッグを学校には持って行けないよ……盗まれてもイヤだし」
自宅アパートで倉庫代わりに使っても良いが、私も妹も私物がほとんどないんだよね。2000万円のバッグに教科書と参考書と服だけ入れるか? もったいなすぎるわ。
「となると売っちゃうっすか? マジックバッグなんでかなりの高値で売れるとは思うっすけど……」
「そうだね。売ってしまって、ダンジョン攻略用の新しい防具を買っても良いかも知れないね。私達の当面の目標は『晴町ダンジョンの攻略』だし、ここで攻略資金が増えるのは悪くない選択だと思うよ」
「わかったす! それなら売っちゃうっす!」
将来的にマジックバッグ大を使うコトがあるかも知れないので、(今売ってしまうのは)後々損だったとなる可能性もあるが、今使う予定がないモノを後生大事に抱えていても仕方がない。
だいたいご主人様も私も防具に対してテキトーすぎる。
かたやセーラー服にジャンパー。
かたやセーラー服に雨合羽。
『避ければええやろ』と『不死身だからええやろ』の精神で二人ともよくこれまで無事にやってこれたものである。うん、やっぱり防具は必要だね。マジックバッグは売るしかない!
そういうことで、私達の初宝箱ドロップ品は売却される運びとなった。
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